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【未完停止中】彼女が騎士として生きるなら僕は賢者になってキミを守る  作者: 流成 玩斎
第一章 僕がまさかあの現象の対象になるなんて
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第十七話 インシデント




「ボニータさんっ、し、シルビアさんが……」




 目の前で起きた突然の出来事。

 まだ知り合って間もない酒場の女給。


 思わずシルビアと呼んだ相手がオーガのような男の腕の中に捕まり、首元には男が隠し持っていたナイフが突き付けられている。


 情けなくも自分ではどうする事も出来ないこの状況を目にし、カナタはそれを唯一解決出来るであろう人物。隣に立つ騎士団隊長ボニータへと救護を求めた。


「分かっている」


 騎士モードのボニータがそう一言だけ発すると、その足を一歩前に進める。


「!」


 シルビアを救うべく前に出た途端ボニータの目が何かを捉えたのか、次の一歩を躊躇させた。


「ぐあっ!」


 シルビアを人質に取り絶対的有利に立っていたはずのオーガのごとく強大な男が、突然攻撃でも受けたかのような悲痛な声を上げる。


 その丸太のような腕には何かが突き刺さったような跡があり、そこからは悪鬼の赤い血が滴り落ちている。それと同時にシルビアの首筋に当てていたナイフが地面に落ちた。


「えっ?」


 ボニータの後ろからその状況を見ていたカナタが疑問に満ちた声を漏らす。


 カナタでなくとも目の前の状況に同様の感情を抱いたのはこの場にいる他の客たちも同じであり、騎士団隊長ボニータもそれに変わりはなかった。


「イケナイ()()()には……お仕置きが必要かしら」


「な、なに……があっ!!」


 自分の腕の中で小さく震えていると思い込んでいたシルビアの涼しげな声を聞いたオーガ2号は、腕に続き今度は顎から脳天を貫く程の強烈な衝撃を受け思わず後ろに仰け反ってしまう。


 それと同時にシルビアは解放され、後ろに大きくのけ反ったオーガ2号が顎を押さえながらもなんとかその場に踏ん張り立つと、手放したシルビアを忌々しく睨んだ。


「あら、固いんだ。二回も()()のに」


 オーガ2号が睨んだ先には、感心した表情で銀色に光るトレイを掲げた女給シルビアが、意味深な言葉を呟きながらオーガ2号を見据えていた。


「な、なんだ……ぐっ……そ、そのトレイは……俺に()()もぶつけて……なぜ何ともない…んだっ!」


 下を向いた時にややカウンター気味に顎への強烈な一撃を食らったせいか、会話に支障をきたせながらもシルビアが持つ銀のトレイに傷一つ、ましてや凹みもしていない状態に、オーガ2号が疑問をぶつける。


「ああ。これミスリル製ですもの」


「なっ、なにいぃ! みっ……ミスリルだとぉ?」


 さも当然のように魔法金属であるミスリルの名を出したシルビアを、驚愕の表情で睨むオーガ2号。


 それは二人の間に交わされた会話で終わるはずもなく周囲にも当然伝わり、困惑した客達が騒然とする。


「お、おい。あれミスリルだったのか」


「前に別の女給にちょっかいかけた奴が、あれで小突かれてエラく痛がってたぞ」


「なあ、あんな高級素材を丸々ただのトレイに使うってどうなんだ?」


「ミスリルトレイってもう武器じゃないのか」


 周囲のざわめきにイラつきを隠せないオーガ2号が、痛みを振り切り叫び声を上げる。


「うおおおおおおお!! ふっ、ふざけやがってぇぇぇぇぇ!!!」


 自分よりもはるかに華奢な見た目の女にコケにされた事で怒り狂ったオーガ2号がシルビアへと迫った。


 そして天高く振り上げたその太く強靭な剛腕をシルビアの顔面へと撃ち放つ。


「キャッ」


 護身用なのか、いかに強固なミスリルトレイを持ち合わせていようとも、本気を出したオーガ2号の繰り出す攻撃が迫ると、か弱きシルビアは何も出来ずにその場にすくんでしまう。


