第18話 ざます、ガンス、ふんがー
遂にドラキュラが復活してしまった!?
「ここは…どこだ?儂は何故ここにいる?ぬ?あそこにいる女は確か人狼の恋人…そしてそこの女狐は儂を殺して人狼を奪っていった…」
DELIの死者蘇生によって復活したドラキュラは、現状が呑み込めずに辺りをふらふらと見まわしている。
「父さん、蘇ったんだね。」
そんなドラキュラに近づいたnyaは余程嬉しかったのか、今が戦いの最中という事も忘れてドラキュラに抱き着いて涙していた。
「お前はnyaか、どういう事だ?説明せい。」
「アタシとDELIでエナジーを集めて父さんを復活させたんだ。父さんを殺した東洋の妖狐に復讐する為に!」
「DELIと言うとお前の幼馴染だったシャーマンか?」
「ああ、そうさ。DELIと一緒に策を練って準備して、そして今やっと父さんを復活させたんだ。」
「ドラキュラ様、nya様、再会を懐かしむのは後です。今は目の前の敵を…。nya様、後は手はず通りに、今からあの傀儡に最後の術を施します。これを最後に私の精神はしばし失われます!」
「そ、そうだなDELI分かったわ。すまない!」
DELIは呪文を唱えて指をクンと上に向けると、それを最後にDELIの精神は消えた。
呪文の矛先はまい子たんである。みるみるまい子たんの姿が変わって行く。
ベビードールが破れるほど身体が巨大化し、全身を毛が覆い、耳と牙がせり出す。
そう、その姿は人狼である。
「ほぅ、儂から人狼を奪った忌々しい女狐にまた人狼を差し向けるとは…なかなかの趣向だな。」
「あるて、ドラキュラが復活してしまった…何てことなの?」
「ああ、こいつはまずいな…。」
単純に分析してみてもこのドラキュラ…とても強い…。
人狼はのっそりとnyaのもとへ歩いて来る。
そのままnyaは人狼の後ろに立つ形となった。nyaが人狼を操るつもりなのだろう。
ドラキュラだけでも問題なのにそこにnyaの操る事によって理性のある人狼まで加わるなんて…。
「いくよっ!」
nyaが合図を送ると人狼はぅぅぅ…と低く唸り、あるてに飛び掛かった。
「直線的っ!」
あるてはその動きを読んで軽く体勢ひねってそれを避けるが、人狼は素早く反転し、背後から襲い掛かった。
「っく!死角!」
ギリギリの所でかわすが、人狼は更に素早い反転を繰り返して連続の死角攻撃を繰り返して来る。
「でも全てギリギリでかわしている。あるて、さすがだわ。」
「そりゃそうさ。素早さで翻弄する攻撃という事ならひいらぎの十八番だからな、それ以下のスピードなら何とかなるさ。しかし、スピードだけならひいらぎのが上だがパワーはまい子のが上…一撃もらったらやばそうだ!」
「女狐め、敵が一人と思うなよ?」
ギリギリの攻防を続けるあるてに向かい、一瞬身構えるとドラキュラが飛んで来た。
「なっ…あるて様、コウモリ形態にならずに飛んでくるにゃあっ!」
ドラキュラ初見のひいらぎは驚いていたが、私とあるては知っていた。
コウモリ形態になるとスピードは増すが攻撃力が落ちる。が、ドラキュラはその高い能力でコウモリ形態にならずとも飛ぶ事が出来るのだ。
そこが恐ろしい所で、瞬足で高い攻撃力のまま、地空自在の多角的攻撃を繰り出して来るのだ。
2対1で超スピードの連続多角的攻撃にじわじわとあるては追い詰められて行き、ついにはドラキュラに攻撃を許してしまう。
「あるて様!」
「大丈夫だ、かすっただけだ。だがその瞬間、ごっそりと妖力をイかれた!」
かすっただけであるてはフラついている。相当強力なエナジードレインなのだろう。さすがドラキュラといった所だ。
「まいまい、おさーんをお願い出来る?さすがにあの能力の2対1はあるて様でもきつそう…。まい子たんは私が相手するわ。」
