61.特急禁書
アイーナの新たな情報を持ってリアンドが帰って来た。そして新たな事実を知ることになり…
「これが過去の乙女に関する記録です」
「でっ殿下!表紙に【教会秘蔵_特急禁書】って書いてありますよ!いいんですか教会から持ち出して」
重厚な箱に入った本の表紙に【教会秘蔵_特急禁書】と書かれていて焦る。すると殿下は笑いながらジン様が私に見せて下さいと持たせてくれたそうだ。その本は年代物で古書特有の匂いがして緊張感が増す。ゆっくり箱から本を取り出し表紙をめくると…
《尊き我がボルディン王国を救いし"漆黒の乙女"の記録をここに残す。まず初めに乙女に対し最大級の敬意と愛を持って接する事。そして乙女の御心を尊重する事。これがなされない時、ボルディン王家に災いが齎されるだろう》
冒頭から怖い事が書かれていて、読むのを躊躇してしまう。すると殿下が隣に移動し背中を支え優しい眼差しを向けてくれる。その眼差しは"大丈夫"だと言ってくれているようだ。勇気を出し次のページをめくり読んでいく。
そして"儀式"の始まりや詳細が書かれてあり、内容は他の書物で読んだとおりだった。そして目次を確認し私の前の乙女のページを探す。
アイーナ嬢のページは他の代の乙女と違い記録が多い。この事から色んな事があった事が窺える。意を決し読み始める。
アイーナ嬢はバンディス侯爵家の遠縁の娘としてバンディス家に預けられた。そして私と同じで森で過ごしている。
『私と同じだけど、彼女はアカデミーに通っていたんだ。いいなぁ…私と何が違ったのだろう…』
アイーナ嬢の生活ぶりを読むと森には暮らしているけど、比較的自由に過ごし友達も多かったようだ。それを読みながらアイーナ嬢を羨ましく思ってしまう。するとずっと私を見ている殿下が
「大丈夫ですか?」
「あっはぃ。いや、同じ乙女なのに彼女は他の令嬢の様に不自由なく育っているわ。私は彼女が羨ましくて」
「…」
返答に困っている殿下の様子から、殿下はこの内容を知っているのが分かった。やっぱり彼女は私と違い愛されて育っている。私と彼女の何が違うのかを探してしまう。そろそろ卑屈になって来た時に、ある文に目が止まる。それを読んで
「殿下!これ!」
そう言うと殿下は頷いた。
「貴女が感じたようにアイーナ嬢は愛されて何の不自由もなく育った。しかしその幸せな生活に落とし穴があり、不幸を招いたんだ」
「だから、私とザイラは姉弟として育てたんだ」
そうアイーナ嬢の慕っていた男性はバンディス侯爵家嫡男のユーリ。アイーナの5歳年上の男性だ。
ユーリはアイーナを溺愛していた。アイーナも兄の様に慕っていたが、思春期を迎えるとそれは恋心に代わる。ユーリは治療に涙するアイーナの心の支えとなり、ユーリも次第に弱く愛らしいアイーナを愛する様になる。
そしてユーリが成人を迎え、侯爵家を継ぐ為に伯爵家から妻を迎えた。しかし2人の愛は変わらず、後に2人の関係に気付いたユーリの妻は嫉妬しアイーナを虐げ出した。
自体を重く見た当時のバンディス侯爵は、ユーリ夫妻に王都に別宅を与えアイーナと離す事にした。離れたお陰で諍いは減り平穏が訪れたと思われていたが、実は陰でユーリとアイーナは逢い引きし愛を深めていたのだ。そしてアイーナが17歳になり病の真実がアイーナに告げられ、王子との婚姻を促される。
アイーナは反発して王子を拒み、更に治療も拒否した。ここからアイーナを娶りたい王子と、拒むアイーナが対立してしまう。困った侯爵様はアイーナを宥めつつ、当時の大神官のトモイに相談する。
そして後治療が5回となった時に、3者 (侯爵、教会、国王)の話し合いがなされ、王子との縁組は諦める事になった。何故なら王子の病の完治を優先させたからだ。
