24.正体
親友のディーンがロダンダ出身だけでも驚くのに、貴族の令息だったなんて…ショックが大きく…
「父様…冗談…では無くて?」
「あぁ…本当だ。経緯までは調査できなかったが領民登録を確認したら出生届があり、ロダンダの伯爵家第2子になっていた。そして6歳の時に今の父君のロイと養子縁組されている」
「何で貴族令息が平民の木こりの家に養子縁組を?」
信じられなくて思わず声が大きくなる。すると表情を変えず話を続ける父様。
「そこまでは調べれなかった。父君のロイに聞いたがロダンダの親戚に預かった欲しいと頼まれ養子にしたそうだ。ロイは元々ロダンダに住んでいて、妻のマチルダと夫婦となりマチルダの実家があるこのボルディン王国に移り住み隣の子爵領に住んでいた。この時に親戚からディーンを預かり養子縁組し、実入りのいいウチの領に移り住んだのだ」
ディーンが貴族の令息?貴族の子が平民に養子なんて聞いたことない。何があったのだろうか?家が没落したとかかなぁ?
色んな事を想像するが分かる訳もなく、ただ唖然とするばかりだ。
「この事は王太子殿下はご存じない。お知りになると恐れくディーンの同行をお認めにならないし、王太子の権限を使い無理やりミーナをロダンダに連れて行くだろう」
「そんなの絶対いや!」
「だからこの話はここだけにしなさい。勿論本人にもナーシャにも」
「分かった…」
ショックが大きくどんどん体が冷えていく。顔色の悪い私に気付いた父様がルドルフを呼んでお茶を出すように言う。
「お嬢様顔色が良くありません。温かいお茶と甘いものを召し上がって下さい」
「ありがとう」
お茶を一口飲み少し落ち着いた。父様は眉尻を下げ何とも言えない顔をして
「これからミーナには色んな事が起こるだろう。知らなかった事や知りたくなかった事も多いと思う。しかし自分の道を選択するのに必要な事だ。曇りなき眼でしっかり見極め決断しなさい」
「やっと落ち着いたのに怖い事言わないで」
するといつも通り優しい微笑みを向けてくれる父様。この後暫く話をし気になっていた肖像画について聞いてみた。すると
「あ…察しの通りお前の姉のケイミが生れた時に描かせた肖像画だ。ケイミの絵はこれしかない」
「姉様の事聞かせてくれる?」
悲しい笑顔をした父様は
「今日はやめておこう。近い内に必ず話すと神に誓うよ」
「…分かった」
父様の顔を見ていたらそれ以上何も言えなかった。こうして自室に戻りベッドに寝転がる。暫くぼんやりしていたらお昼になっていて、メルが昼食の準備が出来たと声をかけて来た。でも精神的に疲れていて食欲がない。
「今は未だいらない。父様と母様に先に頂いて下さいと伝えて」
「畏まりました」
メルが退室しまたベッドでごろごろしていたら眠ってしまった。
「お嬢様!」
メルに起こされまだ寝ぼけている状態でメルの話を聞くと、どうやら王太子殿下が訪問されたようだ。
『そう言えば明日も来るって言ってた。来なくていいのに…』
仕方なく起き上がり部屋を出ようとしたらメルに止められ着替える様に言われる。このままで良くない?
結局必死で着替えを願うメルに負けて黄緑色のシンプルなデイドレスに着替えて応接室に向かう。歩きながらメルが今日は殿下しかお見えになっていないと教えてくれる。
何度目かの溜息を吐いて応接室に着いた。ノックをし入室許可を得て扉を開ける。
『!』
扉を開けたら真前に王太子殿下が居て驚き仰け反ると、殿下が手を取り腰に腕を回し抱きとめられた。
「まぁ!」
母様の黄色い声にイラつきながら見上げると、殿下の綺麗な瞳が私を見ている。
「ありがとうございます?」
「気を付けて下さい。怪我をしたら大変だ」
そして流れるようなエスコートでソファーに座らされまた隣に座る殿下。
目の前に座る父様は眉間に皺があり機嫌が悪い。反対に父様の横に座る母様は恋愛小説を読む乙女の様に夢見心地だ。
「殿下。今日は何か?」
「貴女に会いに来だんだよ」
「用は無いんのですね」
「無いと来てはいけないのかぃ?」
「私にも予定があります」
冷たくそう言い放つと母様が目を吊り上げ叱責する。無視して殿下を手を離すと、体を私に向けずっと見てくるから居心地悪い。
溜め息吐き殿下にある事を聞く。
「ロダンダでは殿下と別行動と聞きておりますがその騎士は…」
「騎士は常につく。そして宰相補佐のイルハンもだ」
「それでは自由が有りません」
「しかし、私の大切な女性に護衛も無しに平民が集まる下町に行かす訳には!」
護衛を譲らない殿下と嫌な私。声を荒げる事もなく静かに言い合いをしている。
徐々に表情が険しくなって来た殿下を見て父様の言葉を思い出した、このまま拒否し続けると殿下は強硬手段に出るかもしれない。それは困るから…妥協案を出さないと!