「分かったわ。悔しいけど…私ではドラキュラ達にはとても歯が立たない…ひいらぎ、あるてを頼むわよ。私は命に代えても安二君を守るから!」
ひいらぎは私ににっと笑うと飛び出していった。
「あるて様!」
あるてはひいらぎとアイコンタクトを交わすと動きを変える。
その一瞬でひいらぎの意図を組んだのは長年の信頼関係なのだろう。
あるては高くジャンプして両の掌に緑の炎を迸らせる。
「虚術!」
掌の炎は薄く霧状になり、ドラキュラとまい子たん、nyaを包み込み、透明な炎で一瞬激しく燃えあがった。
nyaは目標を失ったかの様に当たりをキョロキョロと見まわすが、やがて高速で突っ込んで来るあるてを見つけると、人狼をそちらな向かわせた。
「させないよっ東洋の妖狐、何をしたか知らないけどそんな術は効かないさ!」
攻撃を仕掛けるまい子たんを寸前でかわし、まい子たんが反転攻撃をする前に死角からの連続攻撃を仕掛けて来るようになった。
「東洋の妖狐、スピードが上がっている!さっきまでとはダンチじゃないか!」
それは先ほどまでnyaとまい子たんがしていた攻撃なのだが、それ以上の高速攻撃を仕掛けられるとは想定していなかったために一気に防戦一方に回ってしまった。
「むぅぅ…今nyaには虚術でひいらぎが私に見えているだろう。nyaはひいらぎに任せておいてこれでドラキュラに専念出来る!」
あるては妖力を全身から放出する。それは無数の狐火となって燃え上がり、やがて一つに集まってあるてと等身大の炎となった。
そしてその炎はそのままもう一人のあるてとなる。
「いくぞ、狐火分身」
「ふん!たかが分身に何が出来る!」
2人のあるてはドラキュラに襲い掛かる。前から後ろからの激しい攻撃を繰り出すが当たらない。
「2対1でも顔色さえ変えずに…さすがはドラキュラだな。私が闘った中で一番強かった相手だ。」
「女狐、笑っているのか?」
「ああ、久しく忘れていた野生の本能、闘いの血を…思い出させてくれたからな。」
「ふっ…ふはは、ふははははははっ!良いだろう、私も楽しませてもらうぞ!黄泉返ってまず儂の命を奪った貴様を亡き者に出来るのだからな。」
あるてが一列に並んだ瞬間、ドラキュラは強烈な一撃を食らわせると2人のあるては重なって吹っ飛ぶ。
「2対1でもダメなら次はこうするさ。」
あるては1列に並んでドラキュラに突っ込む。前のあるてがドラキュラの眼前に手をかざし、激しく光らせる。もう一人のあるてが死角に回り、業火でドラキュラの全身を激しく燃やす。
「なんだ女狐、目くらましか?猫だましか?そんな物はあっちの猫にしてやるんだな!ふはははははは!」
「猫だましかどうかはその身で試してみるのだな。」
あるては気を放出し全身に炎と纏う。その姿を炎狐に変え、2匹の狐はドラキュラに襲い掛かる。
「さっきまでと同じではないか。」
「本当にそうかな?」
2匹の狐はやがて4匹となり8匹となり、その数を増やして行く。
ドラキュラもその徒手の多さに次第にさばき切れなくなり攻撃が当たり始めた。
「お前の媒体となっているシャーマンの得意としていた人海戦術だ。奴のゴーレムはnyaが操って正確無比の攻撃を仕掛けていたが、私の炎狐は私自身。操らなくても独自に動いて最高の私の動きで攻撃をしてくれる。私の虚術はこんなことも出来るのだよ。くっくっくっ」
やがて、ドラキュラは両腕、両足を1本ずつ炎狐に固められ、身動きが出来ない状態にされていた。
そしてドラキュラの前に立つ炎狐が妖気を物質化させた炎で炎刀を作り出し、今まさにドラキュラにとどめを刺そうとしていた。
「分身なんぞに儂が殺れると思っているかっ!このうつけめ!」
ドラキュラは右腕の炎狐に頭突きをくらわし、解放された右腕で右足の炎狐を払うと身体を反転させて拘束を解き、一瞬で全ての炎狐を薙ぎ払う。
すると、炎狐たちはポンポンと音を立てて消えていった。
