17話 日常を一変させる再会1
17歳のカザナ=シルフィーディアの日常は忙しい。ウィザードの長官であり自分の義父でもあるソウ=シルフィーディアのお世話役だから。元王太子であったソウは一人で何もできない、だから姪で義理の娘であるカザナがその世話をしている。そしてカザナは、国立シルフィード大学付属高校の三年生でかつ、ウィザードの警部だ。
「あ~あ、パパのお世話とウィザードの活動でウンザリだったから、春休みが終わって学校が始まるの楽しみ!」
襟のついた白いワンピースの胸元に赤いリボンを結び、紺のジャケットを羽織った。足元は国立シルフィード付属高等学校指定ニーソックス。勿忘草色のつぶらな瞳に形のいい鼻梁、赤い小さな唇が小さな白い顔に綺麗に配置されている。身長は並みだが、その身体は華奢だ。天空界の王族の印である純金のふわふわの髪を2つに結わえた、可憐な妖精のような美少女である。おっとりとした外見だが、はきはきとした気丈な性格は、シルフィード国に来てから形成された。
だが、高校では何故か目立たない。その場にいても空気のように扱われる。本人が外見に無頓着すぎるせいもある。学校では王女と公言していないせいもあり、彼女が王女だと気づいている者はあまりいない。シルフィーディア姓を名乗っているが、王家の遠い親戚だと思われているようだ。
「じゃあ、ソウパパ! 行ってきます! 明日はティムパパの命日だからきちんと起きるのよ!」
日々の激務に昼夜逆転の生活が珍しくない義父ソウの部屋を開けて朝の挨拶をする。
「カザナ……。あらもう朝? 昨日は夜に魔族が出て……。明日のティムの命日にはちゃんと起きるから……」
そう言うなり、紫の双眸を閉じると金色の短髪を毛布に潜り込ませて、眠った。
「全く……。ティムパパが亡くなってから仕事ばかりで……」
義父であるソウとティムは同性愛者のパートナーで深く愛し合っていた。そのティムが癌と判明して半年の闘病生活の上、逝ってからソウは、仕事にのめり込んだ。カザナが、心配しているのが分かっているが愛していたパートナーを失った心は埋められない。ソウもカザナも日常を送りながら家族を失った悲しみを抱えていた。
ソウと暮らしている首都シルフィードの中心地にあるマンションを出て、高校がある学園都市ウェルリードまで電車に揺られて30分。カザナがウェルリード駅の自動改札口で定期を当てて出ると後ろから声がした。
「カザナ!」
後ろからえいっと同じ高等部に通う親友のエリーが抱き着いてくる。
この4年で色気の増した親友にカザナはドキドキする。エリーの胸は更に大きくなっている。その豊満な胸が自分の背中に当たっている。カザナの貧乳は、この4年でかなり大きくなったがコンプレックスはなくなっていない。
(ううっ……! 私もエリーみたいに胸があって色気があれば……)
自分の愛くるしい顔もコンプレックスであるカザナの悩みは尽きない。カザナは愛くるしい可憐な美少女だが、理想は親友であるエリーのような色気のある美少女なのだ。
「エリー、止めなよ。カザナが困っているよ」
亜麻色の髪に青の瞳の穏やかな美少年のイザヤが暴走する恋人を止める。カザナがウィル神界に行っていた二年間の間にエリーとイザヤは恋人関係になっていた。一年前に戻ってきたカザナは、申し訳ないと二人から距離を置こうとしたが、エリーがカザナを構いまくり、それをイザヤが呆れるように止める14歳の頃の関係が継続された。三人は、両親がゲイコミュニティに属していて、そこから知り合いになり親友となった。故に高校では常につるんでいる。
イザヤが足を止めて、カザナに話しかける。
「カザナ、校長先生から伝言。今年中等部ウィル神族の貴族の子弟が入ってくるから王女である君の家にその子をホームステイさせて欲しいって」
「わかったわ。丁度部屋が一部屋空いているし」
その貴族の子は女の子だろうと推測したカザナが答える。
その半日後、カザナは己の判断を悔いることになる。
「あ! その子、男の子? かっこいいのかなあ?」
楽しみ~と笑うエリーにイザヤがあからさまにむっとした顔をする。
無邪気なエリーは、イザヤの反応に気付いていない。
この二人のやり取りにも慣れてカザナは知らんぷりを決め込んで、高校まで足を進ませる。
この順調な生活が大学まで続くと呑気に考えていたカザナの日常が一変する。
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