9.異母姉弟
波乱必至な舞踏会当日。家出計画が遠のく気がして不安なミーナだが…
「お嬢様⁈」
「起きてるわ」
マーガレットさんが様子をみにきてくれた。食事を勧められたが要らないと返事しお茶を用意してもらう。
「父様は?」
「お出かけになられました」
「…」
「お嬢様。ご安心ください。旦那様はお嬢様の嫌がる様な事はなさらないですから」
それはよく分かっているけど…今まで育児放棄だった母様が何故いきなり母親面しだしたのだろう…意味がわからない。
アンがお茶を用意してくれソファーに座る。テーブルには甘い香りのお茶と大好きなソフトクッキーが用意されていた。
「少しでも召し上がって下さい」
「うん…ありがとう」
「隣に控えております。何かございましたらベルでお呼び下さいませ」
気を遣ったマーガレットさんとアンは退室して行った。お茶を一口飲むと肩の力が抜けていく。甘いクッキーを食べると涙が出てきた。早く帰ってきて父様…
結局父様は日付が変わる直前に帰って来た。
足早に私の元に来て抱きしめてくれる。
父様の目元は窪み疲れが見て取れる。
「一人にして済まなかった」
「もう子供じゃないから大丈夫だよ。それより父様が疲れているようで倒れないか心配」
父様は額に口付け微笑む。弱弱しい微笑みに一抹の不安を感じながら事の顛末を教えてもらう。
結局明日って言うか今日になったけど…舞踏会のエスコートは変えられなかったようだ。
舞踏会の参加が通達され直ぐにエスコートは父様に決まり宰相様に連絡。その時は何も言って来なかったのに、3日前に前触れも無く両陛下と宰相様が直々に本宅にやって来た。そして父様が不在で困っている母様に王太子のエスコートを申込まれた。当主である父様が不在の場合は後日返事すべきところ母様が宰相様に言いくるめられ承諾し、その日のうちに参加貴族に伝えられた。
「母様が陛下の申出を断るのは難しい」
「仕方無かったのは分かったわ。でも母様がノリノリなのが腑に落ちないわ」
母様に不信感満載の私は穿った見方しか出来ない。すると父様は苦々しい顔をして
「ステラは身分重視でミーナが王家に嫁げば我が侯爵家が公爵に叙爵されると考えたようだ。ステラの姉妹は皆公爵家に嫁ぎ、自分だけ侯爵家に嫁いだのが劣等感で好機だと考えたようだ。私は今のままで満足しているし、侯爵ながらそれなりに王家に対しても発言力もある。何の問題もないのだよ」
「私は王太子は嫌よ。付焼刃の淑女教育しか受けていない私が王太子妃なんて務まる訳無いし、堅苦しい王族なんてなりたく無い」
「私もこの縁は反対だ」
「そもそも何で陛下も王太子も私なの?公爵家には年の近い令嬢も沢山いるはずよ。身分主義のこの国なら身分の高い家から選ぶべきでしょ!」
「それは・・・」
何故か言い渋る父様。少し考えて意を決したように私を見据えて「長くなるが冷静に聞きなさい」と前置きをして話し出した。
私が生まれる前の話だ。毎年始めに行われるミサで突然礼拝堂が光に包まれ神からの啓示が下った。その内容は…
『漆黒の色を持ちし乙女がこの国の救いとなる為現れる。この乙女を得れば他との和をもち安寧が訪れるだろう』
「漆黒の乙女…もしかして私?」
「そうだ。ミーナは神の啓示を受けこの世界に授かったのだ」
啓示を受けた教会は漆黒の色を持つ子を捜し程なくして私が父様の子として生まれる。教会と父様は私の身を案じ森の奥の別邸で私を育てる事にした。
何故なら啓示を受けた子を手にし悪用する者が出てくる可能性があるからだ。
成人まで森の奥で貴族に関わる事なく過ごす筈が、血の病を患っている事が分かり、治療の為に王都の教会に通う事になった。教会に通う事で私の存在は徐々に貴族達に知るところとなる。
「お前は知らないだろが森の別宅や教会にお前に会う為に貴族が頻繁に来ていたんだ」
「うそ!そんなの知らない」
ずっと教会と侯爵家騎士団が接触を阻止していた。
「啓示を受け国の安寧をもたらす女性を次期王の妃に望むのは必然で覚悟はしていた。しかし私はミーナにはお前が愛する人と一緒になって欲しいと思っているし、教会もこの国に居てくれれば、後はミーナの好きにしていいと言ってくれている」
「だからこの前父様が”拒否する権利がある”って言ったのね」
「そうだ」
『この国に居てくれればいい』て私は成人の儀を終えたらロダンダに行くつもりなのに…どうしよう…
悩んでいたら父様が再度抱き締めて
「エスコートは手を尽くしたが変更できなかった。済まない…殿下とファーストダンスを踊れば後は控室に籠っていいから我慢してくれ」
やっぱり王太子のエスコートは覆らなった。成人の儀を待たずロダンダに家出しようかしら…
ずっと心に引っかかっていた事を父様に聞いてみる。返事が怖いが…
「私は母様の子じゃないよね…父様と妾の子なんでしょ!」
一瞬凄い顔をした父様は辛そうな表情をしてぽつりぽつりと話し出す。
