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【未完停止中】彼女が騎士として生きるなら僕は賢者になってキミを守る  作者: 流成 玩斎
第一章 僕がまさかあの現象の対象になるなんて
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第十一話 ルシータ




「え、えっと、じゃあそういう事で帰りましょうか」




 ボニータの笑顔に見惚れた事を誤魔化す様に、少し頬を赤く染めたカナタが踵を返しそそくさとその場から立ち去ろうとする。


 陽は既に西の空をゆっくりと進み、デートという一時の娯楽はここらで終わりの雰囲気にも見えた。


「ちょちょちょっ、ちょーっとぉー!」 


 カナタの制服の襟元をギュッと掴むボニータは、その態度に不満を持っている様子だ。


「ナニがそういう事でなのよっ。まだルシータちゃんとお散歩してないし、デートの途中でしょーがっ!」


「ぐえっ」


 ぐいっと襟元を引っ張られ首が締まったカナタから蛙の様な声が絞り出される。たまらず襟元にタップをすると素直にボニータは手を離した。


「もーっ!デート中に女の子置いて逃げるなんてサイテーなんだからねっ!カナタくん」


「す、すみません……」


 先程までの尊敬の眼差しはどこへやら、今は呆れた顔でカナタを見上げるボニータの正論に、反論の余地なしと反省したカナタは非礼を詫び、それと同時にガルシュに乗る事は逃れようのない決定事項となってしまう。


「ここのガルシュちゃん達にはちゃんと二人乗り用の馬具が着いてるから、昨日みたいにカナタくんのお尻の危険はないよ。フッフッフッ」


「なんかその笑いが怖いんですけど……」


「だーいじょうぶ!こー見えてアタシはガルシュ騎乗指導資格だって持ってるんだから。任せて」


そう自慢げに語るボニータがカナタの腕を引っ張り再度ルシータの傍に引き寄せる。


「資格って……まあボニータさんの後ろには、昨日乗せてもらってるんで信用はしてますけど……」


 見晴らしの良い胸を得意げに張るボニータに対し、苦笑しながら答えるカナタ。しかし若干の不安が残るのか無意識に自分の尻に手を当てた。


 ルシータの傍に来たにも関わらず、依然としてそ乗る素振りも見せないカナタの背後に痺れを切らしたボニータが立つと、


「しのごの言わずにさっさと乗・り・な・さ・い・よっ!」


「わっ!」


 ボニータに後ろからトンと押され、ゴスデガルム改めルシータの目前に踊り出たカナタは、足元の草でも食べているのか目の前で口をモシャモシャと咀嚼するルシータを見上げる。その視線に気付いたルシータも長い睫毛の奥にある深い漆黒の瞳で見つめ返す。


「……」


「……」


 そしてお互いに目が合った事に気付き、ぱっと視線を反らす少年とガルシュ。それはまるで好きな異性と初めて個室で二人きりになった時のような初々しさを感じさせる光景だ。


 本来ならここでカナタがルシータの顔をそっと撫でるなり優しく声をかけたりするのだろうが、そう気の利いた事が出来る男でもない。


 ただその場でキョロキョロと行き場のない目線を漂わせながら立っているだけで、たとえそれが人間ではなく巨大な角を持った獣であっても、元来人見知りな性格のカナタがそう気安く接するという事はありえないのだ。


「えーなんかないのー? まずはルシータちゃんに挨拶とかぁ」


「そ、そう言われましても……ねぇ?」


 後ろから呆れたボニータのため息とダメ出しが聞こえるが、それでも躊躇するカナタは自然と目の前のルシータに同意を求める。


「ーーうわっぷ!!」


 カナタが同意を求めたのがきっかけだったのか、今まで寡黙な姿勢を貫いていたルシータが突然その長い舌でカナタの顔をペロリと舐め出した。


「ええっ!? ル、ルシータちゃんが懐いた……」


「な、うぷっ! こ、これって、な、懐いぷはっ! てるんですかあっ!?」


 ルシータに顔を執拗に舐められながらも、カナタはボニータに今の状況の説明を求める。


「うん。実はガルシュって仲間以外にはすっごく人見知りする子達なの。舐めるなんて行為は親愛の証で、初対面の人になんて絶対舐めたりしないんだから」


「バ、バカにされてるのかと思いましたよ。あはは……」


 コミュ症同士通じるところがあったのだろうか、ボニータの意見が正しければ、カナタがガルシュの心情の琴線に触れたのか、もしくは同類に見られたのかもしれない。いずれにせよ相手から好意的に見られる事にカナタは少し照れた。


