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第23話 べっ…別に迷惑じゃないから飾っておきなさいっ!

現代へ戻って来た私とあるては…

ここは現代。

寂れた稲荷神社。

何もない空間がぼぉっと(ゆが)み、突然人が現れる。


その姿は私とあるて。

長かったような過去行きの旅も、時間軸では一瞬である。


私達が通った後の空間は閉じて何もなくなった。


「むぅ…。僅かに残っていた虚術の(ひず)みも完全に無くなってしまったか。これで抹茶達の顔も見納めだな。」


出発する時は会える喜びがあるが、戻って来る時には別れの寂しさが付きまとう。

あるても少し感傷に浸っている様だ。



「お帰りなさい。」


ふと後ろから声がする。ここへ戻って来た時の会える喜びである。

振り返るとそこには、赤のミニスカートとポロシャツと猫耳フードがいた。

ひいらぎと、猫山さん、小とろ君である。



それは過去で別れたひいらぎ、安二君の250年後の姿だ。

ひいらぎは少し成長したのか、小学生の高学年位だった見てくれが、中学生位に見える。

でも残念な事に相変わらずぺったんこだ。


「まいまい、なんか言った?」


「いや別に。」



猫山さんはあるての前に来て、少し頭を下げた。


「あるてさん、約束を果たして頂きありがとうございます。おかげで私も妻も子供も幸せに過ごす事が出来ました。」


猫山さんの口から妻も子供もと言う言葉が出ると、ひいらぎも結婚したんだなぁと実感する。


「いや、礼には及ばんよ。こちらこそ私との約束を守り続けたひいらぎのお陰で全て上手く行ったんだ。あの猫玉の力は紛れも無く本物だった。」


「nyaちゃんとDELIに力の制御の仕方色々教えて貰って色々と上達したんだよ」


褒められてひいらぎはちょっと嬉しそうだ。

でもそこに猫山さんも口を挟む。


「でも修行やだってしょっちゅう逃げ出してたじゃないか。」


「その度におさーんが無理やり引っ張って連れ戻したじゃないか。」


ひいらぎはやっぱりひいらぎだったらしい。

250年でこれほどの成長を見せたひいらぎの真の功労者は猫山さんだったみたいだ。


「猫山さん、ひいらぎに修行させて結果を出すというのはさぞ困難の連続だったであろう…。偉業の達成に心から感謝する。」


「あるてさん、偉業ってそんなに大層な事では…」


ひいらぎをちゃんと制御してくれる存在が出来た…。

これからもひいらぎをちゃんと制御してくれる…。

ああ…、こんなうれしい事はない…。


あるてもうんうんと頷いている。


「そうね、それがどれだけ大変な事かは私達にはものすごく分かるわ…。猫山さん、あるての言う通り、これは間違いなく偉業よっ!」


「二人ともひどいにゃああああっ!」




ひいらぎと猫山さんの後ろに隠れていた小とろ君が顔を出し、心配そうに口を開いた。


「なぁ、ひいらぎ姉ちゃんは、もう帰って来ないのか?」


その問いにあるては小とろ君の前に行ってしゃがみ、同じ目の高さで話す。


「小とろ、良く聞くんだ。ひいらぎは大切な人と会うために過去に残った。その大切な人とはお前、小とろだ。小とろと必ず会う為にお前の父親、つまり若かった頃の猫山さんの所に嫁に行ったんだ。その結果今お前がいるんだよ。過去に残ったひいらぎはな、最後までお前の事を想っていたよ。」


