28.滝
物売りの少女からガラス玉を買い、願いが叶うと言われる滝に向かい…
「ミーナ嬢はお優しい」
「へ?」
ポケットからあのガラス玉を取り出して眺めていたら、笑いながらイルハン様が話しかけて来た。
「あの街では子供達が物売りをし家計を助けています。売るものは安価なお土産品ばかりで、貴族は平民を助ける意味で買い求めるのです」
「あ…”ノブレス・オブリージュ”って事ですか?」
「えぇ貴族の義務になります」
「そういう意味でした訳では無くただ単にこのガラス玉か気になって」
そう言いガラス玉を覗き込んだ。すると釣られるようにイルハン様もポケットから取り出して見ている。でも何度見ても唯のガラス玉だ。暫く見ていたイルハン様は飽きた様で、それをポケットにしまい書類に目を落とした。私は何故が気になりそれを握りしめ窓の外を見ていた。
そして暫くすると並走する騎士が間もなく着くと知らせてくれ、ガラス玉をポケットにしまい降りる準備を始める。そしてやっと到着しイルハン様の手を借り馬車を降りた。
「うわぁ!」
目の前に直瀑があり陽の光に照らされキラキラしてとても綺麗だ。水量も多く水飛沫が上がり辺りは涼しく気持ちいい。するとイルハン様が後ろを見るように言い振り返ると
「こっちも絶景だ!」
ここは山の中腹にあり先程の街が一望でき眺めがいい。街のカラフルな民家の屋根が玩具の様で可愛らしい。皆で滝を堪能したら騎士とメリッサと従僕のトムがシートを引きお茶を用意し、街で買った焼き菓子を食べながら滝と景色を楽しむ。
一頻り休憩し私の提案であのガラス玉を滝から流れる川に浸してみる事にした。
そう確か願いが叶うと言われている。メリッサは未来の夫を知りたいと言い、ナーシャは計画が成功するか知りたいそうだ。あれだけ興味無さそうだった男性陣も真剣な顔をしてガラス玉を握りしめ川を見つめている。そして皆んなでガラス玉を川につけ…
「へ?」
ガラス玉を川に手を着けた瞬間に眩暈がして目の前が真っ暗になり気分が悪くなる。そして幻聴が聞こえ…
《いい子だね〜》
『だれ?』
《大きくなったてもパパの元にいるんだぞ》
『”パパ”って父様?』
暗闇にぼんやり見えて来たのは女性と男性?
「ミーナ嬢!」グィッと引っ張られ
腕の痛みで視界が戻って来た。目の前には水面があり後ろから腕を引っ張られている。
振り向くと険しい顔をしたイルハン様が…
そしてその横を青い顔をしたナーシャがいる。イルハン様は赤子を抱く様に優しく私を抱き上げ川を離れる。
『何があったの?』意味が分からない。
そしてイルハン様はゆっくりシートに私を下してくれ、メリッサが水を入れたコップを渡してくれ一息吐く。すると皆んなが目の前で青い顔で私を見ている。
「あの…何があったの?」
状況が分からず聞くとナーシャが怒りながら
「急に川に吸い込まれる様に体が傾き川に落ちかけたんだよ!イルハン様が手を取ってくれなかったら、あんたあのまま川に落ちてたわよ」
「うそ!」
「誰がこんな嘘吐くのよ!」
そう言い涙目で抱きつくナーシャ。本当に落ちかけたんだ。そして私の手を取ったイルハン様は私の顔を覗き込み
「気分は悪くないですか?我慢せず仰って下さい。街で医師に診てもらいましょう」
「ご心配おかけしました。今は大丈夫です。はしゃぎ過ぎて貧血を起こしたみたいです」
「また悪くなるといけないので、今からホテルに戻りましょう」
「大丈夫ですから…」
すると皆んな無言で帰り支度を始め、予定より早くホテルに戻る事になってしまった。心配をしたイルハン様が女性が居た方がいいとナーシャを同乗させた。隣に座ったナーシャがずっと手を握っている。こうして皆んなに気を遣わせホテルに戻ってきた。
大丈夫だと何度も言ったのに、結局イルハン様にホテルの医務室に連れて行かれに診てもらう事になった。診断は疲労と睡眠不足で安静にする様に言われる。そして安静にするために夕食はレントランでくは無く部屋ですることになった。
1人では寂しいだろうとイルハン様のご配慮でナーシャと一緒に食べる。食べ終わりお茶を飲んでいたら真剣な顔をしたナーシャが
「何があったの?」
と聞きたのでメリッサに退室してもらい、体験した事を包み隠すナーシャに話す。
「あのね。川に手をつけた時に眩暈がして幻聴と幻覚が見えて」
「…詳しく話して」
思い出しながらゆっくり話す。そして話し終わるとナーシャは私の手を取り
「あの滝は願いが叶うって言われてるじやん。ミーナは何を願ったの?」
「うんとね…本当の”母様”がどんな人か知りたいって」
そう言うと黙り込むナーシャ。そして幻覚で見た2人を思い出していた。何故がその2人は知っている気がするし懐かしく感じる。顔ははっきり見えなかったけど知り合いではないはず。
もしかして願いが叶い見た女性は本当の”母様”?
でも隣にいた男性は誰?叔父様?親戚?
