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第21話 吸血鬼とロリコンの変態

DELIは静かにnyaを抱きしめている。

先程までの闘いが嘘の様に穏やかな顔で…。


「ところであるて、ドラキュラの最後のお願いって何だったの?」


私は気になってた事を聞いてみた。


「ああ、あれか。まい子の人狼と同じさ。nyaとDELIは村人に姿を見られてはいないからな。どこからともなく現れた人狼が村に被害を与えた。その事実以外は全て無かったんだ…。でも怪しげな外国人が居たら村人は怪しがるから、それを虚術「認識」で取り除くんだ。」


「東洋の妖狐、何故敵である私達にそこまで…」


「私も自分の尻の拭き残しを拭いただけだよ。ドラキュラがそうした様にな。私がドラキュラを(あや)めて無かったらnyaは悲しみに打ちひしがれる事も無く、DELIも復讐劇をする事が無くなり、従って今回の事件も起こらなかった事になるからな。元々なかった話なら無かった事にしたいだけさ。」


あるてはそう言いながら両手を広げ、認識を使った。


「ふぅ…終わったよ。これで全て終わったんだ。」


あるては空を見上げると息をふぅっと吐いた。



「抹茶とレナが元気でやっているか見に来た今回の過去行き…ひいらぎと安二を会わせ、まいまいをハムと会わせる事…それが私の目的だったのだが、まさか…ドラキュラの事まで全て解決してしまうとは…さすがは猫神様だな。」


「そうだよ、猫神様は凄いんだ。あるて様やまいまいを一緒に行かせたのは先見の眼によってこうなる事が分かっていたからだからね。」


そっか…あるてが猫神様の話をしている時、ひいらぎはDELI達に捕まっていたからまだ自分が猫神様だという事を知らなかったんだ。

あるてはそんなひいらぎの頭をそっと撫でた。


「そうだな。ひいらぎよ、よく見て置くんだな。色々な事を見る事はきっとお前の糧となる。」


「うにゅ~」


ひいらぎは分かっているのか、いないのか、気持ち良さそうに目を細めて笑っていた。


「さて、みんなの所へ帰るか…DELIにnyaも一緒に来て欲しい。」


DELIとnyaは突然の申し出に顔を不思議そうに見合わせる。


「…どうして私達も行くのです?」


「ちょっと頼みたい事があるんだ。それは二人にしか出来ない事なのでな、村人達の為にそれ位の罪滅ぼしをしても良いだろう?」


それにはDELIよりもnyaのか先に反応する。


「たとえ復讐の為とはいえ、この村に多大な迷惑をかけたのは事実、アタシらに是非やらせて欲しい。」


「ふぅ〜、nya様がそう言うなら私にも異存はありませんよ。国に帰る前にドラキュラ様の好敵手ともである東洋の妖狐…いや、あるて殿が奉られているニホンのジンジャーと言う物を見てみるのも悪くない。」


あるては可笑しそうにくっくっくっと笑うと歩き出す。


好敵手ともか…ドラキュラにはnyaを助けろと言われたからな。では…約束、果たしに行くとするかな。」


私達は村人達が待つ抹茶のログハウスへと歩き始めた。








抹茶のログハウスに向かっていると、村人達が神社まで出迎えてくれていた。


「お狐様、人狼の方は…」


レナさんである。

中でも一際心配そうな顔をしていた。


それも当然であった。

少し前に人狼騒ぎが合ったばかりで、その時に恋人である抹茶さんは生死を彷徨っていたばかりなのである。

そういう点では村人全員不安そうな顔をしていた。


「レナ、そして村の者たちよ、今宵(こよい)何処(どこ)からとも知れず現れては村を襲った人狼はもう居ない、そして断言する!もう二度とこの村に人狼が現れる事は無いだろう!」


あるてのその言葉に村人達はおおっ!と口々に歓声を上げる。


「流石はお狐様だ!」


「二度もおら達の村を救って下さった!」


「あるて様美しい!」


一部間違った歓声もあるが村人は安堵している様だ。


「まいまい、何か言ったか?」


「いや別に。」




あるては更に村人達に続けた。


「今回の人狼騒ぎを収めたのは私では無い。人狼を直接退治したのはこのひいらぎだ。」


村人達から再びどっと歓声があがる。


「そう言えば大きな猫が人狼と闘ってたな!」


「あれはひいらぎ様だったのか!さすがはお狐様のお弟子様!」


「ひいらぎちゃん、かわいい!」


かわいいの部分にDELIがうんうん頷いている。

確かDELIの趣味はそういう事だっからそういう事なのだろう。


「このロリコンが!」


それを見ていたnyaが肘打ちを炸裂させる。


「いえいえ、私は小っこくて小さい女性が好みなだけで子供には興味ありませんが?猫のお嬢さんもnya様と同じく100歳は超えてるのはご存じの筈では?」


「歳を言うんじゃねぇ!」


あ、DELIの顎を下から突き上げた。

ひいらぎも人間では無く猫又だから、幼く見えても150歳にははなるのだ。


「nya様、ヤキモチですか?」


「…!」


ばきっ!


