表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

7.強敵(しっぽ)と戦う猫殿「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ」

 オークを倒したのち、我らは日が完全に落ちるまでの間に道程を進め、それから野宿をした。


 この旅初めての野宿になったが、私や他の二人も野営についての訓練は一通りしてきていたために、特に混乱もなく落ち着くことができた。


 魔物はそのへんを闊歩しているだろうが、特に問題もない。


 オークを見て分かったが、やはり魔物の変異は未だ初期段階。


 魔物が動物の本能を色濃く残している今、火を焚いていれば、さほど大きな危険に遭遇することはないだろう。


 実際、ここに来るまでの道中も、村の中などの人が多い場所は警戒されるのだろう、襲われたという話は聞かなかった。



 布を広げただけの場所へマホとリアが横になる。


 その体には外套代わりのローブが巻かれているだけだ。


 今は幸い冷え込む季節でもない、風邪をひくこともないだろう。


 すぐ近くでは焚火を起こしている。


 まずは私が火の番をすることになった。



 焚火の隅で湯を沸かしながら、周囲の森から集めてきた薪を、ナイフで手ごろな大きさに割っていく。


 このあたりの森の木は油分が少ないのか、燃える炎は控えめだが、薪としては長持ちするので助かる。


 二人にも手伝ってもらって集めた薪で、十分朝まで持ちそうだった。


「猫殿、猫殿も布の上でおやすみになってはどうですか」

「にゃー」


 マホとリアが横になっても、猫殿は私のそばで作業を見ていた。


 猫はもっと寝ているものだと思うが、今日一日歩きどおしで寝る暇もなかった猫殿は、まだ元気に起きていらっしゃる。


「猫殿、今日はありがとうございました。猫殿がいなければ、我々は、全滅していたかもしれません」


 私は俯き、事実を口にした。


 膝の上で組んだ手はカタカタと震えた。


 夜の闇の中、静まったこの場所が、絶望の淵にいた洞窟の中を思い起こさせた。

 

 パチ、パチ


 火の爆ぜる音だけがする。


「猫、殿?」


 返事がないことに、私はゆっくり顔を上げたが、いつの間にか猫殿はいなくなっていた。


 さすが、小さいとはいえ動物。


 足音を隠している時の猫殿は、とても静かだ。


「……私は猫に、何を言っているんだろうな」


 ふぅ、と。


 ひとつため息を吐いて、すこしおかしくなって笑った。


 湯が沸いている。


 深皿に湯を注ぎ、塩を少し入れて口に含んだ。


 見知らぬ土地での野営は始まったばかりだ。


 しばらく焚火をながめた私は、置いてあった剣に手をかけると立ち上がる。


 それから、焚火から数歩離れた場所に移動すると、その場で剣の型の確認を始めたのだった。




 + + +



「西の果てまであとどのくらいでしょうか」

「このペースだと、明後日の昼には着けるはずだよ」


 リアの言葉に、マホが答えている。


 悪くないペースだ。


 オークの一件から二日。


 あれ以来、我々は周囲への警戒を強めて進んでいた。


 やはり動物の本能か、待ち伏せをしていた魔物はそれなりにいた。


 個別での行動はせず、用を足すときも近い距離を保つことにした我々は、待ち伏せも奇襲もなんなく察知し、対応することができていた。



 もっとも、魔物と相対してからも余裕を持って対処できるのは、猫殿のお力あってこそのことである。


 オークを蹂躙した状態異常、"猫アレルギー"。


 そのお力は、魔物すべてに対して有効であった。


 昨日は小さな襲撃のほか、魔物コボルトの群れとの戦闘になった。


 コボルトは犬が変異した魔物だ。


 近隣の住民が飼っていた犬が変異したのだろう。


 大小さまざまなコボルトは、二十匹ほどの群れとなり、オークと同じく森の茂みに身を隠し、通りがかった我々へ襲い掛かってきた。


 統率された動きも、俊敏さも厄介な難敵のはずだったが、そこは勇者猫殿のご威光がある。



 今にも襲い掛かろうとしていたコボルトたちを前に、猫殿がタッと一歩前に出た。


「シャアッ」


 体を大きく見せるように背を高くした猫殿は、短く威嚇音を出された。


 そんな猫殿にコボルト共はひるむ。


 そして、そこからは「ワフ、ブァホンッ」「ブシュッ! ワブシュッ!」と、猫アレルギーの状態異常状態になってくれた。


「今だ! いくぞ!」

「はい!」


 勇ましく飛び出る私と、マホとリア。


 猫殿の威光に便乗してではあるが、ここから先は我らの仕事。


 「フアッ…、ハッ…」と、口を大きく開け、くしゃみをしようとしているようなコボルトを一閃する。


 動きを阻害され、目も見えづらいのか、顔をぐしぐしこするコボルトをまた一閃。


 慌てて散ろうとするコボルトを、マホの魔法が足止めする。


 リアの支援を受け、威力の上がった私の剣が、コボルトをまとめて吹き飛ばす。



 猫殿のお力はすごい。


 国一番の剣の腕前になった私とて、これだけの数の魔物と一度に渡り合えるとは思っていなかった。


 私だけではない、マホもリアも、オークとの戦闘の後、たしかにその自信を取り戻しつつあった。



 + + +



 魔王カリシルペスが封印されている地まで、もう目前。


 日が昇って、我らは今日も街道を進む。


 人里がほとんどなくなり、道の整備も不十分になってきたが、このときのために用意され残された道だ。


 先ほども、はぐれたコボルトを一頭打ち倒したところだ。


 天高く日が昇り、我々は昼食をとって小休止を挟む。


 休めるときに休み、剣の手入れをせねばならない。



 この旅の一行の中心である勇者猫殿は、日なたに寝ころび足を休めながら、ご自身のしっぽを凝視しておられる。


 どう見ても子猫の彼は、頼もしい反面、こうしてお可愛らしい姿を見せて、我々の疲れを癒してくださる。


 猫殿、しっぽはご自身の物ですよ。


 ゆめゆめお忘れにならぬよう。


 あ! そのように爪を立てては、傷がつきますぞ。


 そんなに勢いよくお手を振っては、肉球が草で切れませんか。


 背を捻り、長い尻尾に弄ばれるようにたわむれ始めた猫殿に、我ら人間は釘付けだ。


 そうして、猫殿と、猫殿のしっぽの白熱した戦いを、我らはしばらく見つめていた。



 旅の始まり、どちらかといえば犬派だった私も、すっかりマホと同じく、猫が可愛く見えて仕方なくなっていた。


 猫といっても、この勇者、猫殿が特別一番可愛いので仕方のないことではあるのだが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