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29.海

初めての海の中。楽しみだけど…

「お嬢ちゃんは海の中を見るのは初めてかい?」

「はい。森育ちなので」

「へぇ〜。俺は海育ちで反対に森や山なんて皆無でさー」


この調子でずっと話しかけて来るカイトさん。馴れ馴れしくなったのを見かねたウィル卿がカイトさんの手を取り


「不敬だぞ」

「はぁ?どこが?お嬢が令嬢なら分かる…が?あれ?もしかして」

「らしく無いけど一応侯爵家の子女です」

「ほらねー。やっぱりミーナ貴族には見えないのよ」


そう言い笑うナーシャ。カイルさんは慌てて手を離し深々と頭を下げて謝罪している。


「大丈夫ですよ。あまり触れられるのはちょっとアレですが、気さくに接してるもらった方が嬉しいので」

「可愛いからお近付きになりたくて…いや…失礼しました」


そう言い頭をかくカイトさん。多分悪い人では無いと思う。謝罪を受け少し行くと船が見えて来た。そこにはカイトさんの様な体の大きな男性が6人いる。

その男性達は私たちが船の前まで来ると、次々に海に入っていく。ナーシャと驚いていたら


「ガラスボールトは名の通り船底が弱いガラスで作られている為、普通の船の様にはいかないんです。少しでも何かがぶつかると割れてしまう。ですから船体の四方をあの様に男達が支えます。そして割れても支えるので沈没しません」

「へぇ…」

「安全を配慮しているのは分かったが、もし割れた時に海水が入ってしまうのではないか⁈レディを乗せるのだ。濡れる訳にいかない」


イルハン様が心配そうに聞くと、カイルさんは自慢げにガラスボート指刺し


「これを見てください。船底ガラスから座席の足元まで高さを取っています。もし割れてもすぐ男達が支え足元までは海水は来ません。過去に何度か割れましたが濡れたか方はいませんよ」

「ならば良い。ではよろしく頼む」


やっとイルハン様の許可が出てガラスボートに乗れる事になった。カイルさんは先程私が貴族だと聞きいて恐らくイルハン様もウィル卿も貴族分かっただろう。しかし多分他の人達は多分裕福な家の人位に思っている様だ。そう今日はイルハン様もウィル卿も平民の装いをしている。


『でもお2人は高貴なオーラを醸し出しているから貴族の方が居たらすぐ分かるだろうなぁ…』


そんな事をぼんやり考えている間にカイトさんからの説明は進み、やっと今からガラスボートに乗り込みます。海に入った男性達は胸まで海に浸かっているから、私が落ちたら確実に溺れるだろう。気をつけようっと。

そしてカイトさんの指示で例のガラスボートを岸壁に着けた。ボートは4人乗りで座席は左右2列で真ん中が空いている。そして船の前後左右に棒が付いていてこれを男性達が担ぐ。カイトさんが板をボートにかけここから乗り込む。カイトさんが先に乗り込み手を引いてくれ1人ずつ乗っていく。初めはウィル卿で次にイルハン様。そしてナーシャと私だ。


「ガラス部分に気をつけて下さい」


慎重に乗り込み先頭の男性の掛け声でゆっくり動き出した。ふと斜め前に座るウィル卿が目に入るが、騎士であっても海の上は緊張する様で真剣な表情をしている。船を担いだ男性達はゆっくり進む。先頭にいる男性がリーダーの様で私たちに向かって


「そろそろ魚が見えてくるので、ガラス部を見てください」


そう言われガラス部分を見ると綺麗な色をした魚がたくさん見えてきた。大小様々でカラフルな魚達に癒される。そして私の横を担ぐ一番若そうな男性が私に少し寄り


「お嬢さん神秘的な”お色”をされてるね!まるでボルディンの【漆黒の乙女】みたいだ」

「そっそう?」

「お嬢さんが貴族ならリアンド殿下の妃になれるのになぁ」

「はぁ?」

「もし平民でもそれだけ高貴な色をしてたら男なんて選びたい放題だぜ」


今なんて言った?【漆黒の乙女】かリアンド殿下の妃って?そんな話聞いてない!もしかしてロダンダにも【漆黒の乙女】がいるのかもしれない。とんでもない話にもう海どころでは無い。リーダーの男性が魚の種類や海の樹木といわれるサイゴンの説明していて、皆んな聞きながら海の中を見ていて今の話は聞いていない様だ。 


「あの」

「なんだい?可愛いお嬢さんには何でも答えるよ」

「ロダンダにも【漆黒の乙女】がいるの?」

「いる訳ないよ。【漆黒の乙女】はボルディン王国にいて安寧を齎す聖女さ。そしてその聖女はロダンダをも救った高貴なお方。だから【漆黒】はロダンダでは高貴な色なのさ」

「へっへぇ…」


どうやらこの男性は漆黒と聞いただけで乙女の事はよく知らないようだ。スカーフを被っているからか、私がその【漆黒の乙女】だなんて思ってないみたい。その後も横の男性が今回の王子の成人の儀の話を色々してくれ、更にリアンド王子がどれだけ素晴らしい人が語るのを呆然と聞いていた。そしてガラスが割れることもなく遊覧は終わり岸に戻りボートを降りた。