「すごいよカナタくん! アタシでも初対面のガルシュちゃんにすぐ懐いてもった事なんてないのに。こんなの今までにない例かもしれないよ!」


 ガルシュ好きのボニータが興奮してカナタのジャケットの裾を掴む。それ程ルシータの行動は稀な事らしい。アーヴェインから聞いた雌は気性が荒いという話とは違い実は恥じらう乙女だったのだ。


「ガルシュを制する者は騎士をも制す」


「え?」


「ウチの……父さまの教えでね。アタシが小さい頃に騎士になりたいって言った時に言われたの。立派な騎士になるならガルシュとたくさん友達になりなさいって」


「へえ」


「だからカナタくん素質あるかもねー」

 

「素質?なんの……」


「そりゃあもちろん騎士の!」


「なっ!」


「アハハ。カナタくんホントに騎士になってみる?」


「いやいやいやいや! む、無理ですって!!」


 意味深な笑みを浮かべるボニータの進言にカナタは慌てて拒否する。


 ガルシュに気に入られた事が騎士になる素質まで話が飛ぶ事はあながち冗談にならないからだ。


 ガルシュを駆る騎士団が今の王国の繁栄を支え、その騎士団と共に今日まで生きてきたガルシュから無条件で慕われる人材を、騎士団の一員であるボニータが目をつけない訳がない。


 何気に付き合ったガルシュの乗馬によって、自分を変える為、手始めに頑張る予定の衛生班の雑用から、なりたくもない騎士に変更されてはたまったものでない。カナタはそのきっかけとなったルシータを恨めしく睨むが、当のルシータはそんなカナタのそんな視線を物ともせず、やがて舐める事に飽きたのか、また足元の草を食べ始める。


「それじゃあ早速ルシータちゃんに乗せてもらおっか」


「えっ? は、はい!」


 騎士になれと言われ気が逸れたところへすかさず騎乗を促され、思わず承諾してしまうカナタ。あれほど渋っていたルシータへの騎乗にうまく誘導されたのもボニータの指導テクニックの一つかもしれない。


 返事をした後でそれに気付くが今更拒否も出来ず、カナタは仕方なくボニータが指し示すルシータの左肩横に移動した。


「まずは左手でこの手綱とルシータちゃんのタテガミを―――」


「えっと、こうですか?」


 ボニータがルシータへの騎乗順序を説明し始め、模倣しようとしたカナタを察知したルシータが、それに呼応するかのように膝を折り、その巨体をゆっくり地面へと沈め、背中に乗せた鞍をカナタが乗りやすい高さにするという動きを見せた。


