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14.主神ボーク神「めでたしめでたし」

 顔面ボコボコの魔王カリシルペスはやがて、力なく仰向けに転がり、「一張羅が……」と泣き言を言い始めた。


 そのあたりで、薄雲に覆われていた空が割れ、光が差し込む。



 ついに、主神ボーク神がご降臨されるのだ。



 私と、マホとリアは、揃って膝をつき、祈りの姿勢をとる。


 光がひと際強くなったと感じた瞬間、声がした。


「顔を上げなさい。神託の英雄よ」


 私は、感動に目から涙が伝う。


 勇者乃記録によれば、神託の英雄は、魔王を討ち倒した暁には神の祝福を受ける。


 ボーク神の真名を知らされ、魂の繋がりを得るのだ。


 祝福を得た神託の英雄は、丈夫な体と健康な心身を得て、常人よりもずっと若い時間を長く与えられる。


 そうして、力ある神託の英雄が、魔王復活で荒れた世界の復興を支えるのだ。



 顔を上げると、そこには女神の姿があった。


 ボーク神は、かように美しい女神様であらせられたのだな。


「ここまでよく勇者を支えましたね。神託の英雄よ。私の真名を、あなた方の魂に刻みましょう」


 そして、私とマホとリアの三人は、女神の真の名を知る。



 "猫下僕(ネコゲ・ボーク)"様



 ああ、やはりあなた様は、猫がお好きなのですね。



 真名を魂に刻まれた私には、女神様との繋がりが感じられ、ネコゲ・ボーク神の、猫への強い愛情が繋がりを通して伝わってきていた。



 魔王カリシルペスは仰向けに倒れたまま「これ以上ボロになる前に封印して……」とつぶやいている。


 彼の体を覆っていた布の裾はスカスカになっており、左肩のあたりがばっさりなくなっている。


 その赤黒い肌はなんだったのか、現れた左肩は日焼けを知らない乙女の柔肌のように真っ白だ。


 だいぶ威厳がなくなっている。


「にゃー」

「ああ! 勇者よ! えらいわ、立派だわ! ああ、魔王討伐のときにしか降臨できないなんて、神だっていうのに融通がきかないんだから。猫ちゃんに会えて嬉しいでちゅ〜〜〜」

「にゃん!」

「そうね、そうよね、魔王は封印しましょうねぇ」

「にゃ?」

「え、ええ、千年だと決まっているのだけど」

「にゃ……」

「ああ! 悲しまないで! 嫌いにならないで! もう決まりとかどうでもいいわ! 三千年! いえ、一万年! もう! 十億年後にしましょう! そうしましょう!!」


 なにやら、猫殿とネコゲ・ボーク神は楽し気に会話されていたが、女神様が気前よく言い放った年月の超大さに驚く。


 その瞬間、魔王が「はあ!? おまっ、猫下僕! ふざけんな!!」と大声を上げたが、シュンッと一瞬で姿を消した。


 これで封印は完了したということだろうか。


 と、いうか、今の話の成り行きは、まさか。


「にゃっ」


 猫殿は大層嬉しそうに一声鳴かれると、ネコゲ・ボーク神にタッと足音を立てて駆け寄った。


「ああん! 嬉しそう! 可愛い! いっそ人の身に堕ちようかしら!」


 ネコゲ・ボーク神がとんでもないことを言っている気がするが、猫殿はそれにも構わず、彼女の足元に身を預けるように、ゴロンと横になった。


「ゴロゴロゴロゴロゴロ」

「なで! なでてもいいのぉ!?」


 猫殿はご機嫌だ。


 撫でてもいいよのポーズでネコゲ・ボーク神をすっかり魅了しておられる。



 呆気にとられる私たちだが、隣で膝をついていたマホがこっそり話しかけてきた。


「イヌハ王国もさ、猫ちゃん優遇したほうがいいよ」

「ああ、今、そのことについて真剣に検討しようと思っていたところだ」


 真面目に返した私へ、マホは笑った。


 リアも、嬉しそうに声をかけてきた。


「神官一同には、主神ボーク神が小動物、特に猫を愛することを伝えましょう」

「そうだな。特に猫、だ」


 リアにも返事を返し、私たちは目の前、荒れ果てた大地に寝ころぶ茶縞の子猫と、それに翻弄されるようにメロメロになっている神のやりとりを見ているのだった。




 + + +



 その後、数百年をかけて、イヌハ王国は、猫原理主義の宗教国家ネコハ国へと変貌を遂げる。



 その変革の中心となったのが、先の神託の英雄である、イヌハ王国女王となったメキシー・イヌハ。


 そして、彼女と共に旅をした二人の神託の英雄、マホとリア。


 そして、女王メキシー・イヌハの愛猫であり、召喚されし四代目勇者である一匹の茶縞の猫。


 メキシー・イヌハは四百歳まで生き、その間ずっと猫の保全と、彼らの楽園たりえる国家運営に力を入れていた。



 彼女の興した国は平和で、世界中から愛猫家が集い、稀に起こる争いの采配すらも猫に決めさせたという。



 主神に愛されているという猫を(たっと)んだ彼の国では、災害や飢饉は起きず、かつて数千年に渡って荒地であった国の西端も、自然豊かな命芽吹く土地となった。


 主神が猫を愛しているのは揺らがぬ事実で、国の変革の初期には、勇者として猫の召喚を成功させたチャオチュル最高司祭が、主神ボーク神より直々に神託を賜り、加護を受けたとの記録もある。



 この国に、次に魔王カリシルペスが復活するのは、千年後ではないだろうといわれている。


 次は一万年後か、十億年後か。


 西端の封印の地が芽吹いたことが、その裏付けともなっていた。



 この地で、もしもそれより先に魔王が復活することがあるとすれば、それは、この地の者が猫を虐げるような行いをしたときだろう。



 神は、猫を愛しているのだから。




 ネコと和解せよ。

 



 猫様を称えよ。




 それこそが猫を愛す主神の加護を受けし、ネコハ国の平和の神髄なのだから。


 今日もどこかで、嬉しそうな猫の声がする。





 「にゃーん」






  おしまい



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