21話 日常を一変させる再会5
「じゃあ、家に行かないと。オスカー、本当に家に下宿するのね?」
好意を持っている少女にくすくすと笑われている現状にオスカーは、不貞腐れながらも頷く。
「うーん。男の子とひとつ屋根の下は気になるけど、まあ弟分のオスカーだし」
まだオスカーが下宿することに納得していないカザナはぶつぶつと不満そうに言い募る。カザナは、言うことでオスカーにプレッシャーをかけている。逆にオスカーは、弟と言われてダメージを受けた。彼の愛しい番の少女は鈍すぎた。
「よし、じゃあ。家に行きましょう。まずは家主の了解を得ないと」
ふうと溜息を吐いて、カザナは自宅に歩いていく。首都シルフィードのオフィス街をすり抜けて、高級住宅地が並ぶ街並みに変わっていく。歴史のある古い外観のマンションにカザナは入っていった。窓まわりや門、扉まわりに大きな御影石が贅沢に使われている。木の温かみと調和していた。
カザナは、少女らしい可愛いマスコットをつけた鍵のついたキーホルダーを取り出して、家の鍵を開ける。中に入ると、現代風にリノベーションされている空間が広がる。天空界の文化に圧倒されてばかりのオスカーは、また目を丸くしている。
「オスカー、こっちよ。家主に紹介するわ」
相手は、シルフィーディア王国の元王太子であるソウ=シルフィーディアだ。オスカーは自然と緊張する。
しかし、カザナは家主の部屋へ入る前に拡声器を取り出す。
「全く、もうここまでしないと起きないのよ」
カザナは、こいこいとオスカーに部屋へ入るように促す。ソウの寝起きの悪さを下宿する前に見せておかないといけない。カザナは、やりたくないのになあと呟くが、思い切って声を出す。
「ソウパパ~! 起きろ~!」
拡声器から大きなカザナの声がして、オスカーはぎょっとする。ベッドからがばりと寝入っていたソウが起きた。カザナはやっと起きたかと、ふんと腕を組む。
「な、何? 何? カザナ、仕事の時間?」
悪態をついた義理の娘とぽかんとしたウィル神族の少年が立っていた。
「で? あたしに確認もなしに、いきなり下宿人を連れてきてどういうつもりなの?」
リビングのソファにソウは、不機嫌丸出しでどかりと座っている。夜勤明けで眠っていた所を義理の娘に強引に叩き起こされた上、相手はウィル神族ときた。
「悪かったわ。学校の校長先生にウィル神族の王族を下宿させろと言われたのよ。相手はヒカルさんの息子。ウィル神聖王国のオスカー=ウィル=カーライル第二王子よ」
カザナの台詞にソウは、ころりと機嫌よくなる。
「い、嫌だわ。ヒカルの? ならそうと言ってよ」
ソウの操る言葉は、天空界の女性言葉だ。母親からソウは、ゲイであると聞いていたが、母親の語るソウは面倒見がよくて、母親を妹のように甲斐甲斐しく見てくれていたらしい。そのことからオスカーは、ソウに親しみを感じていた。
ソウは、オスカーをぶしつけにじろじろと見る。
「うーん、見た目はウィル王にそっくりねえ……」
カザナは、オスカーに助け舟を出した。
「でも、お人好しな所はヒカルさん似よ。ソウパパ」
こう言えば少しは心証が良くなるだろう。
紅茶を入れてきたカザナが趣味のいい年代物のティーカップを二人に差し出す。さっきからオスカーは面食らった顔をカザナに向けている。どうしたのだろうと首を傾げる。
「オスカー王子、どうぞ」
ソウがオスカーに紅茶を勧める。
「では失礼します」
オスカーは、王子らしい隙のない所作でティーカップを手に取る。
じっとソウは、視線をオスカーに注ぐ。オスカーは、下宿させていいのか観察されるのが分かっていて、心地悪そうだ。
「オスカーは、いい子よ。ソウパパ」
人には無関心な義理の娘が珍しく他人を庇うように口を開く。カザナは、姉のような瞳でオスカーを見守っている。対して、オスカーはカザナに好意を隠していない。しかし、鈍いカザナは気づいていない。
(ふーん。面白いわあ……)
にやりとソウは笑う。二人の関係を引っ掻き回す、もとい見守るのも面白そうだとソウは笑いが止まらなかった。にやにやとソウは、人の悪い微笑みを浮かべて二人を観察していた。
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