30.城下へ
最終日。ルイス殿下と共に城下を観光する。
ロダンダは温暖な気候で大好きなフルーツが豊富だと聞き、楽しみではあるが…
「ミーナ!起きて!」
「ふぁい…」
「今日はホテルを出て王都に行くんだから早く準備してよね!」
「うん」
そう。ここザガリー公爵家所有のホテルをチェックアウトし、今夜は王都にある国営ホテルに泊まり明日朝ボルティンへ帰る。そして今日は殿下との約束で城下を散策するのだ。
ナーシャをはじめ使用人は朝から荷造りに忙しい。私は昨晩寝付けなく寝不足で役に立たずでソファーでぼんやりしている。ナーシャに急かされ身支度が終わったタイミングでディック様が迎えに来た。
「さぁ!朝食に向かいましょう」
「はい」
朝からさわやかなディック様。廊下ですれ違う女性から秋波を送られている。流石公爵家嫡男のディック様はそんな視線に慣れている様だ。
そしてレストランで朝食を食べ終わり一旦部屋に戻ろとした。すると
「ミーナ嬢。出発まで私に時間をいただけませんか?」
「えっと…イルハン様にその…」
時間がないと断ってくれる事を願いながらイルハン様に目配せする。少し考えたイルハン様は
「ディック殿。出発まであまり時間が無いので長引かせないのと、騎士を付けて下さい」
「勿論です」
『あぁ…許可しちゃったよ』
遠い目をしていたら目の前にディック様の手が…
「さぁ!中庭を散歩しましょう」
「あ…はい」
ディック様に手を取られ中庭へ。そこには小さな噴水がありディック様はその縁にハンカチを敷いてくれ、そこに座らせてくれた。
付き添うの騎士は少し離れた所で待機している。なんか緊張する。ただの世間話をするだけだよね…
『えっ?』
ディック様は手を握り顔を近づけて…
『近い近い!』
ディック様の息遣いが近く顔が熱くなり嫌な汗が出てくる。すると少し笑いながら
「近く申し訳ない。付き添っている騎士はルイス殿下の手の者で話が殿下に伝わってしまう。後ろの噴水の水音とこの距離なら騎士に声は届かない。今から大切な話をするので辛抱願いたい」
「えっ?あっはい」
そしてとても近い距離で話出すディック様。側から見たら恋人が愛を囁いている様に見えるだろう。そんなの全く無いけどね!
そしてディック様は驚く事を話し出す。本当は今日の城下散策はディック様が付き添う予定だった。しかしルイス殿下がザガリー公爵に圧力をかけ、ディック様をホテルから離れられなくしたのだ。そして城下でリアンド王太子殿下と私を会わそうと画策している事を話した。
「ディック様の同伴を阻止するのは理解できます。殿下は逢瀬の邪魔をされたく無いのでしょ⁈でも何故会った事もないリアンド王太子殿下と私を会わす必要があるのですか?」
「これに関しては詳しくは私からは話せません。しかしリアンド殿下に会えば全て分かります」
ディック様の話は霧がかかった様ではっきり見えない。でも両殿下に少し思い当たる節がある。ボルディン王とロダンダの王妃は兄妹で、ルイス殿下とリアンド殿下は従兄弟にあたる。
そして同じ年でよく比べられて来たと聞いた事がある。
王族として品格と容姿端麗なルイス殿下。気さくで慈悲深く国民に愛されるリアンド殿下。比べる必要無いと思うんだけどなぁ…
そんな事をぼんやり考えていたら、ディック様が爆弾発言をする。
「同じ神を信仰しているロダンダは【漆黒の乙女】をリアンド殿下の妃にと望む者が多い。そしてリアンド殿下もそれを望んでいるのです」
「はぁ?初耳です?そんな話知らない」
やっぱりガラスボートで船員が話した話は本当なんだ。ここでも会った事も無い人に好かれている。愛って互いの為人を知り付き合って生まれるものではないの?
貴族や王族ではこんな事当たり前なの?平民の様に育った私には全く理解できないし、ここ最近の身の回り変化についていけない!
