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13話 別離1

 オスカーとの日々は穏やかに過ぎていく。カザナが14歳でオスカーの元にやってきて二年の月日が流れた。


 その日はオスカーの12歳の誕生日だった。

 家令のロバートと乳母のリエットと、エルサとカザナの四人でオスカーの為にささやかながらの誕生日会を開いた。カザナは、オスカーの為に天空界から10代の少年が好む本を取り寄せてプレゼントした。そのプレゼントに本好きのオスカーは、大喜びする。

 

「アン! ありがとう! この本すごく欲しかったんだ!」

 嬉しそうにカザナに飛びつくように抱き着いた。カザナはいつものようにオスカーを抱き締め返す。こんな風に出来るのも後わずかだとカザナは知っていたからこそ、オスカーをぎゅっと抱き締める。


 オスカーの誕生日を祝った次の日の朝、ウィル王リチャードからの手紙が息子オスカーの元に届いた。自分の部屋で猫足の椅子に座り、オスカーは父親からの手紙を開く。その内容にぐしゃりと手紙を握りしめて、破り捨てた。横で控えていたカザナは、普段は穏やかなオスカーの剣幕に驚愕する。


「オスカー様! 陛下がやっと王宮へオスカー様をお召しになりましたのよ! ようやっとこのサマセット離宮で西の魔王に怯えて暮らす日々から抜け出せますのに!」

 オスカーが幼いころから仕えていた乳母リエットが落ち着くようにと口を開く。しかし、その台詞は火に油を注ぐこととなった。

「どこが! 僕が幽閉されてから両親や兄上は1回も僕に会いには来なかった!」

 オスカーの叫びにカザナは、心痛める。ヒカルは、オスカーが幽閉されている場所が西の魔王にわからないようにと我が子に会うのを我慢していたのだ。ウィル王もオスカーの兄もだろう。


「オスカー様、私は両親を亡くしています。ご両親と兄上様とお話されてみては? 何かご事情があるのかもしれません。生きていれば和解出来ます。でも亡くなってしまったらああすれば良かった、こう話したかったと後悔ばかり残っております」

 両親を亡くしたことになっているカザナの話にオスカーは、黙り込む。いつものようにカザナに抱き着いてくる。

 

「じゃあ、アンもウィル王宮までついてきてくれて、今まで通り仕えてくれるならいい……」

 その大きな零れ落ちそうな瞳でオスカーをきょとんと見返す。オスカーはカザナから離れて、ぷいっとふてくされながら顔を逸らした。甘えられていることに気付いたカザナは、ぷっと噴き出す。オスカーは顔を逸らしたまま頬を紅潮させる。


「いいですよ、どうせ天空界に帰っても家族はいませんし……」

 カザナの返答に、王都に残した家族と会えると内心喜んでいた三人は互いに顔を見合わせて気遣わしげな表情をする。オスカーも同様に悲痛な顔をなり、再びカザナに抱き着く。

 

「オスカー様?」

 不思議そうにオスカーを見るカザナにオスカーは、更にぎゅっと力を込めた。

「アン、ごめんね。僕、贅沢だった……。両親を亡くしたアンと違って、僕には生きた家族がいるんだものね」

 慰めようと必死にオスカーは、カザナの顔を覗き込んでくる。その可愛らしい気遣いが嬉しくて、カザナは微笑んだ。ぽんぽんとオスカーの頭を撫でる。

 

「オスカー様、大丈夫ですよ。今の私はオスカー様やリエットさんやロバートさまにエルサが家族のようなものです。ウィル王宮に行けばまたこの四人と一緒にいられますもの!」

 オスカーや他の三人は、カザナの言葉にほっとすると同時に家族のようなものと言われて嬉しく感じた。


 その二週間後、オスカーを含めた五人はサマセット離宮からウィル王宮へ慌ただしく出発した。荷物は、ウィル王がよこした使用人たちの手によって運ばれた。オスカーを含む五人は、サマセット離宮からウィル王宮への魔法陣により空間を飛んだ。


 この新たな旅立ちがアンとの別離になるとは知らず、オスカーは両親と兄との再会に心躍らせていた。

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