「ふははははは!!」


 高笑いするオーガ2号の拳が、シルビアへあと数センチに迫った時、


「騎士スキル――」


 それは一瞬の出来事だった。


 カナタでさえ、目の前で起きようとしている惨劇の瞬間は避けられそうにないと分かっていた。その目をギュッと閉じ、己の耳に訪れるであろう悲鳴と肉体が潰れる鈍い音に備えた時、ボニータの呟きを聞く。


 その瞬間、予想した悲劇の音色の代わりに聞こえて来たのは、感極まった観客達の声だった。


「――!?」


 何かが起きた事は理解出来た。


 それが不幸な惨劇では無い事だと。


 閉じていた眼をゆっくりと開いたカナタの瞳に映ったのは、

 目の前にいたはずのボニータが明らかに走って追いつくほどの距離ではないその先に立ち、打ち出されたオーガ2号の巨大な拳をその細腕一本で受け止めている場面だった。


「うそ……」


 信じがたい状況に思考が追いつかないカナタ。

 その背後からそれを補うべき言葉が突然耳に響く。


「あれが俺達のチカラ。()()()()()だ」


「ーー!」


 カナタが振り向くとそこにはいつの間にか側まで来ていたガンツが立っていた。


「きし……すきる?」


 短いながらも騎士団のメンバー達と過ごしたこの二日間、全く耳にしなかったその言葉にカナタは間の抜けた返事をしてしまう。


「ああ。騎士になるとそれぞれに授かるチカラだ。そのスキルが嬢ちゃんをあそこに飛ばしたんだよ」


「そ、そんな事が……」


「それよりも嬢ちゃんが活躍するとこ、ちゃんと見ててやれよ」


「え、あっ……はい!」


 ガンツに促されたカナタは前を向き、ボニータ達を行く末を見守る事にした。





「き、騎士団の奴かっ!」


 渾身の一撃を、フード姿の小柄な人物に受け止められた事で、それが騎士だと直感したオーガ2号が苛立った声を上げる。


 そんなオーガ2号に対し、凛とした表情のボニータが口を開いた。


「この店に我々がいる事も知らずに暴れたのか? それとも知っていてこんな愚行を働く愚者なのか?」

 

 騎士モードになったボニータは、まるで呪い兜のアーヴェインのような口調で目の前の男を挑発する。


「ちいっ。ち、ちょっと暴れただけで、わざわざ出やがって」


 先程から掴まれた腕を動かそうとするオーガ2号だが、ボニータの手からまったく離れない事に焦りを感じた。


「お前のちょっとはこの女性を命の危険にさらす程度なのか?そんな横暴、騎士としては見逃せないのだが」


「うるせえ! そんな貧相な身なりで騎士とか笑わせるなよ!()()()()()!!」


「あ」


 激昂したオーガ2号がボニータの言葉に反論し、


 それと同時にシルビアが声を漏らした。


 その瞬間オーガ2号の巨体が客の頭上を飛び越え、店の壁へと吹っ飛んだ。


「ぐあぁっ!!」


 頑丈なはずの壁板は豪快にへし折れ、その衝撃にオーガ2号も堪らず声を上げる。


 一瞬でその巨体を投げ飛ばしたのは、オーガ2号にチビと呼ばれ激高したボニータだったがそのせいで女性とバレないよう被っていたフードがズレ落ち真っ赤な髪を晒す。


「あ」


 先程のシルビアと同じようにカナタも思わず声をあげるが、その声が届く事はなく激高したままのボニータもフードがズレた事にも気付かない。


 その様子に周囲の客たちがまたもざわつきだす。


「おい……あの騎士」


「ああ。女だ」


「女の騎士だって? 大丈夫なのか」


「でもさっき男を投げ飛ばしたぞ?」


 そんな周囲の声さえ聞こえない程ボニータの怒りは収まらない。

 ムッとした表情のままオーガの下に歩み寄ると、その先に群がっている客たちがいっせいに道を開ける。

 

「はあ。ボニータちゃんあれ弁償ーーー」


「うっさい」


 破壊された壁を見て、ため息をつきながら呟くシルビアの言葉をボニータが制止し、投げ飛ばした先からこちらを驚愕の眼差しで見ているオーガ2号に対して、ビッと人差し指を突き出してこう叫んだ。