今度は無言でパンチをヒットさせる。

照れ隠しからなのか少し顔が赤いように見える。

DELIは鼻から血を垂らしながら、はっはっはっと笑っていた。

このどつき漫才みたいなのも普段のじゃれ合いと言うか、愛情表現みたいな物なのだろう。





村人達は暫く人狼騒ぎが収まった事に興奮さめやまぬ状況であったが、その騒ぎも落ち着きを見せる頃、誰からとも無く声が聞こえる。


「でも…収穫がなぁ…」


「そうだよな…。」


「今回の人狼騒ぎで田も畑も滅茶苦茶だ…踏み荒らされてせっかく実った収穫物もおしまいだ…。」


「潰された家々も沢山あるだ…」


「だなぁ…これからどうやって暮らして行けば良いだか…」




あるてがDELI達に近付く。


「村人達の声を聞いたか?二人にやって欲しいと言うのはこの事だよ。」


「踏み荒らされた田畑を戻し、作物の再生、そして潰された家々をもとに戻すんだ。蘇生の能力を持つシャーマンのDELIにしか出来無い事なんだ。……………頼む。」


あるては以前人狼でこの村に多大な被害をもたらせてしまった。

だからこそ再び迷惑を掛けたくないと言う思いが強いのだろう。


「私の専門は無形のゴーレムや死者で、植物や土建は専門外なのですがね…まぁ何とかなるでしょう。」


「すまない。」




申し出を快諾したDELIは両腕を広げ、呪文を唱え始める。

すると大地が唸り、ゴーレム達が…


「出てねぇよ…どうしたDELI!」


「すみませんnya様、先程までの戦闘で私の魔力も底を付いてしまった様です。」


がっくりと膝を付いてしまったDELIは肩で息をしている。

その様子に対して、あるてはDELIの肩にぽんと手を置いた。


「人造人間を召喚維持しつつ、遥かに格上のドラキュラを完全蘇生だからな、魔力が底をつくのは分かっていたさ。だがDELI、大丈夫だ。」


あるてはそう言うと、ひいらぎを呼んだ。


「えっ?私?」


「お前の猫玉をDELIに貸してやれ。」


「え?でも猫玉は私以外受け付けないけど…。」


そうだ。猫玉はひいらぎ以外受け付けず、私やあるてでさえも触れる事さえ出来ない。


「まさかっ!あるて様、DELIと「あのヤツ」をやれと!?もう私にはおさーんと言う人がいるんだよ!他の人となんてやだよっ!」


と、安二君の後ろに隠れるひいらぎ。

そんな事を突然叫ばれて、安二君は照れて焦りながら赤くなっている。


双魂蘇呪縛そうこんそじゅばくちぎりを使わなくても大丈夫だよ。猫玉の今の所有者はひいらぎだから、ひいらぎがその様に念じれば大丈夫な筈だ。」


「うぅ〜ん、よく分からないけれどやってみる」


ひいらぎは猫玉を手にブツブツ言い始めた。


「DELIは大丈夫…あのロリコンは大丈夫、変態だけと大丈夫…」


猫玉にこれと言って変化は見られない感じだ。

本当に大丈夫なのか?


