18話 日常を一変させる再会2
中等部へやってきた留学生のホームステイ先となり、カザナは中等部の校長室に呼び出された。カザナの家に留学する学生を紹介したいと。
「失礼します」
カザナが足を踏み入れると、校長室には例の留学生、そのボディガードである騎士と留学生に付き従う侍従がいた。2年前までいたウィル神界風の服装にカザナは驚愕した。
「だから、俺は大丈夫だって言っている! 学校までついてくるな!」
ウィル神聖王国の共通語を教養のある発音でウィル神聖語を紡ぐ声は高いテノールの声音。漆黒の短髪にカザナは、もしやと青ざめる。
カザナの足音に気づいて少年が振り返る。
可愛らしかった12歳の頃とは変貌を遂げていた。
紫の王眼は色気を増していて、整った鼻筋に引き締まった唇を形どる漆黒の短髪。中性的な印象は相変わらずだ。少年らしい伸びやかな肢体に涼し気な美貌。身長は10センチ程伸びている。
「アン?」
自分のウィル神界の仮初めの名を呼ぶ少年は、誰だとカザナは思う。思いつくのは幼い自分を姉のように慕う少年。
だけど。
昔とは全く違う印象の少年にカザナは戸惑う。
暫くしてようやっと少年の名を呼ぶ。
「まさか……オスカー?」
自分の名を呼ぶカザナに嬉しそうに少年は笑う。
「うん……。アンじゃなくて、本当の名前はカザナだよね。久しぶり」
悪戯っぽく微笑む美少年に2年前の面影はない。
「な、なんでここに……」
ウィル神界で家族に囲まれて幸せに過ごしているだろうと少年を思い出す。その都度謎の胸の痛みに襲われる自分の思考に蓋をしていた。頬を紅潮させているカザナにオスカーは口を開く。
「天空界へ留学しに来たんだ。知らないことを学びたくて」
ふわりと微笑む少年は、ウィル神界のウィル王リチャードに酷似している。
だが、愛らしい微笑みは過去のオスカーを連想させた。
「何を話しているのですか?」
穏やかな人柄で知られる中等部の校長が二人に話しかけてくる。
校長はウィル神聖語を理解はしているものの、ネイティブな2人のウィル神聖語は理解できなかったらしい。
「いえ、始めましてと……」
オスカーは、落ち着いた王子然とした仮面をつけて微笑む。
「え、ええ……」
取り繕うようにカザナも微笑むが、心の中は混乱していた。
「カザナさん、それでは自己紹介をお願いします」
校長の発言に今更だと思いながら、カザナは前に出る。
「カザナ=シルフィーディアです。シルフィーディア王家の第1王女です。高等部三年生です」
カザナは王女らしいカーテシーをすると、オスカーに手を差し出すが、内心は酷く動揺していた。
「え?」
想定外の行動にオスカーは、戸惑う。
「ウィル王家の方とお知り合いになれて嬉しいです。宜しく」
今まではメイドとして仕えてくれていたアンとして扱ってきた、だが今は違う。
アンは、天空界の王女なのだとオスカーは実感して、手を握り前す。
その手は、労働階級の手とは違う柔らかい王女の手だった。
「さて……オスカー君。ホームステイ先はここにいるカザナさんの家だ」
オスカーは、驚いて濃い純粋な紫の双眸を瞬かせた。
「え、ええ……。私はウィザードの長官で実の叔父、ソウ=シルフィーディアと住んでいます。叔父は、かつてシルフィーディア王国の王太子でした」
カザナは、自分の今朝の選択を悔いていた。
校長室を出ると、カザナはふうと息を吐く。オスカーが自分についてくる騎士と侍従に叫んでいる。
「だから、父上も言われた通り俺は1人で大丈夫だってば!」
オスカーの味方をしたくない。が、自分の家に騎士と侍従が同居するのはごめんだとカザナは口を開く。
「大丈夫よ、私はウィザードの警部で風の杖の神器使い。ウィル王から聞いているでしょう?」
カザナの王女らしい毅然とした振る舞いに2人、騎士と侍従は絶句する。
自分が王女らしくないのは承知の上で、わざと強気に出る。
「うちにホームステイするなら、使用人は連れて来られるのはごめんよ。オスカー」
金色の前髪をかき上げる仕草が愛くるしい。
オスカーは、2年ぶりの番との再会に胸が高鳴る。
「オ、オスカー王子を呼び捨てとは無礼な!」
反発する侍従を騎士が止める。王家に仕える一流の騎士は、カザナから凄まじい神器のオーラを認める。
「止めろ、相手は天空界の王女だ。それも神器使いだ」
カザナは、くすりと二人に笑んだ、それは可憐な白い花を連想させる王女然とした微笑み。
「そうね、私はシルフィーディア王国の王女で神器使いよ。臣下であるあなたたちは普通、お目通りも出来ない存在。あなたたちの主君とは対等の関係よ」
冷たい視線に怒りを感じて、オスカーは2人に下がれと命じる。侍従は抵抗するが、騎士が侍従を引っ張っていく。
「ご、ごめん……。カザナ、二人を許してほしい……」
オスカーが謝罪を口にする。カザナは、はあーっとため息を吐く。
「うちで同居するからには、自分で自分のことはやってもらうわよ」
背を向けて、焦るオスカーにカザナはちらりと視線を向けた。
「オスカー、何でウィル神界にいる筈のあなたが、天空界に居るの? 王太子であるお兄様を補佐する立場のあなたが?」
カザナはオスカーとの2年ぶりの再会に嬉しさよりも戸惑う気持ちの方が大きかった。
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