87.ユーリの日記
やっとユーリの日記を読みはじめ…
「この日記は5冊目だわ」
日記の背表紙にはナンバーが振られ、これは5冊目の様だ。緊張しながらページを捲り読み出すと
「何これ!」
頬が熱くなり思わず本を閉じた。あまりにも情熱的な表現に驚き全身が熱くなってしまう。この日記はアイーナがまだ森の別宅に居た時期で、時折ユーリが訪問していた頃の日記だ。アイーナの容姿そして愛らしく天真爛漫な様子が書かれている。そして…
「この時にはユーリは完全にアイーナを一人の女性として見ていたんだ」
日記には”抱き寄せたい”とか”小さく可愛い唇に齧り付きたい”と書かれ、性の対象として見ているのが窺い知れる。
「良かった…先に一人で読んで。こんな内容を殿方の前で何て読める訳ない」
そう呟き再度日記を読む。前半はアイーナとの日常とユーリの男としての欲が書きとめられおり、汗をかきながら読み進めていた。そして…
「!」
日記の中盤に来た時に異変に気付く。それまで丁寧で綺麗なユーリに筆跡が荒々しく、殴り書きしたかの様に変わったのだ。姿勢を正し読み進めると…
『今日はアイーナの17歳の誕生日。教会で例の治療を終えた後、別宅で誕生会が開かれる。何か月も前から準備をし楽しみにしていた。それなのに…』
どうやらユーリの妻が横やりを入れた様で、アイーナの誕生会に参加できなくなったと書き、怒りの矛先が妻ステイシアに向いている。ユーリは妻に向けて(日記に)罵詈雑言を書き残している。
余りにも酷い言葉に血の気が引いていくのを感じ怖くなり身が震えた。
私は今まで頭に血が上るほど腹が立った事もある。しかしこれほどの悪意を持ったことは無い。ユーリに激情に触れアイーナへの執着が凄まじいものだと知った。
気持を落ち着かせるために冷めたお茶を一口飲みその先を読み進める。
次に書かれていたのは絶望だった。アイーナの誕生日に血の病を患う王子と対面した事。そして王子がアイーナに正式に求婚し、アイーナの保護者である侯爵が了承した事が書かれていた。
『愛し合う二人を引き裂こうとする王家に忠誠心をもつ事は出来ない。そして愛する彼女も求婚を嫌がり毎日涙に暮れている。俺はどうすればいいのだろう』
愛する女性が他の男に取られてしまう焦りや、権力に抗えない怒りが日記に残されている。そしてアイーナの婚約話が進み、ユーリは父である侯爵に王都に住まいを移されアイーナと裂かれてしまう。
そして父親から跡継ぎを早くつくる様に言われ、妻からも迫られる日々に苦悩する。
『侯爵家の次期当主とし跡継ぎが必要なのは理解している。しかし愛しても無い妻に欲情しない。そんな俺に妻は泣きつき時に暴れて手が付けれなくなる。そんな妻を見る度に益々心も体も離れて行く』
夫と次期当主としての責務にユーリの精神はどんどん病んで行くのが日記から窺える。そんな中でも信頼できる家臣の手を借りアイーナとの愛を育んでいたユーリ。そして治療が残り5回となった時、王子と結婚したく無いアイーナ賭けに出た。
『2週間ぶりに会えた彼女を抱きしめると、明らかに痩せているのが分かった。両手で頬を包み顔を覗き込むと、彼女の大きな黒目がちな瞳は輝きを失くし窪んでいる。そしてふっくらし柔らかかった頬も消えていた』
心労から痩せ細ったアイーナを見て、守れない自分を責めるユーリ。憔悴するユーリにアイーナは
『私残りの治療を拒否するつもりなの』
そうアイーナは治療を拒否し婚約破棄を目論んだのだ。治療を最後まで受けなければ、王子の寿命は確実に短くなる。王位継承権がある王子はただ1人。その王子が短命となれば、王家の血筋が途絶えてしまう。
なんとしてもそれは避けたい王家は、王子を説得し婚約は無いものとした。
その代わり最後まで治療を受ける事をアイーナに約束させた。その時アイーナはもう一つ条件を出し王に了承させた。それが治療を終えた後にボルディンを出てフィーリアに移住する事だった。
『彼女はヤマトに帰らず、フィーリアで俺を待っていると言ってくれた。後は俺が妻との間に子を儲け、バンディス家の跡継ぎを作ればいい。そして子が生まれたら俺も身分を捨て彼女いるフィーリアに渡り、彼女と新しい人生を歩むのだ』
行き先が決まったユーリの日記は前の様の丁寧な筆跡に変わり、希望を持ちアイーナとの将来を想像し、アイーナへの想いを強めて行った。ここまで読んで日記をテーブルに置いて読んだ内容を整理する。一番に思った事は…
「ユーリの奥さんは可哀想だ。嫁いだ夫には既に愛する人がいて相手にされず、跡継ぎを作るためだけに夫に抱かれたのだ。悲しすぎるわ…同じ女性としてユーリは許せない」
妻のステイシアは親が決めた相手に嫁ぎ愛されず、子を産み侯爵家を継ぐ役目しか与えられていないのだ。女性としては悲し過ぎる。アイーナとユーリが真剣に愛し合っているのは分かるけど、だからといって周りの人達を不幸にしていい訳無い。
なんとも言えない気持ちになってきたら、誰かが部屋に来た。返事をするとヘレンがお茶のポットの交換をしに来てくれた。許可すると入室したヘレンは驚いた顔をして、駆け寄り抱きしめてくれる。
どうやら内容が重い為、かなり疲れた顔をしている様だ。いつもは甘くすると体に良く無いと、お茶にジャムを少ししか入れてくれないヘレンが、スプーンいっぱいにジャムを乗せお茶を入れてくれた。心配するヘレンに大丈夫だと告げ退室してもらう。
「はぁ…日記はまだ半分も有るわ。こんな重い話しを、私最後まで読めるかしら…」
そう呟き甘い甘いお茶を一口飲み、天井をぼんやりと眺めていた。
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