その結果をアイーナに伝えると、治療(輸血)を最後までする事を約束し、その対価として治療が終わった暁にはフィーリアへの移住を求めた。
王家の血筋を残したい国王はアイーナの申し出を快諾し、成人の儀の後にアイーナがフィーリア移住をする準備を始めると同時に、王子に別の令嬢を娶るように伝える。
この時アイーナとユーリはフィーリアに駆け落ちするつもりでいたのだ。
しかし執着心が強い王子は国王の命を突っぱねた。そして…
「やだ…酷い…」
王子は諦める代わりに思い出作りに王家所有の避暑地への同を求めた。アイーナはこれで王子から解放されると快諾し王子に同行し…そしてアイーナは王子に凌辱されてしまう。そしてそのまま侯爵家にも帰してもらえず軟禁されてしまう。
侯爵は何度も国王にアイーナを帰すように陳情し、次の治療の時にやっとアイーナは解放される。元々陽気で気の強かったアイーナはまるで別人のように変わり果てていた。そして治療を終えて侯爵家に帰って来た。その後も王子からの求婚は続いた。
そして…数日後にアイーナが懐妊している事が発覚し、その後の事は文献で読んだとおりだ。
気がつくと私は泣いていた。好きでもない人に辱められ孕ってしまい、愛する人との未来を奪われたアイーナ。可哀想で涙が止まらない。すると身体が温かくなり見上げるとリアンド殿下が抱きしめていた。殿下のお胸を借り暫く泣いた。
そして泣き止むとハンカチで涙を拭ってくれ、ベルを鳴らしてバルデスさんを呼んだ殿下。直ぐにバルデスさんが来て、温かいミルクを出してくれた。殿下が蜂蜜を入れ渡してくれる。甘く温かいミルクで落ち着いて来た。
「貴女には辛い話でしたね。正直言って同じ王族として嫌悪感を感じます。現ボルディン王も過去を教訓とし、貴女に敬意はらって来た。しかしルイス殿下は先祖返りか乙女に執着している。現に一度貴女を…」
「あ…」
そう言えば私もロダンダて殿下に迫られ危うかったんだ。もしディーンが突入しなかったら、私はアイーナと同じになっていたかもしれない。そう思い心の中でディーンに感謝した。
「貴女がこの屋敷に来た直後に、ルイス殿下はここを訪れ貴女を王家の別荘に移そうとした。ルイス殿はあまりにもあの王子に似て危うい。できるなら貴女は成人の儀が終わったらボルディン(ここ)を出た方がいい」
「この本を読んでいて同じ事を思いました。でも成人後の事はまだ考えてなくて… 全てを知ったら真面目に考えます」
この後、殿下と討論し今世で4人もの”血の病”が出たのも、3、2代前に乙女が渡らなかったのは神の怒りもしくは、アイーナの悲しみから起こったのだと結論づけた。
一息ついてソファーに深く座り直し、窓の外を見ると薄暗くなっていた。今日はここ迄とし殿下と夕食を食べにダイニングルームに向かった。
今日はいっぱい話をして考え泣いてへとへとだ。早めに部屋な戻り湯浴みをしてベッドに潜り込む。
天井を見つめながらザイラの事を考えていた。
「父様が私とザイラを姉弟にしたのはユーリの件があったからだろう。この件も父様から聞いた方がよさそうだ。だから…」
やっと父様の手紙を読む気になり、ベッドから出てガウンを羽織りチェストから父様の手紙を取り出し開封した。
何が書いてあるんだろう⁈ 便箋が沢山入った封筒は分厚く、読み終わるのに時間がかかりそうだ。時計を見るともう直ぐ日が変わる。
長い夜になることを覚悟し読み始めた。父様の癖のある筆跡を懐かしく感じ読み進め、私を気遣う言葉にうるっとした。
そして父様の手紙と共に世が更けていった。
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