 このルシータの行為にカナタは戸惑い、思わずボニータの方へ振り返る。

そこには驚愕の表情で固まるボニータが居た。


「ウソ。し、信じられない……」


「ははは。な、なんか至れり尽くせり感が……」


「カナタくん! すごいっ……すごいよっ! こんなの初めてだよっ!」


「い、いやボニータさん言い方っ……」


 周りのカップルが興奮したボニータの叫びを聞きザワついた為、カナタは慌ててボニータの大声と言動を嗜める。無論、彼女の台詞が別件に聞こえたのは胸の内に閉まって。


「何言ってるの! ガルシュが自ら乗馬を促すなんてスゴい事なんだよ!? たった今ガルシュの生態について新しい事実が見つかったんだからっ!」


 ことガルシュの話題になると冷静さを失う傾向にあるボニータは捲し立てる様にカナタに迫る。大きく跳ねた二本の前髪がユラユラとボニータが力説する度に揺れる。


「わ、分かりましたからっ! 落ち着いて。どーどー」


「フーッ、フーッ」


 異常に興奮したボニータを苦笑しながらなだめるカナタ。ようやく深呼吸をして落ち着きを取り戻したボニータが再びカナタに話しかける。


「カナタくんとルシータちゃんは即刻バディを組むべきだよ」


「え? ば、ばでぃ?」


「そ。従属契約のひとつで、騎士団の団員はみんなガルシュちゃんとバディって言う契約を交わしてるの」


「従属契約……ですか」


「基本、王国の騎士を目指す人はガルシュちゃんを自由に操れる事が第一条件なのね。だからまだガルシュちゃんが小さな頃から自分の手で世話をして信頼関係を築いていくの」


「なるほど」


「でも、性格的にガルシュちゃん達は、人間にはほとんど懐かない動物なんで、まず騎士になるためにはガルシュちゃんを手懐ける事から始めるってわけ」


「な、なかなか根気がいるんですね」


「そうして仲良くなったガルシュちゃんと騎士に任命される時に初めて一緒に従属契約を交わすのがバディ契約なの」


「あの、任命って僕が騎士を目指した場合の話ですよ……ね?」


「うん。でも別に騎士じゃなくてもガルシュちゃんとバディ契約は結べるんだよ。たとえば大規模な遠征を行うのに、護衛の意味を含めてたくさんのガルシュちゃんを扱う大商人や、王国で権力を誇示する証に大量のガルシュちゃんを所持してる街の領主様とか」


「いやいやいや、話が大きくなってますって」


「でもこれはチャンスだよ?こんなに相性合うのって滅多に無いし、普通は幼体から育てないと無理なんだから」


「たまたまルシータが座っただけかもしれませんよ?」


「アタシの勘は当たるの! 絶対ルシータちゃんとカナタくんは運命の糸で結ばれてるはずっ!」


「う、運命って大げさな……」


「疑うなら試してみる? 他のガルシュちゃん連れて来るからさ」


「えっ!」


「決まり! ちょっとここでルシータちゃんと待ってて」


 そこまで話を進めると、ボニータは早速別のガルシュを探しに行った。残されたカナタは困り果てた顔でルシータを見る。


「はあ。ルシータ、きみのせいだぞ?」


「ブルルッ」


 カナタの苦情などそ知らぬ顔のルシータが鼻を鳴らす。




 数分後、ボニータは宣言通り別のガルシュに跨り戻って来た。

 あまり気乗りしないカナタはルシータと共にそれを迎え入れる。


「お待たせ。さあまずはこのガルシュちゃんに乗ってみて!」


「り、了解……」


 先程と同じ様に新たなガルシュの側に恐る恐る立つカナタ。

 温厚そうなルシータとは違い、角も大きく少々荒々しさを醸し出すこのガルシュは、カナタが近寄ってもチラと一瞥をくれるだけで微動だにしない。

 不安に駆られたカナタは後方で仁王立ちの姿勢で構えたボニータに振り返った。


「大丈夫。ここのガルシュちゃん達は一般向け用でちゃんと調教されてて、初心者でも乗るのは簡単だよ」


 腕を前で組んだまま、カナタに安心させる言葉をかけるボニータ。


 意を決したカナタは先程ボニータに習った順序通りに左足をガルシュの胴に下がった鐙にかけ、右足を一思いに蹴り上げると同時に右手で鞍の後橋(こうきょう)という部分を掴みながら体を浮かせ、すかさずその右手を前橋(ぜんきょう)へと移し替えながら、難なくガルシュの馬上へと乗る事に成功した。


「の、乗れた!」


「うんバッチリ! おめでと。初一人ガルシュだね」


「あ、ありがとうございます」


 初めて自力で馬に乗った事に感動しているカナタを拍手でボニータが讃える。指導資格を所持するだけあってか、流石に初心者をその気にさせるのが上手い。


「じゃあその手に手綱をしっかり持ってガルシュちゃんのお腹を軽く両足で抑えてみて」


 ボニータの指示通りにガルシュの腹部を足で圧迫し、鐙に乗せた足を少し動かす事で進めと指示を出すカナタ。腹に刺激を受けたガルシュは一呼吸の後、ゆっくりと歩みだした。


「わわっ! う、動いた!」


 自分が指示を出したにもかかわらず、その合図で動くガルシュに感動するカナタ。しかしその動きはすぐに止まり、やがてガルシュはその場にある草を食べ始めた。


「あ、あれ? 止まっちゃったぞ。ホラ動け!」


 停止したガルシュに再び指示を与えるが、草を食べるガルシュは聞く耳をもたないのか、カナタの指示をスルーしている。


「ボ、ボニータさあん! 全然言う事を聞いてくれなくなったんですけどおぉ!」


「ふっふ~ん!それが普通のガルシュちゃんの反応なんだよカナタくん。バディを組んでないガルシュは警戒心も強いし、この施設に居る乗馬向けの人慣れしたガルシュでも、ある程度ガルシュの扱いに慣れた人じゃないとすぐに舐められちゃうの」


