5.元友人
親友をふった元友人に遭遇。鼻息荒く一発お見舞いしようとしたら…
「ミーナ。外出して大丈夫なのか?」
「ディーン…とりあえず一発殴らせて!」
「えっ!何でだよ」
「私の気が済まない!」
納得していない顔をしたディーンは馬から降り、私も降りてディーンの胸倉を掴んでビンタを一発入れた。スカッとして満足していたらディーンが申し訳なさそうに…
「ミーナ…ごめん…全く痛くない」
「嘘!」
そうだディーンはガタイがよく筋肉もりもりで、私のビンタなんて風が頬をくすぐるぐらいのもんなんだ。
地味に手が痛くスカッとしたのは一瞬だった。
「それより最近この森に貴族が頻繁に訪れているけど、ミーナの求婚者じゃないのか」
「だったら何なの!元友人には関係ないよね」
“元友人”と言われ悲しい顔をするディーン。あんた以上にナーシャは傷ついたんだからね。
ディーンの家は王都側の森の入口にあり、ここ1か月貴族の馬車と護衛の騎士が森に入って行くのを何度も目撃したそうだ。ナーシャから私が貴族や王太子と縁組を嫌がっていたのを聞いていたディーンは心配している。
ディーンはナーシャと同じくらい長い付き合いで為人はよく知っている。心配性で見た目と違い繊細いで優しい。ナーシャが勝気な性格だから合うと思っていた。
「俺はまだミーナを親友だと思っているんだ。困った事があったら頼って欲しい」
「…」
私が2人が別れた事を知っていると分かったディーンは
「俺らが別れたのはお互いの為なんだよ」
「どういう事?」
てっきり浮気だと思っていたら違う様で、ディーンの言い分はこうだ。幼い頃から一緒でお互い信頼できる間柄。しかしそれは男女の愛より身内に向ける愛情だと気付いたディーン。同じ木こり仲間でナーシャに想いを寄せている者がいて、その彼の想いを知り悩んだそうだ。悩んでいたそんな時にディーンに近隣国にいる叔父さんから仕事を手伝って欲しいと連絡が入る。ディーンには兄がいて実家の心配はなく、叔父さんの元に行く事を決めたそうだ。
「ナーシャも恐らく男女の愛は無いと思うんだ。本当にナーシャの事を愛しナーシャが愛する人と一緒になって欲しいんだ」
「…ディーンの想いはナーシャに伝えた?」
「俺が悪者になればナーシャも次に行き易いだろう?」
「はぁ…あんたバカね!ナーシャならちゃんと話せば分かるのに」
確かにナーシャとディーンは兄妹みたいで、2人に男女の愛は感じない。別れた話を聞いた時もナーシャはショックより成人の儀の事ばかり気にしていた。ディーンの言う通りかもしれない。
「で、ナーシャに想いを寄せているのは誰?」
「隣町のマルコ」
「うっわぁ!なぃなぃ!ナーシャと合うわけないじゃん!」
なんて奴を推すのよ!見た目はいいけど優柔不断でマザコンだよ!あんな奴に嫁いだらナーシャ壊れるよ!ディーンはいい奴だと言うけど、優しさ以外取り柄は無いからね!
あまりの衝撃と怒りに余計な事を言ってしまう。
「心配無用!ナーシャは私が守るから」
「ミーナは貴族の息子と結婚するんだろ」
「しないわよ!ナーシャと外国に行くんだから」
「はぁ?」
「あ…」
思わずポロリしちゃった…目の前のディーンは固まっている。ディーンの事情は分かったし変わらずいい奴。ナーシャに対しての思いやりの方向は間違っているが、信頼は変わらないので私の家出計画を話す事にした。
「・・・」
「だからナーシャと外国で2人で気ままに生きて行くから心配しないでいいよ」
眉間に皺を寄せ難しい顔をするディーン。平民には珍しくディーンは美形でウチの領地では一番の男前だ。
「なら…」
「なら?」
「俺と一緒にロダンダに来ればいい。叔父さんは宿を経営していて住み込みで働けるよ」
「本当に⁈ただ…ナーシャがディーンが一緒だと知ったら…」
「2人が知らない国で危険な目に遭うかもしれないなんて俺は黙っていれない。ナーシャには真実を話すよ。彼女なら分かってくれるだろうし、ミーナの事を思えば了承してくれる筈だ」
ナーシャとディーンがちゃんと話合い分かり合え、お互い新たな道を進めるかもしれない。それに全く知らない所に行くより、知り合いがいる方が安心だ。
「分かった。ナーシャが納得してディーンと一緒でいいと言ったらね」
「ありがとうミーナ」
「?」
「ミーナのお陰でスッキリしたよ。それより本当に気をつけろよ。平民の俺は分からないが、ここに来る貴族は焦ってると言うか必死さを感じる。変な奴に関わるなよ」
「大丈夫。後ろに騎士が控えてるでしょ。父様が心配して護衛を付けてくれているから」
ディーンは私の少し離れた所で待機している騎士をみて苦笑している。なんで?
