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【未完停止中】彼女が騎士として生きるなら僕は賢者になってキミを守る  作者: 流成 玩斎
第一章 僕がまさかあの現象の対象になるなんて
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第八話 カレルの懸念




「ひ、ひとつお願いがあります」

 

 

 

 第二十二陣西方守護騎士団の本部にて、


 団長のカレルから騎士団への残留を提案されたカナタ。


 捕縛の可能性に怯えはしたが、全てを知れと言うガンツの言葉が脳裏に過り、葛藤の結果、自分自身を変える決意に至った。その上でカナタはカレルに一つの条件を提示し始める。


「お願い……何かな」


 眼鏡の奥の瞳が一瞬揺れたのはカナタの表情の変化に気付いたからなのか。カレルはカナタの言葉に興味を示した。


「その……こちらにお世話になるお話は、た、大変ありがたいのですが……」


 全てを見透かすようなカレルの眼差しを、すぐには見返す事が出来ず、カナタは下を向いたまま話し出す。


「た、ただお世話になるのは、こ、困るんです!」


「……ほう」


 カナタの発言に対し、更に関心を持ち始めたカレルは、ゆっくりと席から立ちあがると自分を頑なに見ようとしない少年へと近付いていく。そしてその華奢な体の少年を真上から見下ろせる位置にまで近寄るとその場で立ち止まった。


「それで?」


 すぐ傍にカレルの気配を感じたカナタは、頭上からの問いかけに応じ、おそるおそる目線を向けると、そこには涼し気な笑みを浮かべた紺碧の瞳を持つカレルが、カナタの次の言葉を待っているかの様に首を傾けていた。そして今度はその目を一時も逸らさずに見つめ返し、胸に秘めた決意を言葉にして彼に訴えた。


「……僕を……僕を騎士団で働かせて下さい」


「「「――!」」」


 カナタの発言にその場に居た全員が反応を示したのは、少年が言われるがままにカレルの提案を受け入れると確信していたからだろう。それ自体に何のデメリットもそして思惑も存在しなかったのだから。


「ふむ……うちに面倒を見られるだけの方がキミは楽なのに、どうしてだい?」


 カレルが三者総意の疑問を代表し、カナタが言った言葉の真意を問う。

 それを答える前に、カナタは自分の前に立つ相手から目を逸らさぬまま、一度だけ唾を飲み込むと、


「し、知りたいんです……この世界の事を。それには……僕が変わるしかなくて……」


「……」


 真剣な眼差しのカナタ。


 カレルがその目をじっと見つめたまま沈黙したその時、


「……くっくっ」


 カナタを含めた4人が居るこの部屋に、微かに笑いを堪える声が響いた。

 その声はあまりにも小さく、カナタの耳には届かなかった。

 そして、どういった意味を持つ笑いなのかは不明だが、その原因はカナタが原因である事に他ならないだろう。

 それに一早く気付いたカレルが、チラとその視線を声の主に向ける。


「何がそんなに可笑しいんだい? ガンツ」


 カレルが指摘した事で、他の二人がガンツの様子に気付きそちらに目を向けた。


「くっくっくはっはっはっはっはっは!」


 全員の注目を浴びたガンツは、これ以上耐えられないと言った風に笑いを堪える事を止め、盛大に笑い出す。

 

 カナタを含め、三人が怪訝な視線をガンツに向ける中、一通り笑い終えたガンツが目に溜まった涙を拭いながら、ようやく一息ついたかの様に入口近くのソファーへと腰を下ろす。


「ガンツ。そろそろ笑った訳を教えてくれないかい」


 ガンツが落ち着くのを見計らってか、澄ました声でカレルが尋ねる。


「ひっひっ……ああすまねえ。いやガキが面白くてついな」

 

