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89.別れ

アイーナとユーリの仲に変化が…

『命をかけ愛した女性(アイーナ)から別れを告げられた。意味が分からない』


アイーナと再会した日の日記にはその一言だけが書かれていた。会話の内容などは全く残されていない。ただ文の感じからアイーナが一方的に別れを告げたようだ。


「何で?」


全く事情が分からないまま次のページを捲ると、漆黒の乙女召喚の儀の翌日の事が書かれている。

日記には何度も挑めど漆黒の乙女が召喚される事は無く、娘が戻り妻のステイシアが泣いて喜んだと書いてある。この日もアイーナの事は書かれていない。そしてこの日からアイーナの話題は極端に減り、代わりにユーリの苦悩が書き綴られ、乱れる文字と攻撃的な言葉から病んでいくのを感じる。

そんな日が1ヶ月ほど続き、またアイーナの名が日記に登場し始めた。そしてユーリはアイーナに付き纏うようになり、中々会えないユーリは裏社会と接触し始める。

日記にはそれを諫める父親や妻に対する不満が、暴言となり日記を埋め尽くす。


「はぁ…私が病みそうだわ…」


そう呟き病む前に読み終えようとページを捲った。次の日は王子が血の病により亡くなった事が書かれ終わっている。


「…」


自然と涙が出てきた。知っていた事だが何度聞いても重く悲しい。涙を拭いながらまたページを捲ると、最後のページだった。やっと終わったと安堵し読む…


「!」


突然の吐き気と眩暈に息苦しくなり、思わず日記をソファーに投げ捨て、部屋を出てその場に座り込んでしまった。


「ミーナ!」


物音に気付いた父様が駆け寄り、私を抱き上げ父様の執務室に移動。父様の腕の中で震えと涙が止まらない。


「ミーナ!ゆっくり息を吐きなさい」


ハンカチを口に当てた父様がそう言い、心配そうに顔を覗き込んだ。父様の顔を見てやっと落ち着いてきた。そして震えが治るまで父様に抱き付く。父様は何も言わず私が落ち着くのを待ってくれる。どの位経っただろう。やっと顔を上げると額に口付け視線を合わせた父様が


「最後まで読んだのか?辛かったね。よく頑張った」

「覚悟はしていたけど、きつくて辛かったよ」


やっと落ち着いた私を見て父様がベルを鳴らしヴォルフを呼びお茶を頼む。暫くすると甘い香りのお茶と甘い菓子が運ばれ、疲れた心と体に糖分をチャージする。やっとまともに頭が働きだした。ずっと黙った見守っていた父様は


「ユーリはアイーナへの愛が重すぎて己を見失った。そんな彼の血を引く私にも危ういところがあるのかもしれない。そう思うと怖くなる事がある。特にミーナに執着するザイラを見ていると、(ザイラは)ユーリの生まれ代わりだと思ってしまう。そんな我が子に恐怖を覚える」

「…」


父様はそう言い私の手をぎゅっと握った。何がユーリを変えてしまったのだろう。知りたいような知りたくないような…何とも言えない気持ちになる。考え込んでいると父様が焼菓子を目の前に置いた。それを取り一口食べてふと…


「日記はあれで終わりですか?」

「いや日記は全部で7冊。だが残ったのはあの5冊目のみだ。残りの6冊はユーリが亡くなった後に、息子のベックが処分したと聞いている」


どうやらユーリは人生の全てをアイーナに捧げ、妻のステイシアと実子を愛す事無く残りの人生を寂しく過ごし、38歳という若さで亡くなったそうだ。

父に愛されずいつも涙していた母を見て育った息子のベックによって、密葬となり記録はほとんど無い。


「ではあの日記の最後に関する記録は無いのですか?」

「あるにはあるのだが…それについてはアイーナの日記を読んでから話すよ」


父様はそう言いそれ以上あの日記について話してくれなかった。

疲労困憊の私を心配した父様は日記を回収し、私に早く休む様に言った。部屋に戻ろうとしたが腰が抜けてしまい立てない私を、父様が部屋まで運んでくれる。そしてヘレンの手を借り湯浴みをし、ベッドで軽めの食事をとり部屋の明かりを落とした。


翌日。朝から大忙し。今日はまた王城に集まりアイーナの日記が開示される。昨日のユーリの日記が衝撃的で撃沈してしまったが、アイーナの日記は重い話でない事を祈りながら父様と王城に向かう。

後少しで王城に着くと思っていたら急に馬車が止まった。御者の窓から従者が気不味そうに父様に降りて欲しいと願った。父様はカーテンの隙間から外を確認し表情を曇らせる。そして扉に手をかけ


「急用ができた。先に行きなさい」

「えっ?待ってるわ」


そう言ったが父様は微笑んでから馬車を降りてしまった。そして馬車は父様を置いて出発してしまった。馬車が動き出した時に聞き覚えのある声が聞こえた気がし、こっそりカーテンを少し開けて覗くとそこにはザイラがいた。


ユーリの日記の最後の言葉と、先程の父様の話を思い出し息が上手くできなくなる。息苦しく胸に手を当て深呼吸し落ち着かせる。

一瞬大切な家族…弟なのに怖いと思ってしまった。そんな自分が嫌で自己嫌悪に陥る。

不安な気持ちのまま王城に着くとルイス殿下が迎えてくれる。顔色の悪い私を見て察したルイス殿下は躊躇しながらハグをする。


「お互い自分に責任なき事で辛い思いをしている。しかしこの負の連鎖は我々の代で終わらせなければならない」


見上げたルイス殿下は覚悟を決めたような顔をされている。そんな殿下を見て少し勇気が湧いてきた。


「ありがとうございます。少し元気が出ました」


そう言い微笑んだ。そして殿下の手を取り陛下の執務室へ向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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