19.ロダンダ
嵐の様な自称祖父母が帰り静かな別宅。父様とザイラが帰ってくるまでに家出の話を進めたくて…
父様が本宅に戻り二度寝して起きたらお昼を過ぎ夕刻近くになっていた。今からナーシャの家に行くのは無理だ。仕方なく遅めの昼食を食べ、後は部屋でのんびり過ごす。
家出準備を自分で出来ない私はナーシャとディーンに頼んでいる。準備にお金がかかるだろうから渡さないといけない。クローゼットに隠している鍵が付きの木箱を開け中のお金を数える。
本来貴族令嬢はお金なんて持たない。少額はお付きの侍女や従僕が払い、高額になるとお店から後日に家に請求書が来るのが一般的。
私は森に住み友達や行動範囲が平民の為、昔からお小遣いをもらい自分で管理して来た。家を出ると決めてからは無駄遣いせずに貯金をしている。
10年近く貯めた甲斐があり30万ゼヨも貯まっていた。ロダンダに渡り暫く過ごせる位あるだろう。ロダンダはここボルディンと通貨と言語は同じで昔から交流の深い国だ。王家も長く血縁関係にあり、現ロダンダの王妃様は現ボルディン国王の実妹にあたる。
「お金の心配は要らないわね。後は…シュナに習う裁縫に使う布生地をっと」
クローゼットを探すと奥の端に薄水色の木綿の生地が見つけた。
「?」
全く記憶無い。でもまぁいいっか!明日持っていこう。
「お嬢様?」
「はぁ〜い!クローゼットにいるわ」
クローゼットから出るとヴォルフが手紙を持って来た。あれ?今日は少ない。打っても響かない私を諦めたのか恋文が半減した。
とは言え未だ5通ほど届いている。宛名を見て気付いた。前は男爵家や子爵家の令息から来ていたが今は高位貴族のみだ。宛名を見て固まる私にヴォルフが
「推測の域を出ませんが公爵家から圧力がかかった様です」
「そんな事あるの?」
「貴族社会では良くある事です」
やっぱり私は貴族社会で生息するのは無理だと実感する。そんな事を思いながら手紙を見ていたらルイス王太子殿下の名が目に付く。
面倒くさそうだから後に回したら笑顔のヴォルフに一番に読むように注意される。
誰も見てないから不敬に当たらないと思うけど、真面目な我が家の執事は許してくれない。仕方なく開封すると手紙と綺麗な押花の栞が入っている。
「この花は確か…リンドンだ…あ…」
思わず嫌な顔をしてしまう。栞を持ち苦い顔をした私を見て何とも言えない顔のヴォルフ。そうリンドンの花言葉は【永遠の愛】だ。なんとも重いモノをいただいてしまった。猛烈に送り返したい!もしくは燃してしまいたい!栞を持ち考え込む私にヴォルフの表情は渋く、まるで私の考えを見透かされているようだ。仕方なく栞をデーブルに置いて手紙に目を通すと、予想外の内容に思わず唖然としヴォルフが心配し声をかけてくる。
「お嬢様?」
「父様が戻るのは4日後だよね?」
「左様でございます」
「直ぐに父様に王太子殿下の手紙を送って!父様の指示を仰ぎたいの」
「畏まりました。ただ状況が分からないので、差し支え無ければ事情をご説明いただきたいのですが」
確かに…ヴォルフには言っておいた方がいいかも。手紙をヴォルフに渡し読んでいいと告げる。畏まりながら手紙を読み出したヴォルフは驚きを隠せないようだ。
「これは旦那様にお伺いしなければなりませんね。早馬を出しましょう」
「お願い」
こうしてヴォルフは足早に退室しソファーに寝転がり複雑な気持ちになる。
「行ってみたいけど殿下とは嫌だ。でも…」
落ち着かなくて気がつくと部屋を出て庭に出ていた。気付くと騎士のモリスが距離を置いて見守っている。
『敷地内なのに過保護だなぁ』
病のせいで私の周りの人は皆んな過保護だ。大切にしてくれて感謝はしている。でも自立した女性になる為に色々知り経験したい。
踵を返しモリスの前に行くと胸に手を当て微笑むモリス。背の高い彼を見上げ
「ねぇ。モリスのご実家は子爵家だったよね?」
「左様でございます」
「妹君がいらっしゃると聞いた事があるわ。妹君はその…」
