37. ご乱心?
心身ともに疲れているが、かわいい弟に付き合い…
あと少しで日が変わる。どうしても話がしたいと言う弟に付き合い、眠い目を擦り弟と向き合っている。この時間にお茶を頂くと眠れないのでメルにホットミルクを入れてもらう。メルが気を利かせ蜂蜜を入れてくれて美味しい。やはりメルは気配りができいい侍女だ。別宅に勧誘したい!母様の傍は勿体ないわ。そんな事を考えながらミルクを飲んでいたら目の前のザイラが妙に緊張している。そんな重い話なのだろうか…
給仕が終わったメルは部屋の隅で控えるが、夜が更け肌寒くなって来た。
「メル。寒いから暖炉の横の椅子に座るといいわ。遅くまでごめんね」
メルは驚いた顔をして大丈夫だと告げる。するとザイラが立ち上がりメルに椅子を勧めた。頬を染めたメルは私に視線を送ってくる。許可する意味で頷くと頭を下げザイラに礼を告げ座るメル。頬を染めたメルの表情は恋する乙女だ。
『我が弟ながらザイラも父様に似て美形なのよね…モテるだろうなぁ…』
心の中で弟自慢をしていたらザイラが席に戻り真っ直ぐに私を見据える。
「何かあった?」
「父上からルイス殿下とリアンド殿下が成人の儀まで接近禁止になったとお聞きしました」
「そうみたいね」
「姉上の治療は後4回。その後はどうされるおつもりですか?」
「う…ん。正直まだ考えてない」
そう言うと身を乗り出したザイラは
「私は来月から勉強のため、国内の各領地に赴きます。滞在は数日で月に一度は本宅に戻って来ます。姉上同行しませんか?」
「へ?」
父様からそんな話聞いて無いし、突然の事で頭の中が真っ白になる。マグカップ片手に固まっていたら、ザイラが私に色んなものを見せたいと熱弁しだす。そして
「姉上の治療が避ける事はできないので、必ず治療の日には王都に戻って来ます。だから私も一緒に来て欲しい」
「行ってみたいけど父様には話してあるの?」
そう言うと表情が曇るザイラ。これはまだ言って無くて私の賛同を得た方が父様に話し易く、私に先に話を持って来たな。私に激甘な父様だから、私が行きたいと行った方が了承されやすいのだろう。でも私は今それどころでは無くて、真実を聞くかどうかで迷っている。この話がロダンダ出発前なら即答していただろう。そして少しぬるくなったミルクを飲みほしカップをテーブルに置き
「ごめんね、今ゆっくり考えて答えを出したい事があって返事できない。正直、行きたい気持ちはあるけど…」
「…」
眉間に皺を寄せたザイラは何か言いたげだ。そして
「出したい答えは真実を知る事ですか?そして姉上は父上から真実を聞いたら…私の前からいなくなるつもりですが?」
「?」
唐突な質問にどう返事していいか分からず固まってしまう。居なくなるも何も“家族”だから縁は切れないし、私はいずれこの家を出てザイラは妻を迎えて父様の後を継ぎバンディス侯爵になる。そう言うとザイラはいきなり立ち上がり私の横に座り抱き付いた。そして何も言わず強く抱きしめて来る。
ただならぬ雰囲気に少しお道化て
「何か辛い事でもあった?お姉ちゃんが聞いてあげるよ」
そう言うと何故か更にザイラの腕が強くなる。
『困った…いつものザイラと違う。扱いを間違えた?私…』
頭で色々考えるが何がいけないのか分からない。そして
「家は継ぎますが妻は娶らない」
「はぁ?でもそれでは!」
「親戚から養子を迎えれば問題はない」
何か凄い展開になってきた。困り果てて…
「あっ!もしかした母様が言っていたザイラの想い人は平民で身分が違い反対されているの?でも恐らく父様ならその女性の為人が良ければ何とかしてくれ…」
「無理です!父上にも反対されているのです!」
「分かった。じゃぁ私がその女性に会っていい子なら私が父様を説得するわ」
そう言うとやっと腕を緩め間近で見つめて来る。いくら姉弟でも近すぎる気が…それにザイラ眼差しは家族に向けるものではない気が…
そしてザイラの両手が私の腰を持ち変な雰囲気を醸し出して来た。
「姉上も慕う男性が居ないなら、ずっと私の傍にいるといい。私が愛し護ります」
「いやいや…ザイラは想い人が居るんでしょ⁈」
“ザッ”
メルが立ち上がりあたふたしている。そして慌てて部屋を飛び出した。
『もぉ!こっちはピンチなんだから置いて行かないでよ!何の為の立会いなのよ!』
さっきも思ってけどウチの弟はかなりの美形で優しく年下なのに頼れる。でも“弟”なの!姉にそんな甘い雰囲気を出すのはおかしいから!
