67.ヤマト
治療日当日。今日で謎は全て知り得るのだろうか⁈
緊張しているのかいつもより早く目覚め、窓を見るとまだ薄暗い。ロダンダの屋敷から借りて来た"血の病"に関する本を開き目を通す。ジン様の手紙を読んでからずっとある事が引っかかっている。それは【血の病を患った者を伴侶にしない方がいい】というものだ。
本を読んでも(患った者は)成人までを治療受け、再発はした者はおらず長生きしその子に影響はない。
『アイーナの時は例外みたいだし』
だから私がリアンド殿下を選んでも問題ない気がする。でも手紙に書くくらいだからジン様は何か知っていて、私に忠告しているのだろう。まずはそこを知らなければならない。
『今好意を向けてくれている殿方の中でリアンド殿下が一番気を許せているけど…その気持ちが愛なのか分からない』
色々あり過ぎて気持ちが散らかっている。成人の儀を迎える頃には落ち着くのだろうか⁈
そんな事を考えていたら部屋が明るくなり日が昇っている事に気付く。そろそろ起きてもいい頃だとベッドを出て水差しのお水を飲み背伸びをする。
今回ロダンダの屋敷からルチアさんが同行してくれていて、私が起きた気配を感じ身支度を手伝いに来てくれた。ルチアさんは私より少しお姉さんの20代後半で既婚者だ。旦那さんは屋敷の料理人でお子さんは今年の初めにロダンダの全寮制に学校に入学したそうだ。
年が近いから話が合いよく話し相手をしてもらう。身支度をしているとルチアさんが
「お嬢様の事情は私達は知らされておりませんが、大変な思いをされて来られたのは分かります。ですがこの世界には神様がいらっしゃり、必ず神が手が差し伸べて下さいますわ。それに私共も微力ながらお支え致しますので」
「ルチアさん…ありがとう。そのお気持ちが嬉しいわ」
そう言いルチアさんの手を握り感謝した。ロダンダの人は国民性か情に厚く親切な人が多い。それに比べボルディンは気位が高く身分主義なので格下の者には冷たい。
幼い頃から森で隔離されて育ったからか、身分主義は私は持ち合わせていない。私はやっぱりここではない何処かに移り住んだ方がいいのかもしれない。
こうして話が盛り上っていたら誰かが部屋に来て扉をノックする。返事をするとリアンド殿下で朝食のお迎えに来てくれたようだ。身なりを確認し扉を開けると朝から眩しい微笑みをいただく。そして一瞬躊躇してハグをしてご挨拶を頂き食堂までエスコートしてくれる。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「はい。私は案外図太いようで枕が変わっても寝れちゃいました」
そう言うと楽しそうに笑う殿下。リアンド殿下はおおらかで王子とは思えない位気さくだ。双子なのにルイス殿下は正反対で真面目で神経質ぽい。
『やっぱり育った環境が大きのかなぁ…』
そんな事を考えていたら食堂に着き、食堂に入るとキーファ様が新聞を読みながらお茶を飲んでいた。
ご挨拶をしてから着席し和気藹々と食事を頂く。
勿論一流ホテルなので食事は美味しいが、やっぱり日の光と潮風で育てたロダンダの屋敷の庭の野菜の方が美味しい。そんな野菜を精魂込めて育ててくれているトムに感謝しながら食事を頂いた。そしてしっかり栄養を摂り部屋に戻り準備をし出発する。
「緊張して来た…」
「大丈夫ですよ」
馬車前で緊張する私の背中をさすってくれるリアンド殿下。やっぱり殿下は優しいなぁ…
やっと私が落ち着き馬車に乗り込もうとしたら、騎士さん駆け寄り殿下に耳打ちした。険しい顔をしたリアンド殿下は、私を見て微笑み乗車するように促し馬車の扉を閉めた。そして
「念の為に窓を閉めカーテンをしてください」
「はい。あの…大丈夫ですか?」
殿下は何言わず微笑み再度カーテンを閉める様に促した。何か起こっているか説明も無く馬車は出発した。暫く進むと外から男性の言い合う声が聞こえて来た。窓はカーテンが閉まっていて外の様子は分からないが、状況は何となく分かった。恐らくルイス殿下一行が来ているのだろう。
『早く全てを知り乙女を娶る重責からルイス殿下を解放して上げたい』
そう思いながら迷惑にならない様に車内でじっとしていた。程なくして馬車のスピードが落ち教会に着いたようだ。だが着いたのに一向に扉が開かない。外の状況が分からないので開けてもらうまで静かに待つ。少し不安に思って来たらやっと外から声をかけられ…
「ミーナ嬢開けてよろしいか?」
「!」
「ミーナ嬢?」
この声はルイス殿下だ。驚いて返事できずにいると…
