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45.医師

病気が嘘だった事を知りショックで飛び出したミーナ。出合い頭に人とぶつかり…


『気持ち悪い…頭がふわふわする…』


ぼんやりと視界が戻ると知らない天井が見える。何があったのか必死に思い出していたら


「気が付きましたか?」

「へ?」


声のする方を見ると見知らぬ男性が立っていた。状況は分からないがここが何処かは見当はついた。薬品の匂いと白衣の男性。診察室だ!でも何で?

すると男性の後ろから女性が顔を出した。この女性も白衣を着ていて見た感じ助手の方なのが分かった。その助手さんは手に持つお盆をサイドテーブルに置き、私に声をかけながら背に腕を回して起こしてくれた。


「リラックス効果のあるハーブティーを入れました。熱いからゆっくり飲んでくださいね」

「ありがとうございます」


お礼を言いお茶をいただく。初めて飲むハーブティーは変わった味はするが嫌いでは無く、乾いた喉を潤してくれ一息つく事ができた。落ち着いたら私を見た男性が自己紹介をしてくれる。


「私は町医者のドルツと言います。月に数回無償(ボランティア)で診察をしています。先程あるお方が貴女をここに運んできたんですよ」

「私…」


先生が運んできた男性から聞いた話では、廊下で出合頭ぶつかるとそのまま苦しそうに蹲って気を失ったそうだ。そして慌ててここに運んできたと。

どうやらストレスと全力疾走した事で貧血と酸欠を起こし倒れた様だ。説明を終えた先生は手を取り脈を測り簡単な診察をしてくれた。安静すれば問題ないそうだ。


大分頭が冴えてきてこれからどうするかで悩む。すると先生はメモ書きをし助手さんに預け、彼女は何処かに行ってしまった。私はゆっくりハーブティーを飲みながら身のふりを考えていた。


「今日はいつもより多く採血したのに、そんな無理をしたら倒れもするよ。もっと体を大切にしなさい」

「へ?なんでその事を…」

「やっぱり幼かったから私の事は覚えていないようだね⁈」


そう言うと先生は驚く事を話し出した。ジン様が不在の時に代わりに私の採血を何度かした事があったそうだ。確かにジン様が急用の時は別の方に施術してもらう事があった。でもドルツ先生は全く記憶に無い。


「仕方ないかなぁ。貴女が2、3歳の頃だからね」

「じゃ覚えてませんよ」


そう言うと優しく微笑むドルツ先生。そしてまた驚く事を言い出した。


「今日は輸血する人数も多くてやっと落ち着いたとこでね…」

「輸血…まさか」

「その通り。貴女から採取した血を殿下やディック殿に輸血してきたところだよ」

「…」


先程聞いて知ってはいたが、輸血の話を聞くとまた気分が悪くなり血の気が引いていくのが分かる。すると先生は私の手を取り包み込んでくれた。先生の大きな手は温かく震えは治まった。

落ち着いてきたらある事に気付く。


『私を運んだ人は誰?』


何故かとても気になって先生に聞くと。その方に使いを出したから間も無く様子を見に来るはずだと言うのだ。誰かとても気になる。 

だって教会中の人が私を探していたのに、ジン様に知らせずにここに運んだのは何で?


「先生お連れしました」


退室した助手さんが誰かを連れ帰ってきた。扉を注視していると…


「キーファ様⁈」

「顔色も良くなられようございました」


そこにはキーファ様が立っていたのだ。どうやら私がぶつかったのはキーファ様で彼が私をここに運んでくれたようだ。でも何でキーファ運んでくれたのか分からず固まっていた。するとドルツ先生が


「ミーナ嬢このままここには居れないよ。侯爵様と屋敷に戻るのかジン様に保護いただき教会に世話になるのか、それとも友人を頼るのか…決めなければならない」

「今は誰とも会いたくないんです。どこか遠くに行って暫く一人になりたい…」


正直な気持ちを口に出したら涙が出て来た。今は()()()聞きたくないし、()()()会いたくない。するとキーファ様が


「なら港に近い街にロダンダが所有する屋敷があるのでそこに滞在されるといい。使用人もおり直ぐにでもお泊りいただけますよ」

「…」


思わぬ申出に固まってしまう。だってキーファ様はリアンド殿下の側近。そんな彼のお世話になるという事はリアンド殿下に会う可能性がある。それは嫌だ。やっぱりここを出て何処か遠くの街に行った方が…


『だけど飛び出して来たからなんの用意ない。お金もないから宿もとれない』

どうしていいか分からず途方に暮れているとキーファ様が


「安心してください。リアンド殿下と私は今晩出港する船でロダンダに戻ります。屋敷には今滞在している者もおらず好きなだけ滞在していただいて結構です。それに屋敷にはロダンダの騎士が常駐しており、貴女が拒むなら()()()()()貴女を護るでしょう」

「うそ!父様やそれこそ王太子殿下が来たら拒めないでしょう!やっぱりこの国を出て…」


やはり国外へ逃げないと捕まり屋敷に連れ戻される。いずれここにも捜しに来るだろう。

するとキーファ様が前に来て跪いて手を取り


「安心なさって下さい。今の貴女は耳にしたくない話でしょうが、ロダンダ国王から貴女の身を護る様に命を受けております。それに屋敷はロダンダから来た貴族や国民が困った時に助ける役割を持つ為に治外法権とされているのです。敷地内はロダンダの法が適用されボルディンが干渉できない」