「確かに分身なんぞで貴様を倒せるとは思っていないさ。だから猛攻を凌ぎ、拘束を振り払った一瞬の隙を狙わせてもらったんだ。」
ドラキュラの両手両足と首には青白い炎が巻き付いて拘束していた。
「な…動けん!いつの間に!」
「狐火分身はただの陽動、本当の狙いはコレだったのさ。分身を薙ぎ払った一瞬、お前は安心しただろう?その一瞬に本体の私がその炎でお前を縛らせて貰ってんだ。」
あるてはドラキュラに青白く燃える手刀を当てた。
「ドラキュラ、これで終わりだ。全ての元凶であるドラキュラ、お前はもう蘇ってはいけない。向こうの世界に大人しく帰れ。」
そのその一撃でドラキュラを貫こうとしたその時、あるての視界を何かが奪った。
バサバサバサバサバサバサ…
「そうはさせねぇ!」
nyaである。
ドラキュラを貫く瞬間、無数の大コウモリがあるてを襲って来る。
あるてはたまらず後方に飛びそれを回避した。
「父さん、大丈夫か?」
「nyaか、助かったぞ。まさかまた女狐に追い詰められるとは…儂も老いたか…」
体勢を立て直したあるては一定の距離を取った。
「東洋の妖狐め、幻術でアタシを騙しやがってっ!」
「nyaか…ひいらぎと闘っていた筈だが、虚術が解けたか…」
虚術でひいらぎをあるてと精神に認識させていたが、虚術の精神支配よりも強い精神ショックを与えれば虚術は解けてしまうのである。
nyaは一度あるてによって父ドラキュラを殺されている。今再び目の前であるての手によってとどめを刺されようとしている父の姿は相当なショックであった。
その瞬間虚術が解けてドラキュラ救出に向かったのだ。
「さすがはドラキュラ、一筋縄では行かないな。」
あるてはひいらぎの方に目をやると、ひいらぎが何か叫んでいる。
「あるて様っ!後ろ!」
それは正に一瞬の隙であった。
その時あるての背後には既に人狼が迫っていた。
まい子たんはあるてに飛び掛かりその凶爪を振り下ろさんとする所である。
「これはまずい!避け切れない!」
その時あるては何者かにいきなり弾き飛ばされた。
「大丈夫か、お狐様!」
「お…お前はヘル松!どうしてここへ?」
「村の娘子達が村人をいきなり襲いだして、襲われた人も一緒にまた村人を襲いだしたんだ。今は長治さんの所に皆で避難して立て籠もっていたのだが、襲っていた村人達が急に倒れてしまって…で、その感じがまい子がすれ違って村娘達が気を失って行く時と似た感じだったから、まい子が何か絡んでねえかと気が気でならなくなって…何とかしようと来ちまったんだ。そしたらお狐様がでかい獣に襲われてたから…」
「そうか…助かったぞヘル松、礼を言う。」
「詳しく説明している暇は無いが、あの人狼がまい子だ。呪いによって人狼にされてしまったんだ!以下略!」
あるてはヘル松さんにドラキュラ復活の為にまい子たんは利用され、そのエナジードレインで村人が倒れた事を教えた。
以下略!にはそんなメッセージが込められていたのだ。
しかしながら、あるてのヘル松さんに対する扱いだけぞんざいなのは何故だろう…。
で、人狼はと言うと様子がおかしい。
先程まではnyaが操って理性ある獣が的確な攻撃を繰り出していたのだが、今は単に暴れているだけに見える。
咄嗟にドラキュラを助ける為に飛び込んだ時に、人狼とのリンクが切れてしまったみたいだ。
「くっ!今繋ぎ直しを…!」
人狼はちらとnyaの方を見ると、牙をむいて襲いかかった。
「きゃあああああああっ!」
nyaは怯えているが逃げようともしない。
「nya、何してる、早く逃げなさい!」
「でも逃げたら父さんが!」
人狼は飛びかかり、nyaを引裂こうと爪を振り上げる。
nyaはただただ立ちすくんでしまっていた。
凶爪が引き裂く寸前、人狼がnyaの前から消えた。
「こら、アンタ何やってんのさぁ〜!」