 カナタとガルシュの行動が自分の思い通りの結果になった事に大満足な様子のボニータが困り果てるカナタにドヤ顔で答えた。


「じゃあ次はお待ちかねのルシータちゃんに乗ってみよっか」


 依然としてその場で草を頬張り続けるガルシュを放置して、カナタは前足をきちんと揃えた佇まいでこちらを見つめるルシータへと歩み寄った。


「ブルルルッ!」


「わわっ!」


「フフッ。カナタくんが別のガルシュちゃんに乗ったから、ルシータちゃんヤキモチ妬いたみたいだねー」


 カナタが近づくとボニータが言った様にルシータはカナタに向かって不満げに鼻を鳴らす。


「ご、ごめん。ルシータ」


「ブルッ」


 カナタが謝ると同時に機嫌を直したルシータが今度は自らカナタの前で横付けになり、先程と同じく鞍の位置を下げる。まるで乗れと言わんばかりの様子だ。


「あららー懐いてるだけじゃなくて、ルシータちゃんすごく賢いんだね。カナタくんの言葉が分かるみたい」


「ま、まさかあ」


 一瞬、例の能力が頭に過るが、カナタはボニータの意見を軽く否定する。


「ささっ早く乗っちゃおうよ!」


 余程、自分の仮説を立証したいのか、急かすボニータに呆れながらも、カナタは先程のガルシュよりもあっけなくルシータに跨る事が出来てしまう。


 カナタを乗せたルシータはゆっくりと体勢を戻し、その巨大を再び立ち上げる。その際何度かカナタがバランスを崩しそうになると、身体の角度を調整するかの様な細かい気遣いまで見せ、その度にボニータは感嘆のため息を漏らし続ける。


「すごい……ここまで乗り手を気遣う子なんて今まで見たことない……」


「さ、さっきのガルシュより乗り心地が良い……」


 ボニータの賞賛もあるが、素人であるカナタ自身も先程のガルシュと比べ、あきらかにルシータによるサポート能力が優れていると感じた。


「カナタくん。ルシータちゃんが必要以上にバランス調整してるのは、カナタくんの座ってる位置が違うからだよ」


「え?」


 ボニータに指摘され、カナタは慌てて自分の座っている鞍を見る。何かの動物の皮をなめした革製の鞍は二人用らしく、ガルシュの背中に沿って長めに作られている。


 真ん中より少し前寄りの位置で出っ張りの様な区分けがあり、ここで前に乗る側と後ろに乗る側に分かれるのだろう。


 そして現在カナタが座っているのは前座席側だった。


「前に座ってますけど違うんですか?」


「うん。さっきのガルシュちゃんに乗った時も違ってて、まあ試し乗りだから注意しなかったんだけど、普通の馬と首の骨の仕組みが違ってて、二人乗り用の鞍を着けたガルシュは乗り手が体の中心より後ろに乗って走らせるの。だから二人乗りの場合、乗り手は後ろ。同乗者は前って決まっていてね、首に負担を掛けないように前の同乗者は後ろの乗り手より体重が軽いのが決まりなんだ」


「あれ?昨日乗った時は僕、後ろでしたよ」


「そ、それはアタシが小さいからっ! アタシよりおっきいカナタくんが前乗っちゃうと見えなくなるでしょっ! ていうか、あれ一人乗り用の鞍だしっ!」


「ご、ごめんなさい」


「もおっ!」


 小さい事がコンプレックスなのか、赤い顔でボニータがむくれる。また余計な事を言ってしまったとカナタは反省する。


「細かい理由は省くけど、一人の時に前寄りに座ると鞍の重さもあって、ルシータちゃんの首ばっかりに負担が掛かってフラつくからバランスが取りにくいんだよ。だから後ろに乗ると重心が安定するの」