私はこの色に生まれたお陰で何一つ普通に出来ない。この色を授かった事を恨みたくなる。そして黙り込んだ私にディック様が
「貴女には唐突な話だと思いでしょうが、ロダンダの件は陛下が貴女の耳に入れない様に配慮していたのです。そしてお父上は成人の儀を迎えるまで柵なく過ごさせてやりたいと仰り、私達求婚者も貴女に会う事も言葉を交わすことも禁じられていました」
「父様と陛下が…」
「はい全ては貴女を思っての事。そして私達求婚者は月1回治療に訪れる貴女を影から見つめ、ずっと貴女の瞳に映りたいと願っておりました」
「私達?」
「貴女を慕う者ですよ」
困惑して言葉が無い私の手を優しく握るディック様。そしてほほえみ
「今貴女の瞳に映り幸せを感じています」
「でもそれは私ではなくてこの色が好きなんでしょ⁉︎それは本当の愛では無いから、正直嬉しく無いです」
何か虚しい…私は色しか好いてもらえない。
ますます家出をしてこの色を気にせず、何にも捉われず生きたいと強く思う。黙り込んだ私を見て少し困った顔をしたディック様が
「あぁ…早く全てを貴女に伝え、私達が心から貴女を愛し思っている事を伝えたい!もどかしいですね…」
「…まだ何かあるんですか⁈」
「はい」
「そんないい返事要りませんから!」
拗ねていたら付き添いの騎士が時間だと伝えてくる。ディック様は手を引き馬車まで送ってくれる。消化不良でモヤモヤしたまま馬車まで来た。玄関先には既に皆んな揃っていて、イルハン様に馬車に乗せられイルハン様はディック様と二、三言交わし馬車に乗り込んですぐ出発となった。
窓の外から見える空は雲ひとつない快晴なのに私は憂鬱でたまらない。早く成人し何処遠くに行きたいと思わずにいれなかった。
そしてずっと黙っていたイルハン様が唐突に予定を伝えてくれる。
お昼前に宿泊するホテル着きそこで殿下と合流し城下へ。護衛は平服の騎士が10名付くそうだ。そして世話役にメリッサが同伴しナーシャは留守番になる。
ナーシャを同伴させて欲しいとイルハン様に願ったが許可を得れなかった。イルハン様は明言しないが恐らくリアンド殿下に会う事になるからだろう。
『ルイス殿下はナーシャが私の友人で平民なのは知っていて、不作法があっても見逃してくれるが、リアンド殿下にはそうはいかないもんね…』
ナーシャもわかっている様で納得していたが、やはり彼女にそばにいて欲しかったなぁ…
そんな事を考えながら外を見ていたら、日差しが気持ちよく気がつくと眠っていた。
「お嬢様!着きましたわ」
「へ?」
メリッサに起こされ窓の外を見るといつもに増してキラキラのルイス殿下がいた。
一気にテンションが下がるの感じながら馬車を降りる。
これから起こる事を思うと今日の空の様に真っ青な気持ちになる私だった。
「やっと貴女に会えた。この日を楽しみに公務に励みました」
「王太子殿下におかれましては…」
「やめて下さい。堅苦しい挨拶をされると貴女との距離を感じる。今日は身分関係なく友人の一人…いえ恋人として接して欲しい」
「私などが殿下と対等なんて無理です。それに恋人なんて恐れ多くて…」
会うなりデレて来る殿下と距離を取ろうとするが、恥じらっていると思っているようで、思いっきり腰に腕をまわし引き寄せらる。
「殿下!距離感!」
イルハン様が一歩出て止めようとしてくれたが、我慢できず文句を言ってしまい付き添う騎士が驚いている。すると殿下は腕を緩めて少し距離を取り謝罪され周りからどよめきが起こる。
「済まない。久しぶりに貴女に会えて嬉しさのあまり失念していた」
「いえ…」
少し気まずくなったがイルハン様が間に入ってくれ早速街ブラする事になった。城下散策の為に殿下も今日は平民装いをしているが、やはり隠しくれない高貴なオーラがあふれ、行きかう人の視線を集める。
そして宿泊するホテルから移動を始めイルハン様と殿下側近ティム様とその後ろにメリッサと従僕が続く。そして騎士達は見えないが遠巻きに護衛している様だ。私はいつリアンド殿下に会わされるのかが気になり楽しむ余裕がない。そして緊張しながら歩いていたら城下の中央広場に出た。
ここは毎日露店が出て色んなものを売っている。すると反対側から綺麗なドレスを纏った令嬢が侍女と騎士を従え歩いて来る。それまで微笑んでご機嫌だった殿下の表情が何故か曇る。そしてその令嬢は私達の前に来てとても綺麗なカーテシーをして殿下にご挨拶される。
どうやらロダンダの貴族令嬢の様だ。その令嬢は大きく輝く緑の瞳に光り輝くはちみつ色の髪をされ、周りの男性の視線を集めている。そして令嬢は殿下に秋波を送った後に私を見て小さく笑い
「ルイス王太子殿下にご挨拶申し上げます。こうしてお会いでき光栄に存じます。宜しければ近くに我が公爵家の町屋敷がございますのでお茶をご用意させていただきたく…」
「ビアンカ嬢。お気持ちは嬉しいが、今日は愛しい女性のエスコートしているのでまたの機会にしよう」
殿下はそう言い断る。すると片眉を上げたビアンカ嬢は
「もしかしてお隣の令嬢は【漆黒の乙女】様でしょうか?
