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19話 日常を一変させる再会3

 校長室から出ると、オスカーと二人きりになった。カザナは、肩の力を抜いた。王女らしくないカザナがそれらしく見せるために魅了(チャーム)の魔法を使っていたのだ。魅了(チャーム)の魔法は力を激しく消耗させる。魔法力の高いカザナでも疲れるのだ。


(それにしても……。オスカーが何で天空界にいるの? もしや番である私を連れ帰るため?)

 カザナは懸念する。

 

「家へ行く前に夕飯の買い出しに行くショッピングセンターへ行かないと。ついてきて」

 カザナは、ちらりと視線を向けると歩き出した。


 オスカーは、高等部の制服である白いワンピースから覗くカザナの生足へちらりと視線をやる。ウィル神聖王国では、女性が身に着けるのはドレスが主流であり、足を見せるのを許されるのは、夫のみだ。このシルフィード国では女性が脚を見せる軽装が主流だ。この2年間会いたくて仕方なかった彼の番の少女も軽装姿で足を見せている。オスカーにとっては目の毒だ。


 オスカーの心中など露知らず、カザナは動かないオスカーの手を掴んだ。柔らかい白魚のような手の感触にどきんとする。

「何をじっとしているの? 買い物に行かないと特売の時間が終わっちゃう」

 カザナは、心の中では警戒しつつもかつて弟分だった気安さで、オスカーの手を引きながら走り出す。


 カザナは、いつも行く大きなショッピングセンター行きのバスへと乗り込んだ。バスに始めて乗るオスカーは物珍しそうにしている。カザナは、二人分の乗車賃を支払うとバスに乗り込んだ。


 バスの停留所から歩くと5分。いつも行き慣れた大きなショッピングセンターだ。

(今日は牛肉のカレーライスとサラダにしよう……)

 カザナは、野菜や牛肉、卵と一瞥してさっと買い物カートに放り込んでいく。赤色の丸いトマトに同じく赤い尖った人参。丸いでこぼこしたじゃが芋。


 肉が立ち並ぶ棚に差しかかって、カザナは今日の特売の牛肉を選んでいる。ずっとカザナを観察していたオスカーが口を開く。

「カザナ、今日は使用人に何を作らせるの?」

 カザナは、零れ落ちそうな勿忘草色の瞳を見開く。その瞳は驚きに染め上がっている。


「あ、そうか! 私が作るのよ。ちなみに今日は牛肉のカレーライス」

「カザナが?」

 信じられないと呟くオスカーにカザナは吹き出した。


「いやだ! そうよね。私も王女の時は自分で料理したことはなかったわ。でもシルフィード国では自分で料理するのが当たり前なのよ」

 くすくすと笑いながら、カザナは言葉を口にする。オスカーは、昔と変わってなくてどこか世間知らずで可愛い。そのことが嬉しくてたまらない。


 そう言えば、とオスカーは思い出す。カザナは王女なのに潜入捜査でオスカーの警護をしていた時、メイドとして完璧に働いていた。黒のメイド服を身に着けていた頃のアンことカザナを思い出す。いつも笑顔でくるくると動き回っていた。今と変わらない。


「シルフィード国に来て、料理を覚えたの?」

 アンではなくてカザナのことを知りたいと、オスカーは疑問を口にする。


 カザナは、オスカーの質問に笑ったままだ。

「うん。そうよ……。父親代わりになってくれた叔父のソウパパとそのパートナーのティムパパがなーんにも出来なくてね。半年で家事を覚えたわ」

 叔父であるソウと暮らしていると暮らしていると聞いていた。オスカーは見知らぬ名前に紫の王眼をぱちくりさせる。その仕草がまだ10歳の頃の彼を思い出させる。


「ティムパパ?」

「うん。ソウパパと結婚していた男性。一流の弁護士だったの。最近亡くなったわ」

 カザナは、優しかったもう一人の父親代わりの男性を思い出して、悲し気に微笑んだ。


 その雰囲気から聞いてはいけないことだったと、オスカーは察したらしい。

「ごめん……」

 申し訳なさそうに呟いた。

 

 カザナはその言葉に彼らしい優しい気遣いを感じる。勿忘草色の瞳を大きくさせて、オスカーにふふっと笑いかけた。


「いいのよ……。逆に気を使わせて悪かったわ。もう亡くなってから半年たつから慣れないといけないの」

 会話が終わり、レジへとさしかかる。

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