「アタシにチビって言ったわねっ!」


 怒りの為か、すでに言葉遣いが素に戻っているのを本人も気付いていないのだろう。膝を付いたオウガ2号の前に立ち、指を突き付けたまま睨みつけている。


「あ、あれ?」


「あーらら。嬢ちゃんの悪いクセが出ちまった」


 素に戻ったボニータの様子に困惑するカナタの後ろで、ガンツが不穏な発言をする。


「ぐうっ……ち、チビのくせになんてチカラしてんだっ!」


 己の何倍もの巨体であろう自分を軽々と投げ飛ばしてしまう騎士のチカラにオーガ2号が呻いた。


「あーっ、また言った!」


「こんのぉぉぉバケモノめえぇぇっ!!」


 腹の底から響く唸り声と共にオーガ2号が勢いよく立ち上がり、再び剛腕を振り上げると、むくれ顔のボニータへと殴りかかる。


 だがその拳が目前に迫り狂うにも関わらずボニータに緊迫した様子は見えない。それどころか逆にオーガ2号をキッと睨んだ。


「もうゆるさないんだからねっ!」


 拳を躱し瞬時にオーガ2号の背後頭上に現れたボニータがその身を回転させ、いきなり目の前の標的を見失いバランスを崩した悪鬼の脳天へと強烈な踵落としを食らわせる。


「ぐぷぺっっ!!」


 顎に加え頭にも致命的な一撃を喰らったオーガ2号は潰されたカエルのような声をあげ、その場に叩きつけられると同時に動きを止めた。


「フンっ」


 未だ怒りの収まらない様子のボニータが、頭から地面に突っ込んで動かなくなったオーガ2号の横に降り立つ。




 流れるような展開に周囲はしんと静まり返っていた。

 


 未だ自分が小柄な美少女としてその姿を晒している事に気付いていないボニータに、たまらずカナタは声をかける。


「ぼ、ボニータさん! ふ、フード取れてますって!」 


「えっ! あ……」


 カナタの言葉でようやく自分の状態に気付いたボニータ。

 そこでようやく周りの目に気付いたのか、急に表情を暗くする。


「か、兜……」


 市民の前では騎士隊長アーヴェインである事を心掛けていたボニータ。

 その根本的理由はこの世界の常識である女性や亜人に多く見られる地位の低さだった。女性は種族を増やす道具としてしか見られず、貴族を始め多くの一般市民の男までがそう解釈している。


 故に女が地位を求め、男よりも活躍する場に居てはならないと。そう言った理論がまかり通る世界であった。


 亜人に関しては特に酷い物で、家畜や奴隷と同じ扱いを受ける事もあり、王国では徐々にそう言った風習や習慣が消えつつあったものの、他国においては未だ劣悪な環境に置かれているのが現状だ。