」
私を見て確信持って聞いてくるビアンカ様。答えに困ったけど、嘘を言うわけにいかず
「えっ?あ…そうみたいです」
「まぁ!お会いでき光栄ですわ。私、イレス公爵家ビアンカと申します。お見知りおきを。リアンド王太子殿下の妃候補であるご令嬢の名を知る名誉を頂けますでしょうか⁈」
「チッ!」
『あ…殿下舌打ちした』
「ビアンカ嬢。其方は勘違いしておられる。【漆黒の乙女】はボルディンの乙女で私の妃になる女性だ。間違ってもリアンド殿の妃にはならんよ」
「まぁ?そうですの?ロダンダ国民は【漆黒の乙女】のお輿入れを心待ちしておりますのに」
ビアンカ嬢の言葉で急に雲行きが怪しくなり、慌ててイルハン様が2人間に入る。挟まれ固まる私をティム様が手を引き避難させてくれる。二人の言い合いを聞いているとビアンカ嬢はルイス殿下が好きで、私とリアンド殿下が婚姻すれば自分にルイス殿下の妃になるチャンスがあると思っている様だ。
流石高貴なお2人は険しい表情をしていても声を荒げたりせず静かな争いをしている。中々治まらない言い合いに飽きた私はメリッサに付き添ってもらい、殿下の目の届く範囲の露店を見てまわっていた。すると遠くから人だかりがこっちに向って来る。人だかりを避けようと遠くにいるウチの騎士に目配せしその場を離れようとしたら、何処かから『リアンド殿下』の名が聞こえた。
『へ?もしかしてリアンド殿下がここに来てるの?ヤバいよ遭遇しちゃうじゃん』
この場を去ろうとしたらビアンカ嬢と言い合いをしていた筈の殿下が目の前に居て私の肩を抱いて歩き出した。
「殿下!まだビアンカ嬢とお話の途中では?」
「大丈夫!そんな事より大切な用が出来たんだ」
何故か機嫌が良くなっている殿下。そして遅れてビアンカ嬢がルイス殿下の名を呼びついて来る。何が何だか分からずイルハン様を見たら明らかに焦っている。そして急に殿下が立ち止まり…
「ミーナ嬢に紹介しよう。この度成人され王太子となられたロダンダのリアンド殿下だ」
ルイス殿下の歩調に合わせたら息が上がり下を向いた私は、慌てて顔を上げた。
『遂にご対面するんだ…』覚悟を決め…たのに
「へ?背中?」
リアンド殿下は背を向けられている。これじゃ分からない。すると頭上でまた舌打ちをしたルイス殿下が苛立ちながらリアンド殿下に
「リアンド殿下。諦めの悪いお人だ。もう隠し通せないのはご自分でもお分かりだろう」
「・・・」
「ルイス殿下…あの説明してください」
そう言い殿下の胸元を引っ張った。すると微笑んだルイス殿下は私の額に口付けを落とし嬉しそうに
「リアンド殿下は貴女の知っている男性ですよ」
「はぁ?」
やっと追いついたビアンカ嬢もリアンド殿下に挨拶するように進言している。
私はリアンド殿下の背を見つめ静観していた。そしてリアンド殿下が振り返ったのだ。
「へ?貴方様がリアンド王太子殿下なのですか?」
思わぬ人に絶句し暫く脳が考える事を拒否してしまった。もう無事に父様の所に帰れる気がしない。もぉ!ロダンダは色々有り過ぎです!
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