「…か?」

「はぃ?」


イルハン様に話しかけられた様だが聞いておらず聞き返す。少し困った顔をしたイルハン様がもう一度聞いてくれる


「先程海で見たサイゴンで作ったアクセサリーがこの先の土産物屋で売っているそうです。行ってみますか?」

「えっと…あ…はい」

「ミーナ?何かあった?変だよ」

「少し船に酔ったみたい」


今はイルハン様もウィル卿もいるからナーシャに言える訳ない。誤魔化して土産物屋に向かいサイゴンで作ったアクセサリーを別宅の皆んなに買って帰る。

帰り間際カイトさんが慌ててイルハン様の元へ来て何か耳打ちしている。

そして溜息を吐き顳顬を指で押さえたイルハン様は足早に来て手を取り馬車にエスコートした。


ただならぬ雰囲気に口を閉じ大人しくする。事情が分からないナーシャだけが通常運行で、車内でずっとは話している。

本当は道中近い街による予定が何故か無くなり、帰り道にあるホテルのレストランで昼食だけ食べ滞在するホテルに帰って来た。


「夕刻にディック殿が戻りますので、それまでお部屋でお過ごし下さい」

「えっあっはい」


そう言いイルハン様は帰って行った。予定と違う事に戸惑うナーシャにあの船の男性から聞いた話をすると、一瞬顔を歪めたがいつもの調子で


「平民は噂から有りもしない話をして、面白おかしく話しをするものよ。私は作り話だと思うけどね」

「かなぁ?」

「気にしすぎよ」


ナーシャにそう言われてあまり気にしない事にした。そしてナーシャとお揃いで買った髪飾りを付けてご機嫌でいたら誰か来た。


「やっと貴女に会えた!」

「お疲れ様でした?」


そう。式典や晩餐に出席されていたディック様が帰って来たのだ。抱きつかれびっくりしていると、背後から誰かがディック様の腕を取る。


「ディーン!」

「いくら貴族様とはいえ、未婚の女性に許可もなく抱きつくのはよくなのでは?」

「…」


平民のディーンがそんな事言って不敬あたると慌てていると、ディック様は素直に腕を解き私に謝罪される。

そしてディーンを見据えて鼻で笑い


「其方の主人にいい加減覚悟を決め、真実をお見せになった方がいいとお伝えせよ」

「…俺はミーナの友人で侯爵様に頼まれここにいる。則ち主人は侯爵様だ」


ディーンがそう言うとディック様は手をひらひらと振ってディーンに冷たい視線を送り


「まぁ今はそういう事にしておきましょう」


そう言い私の手を取り口付けて、夕食時に迎えに来ると言い退室して行った。


『今のなんだったの?』疑問文しか出てこない。

そして部屋にいたメリッサがディーンを責め始める。


「私ら平民が貴族様にそんな事言ったら大変な事になるし、何より旦那様に迷惑かけるわ!ディック様の方が旦那様より身分は上なんだから!」

「しかし、貴族紳士が婚約もしていない女性に抱き着いたんだぞ!身分関係なく駄目だろう!」


顔色の青いメリッサは更に怒りだしナーシャに同意を求めるがナーシャはディーンの見方をしディック様の非難し出す。もう収拾がつかなくなって来た。

楽しいはずのロダンダ訪問。楽しい事もあるけど意味の分からない事も多くて無事に別宅に帰れるのか不安になってきた。

そしてヒートアップしたメリッサとディーンだが、トムが来て荷の整理をする為にディーンを呼び口論は終息した。

そしてやっと落ち着き暫くしたら夕食の時間になりディック様が迎えに来た。さっき揉めたディーンは居なくて胸を撫で下ろす。


「イルハン様がお待ちです。参りましょう」

「あっはい。その前に…」


先程のディーンのことを謝罪する。あの時は頭が回らなかったがうちの使用人がディック様に失礼をしたから主人である私が謝らないと…

するとディック様は微笑みご自分の頬を指で突いて


「ここに口付けてくださったら、多分嫌な事はキレイさっぱり忘れますよ」

「へ?」


目の前で綺麗なお顔をしたディック様が少し屈みキス待ちしている。背後からナーシャの殺気を感じまだ揉めるのを避けるために


“ちゅ!”触れるだけのキスをした。


「ミーナ!」

「あぁ…私は今とても幸せだ」


恥ずかしくて顔が熱くなり嬉しそうに見つめてくるディック様の手を引き慌てて部屋を出る。だってナーシャが暴れそうなんだもん!


こうして謝罪も終わり超ご機嫌のディック様にエスコートされレストランへ。レストランの個室に着くとイルハン様が先に着いていて書類に目を通していた。そして着席し食事を始めるとイルハン様が


「ロダンダの式典は全て終わり、明日はルイス殿下と城下散策となります。私とウィル卿が同行致します。そのおつもりで」

「あれ?ディック様は?」

「残念ですが父からこのホテルの監査を頼まれ、明日1日書類が恋人です」


ロダンダ最終日は殿下ルイスのお相手だ。分かってはいたけど正直気が重い。そんな私にディック様が城下にロダンダ名産のフルーツ菓子が沢山ある事を教えてくれて、イルハン様も連れて行くと約束してくれ少し嫌では無くなった。

とりあえずあまり気にせず楽しもうと前向きに考えることした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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