case004:ゴブリン達の暗躍
「俺達の扱いって、ひどくない?」
かじり掛けの焼きそばパンを片手に、モゴモゴと秀頼がそんな事を呟いたのは、5の月の連休の一週間前の昼の事だった。
「扱いって、何が?」
「いや、ゴブリンってほぼどの作品でも雑魚キャラじゃん。なんか腰布一枚で棍棒とか錆びたボロボロの剣とか持って、頭悪そうに『グギャギャ』とか言ってる感じで」
俺は食べていたカップラーメンを飲み込んで首を傾げると、どうやら小説とかマンガなんかでの扱いが不満なようだ。
まあ、確かに。作品によってはエロ方面で扱われたりな。なんか見境なく、いつも発情してるとか、あり得ねーわ。
「一応、色々探したりしてみたが、活躍するにしたって転生したらゴブリンだった件みたいな、転生チートとかな感じで、一般的に雑魚なのは変わってないしよー」
ゴブリンなんとかみたいな上位種とかはいるが、倒しても大したドロップは無しで、素材にもならないとかな。
「同レベルだと、オークの方がオーク肉旨いとかあるじゃん」
「ああ、魔物を食材とかになるタイプはあるな」
食われたい訳ではないが、なんか悔しい。
しかし考えてみたら、フィクションとはいえ、いくら豚っぽくてもあれ食べるという発想が出てくるって人間スゲー。納豆とかクサヤとかシュールストレミングも食べるし。
本来俺達ゴブリンは、家事が得意な家妖精だったらしい。馬の世話とか子供が好き。家人に見つからないように家の暗がりに隠れ住んでたって辺りのイメージが悪かったのか。
うん、まあ、最近のゴブリンは家事はそれほど得意ではないな。
今日の昼メシはコンビニで買った、おにぎりとカップラーメンだ。夕食は牛丼チェーン店に行くつもり。
あとは電子レンジでチンするだけとか。
良いじゃん、カップラーメン旨いじゃん。
‥‥‥独身男性なんてのは、そんなものだよ!
「で、それがどーしたんだ?」
「ここはゴブリンに対する世間の評価を上げるべく、革命的な何かをしなくてはいけない気が」
また何か思い付きで適当な事言い出したな。
以前も、アニメで見たとか言ってゴブリンライダーを実践しようと、狼系の妖精のとこに行ってボコられていただろう?
「革命て‥‥俺達が?」
「要は良いイメージが広まればいいんだよ。スライムとか、テーブルトークRPGじゃ中級で厄介なモンスターだったのが、某有名なゲームのおかげでマスコットキャラとかになっただろ。ああいうのを目指す!」
ああ、この間うちの店の徳永さんに玉砕してたな。低身長を開き直って、ゴブリン可愛いーとか言われたい方向になったのか。
「ゲームでも作ろうって?ここにはパソコンもないぞ」
残念ながら、十畳一間のアパートのこの部屋に、そんな優秀な機器などない。野郎二人で暮らしてて、俺はコンビニ、秀頼はピザの宅配のバイト生活。金に余裕なんかある訳ないな。
「じゃあ、小説ならイケんじゃね?スマホあれば投稿サイトとかで、ゴブリン主人公か、テイムモンスターの癒し枠で、書籍化したらラブリーな感じに絵師さんに描いてもらえば人気出るぜ」
「文才の無い俺達が書いた所で、誰にも読まれる事のない寂しいアカウントが増えるだけだ」
そして途中で飽きてエタるまで確定だな。
ラーメンの残りのスープを飲み干して、ゴミ袋に。
そろそろコンビニに置いてあるラーメンも一周したし、どーするかなぁ。
「むむ。文句ばかりじゃなくて、勘兵衛も何かアイデア出せよ」
秀頼が急かすが、まずは落ち着こう。
俺達に出来る事は少ない。地道に行こうぜ。
「まあ、待て。そもそも俺達二人だけで世の中なゴブリン地位向上なんてのは無理だ。金も無いし、才能も無いからな」
