25話 無自覚な心と反発する気持ち1
カザナとオスカーが映画館から出てきた。
「推理物でアクションってどんなものかと思ったけど、面白かったよ! 特に原作を忠実に再現していて!」
オスカーは、パンフレットを片手に夢中になって映画について話している。
「オスカー、12歳の誕生日に私があげたこのシリーズの本、読んでいたのね」
カザナは、びっくりしている。
「うん。あのシリーズはお気に入りなんだ。カザナがくれた最後の本だったし」
オスカーが嬉しそうに言葉を紡いだ。
カザナはその言葉に胸が痛んだ。
今でも自分を姉として慕ってくれているオスカーをウィル神界へ置き去りにした罪悪感、だ。
(オスカーの番と言われたけど、彼は私を姉としてしか見てなかったのに……)
自分の狭量のなさに思い出しても、恥ずかしい。
「!」
カザナははっと空を見上げる。
自分の身体の中に一体化している風の杖が訴えてくる、魔王の存在を。
「オスカー、ごめん。仕事に行かないと」
「ああ……。西の魔王か」
オスカーが西の魔王が居る方向を見上げて、頷く。驚愕した顔を向けると、オスカーが苦笑した。
「今はもう王眼を使いこなせる。眼に映るんだ、奴が」
「!」
カザナは、動揺した。
オスカーの大人びた表情が自分の知らない男の子みたいで。
『カザナ! どうしたの? 行くわよ!』
風の杖の念が身体を通して伝わってる。
「ご、ごめんね。折角この後、お勧めのハンバーガーのお店、行く予定だったのに」
カザナがオスカーの方を振り返る。
「残念だけど。また次の機会でいいよ。行ってらっしゃい」
オスカーが穏やかに微笑む。
カザナは無自覚に頬を赤く染めていた。
『カザナ!』
「う、うん」
人のいないトイレに入ると、ぱちんと指を鳴らして魔法で服をウィザードの制服に変える。
「出でよ! 風の杖!」
風の杖を召喚すると、手に風の杖が具現化した。
カザナは転移の魔法を唱える。
目の前には黒髪の男がいた。魔族の象徴の紅の切れ長の瞳。整った鼻梁に薄く残酷に微笑む美貌の主。
「ほう……。風の杖の神器使い、随分と成長したな。相変わらず、空気のような存在感だが」
余計な一言にカザナは、カチンとくる。
魔族は魔力が大きくなる程、美貌が増す。目の前の男は、美しく人を圧倒する存在感だ。対して風の杖に選ばれた自分は風の王家の王女なのに空気と一体化する程のモブっぷり。
「悪かったわねえ!」
カザナは自棄になり、叫ぶ。
「ふむ……。見た目は悪くない。それに風の神器に選ばれたのだ。もったいない」
西の魔王はカザナをおちょくり、煽る。
「私によほど、倒されたいのね」
カザナは、きーっとムキになるが、風の杖が念を送ってくる。
『カザナ、アイツわざとやってるわよ。カザナはモブじゃないわよ。私が選んだ相棒。カザナは魂が綺麗なのよ。真っ白』
風の杖は精霊の姿を取り、ふわりとカザナと西の魔王の前に現れる。
白い愛くるしい少女の姿、だ。
『西の魔王。カザナの魂が綺麗なのはあんたの器なら見抜ける筈。なのに、カザナを怒らせたのは、よほど怖いのね、私の相棒が』
カザナの魂は無垢だ。風の神器である自分が好むのは透明で無垢な魂。神器と神器の主は生まれ変わるたびに相棒として巡り合う。それは神器の執着故。カザナは自分の魅力に無頓着だ。彼女の番の王子、オスカーがカザナに魅せられるのも、彼女の透明な無垢な魂に惹かれたのだろう。
「うるさい……。前回はウィル王の手助けがあってこそ私を退けられたが、今回はどうかな?」
『あら、カザナが覚醒したらあんたなんて敵にもならないのよ。前のあんたを封印したのはカザナよ』
くすくすと笑う風の神器にカザナが不思議そうな顔をしている。
「風の杖、何を話しているの?」
『内緒のお話よ』
風の神器はふふと微笑む。
「遊びは終わりだ。そろそろ、戦いと行こうか……」
西の魔王が手から紅蓮の炎を発生させた。
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