第20話 尻拭い
人間形態に戻ったひいらぎがまず目にしたのは…
「え…?お、おさーん!!」
あるてはひいらぎを拘束していた炎縫を解くと、ひいらぎは安二君に抱き着いて泣きじゃくった。
「おさーん、生きていたんだ、良かった…家の中で潰されてしまったと思って…」
「あの時、抹茶さんに助けられたんだ。」
間一髪であった。
ひいらぎ達と人狼の闘いが始まった時、抹茶さんが長治さんの所に来て裏口から村人達を避難させていたのだ。
「ちょうど、人狼とひい達が村の方に行くのが見えて、慌てて追いかたらえらい事になってたから、長治さんのとこにいた村人達を俺の家に避難させたんだ。人狼がここで暴れてるのにその真ん前の家に皆で固まって居るのは危ないからね。うちのログハウスならここらの家々よりかは頑丈だし。」
そうして皆が長治さんの家から離れた後にそうしますが家を潰したのだった。
「抹茶、ナイスプレーだ!それで皆は無事か?」
「多少疲弊してますが皆無事です。今はレナが傷の手当等してます。」
「それにしてもひいらぎ、巨大な力で我を見失うとは何事だ!普段修行サボるからこんな事になるんだ!」
「ごめんなさい…。」
「まぁともかく…抹茶のナイスプレイでこっちは何とか解決したが、残る問題は…」
そう、そうしますである。
ヘル松さんがそうしますを膝に抱きかかえ、心配そうに見ている。
「お狐様、そうしますは…息はあるみたいだけど大丈夫なのか?」
「むぅぅ、相当ひいらぎにやられていたみたいだが、人狼の強固な肉体が致命傷を避けてくれていたのだろう。とりあえずは大丈夫だよ。」
あるてはそうしますに近づき、額に手をかざした。
「今から起こすからな」
と言うと、軽く力を込める。
パシュッ!と音がするとともに、そうしますが軽くうっ…と呻く。
「心配ない、軽い衝撃波だ。ただの気つけだよ。」
そう言っている間にそうしますは目を開いた。
「ぅぅ…兄…さん…?」
「大丈夫か?…良かった…気が付いたか…」
ヘル松さんに心配そうに抱きかかえられるそうしますにあるては話しかける。
「村人達からエナジーを吸い付くし、今度は私やひいらぎのエナジーを狙ったのか…。残念だが…使役召喚されてにわかに手に入れた力では私達には到底敵わないぞ。」
「私は普通に生きたかっただけ…まい子姉さんは身体は弱かったけど幸せそうに生きていた。だから私も普通に生きたかったんだ。」
びたびたんっ!
ひいらぎはそうしますの頬を叩いた。
「それで村を襲い、村人を襲い、罪の無い人達を襲ったの!?」
「……。」
「ねぇ、そうします…生きる為にエナジーを求め人間を襲い続け、そして生きた先には何があると思う?」
「……。」
「それは孤独だよ。人を襲えばそこの仲間には入れない。人は襲われたくないから退治しようとする。やがて人から逃げる様に隠れ住むしかなくなるのよ。そして再びエナジーを求めれば同じ事の繰り返しになる。そうしますの言う普通に生きると言うのとは程遠いわ。」
そうしますは手の平で顔を覆い、泣き崩れてしまった。
人との共存…それが出来なければ生きて行かれない。
が、そうしますには人狼の呪いがある。
「呪いとは恐ろしい物よ…術者が死んでも呪いは生き続ける。DELIがいなくなってしまった今、そうしますは人狼の呪いとずっと付き合って行かなくてはいけないのよ。この私が夢魔の呪いとずっと付き合っている様に…」
ただただ泣き崩れているそうしますが顔を上げて静かに答えた。
「私に…何かできることは…」
そんなそうしますの手を握り、優しく静かにヘル松さんは答える。
「犯した罪は決して無くならない…村人に犯した罪を償うんだ。」
「兄さん…。」
そうしますは少し考えてから口を開く。
「村人達から吸い取ったエナジーを全て返します。」
そう言うとそうしますは手を胸の前で組み、静かに目を閉じる。
すると、そうしますの身体から黄色いオーラが滲み出て、それが一つ一つの小さな玉状になり、村中に散って行った。
「これで村人達は全て元通り、すぐに動けるようになる筈よ。」