「うちの騎士もつきますから、王宮騎士は数名で距離を置いて護衛下さい。それなら…」
「…」
殿下は腕組みし暫く考えて
「ならば平民の装いで離れて護衛させよう。しかし少しでも危険と感じたら貴女の意思と関係なく介入させる。それが最大の譲歩だ」
『ここが妥協点ね』
こうして護衛を減らしてもらえる事になり、気が楽になった。
この後、母様の提案で嫌だけど殿下と庭を散歩する事になった。庭に出ると【金花】が咲き誇り甘い匂いがする。この花は貴族夫人が好む香りで香水に用いられる。花の香りは好きだが、香水にするとキツくてあまり好きじゃない。
殿下は気さくに話をふってくれ気まずくならずホッとする。そして庭の奥に行くと東屋が見えてきて、そこにはメルがお茶の用意し控えていた。恐らく母様の指示でツーショットを狙っての事だ。
『”ツーショット?”…もう考えるやめよう』
また自分の健康に不安を感じていたら、殿下が手を差し伸べ椅子に誘導した。
座ってお茶をいただくが殿下の甘い雰囲気に茶菓子に手が伸びない。そして
「私は夢見心地で毎日幸せなんだ」
「?」
「貴女は知らないだろうけど、幼い頃から貴女の瞳に映るのが夢だった。何度も教会を訪れ影から貴女を見ていたんだよ。見ているだけは我慢できず、偶然を装って突撃しようとしたりした」
殿下の告白に驚く。どうやら毎月の治療の日に教会に来ていたらしく、色々していたそうだ。
『王子ってそんなに暇なの?』
「教会と侯爵から貴女に会うのは17歳の誕生日が過ぎてからだと、何度も釘を刺されずっと我慢して来たんだ」
「知らなかったです」
そう言うと蕩けそうな眼差しを送った殿下は私の手を握り
「分かっているんだ。貴女が私を良く思ってない事は。しつこくアプローチして鬱陶しい男だろう?でも私は貴女への想いが止まらなくて…」
「はぁ…でも王太子である殿下が教会と父様の許可が要るのですか?王太子の権限でどうとでも…」
「王太子といえども無理な事はあるよ。こればかりは陛下でも無理だ。それだけ貴女は高貴な女性なのですよ」
殿下の言っている意味が分からない。でも私に向ける想いが深いのは分かった。でも正直言ってそれに応える義理はないから…
「殿下の想いは分かりました。ですが私にしたら最近降って湧いた話で、”はいそうですか”と受け取れるものではありません」
「よく分かっているよ。だからこれから私という男を知ってもらいたい」
「…」
殿下の話でまた疑問が。私が”漆黒の乙女”なのは生まれた時から分かっていたはず。なのに何故接触するのが17歳まで待たないといけなかったの?王子の妃に望むなら幼い頃から合流を持ち、早いうちから許嫁にしておけば確実に縁を持てるのに…
殿下の話の感じでは教会(ジン様)と父様が接触を許可をしなかったようだ。教会(ジン様)はまだしも侯爵の父様にそんな権限があるとは思えない。そんな事を考えていたら殿下が
「私は幼い頃から貴女にずっと片思いしている。やっと貴女と会え長年の想いが先走ってしまった。今回のロダンダ訪問で貴女ともっとお近づきになりたい」
そう言い真っ直ぐ見詰めてくる殿下。その瞳があまりにも真剣で冷たくできなかった。
殿下に手を離してもらいお茶を一口飲んで
「殿下のお気持は分かりました。ですが私はここ最近起こった出来事に気持ちが追いついていないのです。少し距離を取って知人としてゆっくり知り合っていきたい。
あまり追い込まれると私逃げたくなります」
