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54.来客

エドガーの訪問を楽しみにしていたが…

「多恵様。そろそろお召替えを」

「えぇ…汚れてないしこのままで良くないですか?」


お昼を過ぎて殿下の書斎で古い文献を読んでいたらバルデスさんが来て、エドガー様をお迎えする準備を促す。朝から書斎にいて汚れていないし、エドガー様はそんな事気にしないタイプだと思うんだけど… 着替えを渋っているとキーファ様が助け舟を出してくれ湯浴みと着替えは免れた。

そして書類や本を直して一旦部屋で待機し、ぼんやり門扉が見える窓から外を見ていた。すると馬車が1台来たので、てっきりエドガー様だと思いカーテンを開けて窓を開けたら…


「げっ!」


下りて来たのはルイス殿下だった。気付かれない内にカーテンを閉めようとしたが…


「ミーナ嬢!」


見つかってしまい思いっきり叫ばれてその場にしゃがんで隠れてしまった。この後ルイス殿下と門にいる騎士さんが揉めていて、とうとうキーファ様が出てきてルイス殿下を宥めている。

タイミングの悪い殿下に少し苛立ちながら、このままだとエドガー様とバッティングしてしまうと心配していたら、馬が嘶き馬車が停まる音がした。


「あっちゃ…来ちゃったよ」


そうエドガー様が乗った馬車が着いてしまったのだ。もう一悶着を覚悟していたらルイス殿下の声が小さくなった。諦めたのかとこっそり覗くと和気藹々とエドガー様とルイス殿下が話をしている。癇癪持ちのルイス殿下をいなしているエドガー様の話術に感心していたら、バルデスさんが部屋に来た。返事をすると入室して来て


「エドガー様がルイス殿下にお帰り頂く為に手紙をお書きいただき、窓から微笑んで手を振っていただきたいと申しておられます。無理時は致しませんのでお嫌ならお断りいただいてもいいと…」

「それですんなり帰ってくれますかね?」

「どうでしょう…私は分かりかねます」

「ですよね…」


悩んだ末に会わずに帰ってくれるのならと、キーファ様のメモを手本に簡単な手紙を書きバルデスさんい預けた。そして窓からこっそり見ていると、バルデスさんから手紙を受け取ったルイス殿下は直ぐに開封し読んでこちらを見上げた。


『このタイミングだ!』


立上りカーテンを開けて引きつりながら微笑んで手を振った。すると破顔した殿下が大きく手を振っている。そしてキーファ様が殿下に声をかけると機嫌よく馬車に乗り込み帰って行った。

前の様に揉めずに済んで胸をなでおろしていると、エドガー様と目が合った。

エドガー様は胸に手を当てお辞儀される。王太子相手に臆する事なく対応して、揉める事なく解決したエドガー様に感動した。

それにしても本当に見え見えの嘘の手紙で納得してくれるとは思っていなかった。書いた内容はこうだ


『昨晩から体調が優れず殿下の御前に出れる状況ではございません。この様な姿を殿下にお見せするのは恥ずかしく、胸中ご察しくださいませ』


恥じらうお乙女を演出した内容だった。

今回はこれでなんとかなったが、また近いうちに殿下が来るだろう。だからキーファ様と作戦会議をしておいた方がいいかもしれない。

そしてやっとエドガー様の馬車が敷地に入ったのでお出迎えの為に玄関へ急ぐ。エントランスに着くとキーファ様とエドガー様が立ち話しをしていて、私に気付くと足早に目の前に着て


「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

「お会いできて嬉しいです」

「それ本当ですか?嬉しいな」


そう言い手を取り手の甲に口付けた。他の男性にされると嫌な挨拶もエドガー様には嫌悪感は無い。暫く立ち話をしていたらキーファ様が部屋への移動を促す。そしてキーファ様のエスコートで応接に向かうと思いきや…


「へ?」


向った先は応接室では無く庭で、ガゼボにはお茶の用意がされていた。今日は日差しが暖かく庭はとても気持ちいい。そしてテーブルには私の大好きなジャムサンドと焼き菓子が並び無意識に顔が綻ぶ。

こうして3人でお茶をしながら暫く雑談をしていたら


「そろそろ私は失礼します。エドガー殿紳士の振舞を。念の為に侍女を付けますので」

「あはは…信用いただけないのは寂しいですね。私はミーナ嬢を()()口説きませんよ。キーファ様また商談でロダンダにも伺います故、その時はよろしくお願いいたします」


こうしてキーファ様が退席されエドガー様と2人っきりになってしまった。だけど気まずさは無く、寧ろどんな話が聞けるのか楽しみしかない。するとエドガー様はお付きの者を呼び綺麗な箱を受取り私の目の前に置いた。視線で開ける様に促され開けると…