「愚妹の話がお役に立つので有れば何でもお聞き下さい」
少し考えて…今聞きたい事を質問する。
「やっぱり皆んなそうなんだ…」
「お嬢様はお体の事がございますから、致し方無いかと…」
「ありがとう。確か妹君は近々嫁がれるって聞いたわ。大した事は出来ないけどお祝いさせてね」
「お気に掛けていただき幸せにございます」
妹君の話をするモリスの表情は優しい。兄妹の仲の良さが垣間見れる。少し心が温かくなり部屋に戻る事にした。
部屋に戻るとヴォルフが来て心配そうに
「お嬢様の思うままになされるといいと私は思います。治療もあと少しですし成人も近い。お嬢様がお決めになられた事は旦那様も周りの者も応援いたしますよ」
「ありがとう。しっかり考えるわ」
そう返事すると間も無く夕食だと伝えてヴォルフは退室して行った。少し時間があり本棚からロダンダのガイドブックを取り出し目を通しす。
やっぱり家出先のロダンダをこの目で見てみたい。でも知らない土地に行くのは少し怖い。どうしょう…早く父様の返事が欲しい。
『ただの観光や留学なら即決するけど、王太子殿下と一緒の時点で躊躇してしまう。どうせ妃候補いや…婚約者扱いされ外堀を埋められるのが目に見えている。でも…ロダンダに行ってみたい。って言うか森以外の所に行ってみたい…』
そう思い王太子殿下の手紙の内容を思い出していた。
ルイス王太子殿下の手紙はロダンダの外交に同行して欲しいというお願いだった。出発は次の治療の5日後で6日間滞在予定。王太子殿下のロダンダ訪問目的は、ロダンダの建国記念式典と王子が成人され王太子となられる祝いの宴に参列する事。ルイス王太子殿下はこの式典と宴に陛下の名代といて参列されるそうだ。そしてどこから聞きつけたのか知らないけど、私がロダンダに興味があるのを知り誘ってきた訳だ。手紙には教会(ジン様)の許可も取り付けたと書かれていた。
あれこれ考えていたらお腹が鳴った。悩んでもお腹は空くものだ。取りあえず食事に行き悩みの続きは食後にする事にしてダイニングに向かった。
こうしてこの後一晩悩み寝不足で迎えた翌朝。今日はナーシャの所へ向かうつもりで朝から用意をしていたらヴォルフが
「お嬢様。恐らく旦那様から何かしら連絡があると思われますので、今日は外出せず御在宅下さい」
「え…ナーシャの所に行こうと思っていたんだけど」
すこし考えたヴォルフはナーシャを別宅に呼んでくると言い従僕に指示をした。
『いや…話をしたいんじゃなくてシュナに裁縫を習いたいのと、家出の準備を色々したいんだけど…』
でもそんな事ヴォルフに言える訳も無く仕方なくナーシャを待つ事になって、騎士がナーシャを迎えに行く事になる。
暫くすると本宅のお父様から早馬で手紙が届いた。ちなみにまだナーシャは来ていない。
部屋で一人になり開封しすぐ読み始める。
『愛するミーナ。
殿下の手紙を拝読した。実は私の所にも陛下から手紙が届いたのだ。遺憾だがジン様はお前が国外に出る事を許可されお前が望めばロダンダに行くとこが出来る。しかし聡いお前なら気付いていると思うが王太子殿下とロダンダに訪問するという事は、求婚を受けた事と同義になる。例えお前にその気がなくともだ。そこを頭に入れて決めなさい。私はミーナの意思を尊重し助けになろう。
ちなみに今回のミーナのロダンダ同行についは陛下は全く関与されておられない。王太子殿下の一存で話が進んでいる。中々お前との仲が進まず王太子殿下は強硬手段に出た様だ。陛下もお前の判断に任せると仰っておられる。
まだ少し期間があるからゆっくり考えなさい。ちゃんとした答えは私が別宅に戻る3日後に聞かせて欲しい。いつもミーナを思い愛しているよ。』
「結局は私次第なんだ…」
手紙をヴォルフに渡し読んでいいと伝える。一読したヴォルフは父様と同じ考えだと言う。人の意見に左右される気は無いが少しは意見して欲しい。
“コンコン”
「お嬢様。ナーシャ嬢がお見えになられました」
「あ!部屋に通してお茶とお菓子をよろしくね」