そうしますは続ける。
「では今から村人達への償いをします。お狐様、私の首を刎ねてください。」
「え…何を…そうします、それは償いではないぞ、生きて村人たちの為に…」
突然の発言にあるては驚き戸惑うが、そうしますはそんなあるてを遮った。
「村人達が欲しいのは安心と安全なんです。私が生きていたら、また人狼が暴れだすかもしれないと言う不安がいつまでも心の中に巣くってしまう。私が生きていたら償いは出来ないのです。」
「し…しかしだな…」
「そうします、早まるな。何かできる事がある筈だ。それを俺と探すんだ。」
「ありがとう、兄さん…。」
あるては当然戸惑っている。
ひいらぎは「殺さないで」と言う目であるてを見ている。
私もどうして良いか分からなくて何も言えないでいた。
暫くの沈黙が続く中それを打ち破る声が発せられた。
「その望み叶えてやる。儂がその人狼を殺してやろう。」
その声はなんとドラキュラである。
飛んで来たドラキュラと、大コウモリになっていたnyaが人間形態に戻り、私達の前に降り立った。
私とひいらぎは咄嗟に臨戦態勢を取るが、あるてがそれを制する。
「まぁ二人とも待て。こいつらがその気ならこんな穏やかに来る物か。」
「…確かにそうね。」
私とひいらぎは取り合えず臨戦態勢を崩した。
「でドラキュラよ、どうするんだ?そうしますを殺すのか?さすがにそんな事はさせんぞ?もしそうなら私も本気にならざるをえなくなるが…?」
「女狐、まぁそういきり立つな。要は人狼を殺せばよいのだろう?人狼の呪いを解いてしまえば良いだけだ。」
「だが、それにはDELIがいない。」
人狼の呪いをかけたのはDELIだ、呪いは術者でなければ解くことは出来ない。
そのDELIがいない今、そうしますの呪いを解くのは不可能である。
「呪いについては貴様より儂のがプロフェッショナルだ。かじった程度の知識でガタガタ抜かすなよ?女狐。」
「ほぅ?ではどうすると言うんだ?」
「儂の身体はDELIの物だ。当然DELIの魔力も宿っている。偶然とは言え今の儂ならそうしますの呪いは解く事が出来るのさ。」
そう言うと、ドラキュラはそうしますの頭に手を乗せて呪文を唱える…
「といかかちに とにもちとな!らかいかい はみんちはみんち とにもちとなっ!」
そうしますから何かが吸われ、ドラキュラの中に吸収されて行った。
「これで人狼は死んだ。その娘は元の人間だ。」
そうしますは少しぼ〜っとしていたが、やがてはっと気が付いたように息をふぅっと吐き出した。
「兄さん…」
「そうします、大丈夫か!?」
「兄さん、私はまい子です。妹は…そうしますは消えました。」
そうか、そうしますから呪いを消すという事は初めにDELIが病弱なまい子たんを元気にした時に入れ替わったそうしますも消えてしまうという事になるのだ。
「そうか、消えたのか…」
あれほど生きたがっていたそうしますがやっと自由の身になれたのに消えてしまった。
ヘル松はそれを不憫に思っていた。
「でも、妹は幸せそうでした。消える時に私に言ったのよ、兄さんにありがとうって…。人格が妹と入れ替わってから、妹の中でずっと見て来たわ。私を奪い、村を襲った妹に対して兄さんは最後まで味方でいてくれた、最後まで妹の身を身を案じてくれていた。妹は孤独じゃなかったって…。でも今はもうその人格も私の中から消えて居なくなっているわ。」
「塵は塵に…土は土に…そうしますは今回の事で本当に成仏出来たのかも知れないな。」
あるての言う通り、後はただただあの世で静かに過ごして欲しいと願うばかりだ。
ヘル松の顔は曇り無く、ただただまい子たんを抱きしめていた。
「ドラキュラさん、妹の事ありがとうございました。では最後に私の首を刎ねてください…。覚悟はできています。」
しかし、ドラキュラは首を傾げる。
「はて?なぜお前の首を刎ねるのだ?」
「だって私は人狼…村人の不安を取り除くには私が居なくなるしか…」
