76.帰宅
家に帰る事を決めたミーナ。そして血の病を患う者達に真実を明かす事を決め…
「はやっ!」
リアンド殿下が朝一に私の帰宅を知らせる手紙を父に送ってくれ、夕刻には父様から明日昼前に迎えに行くと返事が来た。帰宅が決まり夕食後に侍女さん2人と荷造りを始めた。
当初は10日ほどお世話になるつもりが、色々あり…いや有り過ぎて結局2か月もお世話になってしまった。これだけ長くいると屋敷の使用人の人達とも打ち解け、お別れするのが寂しくなってきている。庭師のトムと料理長とは野菜の収穫を通して仲良くなり、今ではつまらない冗談を言い合うまでになっていた。
思い出話をしながら荷造りをし、ある程度荷造りが出来たので今晩はここまでにし、まだ寝るには早い時間なので安眠効果のあるハーブティ―を飲みながら女子会を始めた。
バーバラさんは祖母のようで、ルチアさんは姉の様な存在になっていて何でも話せて心が落ち着く。一頻話したらバーバラさんが
「不敬になりますがお嬢様は私の孫ですわ。いつでも遊びに来て下さいね」
「ありがとう。屋敷の皆さんのこと大好きです。また遊びに来ますね」
そう言うとバーバラさんがハグしてくれた。家出してここに来た頃は、やさぐれて皆さんに心配や迷惑を沢山かけてしまった。でも皆さんの優しさで立ち直る事が出来感謝しかない。
まだ別れではないのに泣きそうになると、涙目のルチアさんが就寝を促し、2人が退室後にベッドに入り目を閉じるとあっという間に深い眠りについた。
そして翌日。日の出とともに目覚め、最後になる朝の散歩に向かう。すると畑にトムと料理長が待っていて、朝食で食べる野菜の収穫を一緒にする。少し涙目の2人に気付かない様にしながら、楽しく雑談しながら収穫。ディーンに声をかけられ軍手と鋏をトムに返し、二人に感謝を述べてハグをしてお別れをした。寂しさを感じながら歩いていると
「ここ…ロダンダはどんな時もミーナの味方で家族だ。遠慮せずここに来ればいい」
「嬉しいね…自分では気づかなかったけど、私恵まれていたんだ」
そう言い立ち止まりディーンにもお礼を言い、背伸びをしてディーンの頬に口付けた。珍しく狼狽えるディーンに悪戯心が出て、後ろからディーンに抱き付く。するとディーンは私の両手をとり
「俺はミーナの行く先を一緒に歩きたい…」
「えっと…行き先は未定で、どこに転がるか分からないからやめた方がいいよ」
そう言いはぐらかすと両手を引っ張られディーンの背中に密着する。幼馴染でハグはいっぱいしてきた。これくらい大した事無いと思っていたのに、頬が熱くなるのを感じ自分で驚いていると大きな咳払いが聞こえ
「散歩からお戻りが遅くお迎えに参りました。朝食をいただきましょう」
「え…あっはい」
声はリアンド殿下だ。でもディーンの背中で何も見えない。ただ険悪な雰囲気なのは分かる。小声で離してと言うがディーンの手が緩むことが無く動けない。困っていると珍しく殿下が声を荒げる。
「其方は今までミーナ嬢を守る役目を担ってきたのは理解している。しかし今は幼馴染では無く騎士た。本分を忘れるな」
「…」
殿下の叱責でやっとディーンが手を離すと、すぐに殿下に手を取られ屋敷に戻る。見上げた殿下は微笑んでくれるけど機嫌がとても悪いし、後ろを歩くディーンからは冷気感じ居た堪れない。最後の日に気まずいのは勘弁してほしい。
気を使いながら朝食を済ませ部屋で荷物の最終確認をしお迎えを待っていた。そしてお昼前になり
「あ…」
門扉か開く音がし窓に駆け寄るとウチの家紋の馬車が入ってきた。慌てて扉を開けるとディーンが待っていて手を差し出した。見上げたディーンはいつも通りで安心して玄関へ。
「父様!」
父様がリアンド殿下にご挨拶している。ゆっくり階段降り父様の前に行くとハグしてくれる。そして
「娘を保護していただき感謝申し上げます。このご恩は必ずお返しいたします」
「いえ。私はミーナ嬢に返しきれない恩がある。これからも彼女の力になりたいのです」
その言葉に父様は微笑んでお礼言い話しを流した。2人の微妙な空気感に慌てて話題を変える。迎えが早い事に驚いたと言うと、父様はいつ連絡が来てもいいように、王都の町屋敷に滞在をしていた事。そして待っている間は教会の例の部屋で、間も無く来るその時の為に調べ物をしていたそうだ。それを聞き父様に抱きつき小声で
「何か分かったのですか?」
「いや何も…時間が無く焦っている」
そう言われて身を離すと、父様は向き合い私の両肩を持ち
「最後の治療は5日後だ。ミーナは…」
「心配しなくても、ちゃんと受けるわよ」
そう言い微笑んだ。表情を緩めた父様が頭を撫でてくれると、皆さんが胸に手を当てて深々と頭を下げる。そしてリアンド殿下が
「侯爵に願いたい。屋敷に同行させていただきたい」
真面目な顔をし殿下がそう言うと、父様は殿下に向き合い
「理由をお聞きしても?」
「我々”漆黒の乙女”に関わる者は真実を何も知らない。我々は知る権利がある。全てを知った上で行先を決めたい。それにそれを知る者達は我々に知らせる責任があると私は考えます」
殿下の言葉を受け少し考えた父様は私に視線を向けた。恐らく私の意思を尊重してくれるのだろう。私は微笑んで頷くと
「分かりました。ただボルディン王と教会に関しては私に権限は無い。両者へはご自分でお話を…」
殿下は表情を緩め父様に礼を述べ、使用人に出発を急ぐよう言い、使用人の皆さんが荷の積み込みを急ぐ。
「本当にありがとうございました。皆さん大好きです。落ち着いたらまた伺いますね」
そう言い屋敷の皆さんとずっと守ってくれたロダンダの騎士の皆さんに頭を下げた。そして父様に手を引かれ馬車に乗り込み王都の町屋敷に出発する。窓から手を振り小さくなっていく屋敷を眺めていたら、父様が私を見据えて
「殿下が仰っ件だがジン様はミーナが望めば話してくれるだろう。しかし陛下を説得するのは難しいだろう」
「ですよね…」
先人の過ちを直視しなければならないのだ。簡単な話ではないのはよく分かっている。でも目を逸らさずいい事も悪い事も全て知り得ないと行先は決められない。
『でもこれ以上病みたくは無いなぁ…』
そう呟き遠く見えてきたボルディン城を見つめていた。
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