65.次の治療
久しぶりの幼馴染と今まで通り接されるか不安だったけど…
あれ以来ずっと避けていた幼馴染といざ再会してみるといつも通り話せほっとする。私とディーンはまるで牛の様にゆっくりと廊下を歩きながらお互いあの日以降に起きた事を話す。すると急に立ち止まり俯いたディーンが
「良かった…」
「?」
そう呟き安堵の表情を浮かべるディーン。意味が分からず聞いてみると、専属護衛をリアンド殿下から命じられた時躊躇したそうだ。何故なら私からの連絡も手紙の返事も無く、嫌われたのだと思い込んでいたからだ。
「嫌いになんか…いや真実を知った時は一瞬嫌になったけど」
「やっぱり嫌われて…」
「いや!一瞬だよ」
「一瞬でもお前に嫌われたと思うと落ち込むよ」
こんなに大きい体をしているのに肩を落とし目を伏せているディーンを見て笑ってしまった。そしてディーンの背中を叩き
「今は嫌いじゃないよ」
そう言うと顔を上げて人懐っこい笑顔を向けてくれた。そして再度キーファ様の部屋に歩きだし、もう一人の幼馴染であるナーシャの近況を聞く。ナーシャは正式に任を終えて一旦実家へ帰った事。そして想い人の為に親を説得中らしい。
「長きに渡り陛下からの命を遂行したナーシャにご両親は強く言えない様で、ここに来る前にナーシャに会って来たら、"あと少しで両親を落とせるわ"と息巻いていたよ」
鼻息荒く語るナーシャが想像できて思わず笑ってしまった。やっぱり親友には幸せになって欲しい。そう思って次にディーンの近況を話を聞こうと思ったらキーファ様の部屋に着いてしまった。
「ディーンの話は後で聞かせてね」
「俺は何も変わらないよ。任務を終えても」
「えっと?」
聞き返そうとしたら扉が開きキーファ様が顔を出した。そして片眉を上げて
「何かありましたか?」
「はい。次の治療でお願いとご相談がありまして」
するとキーファ様が私の手を取り中に部屋に引き入れてくれ、ディーンには部屋の外で待ってもらう。そしてソファーに座り私から話しだす。
「ご相談があります」
「はい。伺いましょう」
こうしてキーファ様に次の治療を今まで通り教会で受け、その後に父様と話をしたいと伝えた。すると足を組み少し考えたキーファ様は
「理由をお聞きしても?」
頑なに拒否していたのだ。気が変わった理由が気になるのも分かる。
「今"血の病"について調べても行き詰っていて、後調べていないのはバンディス家と教会だけなんです。それに後少しで成人します。成人の儀までにすべて知り自立したいんです」
「貴女の勇気に敬意を。では次の治療まで日がございません。直ぐに手配いたしましょう」
こうして次の治療は教会で受け、その後に教会で父様と会い一応この屋敷に戻って来るつもり。腹をくぐったので父様と会うのに心配はしていない。ただ心配なのは…
「不安に思われる事は仰って下さい。出来得る限りの対策は致します」
私の不安がキーファ様に伝わったみたい。だから素直に不安に思っている事をキーファ様に話した。
不安要素はただ一つ。ルイス殿下やジン様に捕まり何処かに軟禁される事。アイーナの二の舞にはなりたくない。そう思い俯くとキーファ様が優しく私の手を取り
「ロダンダが貴女を護りますから心配しないで下さい」
「ありがとうございます」
この後キーファ様はリアンド殿下と教会、そして父様に会う為に王都へ出かけてしまった。そしてまた屋敷に一人になってしまい心細い。するとディーンが
「俺がいる。頼ってくれ」
「じゃあ騎士になった幼馴染に頼りますか」
とお道化て言ったらいきなり目の前で跪いて私の手を取ったディーンが
「俺は貴女の騎士です。命ある限り貴女を護ると神に誓う」
