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50.贄

”血の病”を知る事から始めることにして…

次の治療を受けるまでに正しい知識が欲しくて”血の病”に関する本を読み出す。


〔この”血の病”の発症がいつが最初なのかは未だ不明である。一番古い記録では現王の15代前の王フィリップ王の子チャールズ王子が生後2ヶ月にこの症状が出た時から記録されている。

この病は腹痛・発熱・嘔吐・下痢・発疹・頭痛・貧血等と症状は多岐にわたり、発症した王子の多くは5歳までに命を落としている。医者と薬師は治療法を探し他国に渡り歩き探し求めたが、見つける事が出来ずチャールズ王子は4歳の誕生日を迎える前に呼吸困難でご逝去された。

そして王子様が逝去し3年後にマーガレット王女が誕生し王位を継がれ、王家の血脈を繋ぐ事が出来た。


その後この病に罹る者は現れず忘れ去られようとしていた。そしてフィリップ王から5代後のアーサー王の時代。アーサー王ご成婚され2年後にジョージ王子が誕生した。王子が4ヶ月になり首がすわり始めた頃に乳母が異変に気付く。微熱と下痢を繰り返し医師と薬師が治療にあたるが悪化するばかり。我が子が弱り行くのを悲しんだ王妃が教会に通い神アルランに祈りを捧げていた。王子が床に伏し城内が陰り出したある日、昔から教会で慈善活動をしている医師が王妃に謁見を求め登城した。平民の医師が簡単に王妃に会える訳もなく応対した騎士に門前に払いされる。その時に医師は去り際に騎士にこう言った。


『王子を治す方法を私は知っている』


騎士は戯言と相手にせず、それから1ヶ月たったある日。医師は教会の大神官に目通りを願い、王子を治す術を知っていると告げ、王妃との面会を望んだ。

日々の慈善活動で教会から信頼を受けていた医師は神官に話を聞き入れてもらえ、神官と騎士立会の元に王妃と面会を遂げる。そして医師は驚く事を告げる。


『1ヶ月前の事でございます。急患の治療を終えた私は深夜家路を急いでおりました。そしてバンディス領の森を抜け月光が照らす広場に出た時、深夜で辺りに誰もいないはずなのに誰かが私に話しかけてきました。信じて貰えないかも知れませんが、その声は神アルランでその時に啓示を受けたのです』


にわかに信じられない話だが、子の病に心痛め藁にもすがる思いの王妃はその医師の話を信じた。そして医師は驚く事を話し出す。


『神アルランは王子の病を治すことのできる乙女を呼ぶ事が出来ると仰り、新月の深夜に【贄】を差し出せば叶えられるとお告げになられました』


啓示は王子と同じ月に生まれた女児を【贄】とすれば、王子の病を治せる乙女が現れると言うものだった。話を聞き終わると王妃と神官は直ぐに王の元に急いだ。〕


「なんか嫌な流れだわ。先を読むのが怖い」


【贄】なんて物騒な言葉に思わず腰が引ける。でも知るべきだと思い恐々読み進める。


〔この話は直ぐに王に伝えられ条件に合う女児探しが始まった。そして1名だけいたのだ。その子はバンディス伯爵家のキャシー嬢。直ぐ王はバンディス伯爵を呼び事情を話し、王家の為に令嬢を捧げて欲しいと願った。話を聞いた伯爵婦人は抗い娘を連れて国外へ逃亡しようしたが、忠誠心厚い伯爵は妻子を連れ戻し王の前に娘を差し出した。そして伯爵夫妻とキャシー嬢は儀式までの間、王城の一室に軟禁され親子水入らずで残りの時間を過ごす。

そして次の新月の夜に伯爵家領地の森の中の広場にキャシー嬢を寝かせ、泣く泣く伯爵と婦人はその場を去った。そして…キャシー嬢と別れて数分後の事。赤子の鳴き声が聞こえて来た。婦人は伯爵や騎士を振り払い我が子の元へ急ぐ。その時婦人は我が子が目覚めて泣きているのだと思い駆け寄る。そしてキャシーを寝かせた場所に着くと月光が照らす広場に赤子が大きな声で泣いていた。よく見るとその赤子は漆黒の髪と輝く黒い瞳をしていてキャシーではなかった〕


「え?どういうこと?キャシーとその子は入れ替わったの?はぁ?意味分からないし、キャシーは何処にいったの?」


内容が理解出来ず何度もそのページを読み返す。でも分からない。仕方なく次のページを捲ると続きが書いてあり


〔泣く赤子を呆然と見ていた婦人に追いついた伯爵。固まる婦人を横目に小さい手を伸ばし泣く赤子を伯爵は抱き上げた。すると赤子は泣き止み伯爵のタイを小さな手で握りしめて眠った。そして伯爵と婦人の耳に声が届。


『【贄】は預かった。病を治せる乙女を其方達に託す。その子が成人するまで愛を持って育てて病に苦しむ子を救え。乙女の血は子の病を癒すだろう』


こうして伯爵と婦人はこの”漆黒の乙女を”我が子の代わりに育てて、乙女の血を王子に分け与えられた。すると王子は病を克服し日に日に元気になり、10歳を超える頃には逞しい少年へと成長した。

そして成人した乙女はこの地に残る事を決め、王子の求婚を受け次期王妃となりてボルディン王国に安寧と繁栄を齎した。〕


衝撃すぎて呑み込めず暫く本を手に固まる。どの位経っただろう。嘘であって欲しいと願いロダンダ版の方も読んでみる。しかし…


「同じ事が書いてある」


そう王族の血を継ぐ子が生まれ、”血の病”を患う子が生まれた時に人知れずこの儀式は行われてきたようだ。もちろんボルディン版にも同じ事が書かれていた。

そしてキャシー嬢が贄として捧げられた場所は今のバンディス侯爵領の”歪みの森”。それからこの森で奇妙な事が起こる様になる。

後に忠誠心を示したバンディス伯爵家は侯爵に陞爵され、この”歪みの森”の管理を任され王家より厚い信頼を得る事になった。


「そして…まさか…」


〔この”血の病”は王家の血筋が必ず罹る訳ではなく、病に罹らない王子もいた。それにこの病は何故か王女は罹る事はない。そしてまだ解明されていないが、この病を患う王子が誕生する同月に必ずバンディス侯爵家にも女児が誕生し【贄】となっている〕


「ルイス王子と亡くなったケイミーは同い年だった…もしかしてケイミーは殿下と同じ誕生月なの?じゃあ病で亡くなったのでは無くて【贄】にされ…代わりに私が…うっぐっ」


“ドスン!”


吐き気と強い眩暈に襲われソファーから落ちた。鈍い体の痛みと嫌悪感に息が出来ない!どんどん視界が狭まり苦しい。消えゆく視界の隅に悲壮な顔をしたエミリオさんが見えた所で私の意識は真黒な闇に落ちていった。

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