48.劣等感
ティム様の発言に驚いていたら…
てっきり戻るように説得されると思い身構えていたのに肩透かしを食らった。呆気に取られていたらティム様が笑いながら
「帰るように説得されると思われていたようですね」
「はい」
「あはは!貴女は素直で愛らしい女性だ」
そう言ったティム様は表情を柔らかくして微笑む。一頻笑ってから表情を引き締め座り直して
「貴女の心中ご察しいたします。病の件は昨晩ルイス殿下からお聞きいたしました。貴女がこのような行動を取られるのも理解できる。私の方から殿下の説得と陛下への報告いたしますので、心が整われるまでゆっくりご静養ください」
「…」
黙っていたら足を組んだティム様は溜息を吐いて
「殿下をお許しいただきたい。良くも悪くもあの方は真っ直ぐなのです。自分を救ってくれた貴女を自分の手で幸せにしたい。そして…」
「そして?」
言い及んでいるティム様を見ていたら、ゆっくりそして言葉を選びながら話を続けて
「ルイス殿下は幼少期からずっとリアンド殿下に劣等感を持ち、常に努力されて来られました。私の目から見てルイス殿下は立派なお方です。まぁ少々癇癪持ちではありますが、次期王としての素質をお持ちです。しかし貴女の事とリアンド殿下に関してはお心に余裕がなく、暫し暴挙に出る事があるのです。それをサポートしお止めするのが私の役目なのですが…」
「何故そんなにリアンド殿下を意識するのでしょうか?だって血の繋がりがあるとはいえ、隣国の王子なのに」
「私もそこが理解できないのです。きっと殿下の病の様に私には知り得ない何かがあるのでしょう」
ティム様はそう言いお茶を飲み眉間の皺を深めた。そして朝一からここに来ることも周りが止めたのに聞き入れず、騎士団を招集し強引に来たそうだ。ティム様は文官達に朝一にたたき起こされ勝手に出発した殿下を追ってここまで来たのだ。主に振り回され不憫に思い心の中で『お疲れ様です』と労う。
「きっと殿下はこのロダンダの屋敷に貴女が身を寄せたのが気に食わなかったのでしょう。出発前に王都の外れにある王族の静養地に朝から人を送り、貴女を迎える準備をさせていました。そして陛下の許可も得ずにこちらに…」
「殿下は接近禁止になっている事を忘れていませんか⁈」
「急ぎ殿下に追いつき何度も何度も申し上げたのですが、緊急措置ゆえ構わないとお聞き入れいただけず…」
ティム様から話しを聞いていて母国ボルティンの将来が不安になって来た。ティム様も遠い目をしている。殿下の考えが分からず困惑していたら
「貴女の意思の確認は出来ました。ミーナ嬢。お父上にご連絡はなさいましたか?」
「はい。朝一に文を出しております」
「王都に戻りましたら私から貴女の様子を侯爵様のお耳に入れておきましょう。貴女はここでご自分と向き合われ、心が整われましたらお戻りを。皆心配しております」
「はい。ご迷惑おかけして申し訳ありません。殿下をよろしくお願いいたします」
こうしてティム様との面会を終え玄関までお見送りする。玄関を出ると門扉の前に不安げな表情をしたルイス殿下が立ち尽くしている。殿下に軽く会釈しティム様に視線を向けお礼を述べた。そしてティム様が門扉に向かうと
「ミーナ嬢!ここに貴女は居るべきではない。別の場所を用意させただから…」
ルイス殿下が門扉を掴み大きな声で叫び驚いて後ずさりしてしまう。するとエミリオさんが前に立ち視界を遮ってくれる。そして小さな声で
「心配は要りません。貴女は思うようになさればいい…」
「ありがとうございます」
ルイス殿下はまだ『ここを出ようと』や『ここに居るべきではない』と言っているがここを出る気は無く、割り切ってティム様にお任せする事にした。暫く門扉前でティム様と殿下が言い合いをしていたが、帰る気配はなくバルデスさんに促され部屋に戻った。
その後も暫くルイス殿下は門扉前にいたようだが、お昼前には王都に戻って行かれたそうだ。やっと平穏を取り戻した屋敷。
落ち着いた頃にはお昼の時間になっていて、また美味しい海の幸を頂きお腹も心も満腹になる。
お腹も膨れてほっこりしていたらバルデスさんが念の為、今日は外に出ない様に言い大人しく部屋で巣ごもり中。少しするとバーバラさんが部屋に来て
「お暇でしょう⁈多くは有りませんが本がございます。書庫にご案内致しましょうか?」
「ありがとうございます。お願いします」
やる事も無く暇だったので嬉しい。バーバラさんとお喋りしながら書庫に向かった。
案内された部屋は然程大きくなく、客間の寝室程しかないが天井までビッシリと本が並んでいた。ボルディンの書籍もロダンダの書籍も沢山あり目が楽しい。
「屋敷内はご自由になさって下さいませ。お選びになられましたら、こちらでお読みいただいたも大丈夫ですよ」
「ありがとう。ここで夕方まで読ませていただくわ」
そして端の本棚からゆっくり見て周り本を探す。一旦退室したバーバラさんはお茶と茶菓子を持って来てくれ、夕方まで一人で過ごせそうだ。
「あ…こんな本が…」
目にしたのは医学書だ。普段なら目にもしないが何故か目に留まり手にしていた。そしてソファーに座り開いて読み出す。冒頭に驚く事が書いてあった。
『この病は現在治療法がなく、運が良く神へ祈りが届けば乙女が齎され命は助かるだろう』
「なにこの冒頭の書き出しは…」
そう手にした本は【血の病】に関する本だ。それは王族の男児が罹る血の病に関する本で、私の出生の手掛かりになるかもとしれないと思い手に取った。そうして読み出すと冒頭から大変な事が書いてある。
”神に祈りが届けば乙女が齎される”ジン様が言っていた神の啓示だろうか⁈胸騒ぎがして次のページを捲る事が出来ない。暫くそのページを見つめていたら
「ミーナ様。よろしいでしょうか⁈」
「はい。どうぞ」
返事をするとルチアさんが入ってきて手紙を差し出した。
「ご自宅から手紙と荷物が届いております。荷物はお部屋にお運びしました。お部屋にお戻りを」
「ありがとう。あの…ここの本を部屋の方に持って行っていいかしら⁈」
許可をもらい例の本を手に部屋に戻ると、大きなトランクが置いてある。このトランクはロダンダに旅をした時の物で、開けると私の衣類と身の回りの品が入っていた。
どうやらここで暫く過ごす事を聞いた父様が送ってくれたようだ。
「ミーナ様。お洋服の整理をお任せいただけますか?」
「ルチアさん。よろしくお願いします」
荷解きしてもらっている間に手紙をチェックする。手紙は父様とジン様そしてナーシャとディーンからだった。
読みたい気持ちも気まずい気持ちがあり中々開封できない。
「ミーナ様。こんな物が」
「?」
手紙と睨めっこしていたらルチアさんに声をかけられ振り向くと、私の精神安定に欠かせないクッションだった。
それは長年愛用し色褪せた小ぶりの丸いクッションで、不安な時やイライラした時に抱きしめると不思議と落ち着くのだ。
『多分ヘレンが入れてくれたんだ』
荷解きされた荷物を見たら私の愛用品ばかり、別宅の皆んなの心配りに涙が出そうになる。クッションを抱きしめやっと読む決心がついた。
『ちゃんと父様やジン様に向き合うぞ』
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