「ミーナはもう帰った方がいい。さっき貴族の馬車を見た。会う前に帰れ」
「分かった。ありがとう」
こうしてナーシャの所には行かず屋敷に帰る。ディーンはナーシャの所に行き話をするそうだ。後方に待機する騎士の元に行き屋敷に帰ると伝える。騎士のモリスが立ち去るディーンの姿を凝視している。
「モリス?」
「お嬢様…あの者は本当に木こりですか?」
「そうよ。ディーンは幼馴染だからよく知ってるわ。どうして?」
「あの者の身体つきは騎士の様だ」
「木こりだから体格がいいのは普通だよ」
何か考え込んでいるモリスに他の騎士が戻りを促して来た。日も落ち始めるので帰る事にした。
屋敷に戻ると真っ直ぐ部屋に行く。少しすると父様が部屋に来た。父様はいつも通り優しい面持ちで安心する。
「モリスから報告を受けた。あまり出歩かないでくれ。心配だ」
「私は今まで通りにします」
「…分かったが出る時は騎士を付けなさい」
「…」
嫌だから返事をしない。溜息を吐いて父様が
「母は王都に帰ったよ。話したそうだった」
「話す事は無いよ」
「ミーナ!」
何よ今更…寂しい恋しい時は全く相手にしてくれず、王太子妃候補や高位貴族から求婚を受けたら母親面して!体裁だけ気にして私の事なんて真剣に考えて無いんだわ!
「母はお前の幸せを…」
「いい相手に嫁がせ将来ザイラの為になんて思っているんでしょう!」
「いい加減にしないか!」
もういいや!言いたい事を言ってやる。
「野生の動物でも数日愛情を持って世話をしたら懐くわ。私が母様にこんな対応をするのは、それすら与えられて来なかったという事よ!これだけ放置され誰が母だと思う?
私分かっているから!」
「…何をだ」
「私は母様の子では無いのよ。だから憎まれ嫌われる」
「!」
父様の顔色は悪い。幼い頃ならまだしも、いい加減分かるわよ。動揺し言い及んでいる父様。
「父様には愛を持って育ててもらい感謝しています。私は大丈夫だから本宅に戻ってあの人と息子と過ごして。ちゃんと成人の儀までは治療に行き、ここで大人しくしているから。1人にしてほしい…」
「お前を1人になんて…」
「辛いの…1人にして…」
涙が滝の様に溢れて言葉が出ない。両手を広げ抱きしめようとした父様を拒絶しベッドに潜り込んだ。
「落ち着いたらちゃんと話し合おう…」
そう言い残して父様は出て行った。
「!」
喉が渇いて目が覚めた。部屋は真っ暗で深夜の様だ。泣き過ぎて目が痛い。
起き上がりベッドサイドのランプを点ける。
テーブルにお茶とフキンを被せたサンドイッチが置いてあった。そう言えば昼も夜も食べていない。
今日は治療の日。治療日の前後は食事と睡眠をしっかり摂る様に言われている。
気分的には食べたく無いけど治療の為に食べる。薄暗い部屋で1人サンドイッチを食べていたらまた涙が出てきた。侯爵家令嬢なんて高貴な身分があっても、愛もないお飾りの私。早く治療を終えてこの家から解放されたい…
“コンコン”
「誰?」
「ヴォルフにございます。お目覚めでしょうか?」
執事のヴォルフが来た。返事をすると入室してきて驚いている。
「お目覚めになられたらお呼び下さい。温かい食事を…」
「これで大丈夫だから用意しなくていいわ」
あと少しで夜が明ける。湯浴みの準備をしようとするヴォルフを止め、日が昇ってからでいいと拒否。恐らく大半の使用人はまだ寝ている。私1人のために叩き起こされるのは可哀想だ。
「今日は治療の日でございます」
「うん」
「旦那様がお嬢様が1人がいいなら、私が付き添う様に言われております。如何なさいますか?」
「どうせ騎士が付くんでしょ。なら一人でいいわ」
「しかし旦那が…」
「1人じゃなきゃ行かない」
「…」
少し考えたヴォルフは私の意志を尊重してくれ、そして父様を説得してくれると約束してくれた。ヴォルフはお茶だけは温かいものをと入れ直して部屋を後にした。
父様が来ないなら帰りに王都の本屋に寄り、ロダンダに関する本を買おう。もしかしたらナーシャとディーンとロダンダに渡るかもしれないし。
過去を悲しむよりこれからを見て進もう。
もう親の言う事は聞かない。
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