6.鑑定の巫女リア「こ、これは……!」
「よくあんな怪我をした状態で叫べましたね」
魔法使いのマホが、呆れたような言葉を吐いた。
鑑定の巫女リアの治療を受けて、少しの時間をかけて完治した私を見てかけてきた、素直ではない彼女らしい言葉だ。
「心配かけたな」
「うるさいっ、私たちを守らなきゃ、メキシーならオークくらい……っ」
「そんなことない。あの数は脅威だ」
フォローしてくれるようなマホの言葉にも、私は、固い顔のままで答えるしかない。
あのオークの群れは、この洞窟へ戻ってくるだろう。
もしくは、洞窟のすぐ外にいるか。
再び奇襲をかけられる危険を残すより、ここで倒してしまいたいという思いが強かった。
幸い、剣はあった。
マホの魔法で洞窟内を照らすと、我らのすぐそばに荷物と共に転がされていたのだ。
我らの食糧などが入った荷物も幸い手付かずで、ひとまず手に入れた物はここへとばかりに、我らも含めてあの場所へ、無造作に放り込まれたらしかった。
まあ、あったほうが助かるわけだが、剣まで持ち帰るとは。
私は呆れてしまう。
大怪我をさせたから平気だろうと侮られたことを悔しがればいいのか、やつらがまだ動物並の知能だと安心すればいいのか。
魔物は、魔王の力の影響を強く受けるほど人型に近づく。
今は二足歩行する豚のような姿のオークだが、魔王が復活すれば人に近い体型になり、動きもより俊敏になる。
そして、人型に近づいた魔物は、知能も発達していくという。
かつての勇者乃記録には、動物としての群れではなく、連携をとるための集団をとって人の里を攻めた魔物の姿も記録されていた。
あのオークは、我ら三人を蹂躙できるだけの力をもってなお、それらの魔物に比べればまだまだ烏合の衆に過ぎないということだ。
それでも我らは、そんなオークごときに対しても対策を万全にし、迎え撃つしか方法がない。
やはり、マホの魔法を軸に、リアが支援魔法でその火力を底上げし、と。
我らが洞窟の中で作戦を立てようとしていたそのとき。
奴らは戻ってきてしまった。
「くそっ」
思わず、悪態が漏れる。
騎士である前に王女であるのだから、と、兄である王子二人にきつく叱られた口癖が出てしまった。
洞窟入口に複数の気配がしたと思えば、がやがやと、鳴き声とも判別つかないざわめきが近づいてくる。
やつらだ。
「どうしますか」
リアに問われるが、選択肢はない。
「迎え撃つ他あるまい」
嫌な汗が流れる。
準備は不十分だ。
これなら勝てるというビジョンも固まっていない。
選択肢のない今、一度は敗北したオークの群れを、我らは再び迎え撃つべく決意を固めた。
「ブヒブヒブヒブヒ」
嘲笑しているようにも聞こえる、耳に入れたくもないたくさんの鳴き声が届いてくる。
もうそこまで来ていると、息を潜めながらそう思った時だった。
「にゃ」
猫殿が、鳴いた。
「!?」
「ブヒブヒ、ブヒブヒブヒブヒ」
「ブヒブヒブヒブヒ」
息を殺していた私たちは、なんてことをと衝撃を受けた。
明らかにオークたちのざわめきが大きくなった。
気づかれた。
これでは、こちらからの奇襲はできまい。
私は、子猫なのだから仕方ないとは思いつつも、つい恨めしい気持ちで猫殿を睨んでしまった。
しかし、オークたちのざわめきに、異変が起きた。
「ブヒブヒブヒブ、ブヒ、ブヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒブシュッ!」
「ブシュッ! ブシュッ! ブシュッ! ブシュッ!」
「ヒッヒッヒッ、ブシュン!!」
「な、なにが起きてるの?」
マホが動揺している。
「分からない。分からないが、チャンスだ」
私は、これを好機と捉えた。
「すまんリア、ここからオークの状態を確認できるか」
「やっていますわ」
冷静なリアは、やはり頼もしい。
私が指示を回す前に鑑定の目を使ってオークの情報を探ってくれていた。
「こ、これは……!」
「なんだ!」
「状態異常にかかっています! 行動阻害の状態異常です」
「えっ、やったじゃん」
マホが嬉しそうな声を出した。
マホが掛けた魔法というわけではないらしい。
なぜかは知らんが、天は我らに味方したらしい。
行動阻害の状態異常は、力をうまく振るえなくなり、素早さが大きく下がる効果がある。
攻撃もかなりの確率で失敗する厄介な状態異常だが、敵がそれにかかっているというなら、こんなにありがたいことはない。
「……えっ、そんな!?」
より詳しく探ってくれていたらしいリアが、驚きの声を上げた。
「どうした!?」
「この状態異常は、これは」
「なんだ」
混乱した様子のリアは、声も震えている。
「行動阻害の強さは”強”、そして、これは、勇者様のお力です……! 行動阻害は、”猫アレルギー”によって引き起こされています!」
「なっ!」
「猫ちゃん!」
「にゃ」
私は、驚きに目を見開いた。
洞窟の中、少し離れた場所では相変わらず「ブシュン!」「ブヒッヒッ、ブアックシュン!」と状態異常に振り回されるオークたちの声が響いている。
私は、ご機嫌な様子の猫殿を見つめる。
思えば猫殿はずっと、余裕の態度を崩さなかった。
まったく、敵わないなと思わず笑みがこぼれてしまった。
「マホ、リア、討って出るぞ!」
「「はい!」」
「猫殿、助かりました、必ずや討ち取ってご覧に入れます!」
「にゃん」
ご機嫌な猫殿を残してオークの群れに躍り出た我ら三人は、ほとんど時間をかけることなくオークを蹴散らし、全滅させることができた。
+ + +
我らの旅はやっと始まりを迎えたのだ。
洞窟から出て、傾きかけた日を浴びたときは、生きていることにひどく感動する気持ちが沸き上がった。
我らは再び歩みを進める。
日が沈むまでに、身を寄せられる場所へたどり着かなければならない。
「もう、猫殿を置いて行ったりはいたしません」
「にゃ」
「ありがとうね、猫ちゃん」
「にゃん」
「助かりましたわ、勇者様」
「にゃー」
軽い調子で答える猫殿に感謝しつつ、初めての魔物との接敵をなんとかしのいだ我らの旅は続く。
国の西端、魔王封印の地を目指して。
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「にゃーん」
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