91.失う
ルイスが躊躇するアイーナの日記。でも読まないと真相が分からない。勇気を振り絞って読み始める。
大きく息を吸って日記を手に取り、栞の挟んでいるページから読み始める。そのページはアイーナが寝てしまい目覚めた所からだ。
目覚めたアイーナは体を起こすと、裸でいる事に驚く。そして腰に鈍痛と下半身に違和感を感じた。慌ててベッドサイドにあるローブを羽織りベッドから出ると…
『!』
目に入るベッドには血痕と事情の痕があった。
『状況が分からずベッドを見つめ、ある事に気付く。ここは私の寝室では無い。部屋を見渡すが見た事も無い調度品や絵画が飾られている。やっと何が起こったのか理解し膝から崩れ落ちた。そう…意識の無い間に私は純潔を奪われてしまったのだ』
そして堰を切ったように涙が溢れ泣き崩れたアイーナ。
『汚れてしまった自分の体を抱き、綺麗な体と愛する人を同時に失った事実に、突発的に死のうとした私は、窓に向かいカーテンを開けた。しかし窓には鉄格子が嵌められ飛び降りる事はできなかった』
アイーナは次に鋭利な刃物を探すが部屋には見当たらない。次に部屋から脱出を試みるが、どのドアも外から施錠され開ける事は出来なかった。
絶望と怒りが入り混じり自分をコントロール出来ないアイーナは、奇声を上げ床を叩き治らない怒りを床にぶつけた。
『どのくらい床を叩いていただろう。気がつくと床は真っ赤に染まり手に痛み走りやっと我に返った。何もする気力もなく、血で染まった自分の手を見ていたら、扉を開け誰か来た』
部屋に来たのは侍女。床に座り込むアイーナに駆け寄り、手を見て部屋の外の騎士を呼ぶ。そして侍女は直ぐに傷の手当てを始め、程なくして騎士が呼んだ医師の駆けつけ治療を受けた。
治療後は侍女が部屋に留まり、アイーナの監視を始めた。気力の無いアイーナはソファーに座り天井を眺め1日を過ごした。そして気が付くと外は暗くなり夜になっていた。
『ただただ時間だけが過ぎ、汚れてしまった私はどうすればいいか分からずただ息をするだけ。そのままソファーで1日を過ごし気が付くと眠っていた。そして気が付くと翌朝になり、昨日とは違う部屋のベッドで目が覚めた』
その日から日記は数日書かれていない。次に日記が書かれていたのは純潔を失って5日後の事だった。日記には王家の別荘に軟禁され帰れない事と、父やユーリに会いたいと懇願しても叶わない事。そして話し相手は身の回りの世話をしてくれる侍女と、庭を散歩する時に必ず付添う騎士のみで、誰も状況を説明してくれないと不満を漏らす。
『恐らく私をここに軟禁したのは王太子。私を辱めここに閉じ込めどうするつもりだろう』
日記は感情が絶望から怒りに移行し、拘束し続ける王太子に対する不満が書きつづられている。内容は辛辣で辛い内容が続き、挫折しそうになりながら読み進めると、やっと前向きな書き込みがされている。
『こんな軟禁生活に唯一の癒しが、部屋の窓から見える庭の花壇。その花壇には私の好きな花が咲き誇り、窓を開けると花の香りが部屋に充満し心癒される』
自由がないアイーナは花を愛で日々過ごした。そんなある日偶に見かける庭師に声をかける。帽子を目深にかぶった庭師は、言葉少なに花の説明をした。変化のない日々にこの庭師と話すのが楽しくなっていくアイーナ。そんなある日庭師がショベルを使って庭を掘り出した。何をするのか疑問に思い見ていたある日。
ある事に気付く。
『彼が掘っているのは池だと気づく。何故花壇の中に池など作るのか疑問思いその庭師に聞くと、上から指示だと言い、詳しくは分からないと話した。そして数日後とても大きな池が出来上がった。でも用途は以前分からない』
池が気になるアイーナは池を覗く事が増えた。そしてある日の明け方。まだ日が昇っていない薄暗い庭に人影が、カーテンの隙間から見ていたら、大きなバケツから何かを取り出し池に入れている。何か魚でも入れたのかもと思い声をかけると
「へ?王太子なの?」
振り向いた庭師は王太子だった。固まるアイーナと王太子。そんな二人に陽の光が当たり王太子のお顔がハッキリと見えた。王太子は頬が窶れ生気の無い表情をし別人の様だった。そして王太子はその場に跪いて深々と頭を下げた。
『言葉は無かったが何に対して謝罪しているのかはすぐわかったわ。謝られても簡単に許せない私は王太子を見つめる事しか出来なかった。どの位経っただろう。庭を巡回する騎士が王太子に気付き慌てている。そして王太子は震える声で一度話をさせて欲しいと願った』
アイーナは複雑な思いに返事をする事ができず、無言で窓を閉めベッドにもぐりこんだ。その日はやる気が起きずに寝て過ごし、翌朝また早朝に目が覚め池に目をやると、また殿下が池に何か入れている。気が付かれない様に、カーテンに隠れて見ていたら花を池に入れているようだ。不思議思い作業が終わるまで見ていた。そして殿下が帰って行き、すぐに庭に出て池を覗き込むと…
「水中花?」
『そこには紫色の水中花が。これは私が好きな絵本の主人公が恋人と見た水中花だ』
アイーナは気づいた。庭の花も池の水中花も全部アイーナが好きな物ばかりだった。驚いていると初老の庭師が来てアイーナに話しかける。
『ど素人の殿下にしては上手ですよ。お嬢さん殿下は毎日公務を終え、王都からここまで来て花の世話一からご自分でされたのです。
何の目的かは知らされておりませんか、お相手を想い使用人に任せずご自分でなさってのでしょう』
そう言い庭師は花壇に水をあげる。そう数日前から話をしていた若い庭師は王太子だった。なぜこんな事を? 疑問に思い殿下と話してみたいと思った。そしてすぐに侍女に殿下に面会を申し込んだ。
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