24話 彼がいる日常2
オスカーは慣れないパソコンに四苦八苦していた。シルフィード国の中等部の授業は、対人でレポートは全学生に支給されたパソコンで行われるのだ。
「オスカー、まずは手でノートに書いてそれを打ち込もう」
オスカーのレポートの先生役はカザナだ。自分も高等部のレポートや予備校の問題をパソコンで叩いている。
オスカーは、天空界語には不自由していない。ウィル神聖王国の第二王子として幼い頃から天空界語を学習していた。
だけど。
パソコンと学習面において、彼はほとほと参っていた。
助かったことに勉強の面に関しては、カザナが面倒を見てくれている。高等部でも学年の10位には入っている彼女の教え方は分かりやすい。
「カザナ、ここはどうやって解けばいい?」
「え? どの問題?」
カザナは、以前のようにオスカーといる時間が増えた。ソウとオスカーと三人で過ごす時間は心地いい。カザナの男性嫌いは根が深いが、ソウは義父でオスカーは、可愛い弟分だ。母親を亡くし、父親と絶縁したカザナにとって二人は大事な家族のような存在だ。
カザナがふわーと欠伸をする。昨日も魔族が出没して、その相手と書類の処理に走り回っていた。こくりとソファで居眠りをするカザナに気づいたオスカーは、タオルケットをかけると、勉強を一人で続けた。そのまま一時間ほど経って、目覚めたカザナは自分に気づかず一心不乱に勉強を続けるオスカーを見てふっと微笑んだ。
「はい。夕飯と夜食を兼ねてオムライスとサラダ」
「えっ! もうそんな時間?」
勉強に集中して夜になっていたらしい。唖然とするオスカーにカザナが苦笑する。
「ごめんね。一生懸命だったから、つい」
「カザナ、いつ起きていたの?」
「一時間くらいで目が覚めたのよ」
「カザナ、昨日も出勤していたんだろう。もう少し寝てないと疲れ取れないよ」
自分を心配するオスカーにカザナは心が温かくなる。オスカーの言葉に心を癒される。
「ありがとう。夕飯の片付けして、お風呂入ったら寝るわ。夕飯、食べちゃおう」
「うん」
カザナはシルフィード神とウェルリース神にオスカーはウィル神へと祈り、夕飯を食べ始める。
「カザナ。このご飯甘くて美味しい。前に作ってくれたハンバーグも美味しかったけど」
オスカーは、成長期なので凄まじい食いっぷりだ。温かいご飯にも慣れて、最近では冷たい食事は味気ないらしい。
「おかわりしてもいい?」
「いいわよ。そう言うと思ってたくさん作っているから。卵包もうか?」
「うん!」
オスカーは、ハンバーグやオムライス等小さな子どもの好む食事が好きらしい。幼い頃、自分に甘えて纏わりついていた可愛らしいオスカーを思い出して、カザナは苦笑する。
(大きくなったのに、中身はあんまり変わらない……。外見だけ大きくなって……)
オスカーが聞いたら怒り出しそうなことをカザナは考えて、笑う。
「カザナ、何笑っているの?」
「ん。何でもなーい。はい。おかわりのオムライス」
ケチャップライスに卵を包んだオムライスを盛った皿を出す。
「わあ。美味しそう!」
子どもみたいな台詞にカザナはぷっと吹き出した。明らかに自分を笑ったカザナにオスカーは、むっとする。
「何で笑うんだよ」
「ううん……。オスカーが可愛いって思ったの……」
笑いをこらえるカザナにオスカーはムキになった。
「何だよ……。俺、カザナより身長5cmも高いんだよ」
もぐもぐとオムライスを食べながら、ご飯の粒を右の頬に着けている状態で説得力がない。
「オスカー、右の頬にご飯の粒つけているわよ」
「えっ」
カザナは、くすくす笑っている。オスカーはぷうっと頬を膨らました。
「そうだ。オスカー、今度映画観に行こう」
「映画?」
「うん。私の親友がいるからその子たちと今回のテストが終わったら映画に行こうよ。後、遊園地も今度行こう?」
「カザナ?」
「オスカー、留学が終わったらウィル神聖王国に帰っちゃうでしょ? その前に普通の学生生活を教えてあげたくて」
ふふっと可愛らしく笑うカザナにオスカーは、頬を赤く染め上げた。
(可愛い……)
こんなに可愛くて、優しいカザナが学校では目立たないなんて信じられない。カザナは素直で明るくて、勉強も出来て、家事も得意だ。オスカーにとっては大好きな姉のように慕っている女性だ。
(もっとモテてもいいのに……)
彼は惚れた欲目という言葉を知らなかった。
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