35.帰路
親友の正体に眠れぬ夜を過ごし、ふらふらで帰路につく事になってしまった。
「ミーナ!起きれる?今日はボルディンに帰るよ」
「ふ…ん…おきる」
超眠い…昨日は衝撃的な1日で全く寝付けず、空が白みだしてからやっと寝ついたのだ。
「ほらほら顔を洗って!出発まで時間がないよ」
「ナーシャ…目が半分しか開かないよ…」
ナーシャに手を引かれ身支度を急ぐ。あんな衝撃的なネタバラシをしたのに案外普通のナーシャ。着替えて部屋に行くと、ここにもいつも通りのディーンとイルハン様がいた。
「あれ?ディック様は?」
すると苦笑いしたイルハン様が
「ディック殿は殿下の所だよ」
「あ…」
普通に食事か始まり大人しく食べていて、イルハン時にどうしても聞きたい事があり
「イルハン様はディーンとナーシャの素性を知っていたのですか?」
「ミーナ嬢が疑問に思うのは当然だね…」
イルハン様は私の疑問に答えくれる。イルハン様は詳細は知らなれていなかったが、陛下から私の側に信頼できる家臣をつけている事は聞いていたそうだ。もちろんロダンダ側からも。
だから今回のロダンダに2人が同行すると父様から聞いた時に分かったそうだ。
『イルハン様が知っているなら父様も?なら、ディーンの素性を明かした時に言ってくれれば良かったのに…』
自分だけ知らなかった事に少し拗ねていたら、私の心情にディーンが気付き笑いながら
「ミーナは勘違いしているよ」
「?」
「侯爵は俺の素性を知っていてあえてミーナに伝えなかったんだ。そして出発直前に俺に”話すタイミングは其方に任す”と仰った。侯爵は恐らくリアンド殿下の素性がわかる事で、俺の素性を明かす事になるのを見越していたんだよ」
ディーンがそう言うとナーシャが不機嫌な顔をして
「でも私に関しては予定外だわ。私は侯爵にそんな事を言われてないし、多分侯爵は私の事は知らないはず。ディーンのせいでバラす事になったのよ。これでミーナに嫌われたらディーンを恨むからね」
そう言ったナーシャはディーンを睨む。いつものディーンならナーシャが怒ると慌てて宥めるのに、今日は不敵に微笑み悪びれていない。そして私に微笑みを向けたディーンは
「まだ真実を知らずに不安だろう。だが覚えておいてくれ、お前の周りの者はミーナの幸せだけを願ってる。だからもう少し待てくれ…その時は直ぐだ。真実を知った上で他国へ行くなら、俺は任務関係なくお前に同行し、安住の地と最愛の者が見つかるまで傍にいる。だから俺を頼れ」
「ディーン…まるで求婚だよ。やめてよー」
気恥ずかしくてふざけて返すと、いつもの温厚なディーンではなく精悍な男の顔をしている。その顔と言葉に勘違いしそうになり、その熱い瞳から目が離せなくなっている。
「へ?」
いきなり視界が無くなる。目元が温かくナーシャの香りがする。そう、ナーシャが両手で目隠ししている。
「ディーンはねさっき悪いものを食べて変だから見ない方がいいわ。そしてミーナと一緒に行くのは私よ。ディーンは任務が終わったら国に戻り貴族に戻ればいいのよ」
そう言いディーンと睨み合いを始めた。その様子を見てイルハン様は笑っている。
「ミーナ嬢は本当に人気者だ。皆んな貴女が好きなのだよ。そして幸せを願っている」
「ありがとうございます?」
こうして食事が終わった頃にディック様が部屋に来て、ルイス殿下がホテルを出て船に向かった事を知らせてくれる。そして屋敷に戻っても暫くは会う事ないと教えてくれる。そしてディック様は手紙を差し出し
「殿下から文を預かりました。殿下の了承を得て検閲済みです。謝罪をされておられます。ぜひお読みいただきたい。これは友人としての願いです」
「あ…えっと…帰って気持ちが落ち着いたらでいいですか?」
「はい。ありがとう」
こうして私たちも港へ向かい出発する。馬車はイルハン様とディック様が同乗され、ディーンとナーシャは使用人の馬車で移動する。
馬車の揺れと満腹で眠くなり、気がつくと眠っていて目が覚めるとイルハン様が隣にいて肩を貸してくれていた。イルハン様の眼差しで父様を思い出して絶賛ホームシック中の私。
「あと少しで着きますよ」
「はい。ありがとうございました」
そしてやっと港に着くと船は準備が終わっていて、私達が乗船すると直ぐ出港するそうだ。ディック様のエスコートでタラップを登っていたら視線を感じ、見上げたら甲板からルイス殿下が見つめていた。隣で舌打ちし険しい表情をするディック様。
どうしていいか分からずとりあえず会釈した。すると表情を緩めた殿下は手を振っている。手を振り返そうとしたらディック様に手を強く引っ張られ、殿下は見えなくなってしまった。
船内の廊下を歩いていたら汽笛が聞こえ少し揺れて出港したようだ。