「もう…子供じゃないんだなぁ…隠しておくのは無理か…その通りでミーナはステラが産んだ子ではない」
「なら本当の母様は!」
「持病の治療が終わり成人の儀を終えたら全て話す。そしてミーナのしたい様にすればいい。私はお前がどんな道を選んでも愛し応援する」
「今は教えてくれないの?」
「あぁ・・・」
「分かった。父様を信じているわ」
こうして父様に促され少し眠る事に。昼寝をしたから眠れないと思ったが、考え過ぎて頭が疲れたのか案外直ぐ眠りに落ちた。
翌朝マーガレットさんに起こされフル回転で舞踏会の準備に取り掛かる。昼までは湯浴みと全身マッサージを施され、早めにお昼を軽く食べ午後からはヘアーメイクに時間をかける。ずっと座らされ背中が固まりゴキゴキしている。
念の為にマーガレットさんがどちらのドレスを着るか聞いてくるが一択だ。父様が贈ってくれた方に決まっている。マーガレットさんもアンもそれに合うヘアーメイクを施しているくせに、わざわざ聞かなくてもと思ってしまった。準備が終わった頃に何故か母様が来た。一気にテンションが下がる。私を一目見て何か言いかけた時
「流石“闇夜の姫”と呼ばれるだけあり美しい。久しぶりお会いしたら綺麗になられ驚きました」
『誰?』
首を傾げて母様の後ろに立つ青年を見ていたら、その青年は苦笑しながら近づきハグをして来た。
「???」
「寂しいなぁ…実弟もお忘れですか?姉上」
「ザイラ⁈」
そう甘いマスクをした青年は何年も会っていない弟のザイラだった。背も私より高くなり立派な紳士だ。街で会ったらきっと分からない。意味が分からず戸惑う私に母様が苦言を呈する。
「私が用意したドレスを選ばなかったの?私が折角貴女に似合うドレスを選んだのに」
「母様が選んだドレスは私には似合わないわ」
険悪な雰囲気になり周りが焦りだす。するとザイラが間に入り
「母上がお選びになったドレスも素敵ですが今お召になっているドレスは本当によく似合う。まるで女神の様だ。会場までですがエスコートでき光栄だ」
「へ?ザイラがエスコートしてくれるの?」
「会場までだよ。本当は1日中姉上を独占したいけど、殿下の横やりで無理になったよ」
「殿下にエスコートしていただけるなんて名誉な事よ。感謝なさい」
母様を無視してザイラに話しかける。そこでふと疑問に思う
『ザイラは異母姉弟なのを知っているのだろうか…』
人懐っこい笑顔の弟を見ていて複雑な気持ちになる。
「皆揃ったな」
遅れて来た父様が声をかけてくる。母様は速攻で父様に私が母様のドレスを選ばなかった事に愚痴をこぼす。しかし父様は全く聞いておらず目尻を下げて私をじっと見ている。
「父様どうかなぁ…」
「綺麗だ。このまま別邸に連れ帰りたいな」
「父上そうしましょう。こんな綺麗な姉上を男ども見せたくありません」
何故か二人は結託して舞踏会をボイコットしようとしている。そんな二人を怖い表情で見ている母様はホラーだ。
「さぁ…時間だ行こうか!」
「はぁ…い」
テンションが上がらない私を後目にエスコートするザイラは上機嫌。ザイラの横顔を見ながら男前に育ったと感心していたら、ふと疑問に思う。
『王太子殿下ってどんな人?』
チラリとも見た事ないよ!そんな人の手を取るなんて罰ゲームでしか無いわ!
運命の男性が現れて助け出してくれないかなぁ…
恋愛小説の様な展開を夢見ながら馬車に乗り込み王城に向けて出発した。
車内では楽しそうに私に話しかけるザイラにまだ不機嫌な母様。父様は目尻を下げたままずっと私を見ている。
『父様…その眼差しは愛玩動物や赤子を見るお爺ちゃんだから』
父様の熱い?視線から逃げザイラを見る。こうして見るとザイラは父様に似ていて色は母様そっくりだ。
傍目から見ても親子だと分かる。私は本当の母様に似ているだろう。正直父様の要素はない。
「姉上?」
『!』
無口な私にザイラが覗き込む。幼い頃は可愛かったザイラはすっかり青年で美丈夫に育った。中々の男前でランキング上位に入るだろう。
「ザイラもすぐに成人し婚約者を決めるのね。こんなに素敵だから令嬢達からの秋波が凄いでしょうね〜」
「私は姉上がいい」
「ありがとう!嬉しいわ」
「本心ですからね!」
「はいはい!」
ザイラが頬を膨らませて少し拗ねた。その顔は幼い頃のままで安心する。すると母様はザイラには公爵家の令嬢を迎えると鼻息荒く話し出す。ザイラはそれを無視し別の話を私に振ってくる。母様っ子だったザイラはここに居ない。
会わない間に色々変わっていて戸惑う。
「着くぞ」
父様がそう言い窓の外を見ると白く大きな王城が見えて来た。遠目から見た事あるが来るのは初めてだ。
緊張して来た〜!ちゃんと出来るかなぁ⁈て言うか…
『無事家に帰れるかなぁ…』不安と共に入城した。
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