「すごーい綺麗! 以前見たのと色味が異なりますね」

「はい。土の配合で発色が微妙に変わり同じものは出来ないのです」

「紫が濃くてこれ私好きです」

「お気に召して良かった。まだ訪れた事のない国に見た事のない陶器があるはず。また見つけたらお持ちしましょう」


そう言い楽しそうに陶器の話をするエドガー様。貴族の令息の様に家門の自慢など無く会話は楽しい。てっきり今日の訪問はイルハン様から様子を見てくるように言われてきたのかと思ったが、そんなそぶりもないし私がここに居る事に触れて来ない。気になって聞いてみる事にした。


「あの…エドガー様は私が何故ここに居るか聞いてらっしゃいますか?」

「いえ詳しくは。何かご事情がお有りなのでしょう」

「聞かないんですか?」

「聞いて欲しいのですか?」

「あ…そういう訳では」


いつもと同じ優しい微笑みを向けてくれる。嘘を言っている様には見えずイルハン様や父様に言われてここに来た感じはない。本当に茶器を届けてくれただけかもしれない。そんな事を考えていたらエドガー様が


「私もそうですが色々有ります。もう成人される貴女はご自分の判断で未来をお決めになるといいのです。そこに親や人の意思は要らない。悩んだり困ったらいつでも力になりますよ」


エドガー様は距離を取りお節介を焼いたり踏み込んで来ない。エドガー様との会話が心地いいのはこの距離感なのかもしれない。少し警戒が解けたら


「ルイス殿下は王太子である自尊心プライドから貴女を娶る事しか考えておられない。不敬な言い方になりますが、あの手のタイプは拒んでいないと示し根気強く交渉しないと納得を得れないのです。色んな方々と商談しあの手のタイプには慣れておりますので」

「だから拒否せず都合が悪い事だけ伝えたのですね」


そう言うと頷いて優雅にお茶を飲むエドガー様。そして不敬な発言で投獄されたく無いのでここだけの話にしてくれとお願いされた。年上で大人なエドガー様だが、偶に少年の様な表情をし楽しそうに笑う。

いつぶりだろう…こんなに楽しい会話は。とても気分が良く沢山話をして疲れて来た。でもそんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、日が暮れて来て肌寒くなって来た。身震いするとエドガー様は上着を脱いで私の肩にかけてくれる。エドガー様の上着からシトラスの香りがし父様以外の男性の香りに戸惑っていると


「貴女は初心で可愛い。その純粋なままでいてくださいね」

「純粋?結構捻くれていると思いますけど⁈」


そう言うと笑われた。笑われたのにちっとも嫌な感じは無くもっと一緒に居たいと思ってしまう。ここも優しくいい人ばかりだけど私の居場所では無いしまだ気を許せるほどでは無い。それにいつかは出て行くのだ。

そう思うと自分の居場所が無いように感じて寂しくなり、無意識にエドガー様の袖をひぱっていた。ハッとして見上げると驚いた顔をしているエドガー様。慌てて手を離すとエドガー様が私の手を取った。そして私の手を引き


「日が暮れると冷えて来る。風邪をひくといけないので、屋敷に戻りましょう」

「はい」


こうして歩きながらまた楽しく話をし、屋敷に入るとキーファ様がいて、私たちを見て片眉を上げて何か言いたげだ。エドガー様は繋いだ手をキーファ様に差し出し


「長い時間お邪魔いたしました。愛らしいお嬢様と語らい楽しい時間に感謝いたします。ミーナ嬢。また訪問しても?」

「勿論です。お待ちしておりますわ」


こうしてキーファ様と玄関までお見送りをし、走り去る馬車が見えなくなるまで見つめていた。するとキーファ様が


「彼はいい男です。器も大きく信頼できる」

「ん?そうですね」


キーファ様は意味ありげな表情でそう言い自室に戻って行かれた。私は部屋に戻り夕食までエドガー様に頂いた茶器を眺めて過ごした。エドガー様は今晩出港し1か月ほど他国を渡り歩くそうだ。


「帰国されたら寄って下さるかしら…」


そんな事を思いながら慌ただしかった1日を終えたのでした。

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