「……」


 ガンツの哄笑は自分の発言が原因だった事が分かったカナタは、ますます怪訝な目をガンツに向けた。


「カレルよ。いいじゃねーか。ガキが騎士団で稼ぎたいって言ってんだ。うちはタダで飯食わすような慈善団体でもねーだろう?」


 そう言ってソファーに背中を預け、前のテーブルにドンと足を投げ出すガンツ。


「おっ……ガンツ殿!!」


 上官、それも騎士団の団長を前に不遜な態度を改めさせようとボニータがガンツを叱責するが、いつもの呼び方で叫びそうになり、慌てて訂正する。


「嬢ちゃんも見習ったらどうだい? ガキは変わりたいんだってよ。くっくっ」


「くっ!!」


 自分の忠告に全く耳を向けない態度のガンツに自室での件を掘り返され、思わず歯噛みするボニータ。


「ガンツ。キミは賛成なのかい? カナタくんの申し出を」


「ああ俺は大賛成だ。ガキがせっかくやる気出してんだしな!」


 ガンツの意見を聞いたカレルの口角が微かに上がる。


「分かった。キミの意見を採用しようじゃないか」


「カレル団長!!」


 横暴な態度のガンツが許せなかったのか、それを部下に追及もせず尚且つその意を汲んだカレルをボニータが暗に責める。


「だから彼の面倒はガンツ、キミに頼む事にするよ」


「「「えっ!?」」」


 言質は取った。とでも言う顔でカレルがカナタの世話役をガンツに任命する。


 その言葉に他の三者が同時に驚く。


「ちょちょちょちょちょっと待てよ! な、なんで俺がっ!」


 一任されたガンツが慌ててソファーから飛び上がりカレルに詰め寄る。

 まさに寝耳に水といった風なガンツに対し、カレルは涼しい顔だ。


「これは団長命令だよ。ガンツ」


「きっ、汚たねえって! カレルお前こんな時に限ってにそれを……!!」


「あはは。もう決定事項だから諦めてくれ」


「くっ!」


 ガンツとカレルのやり取りの中、カナタの世話役はガンツでほぼ決定事項となり、勝手に話が進んでいく事に不安を感じたのか、揉めあう二人の会話に思わず口を挟んだ。


「あ、あの~カレル団長、ほ、他にないんでしょうか? 僕もガンツさんじゃちょっと……」


「ほ、ほれ見ろ! 俺じゃちょっとって部分がムカつくが、ガキもこう言ってるじゃねーか!」


 ガンツを世話役にと主張するカレルにカナタが不満を述べると、それに乗じたガンツもこれ幸いにとそれを後押しする。


「うーん。申し訳ないがキミのその体格じゃあ騎士の仕事は無理だし、他に暇そうな適任者がねえ……」


「ひ、暇ってお前……」


「さ、流石に騎士になりたいとまでは僕……」


「うんうん。だから衛生班長のガンツのところでまずは雑用から始めてみようじゃないか」


「ざ、雑用ですか……そ、それなら」


「お、おい待てガキっ! お前納得するのが早過ぎるだろうがっ! もうちっと粘れって!」


「む、無理です」


「くう~~っ!」


 乗り込んだ船が早々に沈没してしまい、一人海に投げ出された孤独な救助者の様な心境のガンツが、聞き分けの良過ぎる船主に激を飛ばすが、残念ながらすでに海底まで沈んだ後だった。

 

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 

「じゃあ、カナタくんの件は追って正式な命令書出しとくから、ボニータくん宜しく頼んだよ」


「はっ。了解しました!」


「よろしい。いつも良い返事だね」


 そう言ってカレルがボニータの頭を撫でた。


「あっ」


 カレルの手が自分の頭に乗った事に驚いたボニータが思わず声をあげる。

そして、瞬く間に少女の顔が女になっていく。


「あ、ごめん。つい昔みたいに撫でてしまった」


 ボニータの幼少時からの付き合いなのだろうか、まるで子供を褒める様な撫で方をして、ハッと我に返ったカレルが、申し訳なさそうにボニータに謝る。


「い、いえ。大丈夫……です」


 真っ赤な顔で俯くボニータの表情はこちらからは伺えないが、経験値が少ないながらも、流石にこの二人の雰囲気とボニータのあまりにも乙女な態度を見れば、それが何を意味するのかをカナタが理解するには十分な材料だった。


(そっか、ボニータさんは……)


 バシッ!


「あ痛っ!」


 生暖かい笑みを浮かべるカナタの頭にまたしても一撃が食らわされた。


「なーにニヤニヤしてんだ、気持ち悪い」


「そー何度もポンポン叩かないでくださいよ、地味に痛いんですからー」


「うっせ!()()()の仇だ」


 ガンツがカナタの頭を叩きながら小声で絡む。

まるで他人の恋路を邪魔するなとでも言いたげだが、カナタ自身も野暮な性分を持ち合わせていないので、ガンツの野蛮な行為に抗議しつつも、ボニータに対し少し露骨な注視をしていたのを反省した。