「ミーナ嬢。私もおりますご安心して下さい」
リアンド殿下の声が聞こえ、やっと安心して声が出た。返事をするとゆっくり扉が開き誰かの手が差し出され…恐る恐る手を取ると
「ルイス殿下⁈」
「やっと貴女に会えた」
安堵の表情を浮かべたルイス殿下が目の前に居る。ルイス殿下越しにリアンド殿下が見え、リアンド殿下は困った顔をしている。気まずい雰囲気に困っていたら
「よく来たね。体調が良さそうで安心したよ」
「ジン様」
ルイス殿下に手を離してもらい、ジン様の前に行き深々と頭を下げ心配をかけた事を謝る。するとジン様は私の頭を撫でて
「取りあえず中にお入り。話しは後でゆっくりすればいい」
「はい」
そう言いジン様は先に教会に入って行った。そして教会に入ろうとしたら左右から手が伸びて来た。右にリアンド殿下で左はルイス殿下がいる。2人共無言で圧が強くて困っていると、いつも案内をしてくれる神官さんが来て、殿下達に声をかけて私の手を取り治療室に案内してくれた。そんな神官さんに視線を合わせ会釈しお礼を言う。そして殿下達は他の神官の案内で治療部屋へ。
リアンド殿下が言っていた通り、ボンディン側とロダンダ側の騎士達は教会に入らず玄関先で待機の様だ。
廊下を神官さんと歩いていると、ドルツ先生が前から歩いて来るのが見えて思わず駆け寄りご挨拶する。
「元気そうです何よりです。治療を受ける貴女の決断に尊敬を」
「皆さんが助けて下さり前を向けました。もう逃げません」
「助けが必要な時はいつでも頼って下さい」
先生はそう言い私の頭を撫でた。この後殿下達の治療準備がある先生とはここで別れ治療部屋に先を急ぐ。
「待ってましたよ。お入りなさい」
治療室に着くとジン様が笑顔で迎えてくれた。そしてまずは治療をする。
「痛っ!」
何度受けてもこの痛みは慣れず毎回涙が出てくる。そして血を採り終わると止血し包帯を巻いてくれた。
そしてやっとあの話が出来る。でもどう切り出そうか悩んでいたら
「何から聞きたい?」
「へ?」
ジン様が話を振ってくれた。色々あるけど今一番気になっているのは…
「いただいた手紙に【”血の病”を患った者は伴侶にしない方がいい】と書いていましたが、理由をお聞きしたいのです」
「そう来ると思っていたよ。それに関しては貴女の出生に関わる事だよ。賢い貴女は恐らくロダンダの屋敷で色々調べたんじゃないか?」
頷くとジン様は私がケイミ嬢と入れ替わりここに来た事と、その事から私がこの世界の人間じゃない事を話した。そこは分かっている。私は結論が欲しくて、話が進まない事に苛立ち
「もうそこはいいんです。結論から教えて下さい」
そう言うと苦笑いしたジン様はお茶を飲み座り直して
「ミーナ嬢はこの世界の人間では無いが、元はこの国の人間なんだよ」
「はぁ?」
また意味不明な事を言うジン様に、失礼だがボケて来たのかと思ってしまった。そんな私の表情を察したジン様は笑いながら
「もうすぐ80歳になるが、まだしっかりしとるよ」
と言い、机の引き出しから古い本を取り出し私に渡した。その本の題名は【消えたヤマトの歴史】と書いてあった。ボルディンにヤマトなんて領地は無いし、習った世界の国にも無かったはずだ。でも”消えた”と書いてあるから戦などで滅んだ国のなのかもしれない。色々考えていたらジン様が
「ヤマトはミーナ嬢の先祖が住んでいた村じゃよ」
「そんな話聞いた事も無いです」
「恐らくこの後スティーブ殿から聞く事になるだろう。本は次の治療の時に帰してくれればいい」
そう言いジン様は本を見ている。本はかなり古く少し荒く扱うと壊れてしまいそうだ。ゆっくりサイトテーブルに本を置いた。
『さっきジン様が私の出生について父様が話してくれると言っていた。という事はバンディス侯爵家も何か関与しているのだろう』
自分が予想していたより話が複雑になっている事に躊躇していたら部屋に誰か来た。ジン様が立ち上がり扉を開けると、そこには父様が立っていた。心の準備が未だだった私は固まってしまう。
するとゆっくり入室した父様はジン様に丁寧にご挨拶をされ、座る私の前に跪き頬に手を当てて
「少し痩せたな。ちゃんと食べて眠れているのか?」
「うん…私より父様の方が窶れているよ」
「愛する娘が急に居なくなったんだ。窶れもするさ」
そう言い微笑む父様を見て涙が溢れだし、気が付くと父様に抱き付いていた。久しぶり父様の香りに気持ちが落ち着いて行くのを感じ父の温もりに包まれた。
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