第6話 抹茶とレナのおうち
過去世界で目的の抹茶と会う事が出来た一同は抹茶ハウスへと移動します。
「ここが俺達の家になります。」
抹茶さんが私達を案内して、レナさんと共に住んでいる自宅に着いたようだ。
「なるほど。ここが抹茶とレナの…。デジャヴと言うやつか?初めてなのに以前見た気が…。」
「うん、昨日見たわね…。」
「猫神様のログハウスだ〜♪」
案内された場所は稲荷神社の少し奥に行った所に位置した所、青々と木々の覆い茂る中に建っていたログハウス、昨日見た猫神様のログハウスである。
「まぁ…予想通りだな…。しかしながら妖力は感じない。」
猫神様はまだここには住んで居ないみたいだ。
あれほど強力だった結界も何も無い、と言うか妖の里ではなくて人間界に存在している。後々に猫神様が妖の里にこのログハウスを転移させて結界を張ることになると言う事か。
「なるほどね~、俺の建てたこのログハウスが250年後にねぇ…でも猫神様って知らないな。ひい、どんな神様だい?」
「うーん、凄い神様だよ?妖力だけで無くて色々な力使えて…でもいつから居たのか分からない…。気付いたら居たって感じだったから。」
あのログハウスが抹茶さんの建てたと言うのは予想の範疇ではあったけど(あるてはそうだと言い切って断言してたけど)今の時点では猫神様いなくて抹茶さんとレナさんの住むただの民家みたいだ。
ガチャリと音をたてて入口のドアが開くとレナさんがお茶を運んで来た。
「何もありませんが…」
と出されたのはクッキーである。
ってレナさん…この時代の日本でクッキーとは…。
「抹茶、レナに未来の知識を吹き込んだな?」
と、あるてが突っこむ。
「特に難しいものでもないし、教えたら上手に焼けたので、ちょくちょく作って貰ってます。」
「まぁ…クッキー程度でとうにかなるとは思わないが…あまり下手な事すると未来が変わるから気を付ける事だな。」
と、あるては言ってはいるが、未来が変わると言ってもそれは私達未来から来た人の思考であって、その時を生きている抹茶さん達からはしたら未来を作っている張本人…。
未来の知識で何かを作るのと、その時代の開発や発明と、何が違うのだろう?
私はそんな事を考えながらクッキーを一つ口に運んだ。
「あら、本当に美味しいわ。これ。」
「まいまいさん、ありがとうございます。」
レナさんは嬉しそうに笑っている。
何でも野苺を練り込んであるらしい。
ほのかな甘みと苦味が舌に心地良く伝わって来る。
「レナの焼くクッキーは日本一美味しいんだ。」
抹茶さん、のろけですか…。レナさんの顔がほんのりと赤くなってゆくのがわかる。
「抹茶、のろけも良いがこの時代にクッキー焼く日本人はレナしかいないのだがな。どうあっても日本一にしかならないな」
「そっ…それはそうなんですが、そう言う事ではなくて」
必死で取繕おうとして慌てふためく抹茶を見ながらプッと笑ってしまうレナ、その二人を見て私は「幸せそうだナ。」と純粋にそう思った。
しかし、抹茶の魂の中にいるハムレットの影を無意識に追いかけてしまい、幸せそうな2人を見ると少し寂しくなる私もいた。
「レナさん、これ本当に美味しい〜。抹茶もっと無いの〜?」
ひいらぎは美味しい美味しい言いながら次から次へとクッキーを口にほおり込む。
全くこの子と来たら私の悩みなんかお構いなしに自然体ねっ!
でも、その天真爛漫さが暗い気分を少し忘れさせてくれる気がした。
ゴンゴン…その時、玄関のドアをノックする音が聞こえる。
「お客様かしら?」
レナさんはそう言って立ち上がると部屋の外に消えた。
そして、お客を連れてくる。
その時一緒に来たのは神社でひいらぎをほおり投げたあの少年である。
「あーっあんた、私を投げた村長さんの息子の…。どしたの?」
「おいらの名は安二って言うんだ。おまえ…いや、あなたに謝りに来た…。父ちゃんが謝って来いって…。」
あなたと言い直す辺り、父親から色々とこうしなさいと言われて来たのだろうか?
