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22話 日常を一変させる再会6

「あ、本当!」

 カザナは嬉しそうにぱあっと微笑んだが、自分はオスカーを警戒しなければならないのだ。昔と変わらないオスカー相手にすぐに警戒心がなくなってしまう。必死に平静を装い、距離を保つ。


「じゃあ。下宿の話は終わりね。夕飯作ってくるわ。今日はソウパパの大好きな牛肉カレーよ」

 制服から動きやすいシャツにジーンズという室内着に着替えて、その上からエプロンをつける。カザナはスーパーマーケットで購入してきたカレーの具材を包丁で切り分けて、鍋に放り込んだ。カレーの具材を煮込んでいる間に、付け合わせのサラダを作っていく。キッチンでカザナの料理をする手際の良さを後ろから見ているオスカーは目を見張る。


「カザナ」

「なに?」

 カザナは、包丁を置いて振り返る。

「どうやって、家事を覚えたの?」

 オスカーは、自分からくっついて離れない。その昔を思い出せる可愛らしさについ和んでしまった。

「ん~。ソウパパが汚部屋に住んでいたから掃除や料理、実地で覚えたわ」

 我ながらさらりととんでもない発言をした気がする。


「汚、汚部屋?」

「そう、思い出しくないから深く聞かないで」

 当時のソウの部屋を思い出して、カザナは首を振る。そのカザナの態度にオスカーは、どんなに汚い部屋に住んでいたのだろうと想像して、ぞっとしたらしい。


「さっ! 牛肉カレーできたから、オスカー、お皿によそってくれる?」

 カザナは話を切り替えた。このままだとまた自分のことについて色々聞かれる、だからだ。家事を頼まれて、オスカーはきょとんとする。


「まさか、ご飯をよそうことも知らない?」

「うん……。今まで出来上がってきたものを出されていたから」

 オスカーの世間ずれした発言に、彼は王子だったのだと今更気づく。


「悪かったわ……。オスカーは王子だったわね……」

 カザナはカレー皿を取り出し、炊飯器からご飯をしゃもじでよそう。その上にカレールーをのせ、冷蔵庫から冷やしていたサラダを出して、夕飯をセットした。


「よし! ソウパパ、ご飯だよ~!」

 リビングからソウがやってきて、キッチンのダイニングテーブルで食事を囲む。二人は、シルフィーディア神とウェルリース神への感謝の祈りを始める。


「シルフィーディア神、ウェルリース神、今日も一日のご加護をありがとうございます」

 二人は、十字を切って天へ祈る。

 オスカーは、濃い純粋な紫の瞳を丸くさせていた。ウィル神族は、主神たるウィル神の眷属だ。

 故にウィル神族は、ウィル神を祀る大聖堂を王都に建造した。

 だけど。

 自由で魔法化学の進んだ天空族が、神に祈る程の信仰を持っているのに驚愕した。


「さあ、お祈りも終わったし、食べましょう」

 ソウの言葉が合図になり、三人は食事を始める。オスカーが戸惑っていることに気づき、カザナは不思議そうに見つめた。


「オスカー、どうしたの?」

 料理をじっと眺めて、困り果てているのだ。カザナの声にオスカーははっとする。

「ご、ごめん。温かいご飯なんて初めてで……」

 いつもは毒見役がいて、検分された後に食事を出されていた。オスカーは食事は冷たいものだと思い込んでいる。


「そうよね、わかるわ。あたしも食事には毒見役がいたわ。温かい食事なんてシルフィード国にきてからよ」

 オスカーにソウがを出す。

「私もいたわ。自分で料理したことなかったし」

 オスカーの台詞に元王太子と現王女の二人は、うんうんと頷く。自分の気持ちを分かってくれて、オスカーは嬉しかった。胸に温かい気持ちがじんわりと広がる。


 カザナは警戒をしていたが、途中からオスカーに家族めいた気持ちを抱き始めていた。昔の自分と同じ境遇の弟分に普通の生活の楽しさを教えてあげたくなっていた。

「カレー食べてね! 我ながら美味しくできたと思うから」

 カザナが笑い、ソウがぷっと吹き出す。

「そういうの自画自賛って言うのよ。カザナ」

 ソウの言葉にカザナはぶうっと頬を膨らませる。


 オスカーは、スプーンでカレーを取り口に入れる。温かいぴりっとしたカレーの味が口に広がる。始めて口にする温かい食事に心が和む。

「おいしい……」

 オスカーを見ていた二人は、視線を合わせて笑い合う。

「ほらね! おいしいって言ってくれたわ!」

 えっへんと胸を張るカザナに

「子どもみたいよね~。あんた、今年高校三年生でしょう」

 父親代わりのソウはにやにや笑って、突っ込む。


 二人のやり取りにオスカーはぽかんとしていた。アンの時とは違う、カザナとしての顔を垣間見た。シルフィード国の女子高生としてのカザナは可愛らしくて、ずっと傍で見ていたいと思う。アンの時は、自分の警護役として役目を果たそうと必死だったのだろう。今思うと、いつもどこかぴりぴりしていた。

 この一日でオスカーは、以前よりカザナに魅了されていた。


 カザナは、その日からオスカーへ昔と同じように接し始めた。

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