「猫玉がバチっと拒絶したら、直ぐに玉を離してね。」


と、ひいらぎは猫玉をDELIに差し出した。

おそるおそる手を出してくるDELI、猫玉に触れて見ても何も無い。


「ふぅ〜、大丈夫みたいでしたね。」


DELIは立ち上がると再び呪文を唱えると、猫玉が反応して光りあたりを眩しく照らした。


「な、なんだ!今まで見た事も無いくらい凄まじいパワーだ」


nyaが驚く中、大地が揺れて村中にゴーレム群が現れる


「ではnya様、お願いします。」


「まかせろっ!」


nyaは無数のコウモリ群に姿を変え、ゴーレム達の上を飛び回ると、超音波でゴーレム達を操り始めた。

ゴーレム達は踏みつけられた作物を添え木を当てて真っ直ぐ伸ばし、えぐれた田畑を修復し、倒壊家屋を建て直し始めた。



皆せっせと働いている。

それにしてもそこら中でうじゃうじゃと土塊が農作業や大工仕事をしている姿は圧巻である。


「DELIよ、見事な物だな。」


「あるて殿、それはお借りした猫玉の力が凄いからですよ。それにnya様がゴーレムを上手く操ってくれている、だから私は召喚のみに専念できるのです。」


「ほう?分業と言う訳か。」


そして、あっと言う間に元通りになって行った。


「さぁ、仕上げです。」


そう言ってDELIが呪文を唱えると、折れてしおれそうになっている農作物が元気になり、更に勢いをました。

家々も折れた柱の継ぎ目等消えて、腐りかけた材木は若返り、新築同様となった。


それを待つかの様にゴーレム達が土へと返って行く。


「さぁ、終わりましたよ。はっはっはっ」



その光景を見た村人達はざわめき出す。


「ボロボロだった村が一瞬で…お狐様、こちらの方々はいったい…」


無理も無い、さっき迄荒れ果てた田畑を見て絶望していたのが一瞬で元に戻ったのだ。


そしてあるては村人達の前にでる。


「村の皆よ、紹介しよう。今日の人狼騒ぎで荒れた田畑、倒壊した家々を建て直したこの二人は私の異国の友人の娘とその婚約者である。」


婚約者の部分に二人は顔を赤らめるが、あるての「違うのか?」の言葉に否定しなかった。


村人達はありがとう、ありがとうと口々にしながら手を合わせている。


「これでこの村で迫害を受ける事も無く、二人を受け入れてくれるだろう。ドラキュラとの約束「nyaを守れ」を果たせたな。」


「nya様の身を案じて頂き感謝します。」


深々と頭を下げているDELIの後ろでnyaも小さく頭を下げていた。



「と、猫のお嬢さんからお借りしていた玉をお返ししなければ…ん?割れている?」


ひいらぎに猫玉を返そうと懐から猫玉を取り出した所、無数にひびが入り、その原型を留めて置くのはもはや限界の状態であった。


「むぅぅ…双魂蘇呪縛そうこんそじゅばくちぎりにひいらぎの妖猫化、そしてさっきのDELIの村再生、と…一気に猫玉の力の全開放を繰り返しだったからな、そのオーバー出力に耐え切れずに割れてしまったのだろう。」



「そっかぁ…猫玉、割れちゃったんだ…」


ちょっと悲しそうな顔をするひいらぎにnyaが近づき、何かを渡した。


「おい猫、猫玉とか言うのを割ってしまった事は謝る。だから代わりにこれをお前にあげる。」


と、渡したのは胡桃色の玉で大きさも猫玉と似た物だった。


「それは剛食玉オストラリシャスエッスンと言って、魔力を貯めておける魔宝珠なんだ。お詫びという事もあるが、猫には人狼に襲われた時にアタシを助けてくれたそのお礼と言う意味もああるんだ。だから、受け取って貰えたら嬉しい。」


その言葉にひいらぎはnyaの手を握り上機嫌で喜んでいた。


「nyaちゃんありがとう~、大切にするよ♪」


それに対してnyaは少し引き気味である。


「nyaちゃん…だと?おい猫、調子に乗るなよ?別にお前とは友達でもなんでも無いんだ。馴れ合いなんかしないぞ!」


「ええっ!nyaちゃんと私はもう友達だよ。しかも親公認の。nyaちゃんのお父さんに直接頼まれたしねっ♪」


「猫っ!なんでそんなに嬉しそうなんだ、うぜぇ!」


「猫じゃなくてひいらぎって呼んで?」


「ああっうぜぇ!」


「うざ可愛いとか?」


「ただただうざいわっ!」


さっきまで敵として生死を賭けて闘っていたのに、このひいらぎの(ふところ)への入り方は、いつ見ても神経が図太いと言うか、心臓に毛が生えているというか、その強引さは本当に素晴らしいと思う。

しかし、こう言うノリが多分苦手であろうnyaも、すぐにひいらぎに魅了されて行くのだろう。


「あるて殿、nya様に良い友達が出来た様で私も嬉しいです。」


「誰とでも友達になる…。これはひいらぎの最強で最大の能力だからな。あのドラキュラにさえも認めさせた位だ。これに敵う輩なんぞどこにもいないさ。」


全くその通りである。

私達は未来へ帰るけがひいらぎはこの時代に残る事になる、でもどうやら心配はいらなそうだ。

夫婦めおとになる安二君がいて、抹茶さんたちもいる。そして村の人々皆がきっと助けてくれるからだ。


明日はひいらぎとの別れである。私もあるてもそれを少し寂しく思いながら、最後の夜は過ぎて行った。



そして、夜が明けた。


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