69.血の繋がり
自分のルーツを知ったミーナ。少しづつ全容が見えて来て…
糖分チャージをし少し頭が回ってきた。お茶を飲み干し話の続きを聞く。
「私の考えが正しいならヤマトの人々は、ここでは無い世界に移り住んだって事になるわ。でもそんな事は神様で無いと出来ないわ」
「教会も陛下の認識も同じ。そして王家に危機に現れる"漆黒の乙女"はヤマトの子孫で間違いない」
「断言するのには何か確証があるの?」
質問すると父様は立ち上がり部屋の隅の金庫を開け中から箱と古びた本を取り出した。箱には鍵がかかっており重要なのが分かる。父様はそれをテーブルに置いて机の引き出しから鍵を出し箱を開けた。すると…
「ぬいぐるみ?」
そう箱には見た事も無い動物のぬいぐるみと紐の着いた巾着と小さな姿絵、そして見た事も無いデザインの子供服が入っていた。初めて見る物なのに懐かしく感じ無意識に手が伸びる。
「あ…」
「手に取っていいよ」
父様に言われぬいぐるみを手に取ると胸の奥が温かくなり涙が溢れた。多分いや間違いなくこれは私の物だ。そう思いながらぬいぐるみを手に取ると
「!」
ぬいぐるみを持つと胴体の部分に堅いものが入っている事に気付く。中に何が入っているのか気になり胴の部分を触っていると
【 美奈。大丈夫だよ。そこにいる人は怖い人では無いから安心しなさい 】
【 ママもパパもねぇねぇもいつも美奈の事思っているわ 】
「へ?」
ぬいぐるみが喋った! びっくりしてぬいぐるみを落としてしまう。すると父様がぬいぐるみを拾い笑いながら
「私も初めて聞いた時は驚いて落とし、ステラは悲鳴を上げて大変だったよ」
「何なんですかこれは⁉︎」
「恐らくヤマトの技術で何かに音を残せるのだろう。声の主はミーナの本当のご両親だ」
「本当の…」
声は若い男女で【美奈】は恐らく私の本当の名前だろう。そしてぬいぐるみから聞こえてくる声はとても優しく初めて聞いたはずなのに、昔から知っている気がする。
「!」
気が付くと隣に座る父様がハンカチで涙を拭ってくれている。どうやら私は泣いていた様だ。背中を支えてくれる父様の手が温かくまた沢山涙が出た。父様は何も言わず私が落ち着くのを待ってくれ、やっと涙も止まり父様がお茶とクッキーをすすめてくれる。
お茶を飲み大きく深呼吸しまた箱の中を確認すると、とても小さい姿絵が目につき手に取る。絵姿は絵とは思えず、ガラス越しに人を見ている様だ。
『絵とは思えないわ』
驚きながらそれを見ると姿絵には大人の男女と幼い女の子が描かれている。恐らくその3人は私の家族だ。そして3人は私と同じ黒い髪と瞳をし、この国に居ない彫りの浅い顔立ちをしている。実の両親を改めてよく見ると何処となく私に似ていて、自分のルーツが分かり心の奥の蟠りが解けていく気がした。
「あ!」
思わず声を上げて父様を見ると、父様は私が考えが分かった様で小さく笑う。そして
「ミーナの父君と私は目元が似ていて、瞳の色が違うのに幼いミーナには私が実父に見えた様だ。だからミーナは初めから私に懐いたんだ。そして母君を見てごらん。ステラと似ていないだろう」
父様にそう言われて実母を見ると確かに母様とは正反対の顔立ちをしている。
『だからってあんなに冷たくしなくても…』
そう思うと苛立ちと寂しさが増した。すると父様は頭を撫でて
「ステラは今でもミーナを愛している。不器用な彼女の事は後で話そう。今はミーナの生い立ちを伝えたい」
そう言い母様の話を父様は避けた。不満に思ったが確かに先に知るべき事が多い。口を噤むと父様は話を続ける
「まずはこの本を見てごらん」
父様はそう言い金庫から取り出した本を私に渡した。本を開くとそれは姿絵が纏められたもので女性が描かれている。
「これって…」
「そうだ。歴代の”漆黒の乙女”の絵姿だよ」
乙女達は皆んな黒髪と黒い瞳をしている。そして私と同じ彫りの浅い顔立ちをしている。
「黒髪と黒い瞳。それに彫りの浅い顔立ちはヤマト族の特徴だよ」
そう言い”漆黒の乙女”は消えたヤマト子孫だと父様は断言する。と言う事は私もヤマト族なんだ。戸惑う私に父様は
「私は娘のケイミーを取り返しミーナを両親の元に帰すべく、教会に通い“漆黒の乙女”について調べた。初めはどんなに調べても手掛かりはなく途方に暮れたよ。そんな私を見ていたジン様が必ずミーナに治療を受けさせると約束するなら、教会の禁書の閲覧許可を出すと言ってくれたんだ」
提案されたのは私が7歳の頃で、丁度母様の子で無いと気付き治療を拒み出した頃だ。その時は毎回森に逃亡したり、ワザと深夜に水を被り風邪をひき治療を何とか回避しようとしていた時期だ。ジン様は容態が安定しない病を患う4人の為に、治療を必ず受けさす為に父様に取引を持ちかけていたのだ。
「嫌がるミーナに心で謝りジン様の提案を受け入れ、ジン様からこの部屋を与えられたんだ。そしてこの部屋で特急禁書や極秘の文献を読み漁り方法を探した」
「父様。私が元の世界に帰ればケイミーはこっちに帰って来れるの?」
父様はやはり実の子であるケイミーを救いたいのだ。その為に異世界人の私を帰そうとしている。ほんの数週間前まで実の父だと思い慕っていた。でも血の繋がりには勝てないのだと思うと胸が苦しい。黙り込んだ私を見た父様が私の手を取り
「分かってくれとは言わないが知っていて欲しい。私はミーナもケイミーも私の娘として愛している。そして愛する娘達と共に生きていきたい。決してミーナをケイミーの為に元の世界に帰そうとしている訳では無いのだよ」
「…」
父様の言葉を素直に受け止めれない私は俯いてしまう。すると父様は立上り本棚に行き1冊の本を持って来て栞が挟まれているページを開き私に渡した。顔を上げると視線で読むように促す父様。複雑な気持ちで本に目を落とす。
「これって!」
驚き父様を見ると目尻を下げ微笑む。そして
「この本には歴代の”漆黒の乙女”の情報が記録されている。殆どの乙女は王族に嫁いでるが、数名の乙女は元の世界に帰り、贄になったバンディス家の女性がこちらに戻って来ている」
父様の言葉を聞きまた泣きそうになり
『私はこの世界に居場所がないんだ』
私は心の中でそう呟き、父様の言葉が全く耳に入らなくなった。
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