『まさか…父様…』
私が願ったのは”母様”だけ。だって父様はいる…もん。
『でも私は父様に似ている所は全くないのよね。きっと母様似だと…』
そして一瞬想像してはいけない事が頭を掠め怖くなって来た。
『もしかして…父様の子でもないの?』
そう思った途端に指先から冷えて来て身震いする。
「ミーナ!」
「えっ?何?」
「顔色が悪いわ。考え過ぎよ」
「そうよね。母様の事知りたい気持ちが幻覚を見せたんだわ」
今はこれ以上考えない方いい気がし、ナーシャにも気にしない方がいいと言われた。
そして変な空気になり気まずくなって逃げるように湯浴みをしに浴室に逃げた。
そして湯浴みも終えて部屋に戻るといつも通りのナーシャに安心する。そして他愛のない会話を交わして寝むまで時間を過ごす。そしてそろそろ寝ようとした遅い時間に何故かディーンが戻って来た。
『あれ?確か今日は叔父さんの所に泊まるって…』
部屋に入って来るなり抱き付き頭の上で大きな溜息を吐くディーン。そして腕を緩めて私の顔を覗き込み大丈夫か聞いてくる。ディーンはナーシャから事情を聞き私をソファーに座らせ手を握った。
「心配しなくても大丈夫だよ。お医者さんには過労と寝不足だって言われたから。今日早く寝れば治るわ」
「無理するなよ。ジン様が大丈夫だと言っても病が治った訳では無いんだぞ」
「いつからディーンは父親になったのよ」
ナーシャが揶揄して笑うが真剣な表情のままのディーン。彼は優しいうえに心配性だからね…
まだ居たそうなディーンをナーシャが寝るからと追い返し、ディーンは寂しそうに叔父さんの元へ帰って行った。
こうしてハプニングがあったが無事2日目を終えたのでした。
翌朝しっかり眠り体調はいい!のに心配そうにメリッサとナーシャが体調を聞いてくる。2人に心配無いと言い身支度してもらいイルハン様のお迎えを待つ。
暫くしてイルハン様が来てくれ今日はレストランで朝食をいただく。先日と同じ個室に通され、給仕されるのを待っている間に窓の外の景色を見ていたらイルハン様が
「体調がいいなら海の方へ観光に行きましょう」
「海ですか?」
「はい。ガラスボートという船底がガラス張りの船があり、それで海の中を見ることが出来るそうです」
「行きたいです!」
食い気味に返事するとイルハン様は笑いながら騎士を呼び準備を指示しする。
この後イルハン様も海の中を見るのは初めての様で嬉しそうだった。出かける用意をするため一旦部屋に戻るが、その時に廊下ですれ違った人の話が気になりイルハン様に質問する。
「さっきの人達がリアンド殿下の肖像画が無くなっていると話したのですが、ロダンダでも王族の肖像を飾っているのですか?」
「さぁ…その辺は私は詳しく無いので…」
「そうですが…つまらない事を聞いてすみません」
あからさまに話を逸らされたぞ!何でだろう。一国の宰相補佐であり何度もロダンダに来た事があるイルハン様が知らない訳ないのに…
さっきすれ違った人が話していた話は、先週来た時に飾ったあったリアンド殿下の肖像画が無くなっていて、このホテルだけで無く王都のお店でも無くなっていたと話していたのだ。
ボルディン王国でも王都では王族の肖像画を飾る習慣がある。友好国のロダンダなら同じだろう。さっきの話を聞くまで気にもしていなかったが、言われればどこに行っても全く目にしなかった。
『そう言えば私リアンド殿下のお顔を知らないわ。これじゃ会っても分からないじゃん。まぁ王子なんて会いたくもないけどね』
そんな事を思いながら部屋に戻り出かける用意する。そして用意が終わりソファーでお迎えを待っていると何故かホテルの従業員が来た。
どうやら海に行くと聞き、日焼けしないように日差しを遮るスカーフを持って来てくれたのだ。
礼を言い受け取りさっきの話をこの従業員に聞いてみた。
「ロダンダでは王族の肖像画は飾る習慣は無いの?」
「ございますが何か?」
「こんな立派なホテルなのに、(肖像画を)全く見ないから疑問に思って」
すると一息おいて明らかに作り笑いをした従業員が
「この度リアンド殿下が王太子となられるので、その式典の後に新しい絵を飾る為に一時的に外しているのです」
「へぇ…そうなんだ」
「はい。他に何かございますか?」
「大丈夫ありがとう」
そして足早に従業員は退室し代わりにイルハン様が迎えに来てくれ馬車に向かう。
心なしか機嫌がいいイルハン様。ガラスボードが楽しみの様だ。
『ダンディなおじ様なのに可愛らしい』
そして馬車に乗り込み出発!比較的海に近いホテルだから、港まで2時間ほどで着くらしい。
今日もイルハン様の配慮でナーシャが同乗している。ナーシャが居るだけで気が楽でいい。そして楽しく車内で会話をしていたら…
「着いた!」
目の前に綺麗な海が広がりワクワクしながら馬車を降りる。
「ようこそツーランの港へ」
そこには日焼けをし騎士並みに体が大きい男性が出迎えてくれた。そして男性はイルハン様に挨拶し次に横に居る私の前に来て手を差し伸べ挨拶をしてくれる。
「ようこそ可愛いお嬢さん。今日はロダンダ自慢の海を楽しんでください」
「はい。お世話になります」
彼の手を取り握手すると驚きいた顔をする。そして人懐っこい笑顔を向けてくれ、手を引き船へ案内してくれる。終始話しかけてくる彼は船長の息子さんでカイトさんと言い、体と同じくらい声も大きく領地の幼なじみ達を思い出す。そしてナーシャが横に来て小声で
『なんかこの人馴れ馴れしくなぃ?多分ミーナが貴族令嬢だって分かってないよ』
『うん…かもしれない。でも仕方ないわよ。だって私貴族令嬢らしくないからね』
海で働く男たち(ひと)はこんな感じなんだろうと、あまり気にもしていなかった。
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