「えーっと、じゃあ話を戻すとしようか」


 パンと両掌を胸の前で鳴らし、仕切り直しだと言わんばかりに、カレルはボニータからすっと離れる。


 頭から手を離されたボニータは、あっ、と名残惜しげに囁いた後、身に着けた制服の皺をわざとらしく直し、軽く咳を一つして佇まいを正す。


「カナタ殿の話によりますと、遭遇した後にミスリル帝は西の山岳地帯へ飛び去った模様です」


竜牙(りゅうが)山脈か。まあ、あの辺りがドラゴン達の生息地だから当然だろうな」


 まるで先程の甘い雰囲気が無かったかの様に、ボニータからの説明を受けたカレルが真剣に答える。

 これ以上野暮な詮索はすまいと、カナタは気持ちを切り替えて二人の会話に耳を傾ける。


「過去の文献によれば、ミスリル帝はその存在に脅威こそあれど、好んで人里を襲ったりした記録は無い様だし、とりあえず発見された事で生存確認はされたって事かな」


「でも、そんな大物に今後もグラナダ平原を彷徨かれると……」


「そうだね。平原に生息する他の動物や魔物の活動範囲が変わってしまい、我々の生活圏内にも影響が出るかもしれない」


「やはり、ドラゴン襲来の可能性も含め、平原の警備を強化する為に人員を増やすしかないんでしょうか」


「我々人間はちっぽけな存在だからねえ。ドラゴンのボスがわざわざ興味を示すとは思えなくもないんだけど、出来る事はやっとくしかないかなあ。」


「昨晩()()()の宿舎に招いた増員ではまだ足りないかと」


「今回の増員分の天幕の増設は急がせてあるけど、更なる増員となると……うーん。また領主殿にお願いに上がらないといけないなあ」


 カレルがやれやれといった風に話を〆る。


 実際にミスリル帝と呼ばれるドラゴンと対峙したカナタからすれば、カレルの意見が正解だと思うのだが、あのドラゴンが言った様に、人と竜は会話が出来ないと認知されている以上、軽はずみにドラゴンは人間を食べても物足りないらしいとは言えない。


 カナタに与えられたスキルが世間一般的なものだとしたら、大手を振って得意げに話せるのだろうが、それが〝世渡りびと〟特有のチカラだとすれば、流石にここで知られるのは不味い。


 正直に話せない事で、無駄に騎士団に負担を掛けるのは忍びないが、自身の今後の命運がかかっている故に沈黙を貫くしかない。


 二人の会話を聞きながら、カナタは居心地の悪さを感じつつ、先程、カレルの提案を受け、騎士団に世話になる事を望んだはずが、今はそれさえ放り投げて逃げ出したいと思っている自分の優柔不断さ、自分勝手さに気分が悪くなる。


「おい、気分でも悪いのか?」


 顔色の悪いカナタに気づいたのか、ガンツが声をかけた。


「あ、いや、大丈夫です」


「そっか。それなら良いがあんま無理すんな。お前は記憶が無い状態で昨日ずっと平原を歩き回ってたんだ。まだその疲れが残っててもおかしくねー」


 衛生班の性であろうか、普段の粗野な態度とは違い、相手の少しの変化や体調面に、それとなく気遣いを見せるガンツの意外性にカナタは内心驚いた。


「んーなんか失礼な事考えてねーか? お前」


「な、何も考えてませんっ」


 顔色だけでなく、心まで読んでくるガンツに舌を巻くカナタ。


「お疲れの様だねカナタくん。だが申し訳ない。キミにはまだカードの再発行手続きが残ってるんだよ」


「あ」


 パーソナル・カードの事をすっかり失念していたカナタがカレルの一言で思い出し、思わす声をあげる。そしてその事を指摘したカレルが机に置いてあった全く音を立てない呼び鈴を鳴らす。


 しばらくすると扉の向こうから足音が聞こえ、ガチャリと音を立ててその扉が開かれる。


「お呼びでしょうか。団長」


 落ち着いた雰囲気のあるピンク色の長い髪を後ろに束ねた聡明な女性が現れ、呼び出したカレルに用件を尋ねる。入室許可を待たずに直接入って来たのは呼び鈴を鳴らす事でその許可を省いているようだ。


「忙しいところすまないね。実はさっきお願いしてたカード再発行の事なんだけどーー」


「はい。すでに準備出来ております」


 カレルが用件を伝えると、優し気な笑みを浮かべたピンク髪の女性が透き通る様な声でやんわりと答えた。


「流石だねーミランくん。じゃあこの少年が再発行希望者のカナタくんだから、よろしく頼んだよー」


 カレルにミランと呼ばれたピンク髪の女性は、〝パーソナル・カード〟の再発行を任されているらしい。カレルに一任されると、カナタの方を向き、すうっと近寄り軽く会釈をする。