「ハムレット卿の恋人の半魔よ、この娘がおかしな事言ってるが、お前はこの娘が村を襲うのを見たのか?儂には暴れる人狼が村の方向に逃げたから追っただけに見えたが?」
なるほど、そういう事ね。ドラキュラも粋な計らいするじゃない。
「そうよ。人狼を追って村に来たわね、抹茶さん、安二君、村ではどうだったの?」
二人とも何かを察した様に答えた。
「確かに暴れる人狼だけが村に向かって行くのを見て、村人を助けに村に行きましたね」
「おいらも人狼だけしか見てないや。まい子たんなんて知らないよ。」
あるてはそれをまい子たんに説明する。
「つまり、村には何処からとも無く人狼が現れて村を襲って来たが、誰もまい子が人狼に変体した姿を見ていない。人狼が居なくなった今、まい子が人狼と言う事実は無かった事になる。まい子は今回の騒ぎに巻き込まれて行方不明だったが、今私達に保護されたんだ。因みに行方不明だった時の記憶は失っていたから何も覚えていないんだ。これが新しい事実になる!」
「はい…みんな、ありがとう…。」
まい子たんの頬に涙が伝った。
「しかしながらドラキュラ、どういう風の吹き回しだ?非道の限りを尽くしたお前がこんな人助けするなんて…冬でもないのに大吹雪になるぞ。」
「ふん!女狐、勘違いするなよ?決してお前の為なんぞでは無いわっ!お前は儂に情けをかけてとどめを刺さなかった。その侮辱はどうにも許し難い屈辱だったからお前のどうにも出来なかったそうしますの人狼の呪いを目の前で軽く解決して、女狐の悔しがる顔を見てやろうと思っただけだ。」
ドラキュラは物凄い鼻息であるてにまくし立てるが、その時nyaのグーパンがドラキュラの鼻に炸裂する。
「父さん、ジジイのツンデレは気持ち悪いから辞めろよっ!さっき言ってた事と全然違うだろう!」
さっき言っていた事って何だろう?
ドラキュラは少し困った顔をnyaに見せながらしぶしぶと口を開いた。
「女狐、いつでも娘にとどめさせたのに刺さなかった事には礼を言う。儂も自分のケツの拭き残しは自分で拭かないといけないと思いやって来ましたーーーーーーーっ!」
棒読みだ…。
本当にあの悪逆非道を尽くしたドラキュラと同一人物とは思えないわ、なんか娘に頭が上がらないただの親ばかじゃない。
なんと言うか、ちょっと面白い。
それを見たあるては可笑しくて仕方ないと言う感じである。
「くっくっくっ…それで、吹き残しとやらは全部拭い取れたのか?」
「いや、まだだ。そこの半魔…ハムレット卿の恋人、確か名は…カーマインと言ったか。」
「えっ?私?」
いきなり呼ばれて私はとまどったが、ドラキュラはそんな私の頭に手を置き、何かを唱えた。
「ちすにきちからな~のちてちにに~!」
先程と同じように一瞬光るとそれがドラキュラに吸い込まれる。
「カーマイン、これでお前の呪いも消えた。これからは只の人間だ。」
「え…あ…人間に戻れた!?」
私は突然の出来事に驚き、戸惑ったが、それも一瞬で人間に戻れた事実を認識すると涙が溢れ出し止まらなくなった。
「うぅぅぅぅ…私、人間に…長い間私を苦しめて来た呪いが無くなって人間に…ハムレット、私…人間に戻れた…。」
私はその場に泣き崩れる…。
あるてはそんな私を見て驚愕した。
「私がまいまいを人間に戻すためにどれだけの苦労と時間を…それを一瞬で人間に戻すとは…」
そう、あるては私を人間に戻す為に強引に魔素を絞り出し、燃焼させると言う方法を取っていた。
しかし、とてつもなく長く太い蝋燭が燃え尽きるのを待つような物でかなりの時間を要するやり方だった。
「確かにそのやり方でも人間に戻す事は可能だが…100年はかかるな。ま、儂なら「一瞬」だが?」
「むうぅぅぅ…!」
あるては物凄く悔しそうな顔をしている。何か言ってやりたいけど何も言い返せなくて、物凄く何とも言えない顔をしている。
ここまで悔しがるあるて…初めて見たわ。
「ふふ…ははははははははっ!その顔だよ、女狐っ!儂は貴様のその顔が見たかったのだぁっ!うはははははははっ!」
ドラキュラは物凄く嬉しそう。
なんか子供のケンカみたいだ。
「辞めろよッ!」
ばきっ!
