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8.上級進化した魔物さん「魔王様のために、邪魔者は排除♪」

 さて、では出発しようかと私が立ち上がりかけたときだった。


 ボトリ、と。


 何かが草むらの中に落ちる音がした。


「なんだ」

「にゃ」


 私も、マホもリアも、猫殿も音のしたあたりを見る。


 猫殿も緊張したように、やや前方に伸ばしたひげをピクピク震わせている。



 好奇心旺盛なマホが、覗き込むように前に出ようとしたので、慌てて止める。


 私はマホを下がらせると、剣をいつでも準備して、何かが落ちた茂みを覗き込んだ。


「なんだ、ただの蛇だ」


 そこにいたのは、どこにでもいるようなごく普通の蛇だ。


 木から落ちたのだろうそれは、魔物化もしていない、大人しい種類のものだった。

 

「なんだあ」

「驚きましたわ」


 マホとリアもほっとした。


「とはいえ、運悪くこの場で魔物へ変異する可能性もなくはない。さっさと離れよう」


 私は苦笑いでそう言い、マホとリアも了承した。


「猫殿、行きましょう」

「にゃ」


 猫殿はお返事をくださったものの、その目に相手を映せなかったことで安心できていないのか、そろりと蛇のいる茂みに近づく。


 一目確認しておこうというお心積もりなのだろう。


 私たちがそれを見ていたときだった。



 バビュッ



 猫殿が、跳んだ。



 どんな身体能力をしていればあんな動きができるのか。


 予備動作もなしに飛び上がった猫殿は、一瞬我々の視界から消えた。


「え」

「キャッ」

「わ」


 思わず小さく悲鳴を上げ、それから猫殿の姿を探すと、ずいぶん離れた位置に猫殿は着地していた。


 背を丸め、高く持ち上げ、全身の毛という毛が逆立っている。


 いつもすらりと長いしっぽなどは太さが三倍ほどになって、天に向かって爆発している。


「シャーッ! シャーッッ!!」


 猫殿は蛇のいる茂みに向かって威嚇音を鳴らしている。


 歯はむき出しで、恐ろしい形相だ。


「は、離れましょう!」


 リアが可憐な声を大きくして、離脱を提案した。


 私もその声にハッとして、リアに頷いて返す。


「猫殿、ここは一度、退きましょう!」


 私やリアが先だって道の中央へ戻るよう動き始めると、マホもそれについてくる。

 

「猫ちゃん、蛇さん怖いの?」


 マホは猫殿を心配そうにしている。


「猫殿にだって、苦手なものがあるということだな」


 私は、魔物にも怖がらない猫殿の意外な弱点に、少しだけ失礼にも可愛らしいと思ってしまった。


 その猫殿は、蛇を威嚇したまま、視界の端に撤退する我らを捉えると、じり、じりと下がってやがて我らのほうへ向かってタッと駆けてきてくれたのだった。




 + + +



 恐れていたことが、起きてしまった。



 そろそろ野営地を決めようかと話をしていた夕方、道の先の茂みがガサガサと揺れ、影が現れた。


 先に現れた頭部を見て、私は慄いてしまった。


 長い黒髪の女が、這うように茂みから頭を出しており、ずる、ずると徐々にその姿を現そうとしている。


 こいつはまさか。


 私は、魔物の知識の中から瞬時に、目の前のこいつの特徴と合致する魔物に思い当たっていた。



 蛇の魔物、ラミアだ。



 人間と変わらない大きさの女の頭部を持っている。


 魔物は、魔王カリシルペスの力を濃く受け、人型に近くなるほど強さも賢さも上がっていく。


 こいつは単体のようだが、オークの群れよりよほど格上だ。



 強敵な上に、"蛇"。



 私には、先ほどの猫殿の怯えた様子が思い起こされていた。


 目の前では、ずるり、ずるりと大人を丸呑みにできそうな蛇の体躯が茂みから現れている。


 女の顔をした頭部は持ち上げられ、その口からは真っ赤な舌がチロチロと出入りしているのが分かった。


 私は、少し後ろを歩いていた猫殿を、視線だけで確認しようとした。


 蛇が苦手な猫殿にとって、こいつは実力以上に強敵になるだろう。


 果たして猫殿は、状態異常効果を発動してくださるか。


 あれがなければ、我らは死力戦に臨むことになる。


 もうじき、日も暮れる。


 長引けば不利になるのは我々のほう。


 猫殿。


 お頼み申す。


 猫殿。どうかお力を。



 しかし、後方へ視線をやっただけでは、私の目は猫殿の姿を捉えることができなかった。



 だが、勇者。



 猫殿は、まごうことなき勇者様であった。



「にゃー」



 いつもどおりの、可愛らしい鳴き声が、私の足元からした。


「猫殿?」


 一生懸命そのお姿を後方に探していた私は、慌てて体の反対側、自分の左の足元へ視線を戻した。


「にゃ?」


 猫殿は、呼ばれたことを不思議そうに「なに?」とこちらを見上げてきた。


 その様子は平常通りで、ただの蛇にあれだけ怯えていらした様子はもうなかった。


「っくしゅん! はく、はっくしゅん! え、なに、涙が! かゆい、目が、目がぁ! ぶあっくしゅっ!くしゅん! ずび、だにごれ、鼻も、ぐじゅんっ!」


 驚いた。


 頭部を得たラミアは、人間の言葉も話すらしい。


「や、待っで、ぐじゅ、ずず……、ごべ、ごめんなざい、ぐっしゅんっ! もう、襲わないっ! おぞわないがら! っっぐしゅん!!」


 ラミアは尋常ではなく苦しんでいる。


 人語を話すので、もしや交渉役かとも過ったが、やはり襲い掛かろうとしていたらしい。


「”炎よ”!」


 マホから、遠慮のない、力ある言葉が放たれた。


 鼻たれのラミアが赤く染まった。


 薄暗くなりかけた周囲が、一瞬明るくなる。


「ぎゃあ!!」


 ラミアは炎を払うようにもがき、悲鳴を上げるが、魔物に容赦は不要。


 私は奴に躍りかかると、剣で一閃した。


 倒れるラミアに、もう一閃、とどめを刺す。


 知能がある者には、より一息に息絶えて欲しかった。


 小さくうめいたラミアは、急所を一突きにされ生理的な震えを起こしたのち、こと切れた。


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