「そっか…もう帰って来ないんだな…。お嫁さんになって…ひいらぎは幸せだったか?」


「ああ。それはもう、物凄く幸せそうだったよ。」


あるては小とろの頭を撫でながら微笑むと、小とろは滲んでいた涙を拭ってニコッと笑った。


「ちぇー、幸せか…それならいいや。ひいらぎ姉ちゃん…幸せになー。」


小とろは頭では理解していても、母親とひいらぎをどうしても別人として認識してしまうのだろう。

好きだった近所のお姉さんひいらぎの存在は大きく、なかなか受け入れられないのかも知れないが、強がって納得しようとしている。

その強がり方はひいらぎにそっくりだ。


ひいらぎもそれが分かっているからいつ捲られてもいいようにミニスカートでいるのだろう。

それで寂しさが紛れるのならと相当捲らせたに違いない。






こつ…こつ…こつ…


そんな時、誰かが神社の石段を登って来る足音がした。


「あ、みんな揃ってるねますね~、お久しぶりです。」


芹穂だ。抹茶さんとレナさんの子孫である。

見るとレナさんを少し幼くしたような顔立ちの女の子だ。

このところ、受験勉強で神社にずっと顔を出していなかったが、受験が終わったのだろう。


「芹穂、受験どうだったんだ?」


笑顔でVサインを出しながら大きく頷く。


「見事志望校に合格しました!」


「やったか!おめでとう!私も自分の事の様に嬉しいぞ!」


あるては芹穂がこっそり置いておくカップのきつねソバを昼下がりに食べるのを至高の時間としている。

それが復活する事がとても嬉しいのだろう。

芹穂もそのカップのきつねソバを食べているあるてをスマホで激写するのを楽しみにしている。

静かで平和な攻防が復活するのだ。


「ん?この子誰?ひいらぎちゃんに似てるね~。ひいらぎちゃんの弟?」


「ううん、私の子供だよ。」


「ええっ!子供!?ひいらぎちゃん、結婚してたの!?」


私達は事の経緯を芹穂に説明すると、とても驚いたように小とろ君を見ている。

小とろ君は芹穂の視線にちょっと恥ずかしそうにしていた。


「へぇ~、猫耳フードの下に本物の猫耳があるんだねー。」


「や、やめろよーくすぐったぃ…」


小とろ君はくすぐったそうにしていたが、それから逃れようと素早く芹穂の後ろに回り込んだ。

その瞬間、芹穂のスカートがぶわっと捲れ上がる。


「へっへー、仕返しだ!芹穂姉ちゃんのぱんつ、黒に白の水玉のレモンスカッシュだーっ」


ばちんっ!


その瞬間、乾いた音が響き渡る。

芹穂が小とろ君の頬を平手打ちしたのだ。


「こら!女の子にそんな事しちゃダメじゃないっ!」


小とろ君は訳わからず茫然としていた。

それは当然である。いつもは捲られる事が前提のじゃれ合いだったので、怒られた事など無くそれが当たり前だったのに、今日もそのつもりでスカート捲ったら平手で()たれたのである。

小とろ君にも芹穂が本気で怒っている事が伝わって、(すく)み上がっている。


「ご、ごめんなさい…」


やっと絞り出すようにその言葉を出すのが精一杯だった。

すると芹穂は小とろ君ににっこり笑いかける。


「私も小とろ君が嫌がってるのに耳に触ったりしてごめんね。でももう女の子のスカート捲っちゃだめだよ。女の子に嫌われちゃうぞ?」


「芹穂姉ちゃんはおいらの事、嫌いになったのか?」


「ならないわよ、私は小とろ君の事好きだよ。」


「そ…そうか。なら特別においらの耳触らせてやるよ。」


小とろ君はそう言うと、少し顔を赤くしながら上目遣いで猫耳フードを取る。

芹穂が猫耳を触ると今度は気持ち良さそうにしていた。


それを眺めながら、あるてがひいらぎに話しかける。


「なぁひいらぎ、過去でした約束、「小とろが寂しく無いようにしてあげて」はこれで果たせたんじゃないか?」


「そうですね、芹穂のおかげでもう寂しく無いかも…。でもこの位の子の好きはまだ本当の好きじゃない少年の恋だよ。小とろには100年早いわよ。」


「ほぅ、ひいらぎが恋愛を語るか。でも過去のひいらぎに対して抱いていた「気になる近所のお姉ちゃん」的感情からは一歩前進したみたいだな。」


「そうですね。芹穂に感謝だね。」





微笑ましい光景である。

未来に帰って来てまずはちょっといいもの見れた気がするわ。


「まいまい、微笑ましいと言えば自分はどうなんだ?これからどうするんだい?やっと人間に戻れたんだ。ハムとの約束もあるだろう?」


あるてはちょっとニヤニヤしながら言って来た。


「そうだけど…まだ何も決めてないわ。そんな昨日の今日でハムレットが見つかる訳じゃないしね。白紙よ。」


「え?まいまいさん、人間に戻れたんですか?おめでとうございます!ハムレットさんとの約束って?」


芹穂もハムレットの最後を見届けてくれた一人である。聞き覚えのある名前に話に入って来た。


「むぅぅ、実は過去の抹茶の中に入っているハムを呼び起こしてな「来世で会おう」ってハムと約束してきたんだ。」


「えええっ!凄いロマンチックじゃないですかっ!」


「そうね、会えたらいいと思うわ。」


芹穂は凄く目をキラキラさせている…が、

約束と言っても私は抹茶さんの中に残っているハムレットの深層意識に「来世で会いに来て」と言っただけである。その来世が今なのか、もっと先なのか、それにこの世界のどこにいるか全く分からない。物凄く良く言って希望的観測でしかない。

