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3.親友

急変した日常に戸惑うミーナ。家出計画は大丈夫?

治療の翌朝、身支度をしダイニングに向かうと本宅の執事のヴォルフが笑顔で迎えてくれる。ヴォルフは昔から私に偏見がなく祖父の様な存在だ。父様はよく分かっていて、私に偏見のない侍女や従僕を寄越してくれている。


「ヴォルフ…母様やザイラは変わりない?」

「はい。ミーナ様の事をいつも…」

「本宅にじゃないから気を使わなくていいよ」

「いえ本当でございますよ」


数年前からザイラも会いに来なくなった。昔は“姉様!”って慕ってくれたのに、風の噂では『僕には姉弟あねはいない』と周囲に言っているようだ。


「ミーナ様。治療が終わればまた屋敷で家族で過ごせるようになりますよ」

「屋敷ね…」


物心ついた頃から別宅で過ごして来た私の家はここだ。本宅に想いは全く無い。

ヴォルフに促され朝食を食べだす。


「ヴォルフ。食後は親友のナーシャの所に行くから」

「畏まりました。騎士を3名お連れ下さい」

「はぁ?いつも愛馬で1人で行ってるから大丈夫!騎士は要らない」

「旦那様からお嬢様に騎士を付けるように言われております」

「・・・」

『何⁈いきなり令嬢扱い』


この森の別宅では平民の子の様に自由に過ごして来た。森の中の別宅は塀に囲まれ入口の門には常に門番がいて安全。それに”歪みの森”がある事で、それを知っている人は森に近づかない。ナーシャの家は馬で1時間ほど行った山の麓にあり”歪みの森”の横を通る事から地元の木こり以外に会う事は無い。


「ねぇ…ヴォルフ…何かあったの?昨日から急に…何かおかしい」


するとヴォルフは私の大好きな果物を出し微笑みながら


「お嬢様はもうすぐ成人の儀を迎えられ婚約者が決まります。お嬢様は社交の場にも参加していない事から、“深層の令嬢”と呼ばれ社交界では注目されております。それにバンディス侯爵家は歴史も古く王族からの信頼ある由緒正しいお家でございます。お嬢様との縁を望むご子息が多く旦那様はその子息からお嬢様を守りたいのです」

「私が“深層の令嬢”?貴族の方々の瞽なのかしら。こんな不気味な瞳と髪の女性を好んで娶りたいなんて侯爵家との繋がりが欲しいだけじゃない。見え透いたおべっかは要らないわ」

「お嬢様はとてもお綺麗です。残念な事にお自覚が無いようですが…」

「父様が心配してくれているのは分かった。でも自由に出来ないのは嫌よ。今まで通りにするわ」

「ミーナお嬢様!」

「とり合えずナーシャの所へは一人で行くから、愛馬リンの準備お願いね」


そう言い席を立ち部屋に戻る。


『やっぱりおかしい』

ヴォルフの話におかしな所は無いが何か引っかかる。やっぱり家出計画がバレてる?ナーシャが父様に告げ口した?

後でナーシャを問い詰めないといけない!

部屋に戻り身支度をしているとマーガレットさんも何故か用意をしだす。


「マーガレットさん。親友の所にはいつもどおり一人で向かうので、同行しなくていいですよ」

「へ?侯爵様から外出時は同伴するように言われております」

「友人は平民なので侍女を連れて行くと、皆なびっくりしちゃいますからダメですよ」


この後、付いてくる気満々のマーガレットさんを説得するのに時間がかかり出発が遅れてしまった。

玄関を出るとヴォルフが愛馬リンの手綱を持ち待っていた。礼を言い騎乗し“ついてこないでよ!”と念を押し、いつも通りナーシャの家に向かった。


ナーシャの家がある集落に行くには“歪みの森”横を通る。禍々しい“歪みの森”が見えてきたら、注意喚起の看板の前に誰か居る。誤って入らない様に声をかける。


「こんにちは!」


声をかけ振り向いたのは若い男性だった。同じ年位の男性だけど綺麗な人だ。女性と言っても分からない。すると男性は微笑みながら


「貴女はこの森に入った事は?」

「ありません。しかし入って戻らなかった人がいると聞いています。危険なので入らないで下さいね」

「よくご存じの様で…もしかしてバンディス侯爵家のミーナ様でしょうか?」


何この人!自分は名乗らず女性レディーに名を先に聞くなんて!装いから平民では無く貴族なのは分かる。なら余計に自分から名乗るのが礼儀ルールでしょう!

