20.意外
新しい何かが始まりそうで、少しわくわくしてきて
翌朝、今度こそナーシャの所へ行こうと準備をしていると、ヘレンが綺麗な小箱を部屋に持ってきた。
「ヘレン何これ?」
「初心者向けで使い易いのでお使い下さい。そしてシュナによろしくと」
「?」
開けていいかと聞くと頷くヘレン。開けると…
「お針箱!えっと…」
「ヘレンはお嬢様が赤子の頃から見てきております。何を考え何をしたいかなど聞かなくとも分かりますわ」
「あはは…」
笑って誤魔化すしか無かった。どうやらクローゼットに有った水色の生地もヘレンが置いてくれ物だった。もしかしたら家出もバレてる?
目の前のヘレンはいつも通り穏やかに微笑んでいる。あまり余計な事は言わないでおこう。自爆しそうだ。
『ん?”じはく”って何?』
また知らない言葉が頭をよぎる。偶に変になる私。これも持病の症状なのかなぁ…
「お嬢様。リンが待っていますよ。お早く」
「うん。行ってきます」
久しぶりの遠乗りに興奮気味のリンを撫でて落ち着かせナーシャの元へ向かう。やっぱりついてくる騎士に何とも思わなくなった。
そして歪みの森が見えたら…
「あっ!また居る」
そうリアム様とキーファ様もいた。途端に背後の騎士に緊張が走る。
そして私に気付いたリアム様が手を振って近付いてくる。それにしても人見知りするリンが何故か穏やかで不思議だ。
「ご機嫌よう。今日も愛らしい!今からお友達の所ですか?」
「はい。リアム様は?」
「暫くここを離れるので貴女にご挨拶を」
「?」
どうやら1ヶ月程お家の都合でここを離れるそうだ。そこまで親しく無いのでそれ以上聞かなかった。そして私もここ以外のどこかに行けるかもと思うと、嬉しくて思わずポロリしてしまう。
「まだ決まってないんですけど、父様が許可して下さったらロダンダに行くんです」
「へ?貴女は確か病があると!」
「ジン様が許可を出してくれたんですよ。丁度ロダンダの建国祭があるらしくてすごく楽しみなんです。リアム様はロダンダに住んでいたそうですが、建国祭はどんな感じなんですか?」
「…あっ随分昔に行ったので、あまり覚えてなくて」
急に顔色が悪くなるリアム様。そして後ろに控えるキーファ様の眉間の皺がヤバい。
『私…失礼な事を言った?なんか気不味い』
「どなたと行かれるのですか?侯爵様ですか?」
「お誘い下さったのは王太子殿下なんです。でも王太子殿下と一緒に行くと妃候補にされそうなので、その辺が解決できればの話なんですがね?へ?」
許可なくリアム様は私に抱き着いた。拒む間も無く驚いて固まってしまう。
背後から騎士達が走ってくる。やっと頭が回り拒もうとしたら、耳元で小さな声で
「(ロダンダに)行かないで…」
「はぁ?」
「リアム様!」
キーファ様が後ろからリアム様を引き離してくれ、私はモリスに抱え込まれる。そして他の騎士が抜刀し一触即発!