「その…投げ飛ばして悪かったな。お狐様達だったとは知らなくて、折角出来た神社に変なやつらがいたと思ったんだ。見慣れない格好だったし…。」
悪気は無いのは初めから分かっては居たし、別にあるても咎めるつもりも無かったのだが、父親に相当言われたのであろう。少年は言葉を詰まらせながら
「……ごめんなさい。」
の一言を言うと、黙ってしまった。
「安ニ、顔を上げよ。私達は、そなたを咎めるつもりは毛頭ない。逆にその正義感溢れる行動を褒めてやりたいくらいだ。」
「お狐様にそんな言葉をかけて頂けるとかおいら幸せです。」
あるての言葉に萎縮しまくって「こう言われたらこう言いなさい」的な返事しか出来ていない…。
長治さんも村長という立場もあり、神様に非礼があってはいけないとの事で色々言ったに違いない。
こうなった子供の心は何を言われても怒られてしまう様な心理に追い込まれてるから簡単には解きほぐせない状態になってしまっている。困ったわね…。
あるても抹茶さん、レナさんもどうして良いか困ってしまっている、空気が重い。
そんな中、ひいらぎは安ニに話しかける。
「ねぇ、安ニは私をほおり投げたから謝りに来てるんだよね?」
「え?あ、うん…。」
「なら、私に村を案内してよ、それで許してあげる。来たばっかりで何もわからないんだ~。」
「え…?」
「何してるの?行くよっ!あるて様、まいまい、ちょっと行って来るね〜。」
戸惑う安ニの手を引っ張ると、ひいらぎと安二はそのまま飛び出して行ってしまった。
「あるて様、ひいは相変わらずですね。」
「うん、昔から何も考えない行動で誰とでも友達になろうとするからな。多分、ひいらぎの中で安二は既に友達なんだろう。安二はひいらぎに任せておけばもう大丈夫だな。」
「抹茶さんもあるても…ひいらぎの事とても良く解ってるのね。」
「あはは、ひいとは付き合い長いですからね。」
「まいまいだってもう気付いているのだろう?」
「まぁ…ね」
裏表なく素直な性格が時には周りを引っかき回し、時には和ませたり、そして気付いたらいつの間にかひいらぎに引き込まれてしまっている…。
それはひいらぎの生まれ持ってのものだろう。
そう…私もいつの間にかひいらぎに引き込まれていっけ…。
◇
村に向かって走る2人の姿。1人はかわいい猫耳の少女でもう1人は村の少年。
猫耳の少女が少年の手を引っ張っている。
「お、おいっそんなに引っ張るなよ、おまえ…あなた力強いな。」
「もぉ安ニっ!その中途半端な言い方、調子狂うから普通にひいらぎって呼んでくれればいいわよ。」
ひいらぎは手を離し腰に手を当てて少しプンプンしてる素振りを見せる。
その仕草に安ニは少しドキっとしたようだ。
「ドキっとしてねぇよっ!さっきからオマエ自分でかわいいとか何声に出して言ってんだ。」
「オマエじゃ無くてひいらぎでしょっ」
「普通でいいならオマエでもいいじゃないか。それに…やっぱり神様だから…偉いのかよ…。」
安二はそう言うと言葉を無くし、下を向いてしまう。
「うーん…そうじゃ無くて私はただアンタと友達になりたいだけよ?」
私は安二の手を握るとそのまま顔を近づけて目をじっと見つめた。
安二はドキッとして恥ずかしがって手を払い、一歩後ろに下がる。
「だからドキっとしてねぇってっ!なに声に出して喋ってんだっ!」
「ふぅん?ドキッとして無かったんだ?」
「いきなりあんな風にされたら誰だってびっくりするだろう!」
「ほぉぉぉぉぉ…だから恥ずかしがって手を振り払って後ろに下がったんだねっ♪」
「ああっもぉ知らねぇよっ調子狂うなぁ…。ひいらぎ!これでいいだろう?」
安二が少し照れながらそう言うと、ひいらぎは嬉しそうに笑う。
「後、私神様じゃないからね、あるて様と一緒に住んでいるただの猫又だよ。」
「ふぅん?そうなんだ。」
「安二、あんまり驚かないんだね。」
「うん。だって耳や尻尾生えてるし、ヒトでは無いのは知ってたからな。村の人達を襲わないし敵じゃ無さそうなら神様でも妖怪でも同じさ。」
「そかー、やっぱりアンタっていい奴だったんだね。」
「な…なんだよ、それ…。」
「お?何アンタ、照れてるの?」
安二は向こうを向いたまま少し黙っていたが、そのままひいらぎの方に手を出した。
「む、村を案内して欲しいんだろ?来いよ、『ひいらぎ』」
「うんっ」
ひいらぎは嬉しそうにその手を取ると歩き出す。
2人は村へと向かった。