客室につくとディーンとナーシャか待っていた。まだ寝不足で眠い私を気遣い2人に寝室で休むように言われる。本当は2人に色々聞きたいことがある。でもナーシャの言う通り眠い。仮眠する事にしてベッドに入ったら直ぐ眠ってしまった。
夢も見ずに熟睡し気持ちよく目覚め、部屋に行くとナーシャが本を読んでいた。私に気付いたナーシャはお茶を淹れてくれる。
よく寝ていたようでお昼を過ぎている。皆さんは昼食を済ませたようで、食べるか聞かれたが食欲はない。それよりナーシャの話を聞きたくてソワソワしてしまう。
すると
「今皆んな片付けに行って居ないわ。何でも聞いて…」
「あ…そんな聞きたそうな顔してた?」
「してたしてた!ミーナは隠し事出来ないからね〜」
そう言った後、急に真面目な顔をして改まり
「私は子爵家の娘でミーナ嬢より格下になります。失礼な発言お詫びいたします」
「やめてよ。今まで通りにして欲しいわ」
そう言うとナーシャは変わらぬ笑顔を向けてくれた。そして私の疑問に答えてくれる。
「初めて会ったのはミーナがまだ2歳頃。可愛かったなぁ〜私を見て”ねぇねえ”と呼んで抱きついて来たの。その時の私は7歳。子爵家の次女で末っ子だったから、下の子に懐かれて嬉しかったのを覚えているわ」
病もちで森で過ごす事になり、友達がいない私の為に陛下が寄り添い心の支えにと傍に置く事にしたわけだ。
「顔合わせの日は私の他に数人の貴族令嬢が呼ばれ、ミーナが一番気を許した私が選ばれたの」
「私全く覚えてないわ。それに初めて会ったのはもっと後でしょ?」
そう私の記憶が合っていれば6歳くらいのはず。その頃の事を思い起こせす。ぼんやりとだけどナーシャは私より大きくて見上げていた覚えがある。その頃の5歳差は体の大きさも違いすぎて、流石に父様も周りも気付くはずでは?
難しい顔をして考えていたら、ナーシャは笑いながら
「私の幼い頃は同じ歳の子に比べ体が小さく、見た目は2、3歳下に見られたの。だから反対に他の子に比べ大きいと言えば5歳差なんて気にもならなかったわ」
そしてファブとシュナはナーシャの実家の子爵家で長く仕えた使用人で、ナーシャが私の側に仕える事になり、父様と面識が無かった本物のファブとシュナと入れ替わった。
そして木こりのファブ、シュナと孫娘のナーシャとして侯爵家に出入りする事になった訳だ。
ナーシャは父様は知らないはずだと言っているけど、多分…父様はファブやナーシャの事は知っていたと思う。
『友達のいなかったが私がナーシャに懐き、そして陛下の思惑に気付いた父様は黙認したのだろう』
改めて父様の愛と心の大きさを知り、早く会いたくなる。
「騙していて私の事を嫌いになった?」
そう言い私を真っ直ぐに見据えるナーシャ。確かに聞かされた時は一瞬騙されたと思ったけど、初めて会ってから十数年。本当に親友だったし今も絶大な信頼を寄せている。だから…
「私は今も親友だと思っている。ナーシャは?」
そう言うと少し涙目で微笑み
「私の親友はミーナだけだよ。あんたが嫌がってもどこまでもついていって”親友”するんだから!」
陛下の命で私の友達になったナーシャだけど、確かに強い信頼関係を築いてきた。だから…
「ナーシャ!大好き!」
座るナーシャに駆け寄り抱きついた。私より大きいナーシャは抱きしめてくれ、いつものように背を撫でてくれる。
そしてナーシャと甘いお菓子と会話を楽しんでいたらディック様とディーンが来て、会話に加り到着まで楽しい時を過ごし、あっという間にボルディンに帰って来た。
暫くしたら汽笛が聞こえ部屋に誰かが来た。
「皆さんそろそろ着岸します。ナーシャ嬢とディーン殿は下船準備を。それからディック殿は殿下の付き添いを」
「「「「はい」」」」
こうして各々下船準備をして順番に下船する。私と顔を合わさないようにルイス殿下が一番に下船され、その後殿下の家臣が降りて私は一番最後に降りる。
ディック様は殿下に付き添い王城に向かい陛下に報告するそうだ。私はイルハン様にエスコートされ迎えに来てくれた父様の元へ向かう。
甲板に出ると陽は傾きつつある。行きは潮の流れに乗り乗船時間は短かったが、帰りは潮の流れに逆らうので1.5倍時間がかかった。
タラップの階段を降りていたら迎えの馬車が見える。そこには父様とザイラがいて手を振っていた。2人を見てやっと帰ってきたと実感した。階段を降りていくと父様とザイラの顔が見えて来た。
2人の表情は厳しい!恐らく先に下船したティム様がディック様からあの話を聞いたのだろう。
帰れて安心しつつ、避けられない父様の説教に複雑な気持ちになるのでした。
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