幼馴染と名声の下落
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勢いよく捨て台詞を吐いて宿屋を飛び出したのはいいものの俺は少し困っていた。
今まで勇者として箱庭の中で育てられた俺は世間のことを何も知らない。
「アル?」
勇者としてのしがらみからも解放されたことだしこの際だ。世界を見て回る旅に出るのはどうだろう?
「アルってば!」
誰かに服の裾をキュッと掴まれる。昔よくこんな掴まれ方をカノにされたものだ。
「これはこれは聖女カノ様ではありませんか。如何なさいましたか?」
「アルあの私....いやボクは......!」
「ボクはやってないですか?」
そう伝えた途端カノの顔がパッと輝く。
「そう! だからボクはそれを証明する為に色々捨ててきた」
カノがそういい俺に見せてきたギルドカードのパーティー欄は勇者パーティーではなく無所属に。そして職業欄は聖女ではなく無職になっていた。
「いいんですか? いかに聖女様といえどこれは聖王国が黙ってないのでは?」
「これがボクの覚悟。ボクはアルの信頼を勝ち取る為ならなんでもするって誓ったから」
いつになく真剣で真っ直ぐな眼差しを向けられると流石に勝てない。俺は仕方がなく口調を元に戻す。
「はぁ....。全く昔からカノのそういうところは変わらないな」
「ボクにはアルがいればいいから。それに10年前に誓った約束覚えてない?」
「....まだ覚えてたのか」
「まあね。それでこれからどうするの?」
「俺はあまりにも世間を知らなさすぎるんだ。だからあいつらに復讐されない為にも旅人になろうかなって」
「旅人になるのはいいけどアルって復讐される側なの? する側じゃなくて?」
こてんと首を傾げるカノに少し苦笑いしながらも俺は答える。
「実はな。もうあいつらの資産は各国とギルドに許可をとって俺が回収済みなんだよ。だからあいつらは今無一文で宿屋に泊まって飲食までしてるって訳だ」
原則としてギルドに属する人間はギルドカードを翳すだけで口座から自動的に引き落としがされる。なので冒険者は基本的に金を持ち歩かない。
だが残高が足りないとそれもできないわけで。
「アルって昔から悪賢いよね....」
「そんなことはない。数年騙し続けてくれたことへのささやかなお礼だ」
「アルがそれで満足するならボクはいいんだけど」
こうして俺とカノは旅人へと転職することにした。
◇
「会計頼むわ」
「はい。こちらにお願いします」
店員が持ってきた決済用の石板にカードを翳す。
『残高が不足しております』
石板から発せられたのは残高不足という一文だった。
「は? どういうことだ? おいお前らギルドカードを翳してみてくれ」
元勇者パーティーメンバー全員が同じようにカードを翳すが石板から帰ってくるのは残高不足の一文だけだ。
「あの....お客さま失礼ですがもしかしてお金をお持ちでないのでしょうか?」
「い、いやちょっと待ってくれ! そんなことはあり得ないんだ!」
「今すぐにお支払い頂けますか? さもないと我々も強硬手段に出ざるを得ません」
店員の気迫に押されロイが少したじろぐ。
(お、おい! お前ら! 現金持ってるか!?)
(持ってるわけないでしょ!)
(ぼ、僕もありません)
「あの! お客様? もしかしてお支払い頂けないのでしょうか?」
「くそ! 逃げるぞ!」
こうして逃げ出した元勇者パーティーメンバーは自分達の食事代すら払えず踏み倒すという噂がアル達の耳に入るのはまだ少し先のお話。
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