 そういった時代背景もあり、一部では女性騎士の登用など、変革の兆しを見せてはいるが、変わらない偏見が残っているのも事実であった。


 女性騎士不遇。


 未だに根付く亜人や女性の地位問題。


 呪われた兜を被り、偽りの自分を演じ、周囲の批判から逃げていたボニータも騎士団への入団当初は好機の目に晒された。


 街ゆく市民の目は冷たく同性である女性達からも歓迎されなかった。


 同じく古い考えの親達から教育を受けた町の子供達からも石を投げられる事もあり屈辱の日々も多々あった。


 隊長に昇格してからも、それをやっかむ同僚からの嫌がらせ。未だに悪質な物もあり、周囲には話せない悩みもあった。


 そういった苦い経験が今この瞬間、走馬灯の様にボニータを襲う。


「あ、あ……」


 沈黙の時間が長引けば長引く程、ボニータの胸中を抉る記憶が蘇っていく。


 この場から逃げ出したい気持ちにかられ、ボニータの足が一本、後ろに下がった時、




 ― パチパチパチ ー




 客たちの中から拍手が聞こえた。


 「……え?」


 まだ少ないとはいえ、突然始まった拍手の方へボニータが目を向ける



 その彼女が人混みの中に見つけたのはカナタだった。



「カナタ……くん?」


 その拍手を一人で奏でるのはシンとした場の雰囲気を読まず、満面の笑みでボニータを称えようとしているカナタだ。


 止めてと、ボニータは内心叫びたかった。


 今貴方のやっている事を誰も望んではいない。


 全ては変わらないのだ。


 世界は何も変化を期待してはいないと。



 しかしカナタは止めなかった。


 叩き続ける手のひらは既に赤く、痛みさえあった。


 けれどもこの称賛を止めてはいけない。


 ボニータの暗い顔を見たくは無かった。


 この行動は男女に関係なく、彼女個人として称えられるべきだと。


 目の前で苦渋の表情をこちらに向けるボニータから「止めて」と懇願されるその時までこの拍手をやめるつもりはなかった。


 カナタとボニータの視線が交わり、徐々にボニータの口が開き始め、この無意味な茶番の終わりを告げようとした時、




 ー パチ ー




 それはどこからともなく聞こえた。


 カナタの手からではなく誰かの手から。


 最初の拍手に続き、それはゆるい速度で数を増やしていく。


 やがてその増殖する音がダッヂ亭の隅々にまで反響を拡げ始めた時、


 ダムの堰を切った様な歓声が怒涛の如く押し寄せ、カナタとボニータを包む。



「!?」



 そして絶え間ない拍手と称賛の嵐が一斉に事態の変化に戸惑うボニータへと吹き荒れた。


「やるじゃないか! 女騎士さん」


「赤毛の美人騎士さんか。いいじゃねーかおもしれぇ」


「あんな可愛くて強い子が騎士団にいたのか」

 

 酔っ払いの戯言とは言え、ボニータを批判する者は居なく、好意的な言葉が次々に投げかけられていく。


 先程まで悲観的な心情だったボニータにとってこの賞賛の嵐は、彼女を縛り続けていた概念を崩壊させる起爆剤としては十分な事象だった。


「……うそ……」


「ボニータさんっ」


 困惑するボニータのそばに、その最初の起爆剤となったカナタが駆け寄る。


「カナタ……くん……」


「スゴかったですっ! ぼ、僕、感動しましたよ!」  


「あ……そう」


 傍らで自分を称賛するカナタに空返事するボニータ。未だ終わらない周囲からの女性騎士を讃える言葉に意識を奪われているのか、チラチラと辺りを見渡している。


 そんなボニータの様子に気付いたカナタは、今朝の話を語り出す。


「みなさん、ボニータさんを誉めてますよ」


「うん……アタシ……褒められてる」


「それも……()()()()()のボニータさんを」


「ありの……まま」


「もう、あの鉄兜……必要ないですね」


「え、あ、そ……かも」


 上の空で話を聞き流すように心ここに在らずなボニータ。彼女の今の心境を思いそれ以上の追求をカナタはやめた。


「あーあ。ボニータちゃんに美味しいとこ持ってかれちゃったなあ」


 ボニータに助けられる形となったシルビアが凶器に近いトレイを手に軽口を言う。


「シルビアさんも無事で良かった」


「ありがとうございます。あ、えっと……」


「あ、カナタって言います。さ、さっきはどうも……」


 ガンツの横槍が入ったせいで結局自己紹介も出来なかったカナタは、先程のシルビアの誘惑を思い出しながら挨拶を済ませる。


「カナタさんですね。改めましてシルビアと申します」


「あ、ご丁寧に。よ、宜しくお願いします」


 堂に入った仕種で深々と頭を下げて名乗るシルビアに恐縮したカナタもつられて頭を下げた。


 そして顔を上げたカナタの視界にはシルビア越しに野次馬たちが映し出される。


「ん?」


 そのカナタの目に野次馬達の中からシルビア目がけて突進する黒い物が映った。


「――っ!」


 とっさにそれがシルビアを背後から襲う者だと直感したカナタは無意識に行動に出る。


「危ないっ!!」


「えっ」


 シルビアを庇う様に引き寄せ自分を盾に強襲者へ背中を向けるカナタ。

 