「はじめましてカナタさま。本日、カード再発行のお役目を務めさせていただきます、ゼペット・ミラン・マリアージュと申します。」


 内勤専属の制服なのか、丸みを帯びたそのスカートの両端をそれぞれ摘み、優雅で品のある所作を見せるミラン。初めて貴族らしい挨拶を受けたカナタは、惚けた顔でミランを見つめたまま立ちつくす。


「貴族の挨拶だけで惚けてる〝()()()()()〟のお前に一つ教えとく。貴族の名前のことだ」


「え?」


 背後からガンツがカナタの耳元で囁いた。


「この世界で貴族が名乗る時、一番最初に近親者、つまりは親父の名前を名乗る。その次に自分の名前、最後はその一族の家名だ」


「なるほど……って、じゃあボニータさんのアーヴェインって名前は……」


「今朝食堂で嬢ちゃんが名乗ってたの聞いてなかったな?あれは親父の名前だよ」


「はあ。てっきりアーヴェインて苗字なのかと思ってた」


「……お前、それ世間で言ったら殺されるぞ」


「えっ?」


「なんでもねえ気にすんな。ホレ、ミランちゃんが待ってるぞ」


「あ」


 ミランがクスクスと口元を隠しながら笑っているのに気付き、慌ててミランに向き直る。


「か、カナタです。ご丁寧にありがとうございます」


「いえこちらこそ。再発行は別室で行いますので、これからそちらにご案内致します」


 年齢はカナタより少し上なのか、この仕事に慣れた様子でこの後の説明を始めるミラン。

もうこの部屋から出ても良いのか判断のつかないカナタは後ろにいる三人へ振り返った。


「えっと、僕はもう行っても大丈夫ですかね?」


「うん、良いよ。行ってらっしゃい」


「あ、えっとそれじゃあ、お邪魔しましーー」


「あ、ちょっと待って」


 退室の許可を得たカナタが、扉を開けてこちらを待つミランの隣に行き、振り返って頭を下げて挨拶をしようとした時、再度カレルから呼び止められる。


「ボニータくんも彼に付き添ってあげてくれないかな」


 呼び止められたカナタが頭を上げると、ちょうどカレルがボニータの肩に手をやって指示を出しているところだった。


「えっ、ワタシがですか?」


 何故?と言う顔でカレルを見つめるボニータ。付き添いが必要かどうかはカナタには判らないが、ボニータの困惑した顔を見るに、要らないのが普通らしい。


「報告も終わったし、私はちょいとガンツに用事があるんでね。カナタくんにとってここは慣れない場所だろうから、キミに付いて居てあげてほしい」


「は、はあ。りょう……かい……しました…」


 幾分、納得のいかない態度でボニータが了承する。そんな彼女の気持ちを知ってか知らないでか、何食わぬ顔でニコリと笑うカレル。


「では、お二方あちらにご案内しますね」  


 カレルの指示により一名追加された事をすぐさま承知したのか、ミランがボニータも含めてカナタに案内の声をかけると、そのまま三人連れ立って部屋を出て行った。

 

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 

「で、ガンツ。あの少年をどう思う?」


 先程まで大所帯だった執務室は、残された二人では広すぎる空間へと様変わりをする。カナタ達が出て行ってからしばらく沈黙を貫いていたカレルが、別室から扉が閉まる音を聞き終えると共に口を開いた。