「なるほど。……ってうわぁ、全然違うっ!」


 そう言われてカナタは腰を後ろへと移動させる。ボニータに言われた通り乗り手側に乗った事で収まりが良くなったようだ。


「ブルッ」


 ルシータも先程まで多少フラつく場面があったが、カナタが座り直した事でようやく落ち着いたのか、まるで礼でも言うかの様に息を吐いた。


「そう。その場所が基本ね。後はさっきみたいにルシータちゃんの手綱を優しく持ってみて」


「了解です」


 言われた通りにルシータの背に掛かる手綱を握りしめ、カナタはボニータからの次の指示を待つ。


「手綱を握ったら……うーん。試しにルシータちゃんに『前に進め』って言ってみる?」


「え?あっ、はいっ」


 次の指示を取りやめたボニータはルシータの行動にある期待をかけた。その意味に気付いたカナタもその可能性に興味が湧いたのか、ルシータに優しく語りかける。


「えっと、ルシータ、前に進んでくれる?」


「ブルルッ」


「「 進んだああ!! 」」


 カナタの呼びかけが通じたのか、胴体への合図もない状態でルシータがゆっくりと前に進みだすと同時にカナタとボニータが歓声をあげた。


 ちょうどお互いの歓喜が重なって牧場周辺に鳴り響いた為、周りから一斉に注目を浴びてしまい、バツが悪くなった二人は慌てて声をひそめる。


「ボニータさん、流石に僕でもこれは凄い事だって分かりますよっ!」


「カナタくん、カナタくん、コレにはアタシもびっくりだよっ!」


「あ、ちょ、ちょっと見てて下さいね……」


 思わず駆け寄るボニータを手で静止し、カナタは手綱を引っ張る事なくルシータの耳元に話しかけた。


「ルシータ止まって」


 やはりカナタの言葉を理解しているのか、先程と同じくルシータは自らその場で停止した。自分の命令通りに動く事を確信したカナタはニンマリとした顔でボニータを見る。


「いやいや、そんな顔してアタシ見ても! ていうか、これを発見したのはアタシでしょ!」


 カナタのドヤ顔に対し、自分の手柄を取られたことを抗議するボニータが納得がいかない顔でこちらに詰め寄り、ルシータに跨ったカナタの膝に片手を置くと、重力を感じさせない所作でヒラリとカナタの前に収まった。


「うわ!」


「ヒヒヒ~アタシくらいになると、ガルシュちゃんに乗るくらいざっとこんなものよ!」


 急に自分の懐に入ってきた事に焦るカナタを揶揄う様に自慢するボニータ。先日の甲冑姿だと気にならなかったが、いざ美少女に密着された状態には、流石のカナタも動揺が隠せない。


「い、いやもう急に乗らないでくださいよ。びっくりするじゃないですかっ」


「カナタくんがアタシの大発見を横取りするからだよーだ」


「い、いや、横取りってそんな……僕はただ、ルシータが言う事聞いてくれて嬉しかっただけで……」


「え~ホントかなあ」


 ただでさえ狭い馬上での二人乗りの上、必要以上に密着しながら顔を見上げてくるボニータに激しく動揺し始めるカナタ。


「ち、近いですってもう! でもこれって僕が居ないと分からなかった事でしょ?」


「あ、そっか。じゃあ二人の発見にしよう!」


「二人の発見……」


「だめ?」


「いや、だめじゃない、です、けど……」


 上目遣いでこちらを見つめる赤髪の美少女と、まともに目を合わす事さえ出来ないカナタは、

 視線を逸らせたままボニータの願いを聞き入れてしまう。


「じゃあ今度、騎士団のガルシュ研究機関に報告する時にはカナタくんも一緒に来てね」


「わ、わかりました」


「ふふ。ありがとう」


「ど、どういたしまして……」


 研究機関というものが本当に実在するのかは定かでないが、


 かろうじて返事を返すカナタを美少女の笑みと言う必殺の武器で無意識に翻弄するボニータの瞳に、ようやく西の彼方にその半身を沈ませた赤い夕陽が映り込みキラキラと輝いていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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