‥‥‥‥‥成る程、ドロップがショボい雑魚キャラか。間違っちゃねえなぁ、おい。
自分で言ってちょっと凹む。
「なので、いきなり全国区ではなく、ご近所辺りから好感度を上げていく」
「おう、それならいけそうだな。で、どうする?」
俺はコンビニでも配っていた区の広報紙を取り出した。政治にはあまり興味は無いが、近場の飲食店で使えるクーポン券が付いてたりするんだよな。ラーメン黒撤の味玉無料とか地味に嬉しい。
ぺらぺらと数ページ捲って、イベントのお知らせの所開く。
「ゴブリンマーケットに決まってるだろう?」
ゴブリンマーケットと言うのは、かつてのご先祖が開いていた市で果物なんかを売っていたらしい。
それを踏襲しようって訳だ。
無論、資金なんか無いので店を開いたりは出来ない。そこでこのイベントだ。
「フリーマーケット?」
「家の不要だが使えそうな物とか、手作りの小物とか売ったりだな」
ネットにもフリマアプリなんかがあるが、俺達の目的はゴブリンのアピールだ。転売ヤーが蔓延るネットではなく、アットホームな地元のイベントがいい。
区のイベント程度なので参加者もガチなのは少なく、出品する物のハードルも低いから、俺達でもいけると思う。
まあ、こういう場に参加して、まずは顔を売ろうという訳だ。
「成る程な、悪くは無さそうだ。ついでに稼いで焼肉食い放題だ!」
「おお!」
こうして俺達のゴブリン地位向上計画が始まった。
イベントは連休の中日、ギリギリだが参加申込みは間に合った。タイミング良かったな。
あとは売る物が問題なのだが。
「ここは家妖精の力を見せるのにも、お菓子なんかが良いんじゃないか?クッキーとかで幼女のお客さんをゲットだぜ」
「いや食い物は衛生上NGだ。そもそもお前に料理は無理だ」
先日、カップ焼きそばを作るのに先にソースとかまで入れてお湯を注いだ奴が何を言うか。しかもスマホのゲームをやっていてお湯を捨てるのを忘れ、うっすらソースの香りがする伸びきって極太うどんのようになった麺の不味かったこと。
まあ、俺も得意ではないが、やろうと思えば秀頼よりはマシだと思う。だが、女子に受けるようなお菓子なんか作るのは無理だ。漫画とかで家事万能な奴がいるが、リアルでは見た事ねーよ。
あれやこれやと悩んだが、押し入れに押し込んであった物を引っ張り出したりして、各々用意する事にした。
そしてイベント当日───結果は惨敗だった。
天気は快晴、お客さんの入りも地元イベントの割に盛況だったと思う。締め切りギリギリの応募だったからか、俺達のスペースは端の方だったが、そのせいではなかったと思う。
売れたのは俺が出したコンビニのクジの外れ枠だった某アニメのシールとかのグッズが数点のみ。
「秀頼、お前その使用済みっぽい、ちょっとエッチな内容の漫画とかはダメだろう」
他は数世代前のゲームとか(某有名RPGとかメジャー所だが、リメイク版がスマホでDLできる)
「こういうのはマニアとか、ゲームの配信者に売れたりするんだよ!」などと言うが、ここに来ているのは暇な休日を近場で過ごす家族連れがメインで、そういうピンポイントな客は居ないんじゃね?
うん、まあ他人が欲しがる物って難しいよな。
ところで。
「しかし、良く考えてみたら、俺達ゴブリンでーすとかバラしちゃまずいよな」
「‥‥‥」
計画は頓挫した。ついでに焼肉食い放題も。
売上二百円で、帰りにコンビニでアイスモナカを一つ買って二人で分けた。
そろそろ夏の予感もする夕暮れ。
モナカは美味しかった。
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