表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

第25話 前向き

私は銀行強盗の人質となり、逃走の為の人質となっている。

犯人は2人組で、変なオネェ言葉を使うピンクのフリフリを着て女装した、70は超えているガリガリのせむしの老人と、そして私に銃を突き付けているのが、口ひげを生やした40代後半位の筋肉男である。


警察に要求したライトバンが犯人たちに届いたが、シートの隙間から発信機が出て来た為、私は太腿を銃で撃たれた。


運転席には女装のせむしが、そして口ひげの筋肉男が動けない私を後ろから抱き抱える様な形で引きずりながら車の後部座席に乗り込もうとしている。


もはや絶体絶命である…。

助けて、ハムレット…。


その時、パトカーの脇から物凄いスピードで突っ込んで来る1台の白いバイクがいた。

白バイでは無い。あのバイクは、白のZZR1100は…公二のバイクだ!

よく見ると右足にギプスをしている。

まさか、あんな状態で病院を抜け出して来たの?

公二…私の為に…


口ひげの筋肉男は私を後ろから抱きかかえ、無理やり立たせて銃を構える。

そして公二に発砲した。


バァーン!バァーン!


公二は身体を小さく屈めた為、その身体はZZRの大きい車体、カウルの中にすっぽりと隠れていた。

銃弾はカウルに当たり軌道を変えて辛うじて公二命中はしなかった。


「公二!もういいわ、殺されてしまう!逃げてーっ!」


バイィィィィィィィィン!


しかし、公二は更に加速して私と口ひげの筋肉男に向かって一直線に突っ込んで来た。

そして私に向かって叫ぶ。


「カーマインんんんんっ!アインス、ツヴァイ、ドライだっ!」


その瞬間、私は時間が止まった様に感じた。

その言葉は私が250年前にハムレットと来世で私に会いに来てと約束した時の…「合言葉」だった!



(そうね、一時のお別れよ。250年後で待ってるわ。でも私は来世のハムレットが判らないから…アインス、ツヴァイ、ドライって声を掛けてね、2人の合言葉よ。)



その言葉が今、公二の口から発せられたのだ。

ま、まさか…公二がハムレットの生まれ変わりなの?

ハムレットが長い時を超えて私との約束を果たして会いに来てくれた…そして私の危機に助けに来てくれたんだ!




(ハムレット…一、ニ、三、ね。子供の頃にやっていた護身術ごっこね、後ろから抱き付かれて捕まった時とかの…。)


(そうさ、(アインス)…両腕を外側に力入れて…)



「アインス!」


私は後ろから抱き着いている口ひげの筋肉男の腕に対し、思い切り力を入れる。


「何だ?ねぇちゃん、逃げようったってそうはいかねぇぞ?ヘタな事してみろ、今度はどてっ腹に鉛を喰らわすぜ!」



((ツヴァイ)…その力を抜き身体を細めてしゃがみ…)



「ツヴァイ!」


ハムレットは私を信じている。だから私もハムレットを信じる、銃なんて怖くないわ!

私は口ひげの筋肉男の腕に対して外へ外へと入れていた力を一基に弛緩させ、思い切りしゃがんだ。

すると一瞬のタイミングで私の身体はその拘束していた腕からするりと抜けていた。


「このアマっ!ジタバタするんじゃねぇっ!」


口ひげの筋肉男は銃を私に構え、引き金に手をかける。

バァーン!


((ドライ)…そして逃げる、さ…)



「ドライっ!」


口ひげの筋肉男が銃を撃つのとほぼ同時にだった。

私はしゃがんだ反動でそのまま地面を蹴ると、瞬間的にその場から飛びのいた。

弾丸は一瞬遅く、地面に跳ね返る。

その瞬間にハムレットが、バイクを倒し横滑りしながら私と口ひげの筋肉男の間に突っ込んで来た。


バァーン!バァーン!


口ひげの筋肉男はハムレットに向かって銃を放つが、自分に向かって高速で移動するバイクに弾かれて、ハムレットに弾は命中する事はなく、そして口ひげの筋肉男はやが滑って回転しながら自身に突っ込んで来るバイクに弾かれて吹っ飛ばされた。



「人質が解放されたぞ!犯人を確保ーっ!」


その瞬間、警察の狙撃手が口ひげの筋肉男を狙撃し、左足を撃ち抜かれて動けなくなった所をすぐさま取り押さえられた。

女装のせむしは自分だけでも助かろうと、バンで逃走を図ろうとしたがもうすでに時は遅く、周りを装甲車で固められていて、焦った挙句に街灯に正面から突っ込んであっけなく取り押さえられた。




