73.豆菓子
心の整理が出来ないまま日は暮れていき…
夕刻になってもリアンド殿下はお戻りにならず少し不安に思っていると、バルデスさんが部屋に来て夕食の準備が出来たと知らせる。約束をしたので殿下を待つと言うと
「日が落ちても帰らない時は、お嬢様に先に夕食を召し上がっていただく様に託っております。恐らく殿下のお戻りは遅くなられるかと…」
「そうですか。分かりました」
こうして一人寂しく夕食を頂く。そして部屋に戻りのんびりしていると門が開く音がした。直ぐに窓に行き外を見ると殿下の馬車が帰って来た。お出迎えする為に部屋を出るとディーンが待っていた。
少し気まずいけどディーンと玄関に急ぐ。1階に向かうとリアンド殿下とバルデスさんが話をされていて、私に気付いたキーファ様が手を挙げた。すると殿下が階段を上がって来て私の手を取り微笑み
「ただいま戻りました」
「お疲れ様です。お帰りなさ…い!」
挨拶すると手を引かれ抱きしめられた。びっくりしているとキーファ様が特大の咳ばらいをし、私は背中を叩いて離してアピールをする。やっと解放され殿下のエスコートで階段を降りキーファ様にもご挨拶する。お聞きすると殿下とキーファ様はお食事が未だのようで、私はお茶を頂きお付き合いする事になった。殿下とキーファ様は一旦部屋に着替えに行かれ、私はダイニングルームでお待ちする。少しするとお2人がお見えになり
「遅くなってしまい、寂しい食事をさせてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ。お忙しいのですね」
どうやら海が荒れ予定より船の到着が遅れたそうだ。それなら仕方ないね…
殿下の話を聞きながら香りのいいハーブティーとドライフルーツを食べていたら殿下が
「それにある人物から興味深い話を聞いていて遅くなったんだよ」
「興味深い?」
そう言い殿下が手を挙げると、バルデスさんが箱を持って来て私の前に置いた。その箱は見たことも無い紙質をし、変わった色をしている。それを手に持つと”ゴワゴワ”いや”ざらざら”して変な感じだ。箱を持ち固まっているとリアンド殿下が開ける様に促す。これまた変わった色のリボンを解き、箱を開けると…
「花瓶? それにしては短い?」
寸胴でティーカップ程の高さしかなく壺の様に分厚い。陶器なのは間違い無いが用途が分からない。疑問に思いつつ箱に目をやると、これまた変わった形のティーポットが入っている。こちらも分厚い上に普段使うティーポットより高さが無い。首を捻り悩んでいたらリアンド殿下が笑いながら
「それは茶器ですよ」
「これが?」
リアンド殿下は楽しそうにそう言うと、懐から紙を取り出しバルデスさんに渡した。そしてバルデスさんは一言断り私から不思議な茶器を預かり部屋を出て行った。また不思議な気持ちのままの私に殿下が
「あの茶器はエドガー殿から貴女への贈り物だよ」
「エドガー様は帰国されたのですか?」
エドガー様は一旦港に着き荷を下ろして、港の事務所で殿下と商談し、直ぐに夜出る船でまた他国へ出発したそうだ。
そして私宛のこの変わった茶器を殿下に託したわけだ。
『お会いしてお話を聞きがたかったなぁ…』
そう思っていたらリアンド殿下がデスクから本?を持って来た。それは世界地図でリアンド殿下は目次を確認してあるページを開いた。そのページはフィーリアの地図だ。
先程の茶器はエドガー様が縁がありフィーリアの奥地の領地で見つけた物らしく、フィーリアでもあまり流通していないそうだ。
『また新しい茶器と出会え、喜ぶエドガー様の顔が浮かぶわ』
そう思うと私も嬉しくなって来た。気分よくお茶を飲みながらフィーリアの地図を見ていたら
「あの茶器の話から面白い事をエドガー殿から聞いてね」
「?」
何故か表情を引き締めた殿下はフィーリアの地図のある地域を指さした。そこは山に囲まれた盆地で地名は…
「ヤーマン?」
フィーリア語は昔に習ったきりで、辛うじて読めるレベル。あってますか?
「そう。あの茶器はこのヤーマン領で作られた物で、今まで領内のみで作られ使われて来たそうだ。噂を聞きつけたエドガー殿がヤーマンに赴き、領長を口説き手に入れたんだよ」
人懐っこくいい意味で人たらしのエドガー様らしい。そう思っていたらバルデスさんが先程の茶器を持って部屋に戻って来た。
そしてテーブルにあの寸胴の茶器を置いて、あの変わったティーポットでお茶を注いでくれる。
「!」
爽やかなお茶の香りに目が覚めるよう。殿下に促され熱い茶器を両手で持ちゆっくり飲むと…
『何これ!さっき食べたドライフルーツの甘さが無くなり、口の中がリセットされた!』
目を見開き驚いているとバルデスさんがこれまた変わった形をしたシュガーポット?を置き、蓋を開けると真っ黒でシワシワの豆が入っている。パッと見た感じ食べ物に見えない。戸惑っているとバルデスさんがこれもヤーマンの茶菓子だといい、甘い豆だと教えてくれた。
「見た目に反し上品な甘さで驚く美味さですよ」
そう言い勧める。恐る恐る一つ取り口に運ぶと…
「ウソ!美味しい」
驚きもう一つ口に運ぶと、バルデスさんがお茶も勧める。
「この組み合わせ最高です」
そう言い手が止まらない私を殿下が微笑ましく見つめる。一頻り食べて私が落ち着いた所で、殿下が話の続きを始める。
「すみません。豆菓子に夢中になっちゃいました」
「いえ。福眼でした」
そう言われて恥ずかしく顔が熱くなりながら、座り直し殿下の話に耳を傾けた。
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