nyaのグーパンが再びドラキュラの顔面に炸裂した瞬間、ドラキュラは沈黙する。
本当にちょっと面白いぞ。
「カーマインよ、ハムレット卿の事は本当にすまないと思ってる。儂はこれから向こうでハムレット卿に詫びるつもりだ。」
それを聞いたnyaが驚いた様にドラキュラに聞き直した。
「え…父さん、向こうで…ってどういう事?」
「最後の吹き残しはnya、お前だからな。今からこの借り物の身体をDELIに返す。儂がDELIに戻ったら少しの間は私の魔力が残存しているから二人の相性的なのも上がっているはずだ。その時に眷属の儀式を行えば、今度はきっと成功するだろう。」
「ふあまにみに らくいんちかなののなかかい もちかかいもちとな…」
ドラキュラの姿は徐々に消えて行く。
「nyaよ、死してなおお前の顔が見ることが出来て儂は嬉しかったよ。もうこれで思い起こすことは無い。DELIと二人で幸せに暮らせ…。」
「父さん~!」
nyaはその最後のドラキュラの姿をいつまでも焼き付けようと、泣きながらしっかりと見ていた。
「そうだ、猫のお嬢さん」
突然呼ばれてひいらぎはちょっと!しながら答えた。
「え?私?」
「nyaは口は悪くツンツンしてはいるが人一倍寂しがり屋なんだ。今回の事で気落ちするかも知れないから…だから、もし良ければ娘と仲良くしてやってくれないか?人狼が暴走した時に敵であるnyaを迷わず助けてくれた猫のお嬢さんなら安心して任せられそうだ。」
「え?それって友達って事?うんっ!全然OKだよっ!」
「ありがとう、猫のお嬢さん。」
躊躇なく答えるひいらぎにドラキュラは微笑んだ。
そして顔が突然こわばり叫ぶ。
「おいこら女狐っ!カーマインの呪いを解いたのを貸しとか思いたく無ければnyaを助けろ!」
「おいこらドラキュラっ!ひいらぎにはお嬢さんで、私はコラ女狐!と来たか、えらく態度が違うなオッサン!それが人に物を頼む態度か!」
「……まぁ聞け。DELIの記憶を辿ったら、そこのゴリラ顔とまい子たん以外の村人にnya達は誰とも接触していないんだ。エナジードレインしていた村娘もそうしますが記憶を消していたみたいだしな。だから……………」
そこまで言うとドラキュラは口を重くしなかなか続きを言おうとはしなかったが、あるてはもう喋るなと制した。
「そこまで私にしおらしく頭下げてお願いするのが嫌なのか…全く面倒くさいオヤジだな、もう気まぐれで私が勝手にソレやってやるからいいよ。」
ドラキュラはふんぞり返っていたが、そっぽ向きながら小さく「あ、ありがとう」と呟いた。
確かにオッサンのツンデレは気持ち悪かった。
「おいこらドラキュラ!まいまいの呪いを解いたのは自分の尻拭いただけで私への貸しとかそんなのではない!これは私がお前に対する貸しだ!」
「なんだと女狐!下手に出てやっていれば偉そうに!」
「私への貸しと思いたくなければ、向こうに行ったらハムに美味い酒でもご馳走してやってくれ。」
それを聞いたドラキュラは静かに笑って
「承知した。」
とだけ答えた。
そして、その直後にドラキュラは消失えた。
その姿はドラキュラから人造人間になり、そして痩せた鶏がらみたいな男へと戻って行く。
DELIである。
その瞬間nyaはDELIの顔面をグーパンで殴った。
「ぐはっ!」
少しよろめくDELIにしがみつくと、nyaはその胸で大いに泣いた。
「DELI、アタシを残して勝手に逝こうとしやがって…父さんが蘇っても…お前が居なければ意味無いんだ!」
その頭を優しくなでながらDELIは呟く。
「ドラキュラ様、私に身体を返してしまわれたのか…。」
辺りを見回しでふぅ~と息をつくと、
「ドラキュラ様が自身の記憶を私に残してくださったので、状況は把握してますよ。全てが終わったのですね。」
「そうだ、そして全ての始まりでもある。だから…これからは勝手に逝くことは私が許さない…。」
「眷属…ですね。」
と、DELIはnyaのを静かに抱き締めた。
呪文が復活の呪文みたいになってしまいました。
一応、法則と言うか、やり方は決まってるので意味のある言葉を発していますよ♪
読んでくださった方々ありがとうございます。
全25話まで後少しお付き合いのほど宜しくお願いします。




