40. 知らない事ばかり-2
ディーンの破談の話を楽しそうに聞き他人事のナーシャ。今からは貴女の出番です
満面の笑みを湛えグランクッキーを頬張るナーシャに苦笑しているディーン。賢いディーンはこの後の展開を理解しているみたい。ディーンは視線を私に向けウィンクした。
了解!今だね!
「ディーンの事情は分かったわ…じゃぁ!次はナーシャに語ってもらおうか」
「わっ私?」
満面の笑みでディーンと大きく頷くと口を開けて固まるナーシャ。例外などありませんよ♪
するとナーシャは少し考えて
「私ね任務が終わったら子爵家からの籍を抜き平民になるの」
「「はぁ?」」
初っ端からとんでもない事を言い出し意味が分から無い。ナーシャの隣に座るディーンなんて目を見開きナーシャを凝視している。
ナーシャは淡々と”漆黒の乙女の友人”に選ばれてからの事を語りだした。
当初友人に選ばれた時はナーシャは7歳。私の面倒を見る事は分かっていてもよく理解していなかった。ナーシャに会うまでの4年は色々あった様だ。
「貴族として育った私はまさか王命で、平民として暮らすなんて思ってなくて、平民の暮らしに慣れるまで時間がかかり、ミーナと会うまで時間がかかったわ」
確かに初めて会ったのは2歳で次の会ったのは4年後だった。初めは幼い子に懐かれ姉気分で嬉しかったが、幼いながらに大変な事だと分かり、ナーシャは何度も辞退したいと父親に訴えた。しかし子爵が王命を断れる訳もなく父親に説得され辞めれなかったのだ。当初は子爵家から月に何回か遊びに行くと思っていたのに、実際は平民の子として過ごす事になり、慣れずに何度も辞めたいと訴えたそうだ。その度に宥めなれたり物に釣られて続けるしかなった。
そんな時にナーシャの心の支えになったのが想い人らしい。
ナーシャの話を聞きまた2人に申し訳なくて泣きそうになる。すると頬を染めたナーシャが
「今はねミーナの友人に選ばれた事に感謝しているの。だって彼に会えたから…」
「「?」」
ナーシャは今まで見た事もない女の顔をしている。隣に座るディーンも驚いた顔をしてナーシャを見ている。そしてナーシャは彼の話を始めた。
「彼の事はミーナもディーンも知っているわ」
「俺が知っている男?えっ?誰?マルコか?エリックか?」
「やめてよ!そんな奴に恋するわけないじゃん!」
私とディーンは腕組みをして知り合いの男性を思い出しているが全然分からない!知っている同年代の男性の名を全て上げたが当たらず降参し答えを聞く事に
「ブルズ商会のデニスさんよ」
「ウソ!でも確か彼は!」
デニス氏はウチの領地で材木を加工し販売する商会の代表。確か去年奥様を亡くされたはず。少し前に近々後妻を迎えると噂で聞いた事がある。でも確か彼は10以上年上だ。
「ミーナの幸せを見届けたら彼の後添えになるの。求婚を受け仮婚約してるわ」
「はぁ?」
頭が真っ白になり頭が回らない。頬を染めお相手のデニスさんの事を話すナーシャは恋する乙女だ。そしてデニスさんとの馴れ初めから話し始める。
ナーシャは淑女教育を受けた生粋の貴族令嬢。当時ナーシャには幼い頃に親同士が決めた伯爵家嫡男と婚約していた。そして”漆黒の乙女”か唯一懐いた事から友人役として傍に仕える事になった。父様は私が成人するまで貴族との関わりを断ち、貴族の柵がない環境で私を育てたかったようだ。ナーシャが貴族令嬢の身分のままだと父様が拒否する恐れがあり身分を偽る必要があった。
「身分を偽るとしてもそんなに長い準備期間が必要だったの?」
「あぁ!それはね。ミーナの治療は今は月一だけど、初めは週一だったでしょ?その時は友達なんて無理な状況で…」
そうだ。私は覚えていないけど父様の話では幼い頃は週一で治療を受けていた。治療の辛さと母の愛情を受けず情緒不安定で人見知りが酷く父様にべったりだった。それにその頃は2人の体格差が大きく同じ歳とするには無理があった。
「でもね違和感なく木こり一家を演じるには早くからあの村に住む必要があり、ファブとシュナは私が選ばれてすぐにあの村に住みだし準備を始めたの」
ナーシャは令嬢からいきなり平民の生活は無理で、平民でも裕福なブルズ商会で生活をし、そして週に何日か村の生活をし慣れていった。そして木こりとして基盤ができたファブは父様に接触し、父様と面識ができた頃にナーシャを私に会わせた訳だ。
「経緯は分かったわ。伯爵令息との婚約や、その意中のデニスさんとの経緯は?」
「許嫁の令息は”漆黒の乙女”の友人に選ばれた時点で解消したわ。その後許嫁は別の令嬢を娶っているわ。あの人はブルズ家で世話になりなっている時に妹の様に可愛がってくれたの。初めは兄の様に慕ってきたけど…」
いくら裕福な商会の跡取りでも貴族であるナーシャとの縁は難しく、更に10歳も年上で諦めていたそうだ。そしてデニスさんは親の勧める子爵領の取引のある商会の娘さんと縁組をし婚姻した。
ナーシャは任務が終わったら家に戻り親の勧める貴族男性に嫁ぐ事になる。しかしデニスさんが忘れられず悩んでいたそうだ。そこに私の家出を知りついて行く事を決めた。
「愛する人が他の女性と家庭を築いているのを見ていれるほど私はできた女では無いわ。嫉妬に苦しみ何をするか分からないもん。それに適齢期を過ぎた私に来る縁は後妻ばかり。愛してもない男の妻なんて勘弁だわ」
それにディーンが平民ではなく、自分同じ役目なのを薄々分かっていて、私が成人したら去るものだと分かっていた。
『だから振られても平気で、家出について来るなんて言ったんだ』
そしてディーンに視線を移したナーシャは
「ディーンも初めからミーナが成人するまでで、ミーナが嫁いだらこっそりフェイアウトするつもりだったんでしょ⁈」
「…」
そう言われて気まずそうなディーン。すると意地悪く笑いながら
「ミーナと周囲に違和感を持たせない為に、恋人を演じていたけど、お互い恋愛感情なんて全くなったわ。そうでしょ?まさか私に惚れていたとか言わないわよね!」
するとディーンはいつもの様に笑いながら
「ナーシャは俺の好きな(女性の)タイプでは無いよ」
「ディーン!それはさすがに失礼だわ」
「私も不器用脳筋男はタイプじゃ無いわ。私は洗礼された線の細い殿方がいいの」
ほんの少し前まで恋人で仲が良かったのに、それが任務のためだと知り複雑な気持ちになる。2人みたいな恋人が理想で、ゆくゆくはそんな相手に出会えればと憧れていたのに…
「なんか…複雑だわ」
今これでこんなに衝撃を受けていたら、全て知った時はどうなってしまうのだろう⁈
『真実を知る前に精神的に鍛える必要があるかもしれない』
そう思いながら想い人の話をしているナーシャと、静かにナーシャの恋バナに耳を傾けるディーンをぼんやりと見ていた。
「それでね!」
また止みそうに無いナーシャの恋バナに、ディーンと目を合わせ苦笑するしかなかった。
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