必死にザイラから逃げようとするが、逃げる事が出来ない。
変になったザイラはディック様やルイス殿下の様に甘い雰囲気を醸し出し、恋人に囁くように”傍にいて”囁いてくる。困った超困った!
そしてザイラは私の頬に口付け見つめ、私の本能が危険を知らせ…
「ザイラ!優しい姉でもいい加減しないと怒るよ。こうゆう事は本当に愛する女性にしなさい!」
「はい。だから愛する女性にしているんです」
「だから私じゃなくて!」
「いえ、私が愛するのは姉上…いやミーナ貴女だ」
「ふぇ?」
“バン!”
扉が勢いよく開きそこにはルドルフとメルが立っていた。ルドルフは足早に来てザイラの腕を取りザイラに近付き何か言った。すると舌打ちをしたザイラが
「姉上、遅くまでありがとう。最後に言った言葉は嘘偽りない私の気持です。全てを知った時に思い出して欲しい」
「ザイラ様お部屋にお戻りを!」
再度ルドルフがザイラの手を引き強い口調で戻りを促し、ザイラを引っ張って部屋から出て行ってしまった。
唖然とする私に今度はメルが私を引っ張りながら着替えを促し、着替え終わるとベッドに押し込まれた。
そして灯を落としたメルは逃げるように部屋から出て行ってしまった。
今ポツンと静かな寝室に一人…。ザイラは何が言いたかったのか分からないし、何がしたかったのだろう。意味不明過ぎて頭が回らない。しかし一つ分かった事はザイラは可愛い弟では無く、色気もある大人の男性になっていた。
『最後のは嘘よね…本心…嫌…嘘で有ってほしい…』
母は違うが父親が同じだから血の繋がりはある。だからそんなの無理だよ…
ザイラは素敵な令嬢を迎え家庭を持ち、父様の様に立派な当主となり侯爵家を守らないといけない。
私は…全てを知ったらここを出ていくつもり。どこかはまだ決めてないけど。
今は全く恋愛や結婚なんて考えてもいないけど、いつかは愛する人と出会い貧しくても愛のある家庭を築きたいと思っている。
そして年に1回でも夫と子を連れて里帰りし、父様に会いに来て親孝行したい。そんな幸せな未来は来るのだろか…今は想像もできないけど来るといいなぁ。
先程のザイラが衝撃すぎて別の事を考え現実逃避中。そうしているうちに睡魔が来てそのまま眠りについた。
翌朝。目覚めたら陽は高くお昼前になっている。慌てて起きて直ぐに湯浴みをし部屋を出ると、廊下の向こうからルドルフが来て
「お目覚めになられてようございました。ディーン殿とナーシャ嬢が今到着なさいました。旦那様が昼食を共にと申されておられます。如何なさいますか?」
「朝も食べ損ねてお腹が空いているの、一緒に頂くけど伝えて」
「畏まりました」
ザイラも一緒?昨晩の事がまだ消化しきれて無くて正直気まずい。すると察したルドルフは
「ザイラ様は旦那様の名代で王城に先程お出かけになられました」
「あっそうなの?」
「連絡して参りますので旦那様の執務室へお越し下さいませ」
「はぁ〜い」
ザイラに悪いけど今は会いたく無いなぁ。まだ真実を聞く覚悟は出来てないけど、恐らく聞けば私の人生の分岐点となり、いろんな事が大きく変わるだろう。
“ぐっ〜”
どんなに悩んでもお腹は空く。とりあえずしっかり食べてまた悩む事にした。
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