現代に戻って来て改めて考えてみると、涙しか出て来ないわね。



「でもまいまい、そうすると、彼氏はどうするんだ?」


「えっまいまいさん、彼氏いたんですか?」


芹穂が食いついて来るのが分かってて…あるて、悪乗りしてるわね。


「ここの下のテントの青年だよ。まいまいがかいがいしく身の回りの世話してるんだ。」


まったく…


「もぉ、芹穂が本気にするじゃない。公二とはそんなんじゃ無いからね。とにかく私は帰るわね、色々あって何か疲れたわ。」


「彼氏にちゃんと挨拶するんだな。」


「うるさいっ!」


私は皆のニヤニヤした視線を浴びながら石段を降りてゆく。


公二が私に好意を持っているのは気付いている。私に取っても公二は気になる存在だ。

でも私が夢魔だから同じ時間ときを過ごせないからと、公二との距離を縮める事はなかった。


でも人間に戻れた今、同じ時間ときを過ごす事が出来るようになった。

しかし私はハムレットと「来世で会おう」と約束している。

だから私はハムレットを待つだろう。

これ以上、公二を振り回してはいけない…。私には好意を受ける資格がないわ。


その時、出発前に


『随分と後ろ向きなんだな。』


『前向きって言葉が更に魅力的になるだけよ。』


と、言うあるてとの会話を思い出した。


「結局、私はどうあっても後ろ向きなのね…」



公二のテントが見えた。

どうやら居ないみたいだ。


「ったく…どこをほっつき歩いてるんだが…。」



「病院だな。」


その時後ろから聞こえた声はあるてだった。


「たった今、病院から連絡があったんだ、どうやらバイクで事故って入院してるらしい。」


「えっ?それで容態はどうだったの」


「ただの右足骨折程度みたいだよ。公二の健康保険証がテントらしくてな?ここで寝泊まりしてるみたいだから神社の管理人、つまり私に公二の健康保険証をテントから持って来て欲しいとの事だ。」


と、言いつつあるてはテントに潜って行った。

が、すぐに出て来た。


「すまないがまいまい、健康保険証探し頼めるか?」


なんで私が…とか思ったけど、テントに入ったらあるてが出て来たわけが分かった。


「私の写真が飾ってある…」


そう、荷物の横に紙の写真立てに入れられた私の写真が置いてあったのだ。


「悪かったな、そういや公二の管轄は初めからまいまいだったのを忘れていたよ。うん。」


ニヤニヤしながら、しれっとそう言うあるてに対して何か言ってやりたかったが、この状況下では何も言えなかった。


私は健康保険証を荷物の中から探すと、あるてと一緒に病院へ向かった。

その道中、あるてはずっとニヤニヤしていた。

くそっ…。






私達は病院へ着くと、公二の病室へ向かった。


コンコン…


ノックして病室へ入る。


「公二、あんまり世話焼かせないでよね…持ってきてあげたわよ、健康保険証。」


「す…すみません。迷惑かけてしまって…。それで、健保を見つけてくれたのはあるてさん…?」


私の写真の事を気にしているのだろう。

ここで気まずくなるのもなんだし…

うん、無かった事にしよう。


「私はただの付き添いよ。あるてが探してくれたわ。」


「そうでしたか、あるてさんすみませんでした、お手数おかけしました。」


公二はちょっとホッとした様に言った。


「いや、私は何もしてないぞ?ソレを探してくれたのはまいまいだな。それには当然テントにも入る事になる。」


少し慌てる公二を見て、あるてはくっくっくっと笑っている。

せっかく気まずくならない様にしようとしてたのに…完全に楽しんでるなぁっ!?


「まぁ大したことも無さそうだし私は帰る。まいまい、後は頼んだぞ」


と、笑いながらあるては病室を出て行ってしまった。


残された私達は凄く気まずかった。




「あの…写真、見ました?」


「え、ええ。飾ってくれてたのね。」


「すみません…退院したら片付けますので…。」


「別に片付けなくてもいいわよ、そんなの公二の勝手なんだし。」


「でも、迷惑ですよね?勝手に飾ったりして。」


「べっ…別に迷惑じゃないから飾っておきなさいっ!」


「はいっ」



ああ、私ったら何言ってるのよっ!

絶対に顔赤くなってるわ!

バレて無いわよね?

公二も変に意識しちゃってるし、最後嬉しそうに「はいっ」とか言うし…


ともかく公二は右足のすね骨折で、約2週間の入院らしい。

動けないだけで取り敢えず元気そうで良かった。


「とっ取り敢えず着換え持って来てあげるわ。何か他にいる物ある?」


「ではリンゴが欲しいですね。」


と言う公二の視線には何か期待してる様な気がする。


剥いてあげて、あ~んとかして欲しいのだろうか…


「はぁぁ……果物ナイフも一緒にいるよね?」


「有難うございます!」


嬉しそうだ。

まったく…ここら辺の露骨な甘えたがりは…ハムレットそっくり…。


「じゃ、行ってくるわね。テントの荷物、取り敢えず私の家に運ぶから。何かあったら私のスマホに連絡頂戴。番号教えるから…」


紙に私の連絡先を書いて渡し、そして公二の番号を私のスマホに登録した。

公二は嬉しそうだ。


「じゃ、また後でくるから大人しくしてるのよ。」



と、私は病室を後にした。


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