 事態が飲み込めなかったシルビアは目を見開いたままカナタの胸に抱き込まれていく。


「――痛っっ!!」


 ドンと黒い輩とすれ違う衝撃の後に続き、カナタは脇腹辺りにピリッとした痛みを感じる。


 さらにそれは徐々に激しい痛みを伴わせ、皮膚と衣服の隙間を這う様に染みていく液体の存在を知覚した途端、押し寄せる波のように全身を疲労感が襲いカナタの足元をぐらつかせた。


「ああぁ……」


「血……!? か……カナタくんっ!!」


 耳元で叫ぶボニータの声もまるで別世界の様に聞こえ、心臓の鼓動と同調する様に疼く鈍い痛みがカナタの世界を覆う。


 刺されたのだ。


 何かナイフの様な尖った物が自分の身体に当たり、皮膚を切り裂かれそこから血が流れている。


 痛みのあまりギュッと体に力が入ったまま冷静に今の状況を判断するカナタ。


 膝をつき前のめりに倒れる時、顔から落ちるのは痛そうだなとカナタの脳裏にぼんやりと浮かんだ。


「カナタさんっ!」


 その心配は杞憂となり、すんでの所でシルビアに抱き抱えられたカナタは、態勢をなんとか保つ。


「あ、熱い……刺されたとこ……がっ、熱い……」


 朦朧とする意識を呼び覚ますかのごとく痛みが神経を覚醒させカナタは思わず呻く。


「コイツ!!」


「ぎゃっ!」


 ボニータの叫びと共に、カナタを刺した相手が悲痛な声を上げる。


「さっきの大男の仲間ね。他にも居たはずっ!」


 瞬く間に敵を捩じ伏せたボニータはその強襲者を先程のオーガ2号の仲間と判断し、それに連なる者の存在を辺りに確かめようとした。


「あ」


 緊迫した事態にあるまじき間の抜けた声を上げるボニータ。その先にはシルビアと同じくミスリルトレイを持ったダッヂ亭の女給たちが数人の輩達をねじ伏せてこちらに手を振っている。


「「こちらは大丈夫でーす」」


 手際良く下手人達を拘束した女給達がにこやかにボニータに合図を送る。


 その姿に安堵したボニータが次の行動に移るべくある人物を探そうとした時、


「こちらです」


 店の入り口から見知った声がすると、数人の警備兵を引き連れたベルタが入って来た。


 ベルタに先導された警備兵達は、女給に取り押さえられた男達を見つけると瞬く間にそれらを光の拘束魔法で捕らえる。


 ベルタはそれを見届け踵を返すとボニータ達の元へ足早に戻って来た。


「さすが仕事が早いね、ベルタ」


「いえ」


 ボニータがベルタの行動の早さを褒めるが本人は至って冷静に受け答えする。


「ううぅ……」


「あっそうだ。ベルタお願いっ!」


 自分の傍で苦しむカナタの気配に気付いたボニータは戻ったばかりのベルタに懇願した。


 ボニータの隣を一瞥し、状況を判断した様子のベルタは黙って頷いてカナタに近付く。


「はあ。貴君は何をやっているのですか」


 脇腹をシルビアにハンカチで押さえられ、痛みに耐えるカナタを辛辣な言葉で非難するベルタが、ため息をつきながら、回復の詠唱を唱える。


「あ、ありがとう……」


 脇腹をドクドクと脈打つ痛みが、ベルタの手から放たれる淡い光を浴びると途端にふわっと和らいでいくのを感じながらカナタはフード姿の恩人に感謝した。


(はあ。か、カッコわるいなあ……)


 女給を助け、名誉の負傷と言えば聞こえは良いのだが、実際には涙目になり鼻水を垂らしながら痛みに悶える自分の姿を客観的に捉えたカナタは落胆の吐息を漏らしてしまう。


 そして、英雄になりそこね、地べたに伏した少年はこの世界に来て最初に苦手意識を感じた相手が、愚痴をこぼしながらも自分を手当てする様を見て、


案外良い奴なのでは?  


と、改めて再評価を考慮するのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


続きが気になった方は、良かったらブクマ・お気に・評価・感想などよろしくお願いします。


作者のモチベが爆上がりします。


次回は未定となります。投稿状況は活動報告にてお知らせいたします。

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