そう言うと殿下は伸ばした手を引っ込めてお茶を飲み微笑んだ。そして私の意図をくみ取ってくれこの後はあからさまに口説く事は無く、他愛にない話をして夕方には帰られた。
殿下を見送り屋敷に戻ろとすると父様が呼び止め、頭を撫でながら”大丈夫か?”と聞きいてくれる。少し心が和んだら横から母様がもっと殿下と交流を持つようと小言を言ってきた。母様の小言は鬱陶しいので丸っと無視し部屋に戻った。
そして翌日また殿下は昼過ぎに屋敷を訪れ、散歩とお茶をする事になった。殿下の訪問を父様が許可しているので嫌と言えずロダンダ訪問の為と我慢している。
正直嫌だったが殿下の態度が変わり、穏やかでがっついた感じが無くなった。会話も他愛のない話しかしないし、口説く事も無く和やかに庭を散歩しお茶をしている。
恋愛感情抜きなら殿下と話をするのは嫌ではない。殿下は私の知らない城下のお店を紹介してくれたり貴族事情を教えてくれ聞くのは楽しく、あんなに嫌だった殿下の訪問は嫌では無くなっていった。
そしてロダンダ訪問前日、昼過ぎに王城に移動しこの日は王城で泊まる事になる。
煌びやかな馬車で殿下がお迎えに来られた。そして殿下は開口一番に父様に
「神に誓いミーナ嬢を守ると誓おう。安心して任せて欲しい」
「はい。よろしくお願いいたします」
父様がご挨拶をしている横で母様は私に殿下のお心に従う様にと言い聞かせている。何も言わず聞いてるが母様の話は右から左でなにを言われたのか全く覚えていない。興奮気味に母親面する母様に嫌悪を感じ顔を歪める。その様子に気付いた父様が母様の小言を諫めてくれやっと止んだ。出発の挨拶が終わりやっと出発する。そして同行する侯爵家の騎士が数名が騎乗し、私は殿下のエスコートで馬車に乗り込む。着席すると殿下が直ぐにひざ掛けを掛けてくれ微笑みながら窓の外を指さした。
窓の外には寂しそうな父様が見つめている。思わず窓を開けて手を振り
「行ってきます。必ず帰りますから!」
そう言うとやっと表情を緩める父様。こうして王城に向け馬車は出発した。楽しみ半分心細さ半分の私。殿下が私の顔を覗き込んで隣に座り
「不安そうな貴女に寄り添いたい。手を握ってもいいかい?」
前みたいに勝手に触れて来ない殿下に少し感心し、何故か殿下に手を取られる事は嫌では無かった。どうやら私は不安の様だ。
そして少し恥ずかしくて小さく頷くとゆっくり手を握る殿下。
剣を振るうからか手はごつごつとして固く、でもとても大きく温かい。殿下の事はまだ好きでは無いが、この温かさは今の私にはとてもありがたく、王城に着くまで殿下の手を握っていた。
殿下はずっと私を見ていて流石に恥ずかしく、照れ隠しに窓の外をずっと見ていた。
ゆっくり進んだ馬車はやっと城に着いて停車した。扉がノックされ殿下が返事をしたら扉が開き殿下が先に降りて、私に手を差し伸べてくれ殿下の手を借り馬車を降りた。
「!!」
「ミーナ嬢。よく来た歓迎しよう」
慌ててカーテシーをすると
「畏まらなくていい。王城に居る間は儂の事は父と思ってくれればいい」
「そんな!恐れ多い事で…あっ!この度は王太子殿下のロダンダ訪問に同行させていただき感謝いたします」
そう陛下と王妃様直々にお迎え頂いたのだ。凄い面々のお迎えに冷や汗が止まらず、『特別扱いやめて!』と心の中で叫んだ。
ロダンダ出発前から別宅に無事帰れるか不安になってきた。
陛下も殿下もちゃんと別宅に帰してくれるよね⁈
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