ハムレットは足を引きずりながら私の所に来てそしてその腕で私を抱きかかえてくれた。


「カーマイン!無事か!?足は大丈夫か?」


「こんなのかすり傷よ…。それよりも…あなたが来てくれたのが嬉しい…。」


私はその腕の中で崩れる様に身体を預け、動けなかったが、何とか腕を回してハムレットに抱き着いた。

そして、どちらからとも無く唇を重ね合わせるのだった。


そして、私は意識を失った。


……………………

…………

……









「はーい、あ~ん」


しゃりっしゃりっしゃりっ…


「ほらカーマイン、美味しい♪とか言わないと。」


「ええいっ!うるさいっ!」


私はハムレットにりんごを剥いてもらい、あ~んで食べさせられている。

人前でもやるから恥ずかしいったらありゃしない。



あれから2週間が過ぎてハムレットは退院したが、私は強盗に撃たれた弾丸が腿に残っていてそれの摘出手術、全治2か月で入院する事となっていた。

私の身の回りの世話はハムレットがしてくれているが、とにかく私を甘えさせたくてたまらないみたいだ。


そして、それを皆が面白がって、しょっちゅう見舞いと言う名の冷やかしに来るのだ。

因みに今はあるてが来ている。


「まいまい、どうだ?新婚生活は?」


「それを言うなら、どうだ?身体の具合は?じゃなくて?」


「まぁいいじゃないか、結婚するんだろう?250年振りにハムと人間同士で恋人になれたんだ。」


ハムレットは否定しなかった。 

わ…私も否定しなかったわよ…。


公二がハムレットの来世だった。それだけでも驚きなのに、未来に戻って来てからすぐ公二が前世(ハムレット)の記憶を思い出した。

どうやらそれにはあるてが絡んでいたらしい。


「過去から戻って来て公二を見た時、それまでは分からなかったのだが魂に明確な変化があったんだ。まいまいは人間に戻って気づかなかったかも知れないが、ハムが公二に転生している事は直ぐに分かったさ。

多分過去でのまいまいとの約束が、公二の中のハムの記憶に色濃く反映されたのだろう。元々ハムの来世だったのかも知れないがな。」


あるての言うには簡単に来世と言ってもその人が前世の記憶を思い出す事はあまりなく、ただぼやっと深層意識にとどまる程度なのらしい。

公二の場合はそれで私に好意を持っていたのかも知れないが、過去から戻って来た時にはっきりと公二はハムレットの来世とあるてが確信持てた為、法力で魂を呼び起こしたのだ。

おかげでハムレットは、公二の記憶を全て持ちながらハムレットの記憶も全て思い出していた。


もし、公二がハムレットの来世でなければ、あるいは公二がハムレットの記憶を取り戻せなかったら私はどうしていただろう?

多分…どちらも選べなかっただろう…。


公二の好意は分かっていたし、私も公二に惹かれていた。しかし、私はハムレットを愛している。

公二には悪いけど、私はハムレットとの約束を待ち続けるだろう。

そして、やがてハムレットが現れても今度は公二に遠慮して一緒にはなれなかったのかも知れない。


「結局、まいまいはずっと後ろ向きなんだよ。私はまいまいに前向きになって欲しかったから、私に出来る最善の事をしただけさ。」


「そうね、素直に感謝しているわ。」





「では私はそろそろ帰るがハム、まいまいの事頼んだぞ。それと後でひいらぎの所に顔だしてやれ、ハムが来ると喜ぶからな。」


「わかりました、あるて様。」


「まいまい、公二の口からのあるて様はどうも馴れないな、あははは。」


「本当ね、うふふ。」


「しょうがないじゃないか2人とも、俺にとっては250年間ずっとあるて様だったから今更変えられないんだ。」


「この世界で人間として暮らすなら「様」はやめておいた方がよいな。あはははは。」


あるては笑いながら部屋を出て行った。

暫くして足音がしなくなる。



「ハムレット…病室の外、ちょっと見て来てよ。」


そう、この前、帰ったフリして私と公二のやり取りを覗かれて、恥ずかしい思いをしたのだ。

警戒するに越したことは無い。


「カーマイン、いないみたいだぞ?」


「そ…。」


私はそっと胸を撫で下ろした。




私とハムレットだけ…

2人になった病室は、ちょっと静かになる。


私はずっと気になっていた事を聞いてみた。


「ねぇ、なんであなたはずっと家に帰らず神社の下でテント張りながらツーリングしていたの?何もあそこでなくても良かったはずなのに…。」


「それは、公二オレハムレットの記憶思い出した今だからこそ分かるんだけど、あそこじゃ無ければ駄目だったんだよ。」


「なんでよ?」



「俺、霧島工務店の跡取りなんだけど、経営が芳しくなくてね、たまたま俺を気に入ってくれた取引先の娘さんと見合いさせられそうなんだ。結婚すれば商売は立て直せる…願ったり叶ったりだけど…それは駄目だと心の奥底で叫ぶんだよ。カーマインの事が引っ掛かってたんだな。」