「どうって、ありゃあ普通のガキだろ」


 上官の前であるにも関わらず、ソファーで横になり仰向けに寝たままのガンツは、目を瞑った状態でその問いに答えた。


()()も同意見だが、いくつか疑問がある」


「……」


「まず一つ。何故グラナダ平原に一人で居たのか」


「知らねえよ。クソでもしてたんじゃねーのか? ひっひっひ」


「次に、ミスリル帝の鱗を拾える距離に居て無事だった事」


「……魔素か」


「ああ。ドラゴンから溢れる高濃度の魔素に耐えたんだ。何か魔術的な処理でもされた装備でないと普通は魔素中毒にやられる」


「しかも相手はドラゴンの親玉……ハンパねぇ魔素を纏ってやがるだろうしな」


「〝黄昏れびと〟って証言も自己申告だ」


「帝国の諜者(ちょうじゃ)……か?」


「可能性は否定出来ない」


 そう言ってカレルはガンツが寝そべるソファーの前にテーブルを挟んで対になったもう一台のソファーに座り、じっとガンツを見つめる。


 その視線に気付いたのか、ガンツは閉じていた片方の目だけを開け、カレルを見返す。ニコリと笑みを浮かべた相手は何を考えているのか周囲の人間には計りかねるだろう。

長い付き合い、いわゆる腐れ縁のガンツには同じ笑みであっても、その違いが分かる程には目の前の男とは共に過ごして来た時間があった。


「俺は大丈夫だと思うぜ」


「へえ」


 ガンツの言葉が意外だったのか、カレルが珍しい物でも見たように驚いてみせた。


「顔見りゃ分かる。ありゃー普通のガキの顔だ。修羅場くぐって来た面じゃねーよ」


「ははは。えらく彼が気に入ったみたいだねー」


 まるで親友に彼女が出来て、それを茶化すかの様に、カレルはガンツに絡んだ。


「うっせ! ただの勘だよ」


「勘か。まあ信じるとしようかな……。それに、カードが発行されれば少なくとも今より彼の素情も明らかにされるだろうし」


「やっかいなスキルの一つでも出て来たらさっきの諜者の話、信じてやるよ」


「ははは。もし出て来たらキミは諜者の面倒を見てた売国者だね」


「その件だが、お前……俺を嵌めただろ。嫌だかんな! ガキの面倒見んのは」


「はっはっは。それをキミが言うのかい?」


「うっせ! 俺にはもう手いっぱいだっつーの」


 そう言ってガンツは拗ねた様に寝そべったままでソファーの背もたれの方を向いてしまう。


 拗ねさせたカレルはため息をつきながらも話を続ける。


「彼のあの様子だとボクはちょっと嫌われてしまったかもね」


「……」


 話題の選択を間違えたのか、ガンツはそれに反応せず背もたれの方を向いたままだ。


「……まあ、あの年頃は扱いが面倒だからな」


 かに思えたが、ガンツは少し間を置いて返事を返す。話題の選択は間違えてはいないようだ。


「流石、年頃の娘を持つ親の意見は違うなあ」


「茶化すなって。ちげーわ、あんなガキとうちの娘と一緒にすんな!」


 以外にも妻子持ちだったのか、娘の話題を持ち出されたガンツが、背もたれから振り返るとムキになってカレルに反論した。


「もう15だったか。早いな……」


「ああ。もう一年も会ってねぇ……」


 はあっと、ため息をついて、ガンツは両方の目を開けると、少し遠い目で天井を見つめる。


「キミが追放されてすぐにうちが拾ってからもう一年経ったか」


「それについては助かった。ありがとよ」


「ははは。まあ、あれはやり過ぎだよ」


 二人が共通の話題に触れ、その当時を思い出したのか、お互いに少し苦笑いで頷き合う。


「……それよりもだ」


「ああ」


 先程までとは打って変わった様な雰囲気になる二人。重い雰囲気のせいか、寝そべっていたガンツが体を起こし、佇まいを直す。


(あお)のミスリル帝はこの際置いとくとして、問題はーー」


(あか)か」


「ああ、100年ぶりにミスリル帝が動き出した以上、文献に記されている対の紅も必ず動くに違いない。我々としては紅の方が厄介だ。奴は人族を何度も襲っている」


「嬢ちゃんには言わなくて良かったのか?」


「真面目な彼女の事だ。今知れば必ず独走してしまうよ」


「……」


「どのみちそう遠くないうちに全ての住人が知る事になるしね」


「あのガキのおかげで俺たちが事前に気付いて良かったってわけか」


「良い意味に取ればね。逆に彼が招き入れたとも取れるけど。ふふふ」


「ケッ」


 カナタの来訪が吉となるか凶となるかはまだ分からない。といった含みを持たせるカレルに、ガンツは吐き捨てるように応えた。


「ニコニコしててもやっぱお前は性格悪いわ」


「ははは。相変わらず失礼だなあーキミは。それよりもグラナダ平原から無事生還出来た、彼の運の良さにあやかってみようじゃないか」



 そんな、ガンツの批判をかわしながら、心にも無い前向きな発言で目の前の悪友を茶化すカレルだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


続きが気になった方は、良かったらブクマ・お気に・評価・感想などよろしくお願いします。


作者のモチベが爆上がりします。


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