84.ベーリアン
陛下に会い真相を聞くが不安しかないミーナ。これで全て分かるといいのだけど…
「何も知らされずに驚いただろう⁈」
「はい。牢屋に入れられると思い焦りましたよ」
広い城内を歩きながらルイス殿下が何が起こったのか話をしてくれた。
陛下の登城命令は殿下も知らされておらず突然だった事。そして馬車に半ば無理やり乗せられ、馬車にいたティム様から状況を説明をされたそうだ。
「陛下の横やりが入らぬように、教会に行く事は信頼する家臣にしか知らせていない。しかし…」
陛下は前回の治療後ルイス殿下に密偵を付けており、ルイス殿下の動向は陛下に筒抜けだった。そしてルイス殿下が教会には向かうと直ぐに近衛騎士を派遣した。
「殿下。ジン様や父様は何処に?」
「陛下の執務室で、リアンドとディック殿は私の執務室に居るよ。ミーナ嬢が心配する様な事は起こっていないから安心して」
ルイス殿下から皆の無事を聞かされ胸をなでおろす。すると急にルイス殿下が私の手を強く握り
「全てを知ったら貴女はどうするのですか?」
「う…ん。今は真相を知る事しか頭に無くて、先の事まで考える余裕はなくてですね…」
そう言いルイス殿下を見上げると殿下は不安げな顔をした。お互い先が見えぬ状況に顔を合わせて固まる。この話題はしたくなくて、まだ何か言いたそうな殿下の視線から逃げた。それはこれ以上は聞かないで欲しいという私の意思表示。察した殿下はそれ以外何も聞かなかった。
どのくらい歩いただろう…行先の扉の前に騎士がいるのが見えてきた。恐らく陛下の執務室だろう。
執務室の前まで来ると騎士が私に手を差し出した。躊躇するとルイス殿下が
「ミーナ嬢は不安故に、私が付き添おう」
「いえ。陛下よりミーナ嬢以外の入室は禁じられております。殿下はお部屋にお戻りを」
「!」
ルイス殿下は騎士に食い下がるが、騎士は私の手を取り強引に執務室に引き入れ、後ろでは殿下と騎士が言い争っている。しかし殿下を気遣う余裕は私には無い。そして強引に執務室へ入れられると
「父様!」
ソファーに座る父様が見えた瞬間、騎士の手を振り払い父様に駆け寄り抱き付く。父様の温かい胸に抱かれやっと緊張が解けてきた。
「こんなに震えて怖い思いをさせて済まなかった」
「大丈夫。乱暴な事はされていないから」
「ミーナ嬢。とりあえず座りなさい」
ジン様に促され父様の隣に座ると目の前に険しい表情の陛下がいる。鋭い視線に鳥肌が立ち、思わず父様の袖の裾を引っ張ってしまう。すると父様は手を握ってくれ、手の温もりで落ち着いてくる。
そう私は何も悪い事も責められるような事はしていない。そう思い姿勢を正し真っ直ぐ陛下を見据える。
「まずはミーナ嬢に最後の治療を受けてくれる事に感謝する」
陛下はそう言い頭を下げた。どうしていいか分からず固まっていると、顔を上げた陛下は先程とは違い柔らかい微笑みを向けて
「どうやら儂は仲間外れにされておる様だが、理由を聞いても良いか?」
「へ?」
予想外の陛下の言葉に固まると、ジン様が身を乗り出し
「陛下は王位を継ぐ者にしかこの事実を明かすつもりはないと、言ったではないか。故に…」
ジン様の言葉に陛下は罰が悪そうに
「儂は王位を継ぐ者以外にはこの事実は知られてはならないと前王言われ、それの言葉を守ってきたのだ」
陛下は王位を継ぐときにヤマトの制圧と病の真相を前王から聞かされたと言い、陛下は徐に立ち上がりデスクに行き、胸元から鍵を取り出し机の引き出しから本を取り出した。
「恐らく教会とバンディス家が残した記録だけ読めば、我がボルディン家が神の怒り買った悪だと思うだろう。しかしそうでは無いのだ」
その言葉にジン様と父様は驚き視線を送る。そしてソファーのローテブルに本を置いた陛下は、本を捲りながら語りだした。
「「「…」」」
執務室は静まり返り重々しい空気が漂い、まるで鉛を飲み込んだように胸が重く苦しい。そんな空気の中、何故かスッキリした顔をした陛下。そして
「この事実を一人で抱えるのは辛かった。やっと肩の荷を下ろせたよ」
「何故王家はこの事実を隠して来たのだ。ヤマトを追いやった事には変わりはないが、結果他国の脅威から護った事にもだろう」
そう大陸統一のためにヤマトの民を武力で制圧しようとしたが、それには深い訳があったのだ。実は
隣国のベーリアン帝国が、当時この大陸を手中に治めようと画策していた。それをいち早く察知したボルディン家が、各領主を説得し纏め国をつくりベーリアンから守ったのだ。
「ベーリアンは我が国より歴史は古く、その上気性が荒く思い通りに行かぬ時は武力に物を言わせ領土を広げてきた。当時ベーリアンは不作による食糧難で農産物が豊かなこの大陸を目を付けていた。今もそうだがベーリアンの大地は農耕には向いておらず、今でも自給率が低く輸入頼っている」
確かリアンド殿下の養子縁組の解消話は、ベーリアンと隣国イーディスの緊張が高まった時だった。ベーリアンとイーディスの衝突は今も頻発しており、ボルディンはロダンダ・フィーリアと同盟を結びベーリアンを牽制している。
陛下の話では当時のヤマトの農法は変わっていたが、他の領地に比べ収穫量がとても多く品種も豊富。その上ヤマトの地はこの大陸の中心にあり、ここをベーリアンに押えられてしまうと実質ベーリアンに支配されてしまう。
「その事もヤマトの長に伝えようとしたのだが、彼らは外部との接触を嫌い難航したと記録が残っている。そしてベーリアンの間者が増えていく中、焦った当時のボルディン当主が強硬手段に出て… 後は知っておるだろう」
そう言い陛下は大きな溜息を吐いた。そしてお茶を飲んだ陛下は
「初代王のマルコは罪悪感に苛まれ、王位を譲った後は旧ボルディン領の別邸で余生を過ごしながら、消えたヤマトの民の手がかりを探したと記録に残っている」
陛下の話を聞き予想外の話に驚きを隠せない。てっきりボルディン家が私利私欲のためにヤマトを迫害したのだと思っていた。なんとも言えない気持ちになり言葉が出ない。
暫く沈黙が続き気まずい空気に、逃げたくなると父様が…
「ミーナが渡って来た時に持っていた手紙には、ヤマトの民はボルディン家を恨んでおらず、ボルディン家が神の許しを得れる事を望むと書かれていた。ヤマトの民が許しボルディン家も贖罪の気持があるのに、何故神はお許しにならないのだろう?」
父様の発言にハッとし顔を上げる。陛下もジン様も同じ事を思ったようだ。
"コンコン"
「陛下。入室の許可をいただけますでしょうか」
この声はルイス殿下だ。陛下、ジン様と父様が顔を見合わせて頷き許可を出した。両殿下とディック様が入室。リアンド殿下が駆け寄り私の手を取り心配すると陛下が
「全て話そう。掛けなさい」
こうして両殿下とディック様にも真相が明かされる事となった。
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