すると直ぐにキーファ様が深く頭を下げて陳謝される。リアム様はまだ呆然としている。
事が大きくならないように、騎士に剣を収めるように言い、モリスに穏便に済ますようにお願いする。
「この事は侯爵様にも報告致します。そして正式に抗議いたします」
「もういいから!リアム様また同じ事が無きよう…」
「申し訳ございません」
リアム様も陳謝され一応この場は治まりリアム様と別れナーシャの元へ向かう。モリスは屋敷帰るように進言したけど、予定通りそのままナーシャの元へ向かった。
元々謎が多く意味不明なリアム様だが、今日の様子は明らかにおかしく気になった。
そんな私の感情が分かるのか、リンが心配そうに何度も私を見ている。
安心させる為に撫で声をかけてやる。
やっとナーシャの家に着き、早速シュナから裁縫を習う。不器用な私は少し縫うだけで指先にいっぱい穴をあけてしまい、シュナにもナーシャにも呆れられる。
「ミーナは貴族令嬢なんだからやっぱり裁縫より刺繍を習いな」
「いや!お洋服を縫いたいの。頑張るから見捨てないで!」
何とか基本の縫い方を習い小さい布巾を1枚縫う事ができた。服を1枚縫い上げるなんてまだまだ先になりそうだ。
いつもの様に優しい微笑みを湛えたシュナがお茶とクッキーを出してくれプチ女子会中。そこに凄い勢いでディーンがやって来た。
「どうしたの?」
「いや、ナーシャから…」
ディーンの話を遮る様にナーシャが立ち上がりディーンの手を取り外に出ていった。
意味が分からずシュナを見たら
「あらあら若いっていいわね〜」
「ん?そんな感じでは…」
するとナーシャだけ戻ってきて散歩に行こうと言。意味が分からないが何か話があるのだと察し一緒に外に出る。そこには気まずそうなディーンが居て、私を見るなり頭を”ぽんぽん”と軽く叩き先に丘の方の歩き出した。戸惑う私の手を引っ張りナーシャも歩き出す。
遠巻きにモリス達がついてくるので、視線を送りついて来ない様に指示する。でも父様から片時も離れるなと言われているから、私の指示はまっると無視された。
モリス達が離れた場所に待機している事を確認しディーンが唐突に
「ナーシャから聞いた。王太子とロダンダに行くのはやめた方がいい」
「え?何で?近い将来住むから事前に見ておきたいわ」
「この時期は人も多く治安が良く無い」
「ゆくゆくは住むんだから」
「頼むからやめてくれ」
何故か必死にロダンダ行きを阻止するディーン。意味が分からずナーシャを見ると困った顔をしている。私の知らない事があるのが分かり
「2人して私に言っていない事ない?」
「ない」
「本当に?」
頷くナーシャの顔は嘘を言っていない。でも何かあるのは分かる。少しの沈黙の後にディーンが
「もし、ロダンダに行くなら俺が従者になり付き添うよ」
「なら私も行きたい!侍女は無理だから下女でいいわ!何でもやるわよ」
2人が来てくれたら安心だし、移り住んでからの話もできるけど、いきなりの同行を言い出したのかが引っかかる。
そしてディーンは急に明るい顔をして
「そうだ!建国祭の下町はでもお祭りがある。ミーナは祭りも行った事ないだろう?屋台も沢山出て楽しいぞ」
なんかディーンの感情の振り幅が激しくついて行けない。するとナーシャが
「ミーナは周りの意見は総無視して自分のしたい様にすればいいの。ディーンは無視しちゃっていいからね」
「無視はしないでくれ!」
こうして一応ロダンダに行く方向で話が進んだ。2人の反応に若干の不安はあが、新しい何かに期待する方が大きい。
「失礼致します。お嬢様。そろそろお戻りを…」
「えっ!そんな時間?分かったわ」
こうして一旦ナーシャの家に戻り、シュナにお礼を言い帰る事にした。
帰り道いつもは後ろから距離をあけてついてくるモリスが何故が並走している。そして表情が険しい。
「お嬢様の友人の男ですが、恐らくこの国の者ではなく、ロダンダ出身者ですよ」
「そんな訳無いよ!ディーンに初めて会ったのは8歳で家族と一緒に隣の伯爵領から移り住んで来たんだよ」
「間なく届く調査報告が入れば明らかになります」
今日のディーンの反応に違和感を感じていたタイミングで、そんな話されたら不安になるじゃん!