領地の家の者だから注意喚起してあげたのに失礼な奴だな!少し苛立ち思わず…


「名乗られない失礼な殿方に名乗る必要は無いと思いますわ。取りあえず“歪みの森”が危険だと注意致しました。後は自己責任でなさって下さい」

「失礼いた…」

「では!ごきげんよう」


気分が悪く相手の謝罪を受けずに馬を出した。“歪みの森”を通り過ぎるとあと少しでナーシャの家が見えてくる。家の前でナーシャが水巻をしている。


「ナーシャ!」

「ミーナ。どうしたの?」


馬から降りたら丁度家からファブが出てきたので、リンの手綱を預けてナーシャの手を引き裏山へ歩いて行く。


「ミーナ?何かあった?めっちゃ怖いんだけど!」

「あったってもんじゃ無いの!」


ナーシャ家の裏に小高い丘はあり、昔からナーシャと秘密の話はここでしている。そこに着くとナーシャを座らせ向かい合って座る。

眉尻を下げて不安そうな顔をするナーシャに単刀直入聞いてみる。


「回りくどい事は言わないわ。父様に私の“家出計画”話した?」

「はぁ?言う訳ないじゃん!だって私はミーナの家出に便乗しようとしてるのに!」

「便乗する⁈」


更なる驚きの事実に開いた口が塞がらない!

ナーシャは私に何があったのか知りたがり、興奮して話を聞いていない!


『駄目だ…ナーシャが興奮したら甘い物食べないと収まらないんだった』


ナーシャの手を取りナーシャの家に戻り、ナーシャの祖母シュナにおやつの用意を頼む。


「落ち着いた?」

「ごめん…」


甘いお茶とクッキーを食べてナーシャはやっと話が出来る状態になり、ナーシャの部屋に行き話し合いをする。


「信じられない…」

「本当の話よ。本人にも確認したし…」


衝撃的な話するナーシャ。昔から両思いだと思っていたナーシャとディーンは既に別れていた。別れた理由はディーンが他の人に好きな人が出来たから。周囲に成人の儀で婚約すると思われているから、どうしようか悩んでいたそうだ。そこに私の“家出計画”が。


「もう私には渡りに船よ!一緒に異国に行って新しい生活をしよう!」

「・・・」


無茶苦茶な展開に言葉が出ない。ナーシャは嘘をつく時は鼻が赤くなる。今は鼻は赤く無い。と言う事は本当で父様に家出計画は告げ口していない。


『なら何で急に周辺が変わったの?』


ナーシャに相談したらヴォルフの言う通り、侯爵家との縁組を望む子息達から守るためなの?じゃーさっきの“歪みの森”の男性も?私に会いに来たの?

寒気がして来た。貴族に生まれ望む結婚ができないのは理解しているがやっぱり愛の無い婚姻は嫌だ。


気が滅入って来て俯いてしまう。すると手が温かくなり顔を上げると、ナーシャが手を握ってくれている。


「大丈夫だよ。私がいるから!」


ナーシャの手は家の手伝いで荒れて、女の子なのに手のひらは硬い。でもとても安心する。


「おじ様とちゃんと話してどうしても結婚が嫌なら、私と外国に逃げたらいいよ」

「ナーシャ!」


ナーシャの話を聞きまずは父様の考えを探ることから始める事にした。

大丈夫!まだ成人の儀まで9か月ある!


やっと落ち着き家に帰る事にした。別れ際にナーシャに


「2人が決めた事に口を出すべきじゃ無いと思うの。だから手を出すわ!次にディーンに会ったら一発グーで殴るわ!」

「あっははは!令嬢のパンチは猫より威力ないから3発くらい入れていいわよ!」

「じゃーそうする!」


ナーシャにハグしたら小さい声『ありがとう』って言うから泣きそうになった。


こうして少し気分が浮上し別邸に戻った。

屋敷に着くとヴォルフとマーガレットさんが出迎えてくれる。


「お嬢様。旦那からお手紙が届いております」

「父様から?」


侯爵家の家紋が入った封筒を受け取り部屋に急ぐ。早く読みたい!


「ヴォルフ。父様の手紙をゆっくり読みたいから1人にして」

「畏まりました」


部屋に急ぎ父様の手紙を読む。真面目な父様は娘にも時候の挨拶から手紙は始まる。そしてミス・ジュリアンの店で急に眠り心配したと書いてある。


『そうなんだよね…寝不足じゃなかったのに急に眠くなった。へんなの…』


手紙を読み進めるとやはり成人の儀まで1年を切り、貴族からの縁組の申し込みがわんさか届き母様のキャパを超えてしまったようだ。本宅に父様が呼ばれた理由は分かり安心した。私の家出計画はバレて無いようだしね。

でも最後の文にまた不安あげ〜ん!


『陛下から王太子妃の打診があった。しかし私はこの縁は良く思っていない。私はミーナの意志を尊重したい。手紙では詳しい話ができないから、帰ったらゆっくり話そう。

暫く不便だが私が帰るまで我慢してくれ』


良かった…父様はちゃんと私の事を考えてくれている。安心したらお腹が空いて来た。


“コンコン!”

「お嬢様?マーガレットでございます。よろしいでしょうか?」

「なに?」

「夕食のお時間ですがいかが致しますか?」

「行きます!」


こうしてとりあえず心配事が一つ減り鼻歌を歌いながらダイニングに向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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