狩人の町
今日も2回ぐらい。
「突然だが今日は少し金を稼がないか?」
「別にいいけど随分と突然だね。ロイ達から奪ったお金はもう残ってないの?」
「いや金銭的な余裕はあるんだがもっと別の理由があるんだ。最近俺とカノはモンスターを倒したりしてないだろ?」
「まあね。最近は色々なところを見て回ってたしそれこそこの前のグールを1体倒した時ぐらいかな」
「太ったって感じないか....?」
「アルのデリカシーが全くないのはとりあえず置いといて....言われてみると確かにお互い少し太ったかも?」
カノが自分のほっぺたをふにふにと触っている。俺もお腹周りが勇者をやっていた時と比べて少し出てきていた。
「つまりダイエットも兼ねて今の俺とカノならどのラインのモンスターまで狩れるかを見たいんだよ」
「前半流れ必要だった?」
「お互い太ったのも事実だろ?」
「アルこの際だから言うけど君デリカシーについてもうちょっと勉強した方がいいと思うよ....」
◇
「でここがその狩人の町ハント?」
「そうだ。とりあえず狩人の家へ行こう」
「狩人の家?」
「要するに動物を狩るギルドみたいなもんだ」
「なるほどね。話には聞いたことあったけど本当にあるんだ」
「狩人の家がないとカノが毎日美味しそうに食べてた串焼きを食べれなくなるぞ?」
「それは大切な役割を果たしてるね」
俺は納得した様子のカノを連れて狩人の家を訪れた。内装自体はギルドとさして変わらない。それだけ儲かっているということだ。
「よう兄ちゃん見ない顔だな?」
狩人の家に足を踏み入れた途端ごろつきに絡まれる。俺とカノは思わずため息を吐く。勇者パーティーをやっていた頃も沢山遭遇した場面だ。
なんせ自分で言うのもなんだが勇者パーティーの面子は全員顔が良かった。だから声をかけられる回数が異常だったのだ。
「そうですね。この町にはさっき来ましたから」
「へへへ、そうか。じゃあ....」
きた。恐らくカノを置いていけとかいうつもりなのだろう。
「すいませんがこの子は」
「今変異種が暴れ回ってるから」
『え?』
お互いが驚いている。もしかしてこの人は....。
「すいません。俺勘違いしていたかもしれません」
「あ、あぁ。多分そうだと思うぜ。そもそも俺は妻帯者だ。そこの嬢ちゃんは可愛いとは思うが....」
「いやあの本当にすいません。昔に色々あってこういう声の掛け方に敏感になってしまっていたみたいで......」
「いやまあ兄ちゃん達も色々あったんだろうしな。 それでだ。今は変異種が暴れ回ってるからあまり深く森に入らない方がいいぜ」
「忠告感謝する。また今度何かでお礼とお詫びをさせてくれ....」
「いやいいってことよ。俺も見た目はお世辞にもいいと言えねぇからな」
それだけを言うとごろつきさんは去っていった。
「....とりあえず忠告はされたがそこまで深く入らなければ大丈夫だろうし森に入ってみるか」
「そ、そうだね。中心部の方へ行かなければいいのかな?」
◇
「結構クマぐらいならなんとかなるね」
「昔死ぬほどレッドグリズリーと戦ったしな。あれと比べれば全然マシだ」
「あはは。確かに」
そんな他愛もない話をしながら森を進んでいく。恐らくまだまだ浅いところだ。もう少しだけ進もうと話していたその時何処かから悲鳴が聞こえてくる。
「アル! 今のって」
「悲鳴だな。それもかなり近くで」
「行こう!」
「ああ!」
悲鳴の聞こえた方に到着した頃には悲鳴をあげたであろう人物は心臓を抉られもう冷たくなっていた。
そして目の前にはモンスターであるレッドグリズリーを思い出させるような巨大な熊がこちらを向いている。その手は血糊を塗ったような赤さをしていた。
それを見た俺とカノはすかさず臨戦態勢をとる。
「カノ! 援護任せるぞ!」
「うん!」
俺は熊に向かって斬撃を放つ。
【剣神流奥義 スパイラルフェイト!】
「はぁぁぁ!」
俺の渾身の一撃は熊の皮膚を少し破く程度にしかダメージが入っていない。
「カノお前だけでも逃げてくれ。こいつは聖剣と勇者の力がない俺だと少し骨が折れる」
「何言ってるの!? ここでボクだけ逃げたらまたボク1人なっちゃう。それだけは嫌....。だからボクも戦う!」
「カノ......」
『あの盛り上がっているところすいません。私は反撃をしませんので殺してもらえませんか?』
『喋ったぁ〜!?』
俺とカノの声が珍しくはもる。
「いやそうは言ってもお前この人を殺しただろ? 俺達も同じように殺すつもりなんじゃないかと疑ってしまうんだが」
『それは私の意識がない時に獣の本能でやってしまうことなのです。私はもうこんなことはしたくない....』
「アル少し話を聞いてみない?」
「......そうだな。このままだと埒が開かない」
◇
「つまりお前は元々狩人だったと?」
『はい....。目が覚めたら熊に乗り移っていました......』
この熊は元々狩人をやっていたがある日目が覚めたら熊に乗り移っていたらしい。しかも自分の意識がない時は本能のままに人を殺してしまうらしい。
そんな生活を数ヶ月続けていたとか。
「器もないしな。こればっかりはどうしようもならないか....」
俺とカノが話聞いて一番初めに思い浮かんだのは熊から狩人の意識を引き剥がし器に移すという案だ。
しかしここには器となるものがない。死んだ人間では器になり得ないのだ。
「となると....」
「まあお願い通りにするしかなくなっちゃうよね......」
『貴方達なら必ず私を殺せると見込んでのお願いなのです。どうか殺していただけないでしょうか』
「......わかった。俺とカノの最大限の火力を持ってお前を殺そう。カノ力を貸してくれ」
「うん......」
俺とカノは詠唱を始める。これは俺とカノが勇者と聖女になる前に身に付けた合体魔法だ。威力は調整を誤れば町1つを簡単に消し飛ばせる。
【炎よ全てを焼き払え。風よ全てを薙ぎ払え!ウィンドインフェルノ!】
風魔法で増大した炎が熊を襲う。
『ありがとうございます。これで俺も....』
そんな声が聞こえた気がする。魔法が解けた後にはもう熊の体は一欠片さえも残っていなかった。
◇
「兄ちゃん達変異種を倒したんだって? やるなぁ」
「まあそうですね......」
「なんだなんだ2人とも辛気臭い顔してんなぁ。どうしたんだ?」
「いえ....。俺達はこれで」
真実は知らない方がいい事の方が多いというのはおそらくこういう事なのだろう。俺とカノは気持ちが沈んだまま狩人の町を後にした。
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