「畏まりました」
ドア越しに返事をしたらヴォルフが礼をして退室していった。取り合えず何の柵もないナーシャの意見を聞いてみよう
「いきなり騎士様が迎えに来たからビックリしたわよ!何かあったの?」
「うん…ありすぎた」
そう言うとソファーに座りお茶を一口飲んだナーシャは真っ直ぐ私を見据えて
「さぁ!心づもりは出来たわ。何でも話して」
「うっうん」
そしてここ数日あった事を思い出しながらゆっくり話す。自称祖父母が来襲して来た事や実姉が居た事、それに王太子殿下からロダンダ同行を持ち掛けられている事。
ナーシャは驚い顔をしたり顰めたりと忙しそうだ。そして
「あんた去年までのんびり過ごしていたのにね…やっぱり家出すべきだよ」
「やっぱり?私もそう思う」
「でロダンダに行くの?」
「行きたい思いは強い。でも王太子殿下と一緒に行くと妃にされてしまいそうで嫌なの」
そう言うと茶菓子を一口食べてあっけらかんと
「ならそのままをおじ様に言ったらいいじゃん」
目を見開き固まってしまう。私の今の素直な気持ちはロダンに行きたい、でも王太子殿下の妃になりたくない。
でもそんな事を言えば父様は私の願いを叶える為に、また頑張り過ぎちゃうのが分かっているからそんな事言えない。今でも苦労をいっぱいさせているのに…
思わず俯くとナーシャは溜息を吐いて
「おじ様はミーナの為なら何でもする人だよ。ミーナが本心を隠し1人我慢をするよりも、どんな無理難題でも思っている事は言って欲しいと思うよ。もし無理ってなったらおじ様はちゃんと伝えてくれるし、諦めても次の事考えたらいいじゃん。答えを出す前から諦めたら何も出来ないし、何者にもなれないよ」
「あ…」
「おじ様はミーナの我儘は嬉しいはず。親の経験ないけど親ってそうなんじゃないの?」
「思っている事を言っていいのかなぁ?」
頷いて微笑んでくれるナーシャ。幼い頃から色んな事を制限され我慢して来たからここ一番我慢してしまう。でも…やっぱり…
「私ね。森以外の所に行きたいし、色んな事を見聞きし体験したい」
「なら決まりね!おじ様にロダンダに行きたいって言いなよ」
「うん!そうする。で!殿下の婚約者扱いされそうなら行かない!」
こうしてナーシャの一押しで心が決まった。
あ〜なんかスッキリした!
でもここである事が気になる。私が国外に出るのをジン様がOKしてくれたのなら、もっと行動範囲を広げてもいいって事?もしそうならロダンダに行けなくても、国内の行った事無い領地を旅行したい!よしこれも父様に相談してみよう。
そう思うともっと気が楽になった。そしてナーシャの隣に移動し抱き付く。偶にナーシャを姉の様に感じ無性に甘えたくなる。
ナーシャは抱き付く私を抱きしめ頭を撫でてくれる。私友達は少ないけど心から信頼できる人が傍にいて幸せだ。
そしてこの後ナーシャから準備が順調進んでいる事を聞き、更にテンションがあがり楽しくなって来た。あっそうだ!
徐にクローゼットに行き例の貯金を出しナーシャに渡す。皮袋を両手で持ち挙動不審になるナーシャ。
「ミーナは貴族令嬢だからこんな大金は平気だろうけど、平民の私は心臓がもたないわよ!」
「私でも大金だよ。10年近く貯めてきたらね」
「無理!怖くて持って帰れないわ。ミーナが家に来る時にちょっとずつ持って来てちょうだい!」
ナーシャか嫌がったので今日はとりあえず仕立ててもらった平服代だけ払う事にした。着々と進む家出準備に心躍る。そしてヴォルフが帰りの時間だと声をかけに来て、ナーシャを玄関まで見送りハグをして別れた。
昨晩は悩みすぎて寝不足だったから早目にベッドに入り、お休み5秒で深い眠りについた。
後2日で父様が帰ってくる。父様にいっぱい話したい事がある。自分でも分からないけど、森から飛び出して新しい何かを手に出来そうな予感がしていた。
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