「でも、その叫びは認めて貰えたの?」


「駄目だった。だから家を飛び出したんだ。魂の奥底で運命の人は分かっていたんだろうなぁ、引き寄せられる様にあそこに来てカーマインと知り合って…。俺はあの時すごく幸せだったんだよ、この人しかいないってね。どうやって口説こうかとかそんな事ばっかり考えていたさ。」


ハムレットは少し真剣な顔になる。


「そして先日、両親を説得させる為に家に戻ったんだ。真剣に想う女性ひとがいる。一緒になる人は自分で決めさせて欲しいと直談判したんだ。」


「そ、それでどうなったの?」


「オフクロは商売の事とか色々引き合いに出して言ってきたけど、最終的に親父が「店もお前の代の事は自分で何とかすれば良い、好きにしろ」と言ってくれて認めて貰う事が出来たんだ。それをカーマインに早く伝えたくて急いで戻って来たら事故っちゃって。

まぁ、公二(オレ)はシャイだからそんな状態になってても結局何も言えずにいたかも知れないけどね。あははは」


こうして来世で私と恋人として再会できた今だからこそ言えるんだよ、とすこし照れながらハムレットは言った。


「ハムレット、公二アンタの下心なんてずっと気付いていたわよっ、ずーっと私の胸ばっかり見てたじゃない。Hなとこなんてハムレットそっくりだったわ!前世の記憶が無くてもハムレットは所詮ハムレットよ。シャイなの隠して強がってるとこも全部同じよ。それに霧島工務店の跡取りですって?経営難?政略結婚?親の反対?そんな同情よろしくで口説いたって私がなびかない事くらいアンタが一番知ってるでしょ?元々ハムレットは没落貴族じゃない、潰れかけの工務店の跡取りになっててお金なんか無い程度の方のがアンタにはお似合いなのよっ!」


私は知らない間にハムレットにまくし立てていた。それは嬉しかったのか、むず痒かったのか、良く分からない感情からである。


「随分と酷いなぁ~」


「だから…………だからっ、私は公二(ハムレット)を好きになったのよ…、大好きだったわ…。でも、公二にハムレットの面影を見てその影を追い求めて、公二をハムレットの代わりにしてると思っててずっと後ろめたかった。でも、それは違ったのね、私は貴方ハムレット)だから公二に惹かれたのよ。私の気持ちは間違いじゃなかったのね。」


私もそう言うと、少し恥ずかしくて顔が赤くなっていたのかも知れない。

ハムレットはそんな私をギュッと抱きしめた。


「ハムレットは約束通り私に会いに来てくれた。だから今度は私が約束を守る番ね…。私はもう逃げないわ、続きをしましょう…250年前のあの時の続きを…。もう、貴方をその気にさせてから焦らして逃げるなんて事はしないわ、もうこの身体も真心もあなたの物よ。」


私はハムレットのそれをそっとひと撫ですると、それは固かった。


「うふふ、でもここは病院だから無理ね?退院するまで待ってちょうだい。」


「あ、カーマイン逃げた。」


私は恋人とそんな冗談を言いながら心から笑った。

心からの笑顔なんて250年間忘れていた気がする。

私は今までずっと後ろ向きだった。

でも、後ろ向きって事はきらいじゃ無かった。

それは…前向きって言葉が更に魅力的になるから。



「ハムレット…今から私にプロポーズしなさいよ。両親はやっと想い人と一緒になる事を認めてくれたんでしょ?」




私はハムレットに首に手を絡ませて唇をそっと重ねる。



「アンタの想い人は250年もアンタを待ってたんだからね…もう逃がさないわ!」





後ろ向き…

そう、それは…前向きって言葉が更に魅力的になるから…


病室に差し込む陽の光が、二人を優しく包み込んでいた。


私の前向きは永い年月を経て、今静かに始まったばかりだ…。









後ろ向きな私は過去世界で何を見る

Fin




この作品をここまで読んでくれた全ての方々、ありがとうございました。

この話はここで終わりとなります。


連載しながら書き続けるとか私には出来ないので、完成するまで書き上げて、そこから公開と言うやり方でやってますので、遅筆なうえ他の作家さんみたいに100話200話とかはなく短い話のみになりますが、また書いたらその時にまたよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