「モリス。心配してくれるのは嬉しいけど、お仕えする者の身辺を調べるなんて、貴方にそんな権限が有ったかしら⁈貴方の事は信頼してるし頼りしているわ。だから私をガッカリさせないで。これ以上何かするなら怒るわよ」
「申し訳ございません。しかし!」
「何かするなら父様の許可を得なさい」
心配してくれているのはよく分かっているけど、やっぱり知らない所で何かされるのは気分が悪い。
モリスに苦言を呈しリンを急かし一人で先に帰った…勿論騎士の皆んなはしっかり追走してくる。
朝のテンション感はなく、ブルーな気分で早目にベッドに入りふて寝する。
「明日は父様が帰るわ。話したい事が沢山ある。早く明日になって…」
こうして無理やり眠ったが眠りが浅く何度も目が覚め寝不足で朝を迎えた。
起こしに来たアンが私の顔を見て驚き、ヘレンを呼び行った。そんな酷い顔をしているだろうか?鏡を見て
「ひっど!もうホラーだ?」
『あっまた知らない言葉だ』
ほんと最近の私って変だ。ドレッサーの前に座っているとヘレンが急いで部屋に来て、無言でベッドに寝かせフェイスマッサージを始めた。
何も言わないけど明らかに怒っている。
マッサージが終わったら、見計らったようにヴォルフが部屋に来た。
「お嬢様。寝不足は万病の元ですよ。お気をつけて下さい」
「はぁ…い」
「さて、旦那様はお昼過ぎ到着のご予定でございます。今日はお出かけはお控え下さい」
「うん」
やっと父様が帰ってくるのに出掛けるわけないじゃん!部屋でロダンダのガイドブックを読んだり、習った縫い物の練習をしてのんびり過ごす。そしてお昼前になりアンが部屋に来て
「お嬢様。昼食はいかがなさいますか?」
「父様も恐らく召し上がらずに帰ってくるから、一緒にいただくわ」
「畏まりました。そうなると昼食が遅くなりますので、お茶とお菓子をお持ちいたしましょうか?」
「うん。お願い」
本を読みながらお菓子を食べ待っていると、馬の嘶きが聞こえてきた。
『帰ってきた!』
部屋を飛び出し玄関に向かう。玄関に着くと父様とヴォルフが話をしている
「父様!」
思わず小さい子の様に父様に飛び付くと、大きな腕で抱き止めてくれ、思いっきりぎゅーとする。
「待たせたね。暫くはここに居るからね」
「うん!」
強く抱きしめてくれ頭を撫でてくれる父様。
すると急に背中暖かくなり、知っている香りがして
「姉上。私も帰ってきた事お忘れ無く」
「ザイラ!お帰り…」
再会を喜んでいたら盛大に私のお腹のベルが鳴り響き皆んな笑い出す。
「私も空腹だよ。まずは昼食を頂こう。ヴォルフ食事を用意してくれ」
「畏まりました。旦那様とザイラ様はまずはお召替えを」
父様とザイラは部屋に着替えに行き、私はサロンで待つ事にした。
「はぁ〜みんなで食べると美味しいから食べ過ぎちゃうよ!」
「姉上はもう少し膨よかになられてもいいかと…」
そう言い顔を赤くするザイラ。確かに持病があるせいか、この国女性に比べて上にも横にも小さい私。でもあまり大きくなるとリンが疲れちゃうから、この位がちょうど良い。
そして食事が終わると唐突に父様が
「っでミーナは王太子殿下のお誘いはどうするか決めたのか?」
「えっと…正直な私の気持ちはロダンダに行きたい!でも…王太子殿下とは別行動をし、側に誤解されたくありません。元々殿下の求婚は断っているんですから」
するとあっさり了承してくれる父様に唖然としてしまう。そしてまた驚く事を言い出す父様。
「ジン様と話を付け、治療はまだ必要だが、国内の短期間の旅行は許可された。丁度ザイラが領地運営を学ぶ為に、他の領地に赴く事が増える。同行し色々と見聞きして来るといい」
「本当にいいんですか?」
恐る恐る聞くと頷いてくれる父様。そしてザイラが
「姉上は今までいっぱい我慢なさったんです。その分私が色んなところへお連れしますよ」
予想外の展開に心躍り飛び跳ねたい気分だ!
これで治療が無くなれば最高なんだけど、治療はきっかり後5回残っている。これは無しにならないそうだ。
でも旅行出来るならあの痛い針も我慢するさ!
こうしてこの夜はまた別の理由で寝不足となり、翌朝またヘレンに叱られる事になった。
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