真面目な顔をした幼馴染が知らない男の人みたいで胸ドキしてしまった。ふざける雰囲気でも無く困っていたら、バルデスさんが通りかかり視線で助けを求める。苦笑したバルデスさんが声をかけてくれこの状況から脱する事が出来た。そして部屋に戻りディーンは私の隣の部屋で待機。私はまだ読んでいないジン様の手紙を取り出し睨めっこしている。
『ジン様に会う前に手紙を読んでおかないといけないのは分かっているのにやっぱり怖い。とんでも無い事が書いてあったらどうしよう…』
暫く固まっていたらバーバラさんが部屋に来て水差しの交換をしてくれた。気持ちを切り替える為に熱いお茶と焼き菓子をお願いする。少しするとワゴンを押したバーバラさんが入室し、ワゴンのティーカップが目に入る。
「あっ!そのカップはエドガー様の」
「はい。長く生きてきましたが、こんな綺麗なティーカップは初めてですわ」
そう言いながらガラスのティーカップに熱いお茶を入れてくれた。エドガー様が言っていた通り、熱いお茶を入れても割れない事にバーバラさんと感動していた。そしてバーバラさんが退室し一人になりお茶を頂く。カップの口が薄く口当たりがよくいつもより美味しく感じる。お茶でほっこりし手紙を読む決心がついた。
「よし!」
ペーパーナイフを手に取り開封し読む出す。とても綺麗な字で私の身を案じてくださっている。そして…
『このボルディンは貴女が召された事で安寧と繁栄が齎された。貴女にはまだ伝えていない事が沢山あります。貴女が望むなら全て話しましょう。そして国の安寧の為に貴女には今後もボルディンに残ってもらいたい』
「真実は知りたいけど、この国に残り気は今はないよ」
独り言を言いながら手紙を読み進めると、父様の事が書かれていた。
『スティーブ殿は役目では無く、本当に貴女を娘として愛しておる。そこは分かってもらいたい。そしてステラ殿も同じなのだが、今の貴女には理解できないだろう』
「…」
両親については今は考えたくない。今の私は真相を全て知りたいだけ。今後の事はその後に考えていきた。そう思いながら手紙を読み進めていたら、最後の一文に目が留まる。
『これは私個人の考えである事を念頭に聞いて欲しい。血の病を患う者を伴侶に迎えない方がいい。諸説あり信憑性は無いがこの悲劇を終わらせるには、そうした方がいいと感じる。詳しくは会って話をしよう』
思いもよらない言葉に固まってしまう。慣例通りなら国の繁栄のためにルイス殿下を薦めるんじゃないの? 何故"血の病"を患った人は駄目なの?
また新たな疑問に首を傾げ、胸の奥がもやもやし眠れなくなってしまうのだった。
そして数日後にキーファ様が帰って来た。護衛のディーンを置き去りにしてエントランスまで走っていく。
「お帰りなさいキーファ様」
「熱烈なお迎えですね」
そう言い笑いながらハグをし従者から綺麗な箱を受け取り
「リアンド殿下から預かって参りました。最近王都に出来たパン屋の甘いパンです。殿下自らお買い求められた物ですよ」
「嬉しい…」
パン好きな私の為に買って下さった事に心弾む。そして外套をバルデスさんに預け私の手を取ったキーファ様と共にキーファ様のお部屋に向かう。
そしてソファーに座ると
「教会とミーナ嬢のお父上と話をしてまいりました。ミーナ嬢の希望通り教会で治療を行い、その後お父上とお時間をお取りしこちらに戻ってくる予定で話して参りました」
「ありがとうございます。お手数おかけしました」
次の治療が決まり気が引き締まる。そして治療の日のことを話し早目に部屋に戻った。そしてベッドに入り
「2日後の私はどこで眠るんだろう?」
早く話を聞きたい反面、また辛い思いをするかもしれないと思うと複雑な気持ちになるのだった。
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