そんな所があったんだ。驚きドルツ先生を見ると頷いてくれる。そしてロダンダの港町にもボルディン国民を保護する館があり、そこもロダンダは干渉できない様になっているそうだ。

まだキーファ様を信用しきれなくて返事を出来ずにいると、キーファ様は続けて


「リアンド殿下は貴女の身の安全と心の平穏を望まれている。今貴女は一人で考える時間が必要な事は殿下をよく分かっておられ、貴女の負担にならないように急遽ロダンダ帰国をお決めになられました。私共は貴女の味方でございます」

「リアンド殿下はこの状況を…」

「はい。貴女が治療室からお逃げになったとお聞きし、直ぐに保護を指示なさったのです」


キーファ様の表情は真剣で本当に心配してくれているのが窺える。するとドルツ先生が


「私は中立の立場なんだけどね、キーファ様…いやリアンド殿下は信用していいと思うよ」

「先生…」


意を決して立上りキーファ様の手を握って


「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。でも今教会内は沢山の人が私を捜しているのに、どうやってここから脱出するんですか?」

「貴女のお役に立てて光栄です。脱出ならもう手配済みでございます」


キーファ様がそう言うと助手さんが私の手を引き奥の部屋へ案内した。奥の部屋には助手さんが着ている白衣がかけられていた。


「ミーナ様こちらにお着替えくださいませ。私と入れ替わり先生と一緒に教会から出ていただきます。そして教会の近くに先生の知り合いの薬局があります。そこの裏手にキーファ様の馬車が用意されていますのでその馬車でロダンダの屋敷へ向かって下さい」

「ありがとうございます」


私に白衣を渡した助手さんは着替えるまでの間退室してくれ早速白衣に着替える。彼女より私は小さく少し大きいが遠目なら分からないだろう。着替え終わったと部屋の外の助手さんに声をかけると、入室して来て私を椅子に座らせて髪を纏めだした。私の黒髪は目立つのでウィッグと眼鏡をセットしてくれる。

用意が終わり診察室に行くと白衣を脱いだ先生が外套を着て待っていた。私も白衣の上からマントを羽織り準備できた。

キーファ様は先に出られたようだ。私達も診察室を出て移動を始める。少し伏し目がちに先生の後ろを歩き長い廊下を歩いていると、神官さんや見習いさんが先生に挨拶をしている。


『今のところバレていない。このまま脱出したい…』


いつバレるかもしれなくて鼓動が早まり背には嫌な汗が滲んでいる。先生の診察室は教会の離れにあり、出口から遠くかなり歩いた。やっと見慣れた廊下に来て出口が近い事が分かり少し安心していたら声をかけられる。先生の後ろから見てみるといつも案内役をしてくれる神官見習いの方だった。緊張し喉が渇いて来た。


「先生お疲れ様です。お帰りですか?」

「今日の務めは終わったからね」


先生が無難に挨拶し立ち去ろうとすると、見習いさんが先生に顔を寄せて


「今、”漆黒の乙女”様が教会内で行方不明になられ、手分けしてお探ししているんですよ。先生はお見掛けしていませんか?」

「どうりで騒がしい訳だ。私はずっと診察室にいて知らないよ。力になれずにすまないね」

「そうですか…もう直ぐ王宮から騎士が派遣されるようです。そうすればすぐお助けできるでしょう。お引止めして申し訳ございません。お気をつけてお帰り下さい」

「ありがとう」



『王宮から騎士が…』


とんでもない事になって来た。目の前が大きく歪んだら先生が肩を抱き小さな声で


「大丈夫。あと少しです。厄介な騎士が来る前に出ましょう」

「はい」


こうして早足の先生に必死について行き、本堂から出てやっと教会の正門が見えてきた。思わず大きな溜息を吐いたら誰かが後方から走って来る。緊張が走り手が震えて来た。


「ドルツ先生待って下さい!」


先生は私の前に立ち追って来た神官さんに向き合い


「何か急用かなぁ?帰るところなんだがね」

「はい。急患で診ていただきたくて!」


先生も緊張していた様で大きく息をして


「分かった戻りましょう。助手はこの後私用があるから帰らせるよ。ミリナ。そこの薬局で薬草だけ受け取ったら帰っていいよ」

「はい。先生」


ドルツ先生はそう言い私の頭を撫でて教会に戻って行った。踵を返し慌てずでも早足で薬局に向かう私。やっと薬局に入ると白衣を着た店主が来て、


「先生から連絡は受けてます。裏口へ案内しましょう」

「ご迷惑をおかけします」


そう言い店主について行き、小さな扉を開けると貴族がよく使う馬車が停まっていた。

直ぐに乗り込むと馬車は出発した。

閉じられたカーテンの隙間から教会を見て心の中で父様に謝る。


『ごめんなさい・・・数日家出します。ちゃんと心の整理がついたら帰るから…今は…」


こうして生まれて初めて父様に逆らい家出をしたのでした。



お読みいただき、ありがとうございます。

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