ひいらぎである。寸前の所で人狼に体当たりを食らわせてふっ飛ばしたのだ。
「猫…なんでアタシを助けた?」
「何となくよ。」
「真面目に答えろ!アタシは敵だぞ!さっきまで、今でもお前達の命狙って殺そうとしてたのに!」
「うるさいなぁ、真面目に答えると、「何となく」よっ!」
吹っ飛ばされた人狼は起き上がると軽く頭を振ってぅぅぅ…と唸ると走り去ってしまった。
「まずい!人狼が村の方へいってしまうわ!」
ひいらぎはすぐさま人狼を追いかける。
「村人達が心配だわ、私達も行くわよ!」
私と安二君、ヘル松さんもそれに続き村へ向かう。
今その場に残っているのはあるて、nya、そして妖炎で拘束されているドラキュラである。
あるてはドラキュラに歩き寄る。
「ドラキュラよ、昔のお前ならそんな妖炎の縛りなんぞ鼻息一つで振りほどいたものだ。」
「ふ…ふははは…儂も老いたのだよ。」
「いや、そうではないな。再生怪人は弱いと言うのが世の流れなのだが…ドラキュラ、お前を呼び出したのはあのシャーマンだ。つまり…そう言う事なのか?」
「女狐…気づいていたか。」
「ああ、思い当たる節はいくらでもあるが…今そうやって拘束されているのが何よりの証拠だ。」
「父さん、どういう事?」
「nyaよ、女狐の言う通り私は本来の力は出せないのだよ。シャーマンが呼び出せるのは自分の能力以下の者だけと言う縛りがあるんだ。」
シャーマンは使役召喚は自分の能力が反映される。
ドラキュラとDELIでは能力に雲泥の差があるがDELIはドラキュラを召喚した。
その結果、ドラキュラの本来の能力に、DELIの召喚時の能力が加味されて、ドラキュラは弱体化して召喚されるのだ。
死者蘇生で復活したドラキュラはその瞬間それを悟り、それまでの経験と戦闘知識で今ある能力を最大限に引き出してそれを補っていたのだ。
「しかし、いかんせんパワー不足だったな。あのシャーマン、頭は大きいが身体は貧弱だ。元が鶏がらみたいな身体だったからな、見れば分かる。まぁそれを補おうとして人造人間なんて用意したみたいだが…」
あるてはドラキュラに問う。
「ドラキュラよ、私に敵わないのは分かっていた筈だ。何故挑んで来た?」
ドラキュラは口を閉ざしたが、一旦nyaの方を見てから話し始めた。
「嬉しかったんだよ…再び娘に会えてな…」
「父さん…」
「nyaは何も能力が無い幼少の頃でも、儂の娘と言うだけでバケモノ扱いされて敬遠されて来て友達もなかなか出来なかったのだが、DELIだけはそんな事気にせずにいつも一緒にいてくれたんだ。でも不死の吸血鬼と人間では同じ時間は過ごせない。」
「吸血鬼には眷属という同じ時間を過ごす方法があると聞くが?」
「nyaもDELIに好意を寄せていたしDELIも娘の事を好いてくれていたからな、眷属の話は当然あったさ。」
「ちょ…父さん、知ってたのか!?」
「ああ、娘の眷属になるからそしたら結婚させてくれと、あやつが言いにきおったわ。お前には口止めされていたみたいだけどな。儂もあやつなら、と思っていた。」
恥ずかしくて顔を真っ赤にして慌てるnyaに対して目を細めながらドラキュラは答えた。
「だが、眷属の儀式を行っても体質が合わなかったのか、何なのか、DELIは眷属になれなかったんだ。だから私は人間に不死を与える方法を得ようとした。ハムレット卿の恋人には私の高濃度の魔力と呪いで眷属でなくても無理やり不死にする事に成功した、だがnyaにはそれだけの魔力も呪力も無い。だから別の方法で不死を与えれないかと模索してみた。人狼も人造人間もそれが目的の研究だったんだが…確かに寿命は延びたが自我を失い暴走する。」
「なるほど、非道の実験は全て娘の為と言う訳だったか。最凶最悪と恐れられたドラキュラ伯爵もただの親バカだったと言う訳か。」
「まぁその実験も女狐、お前によって途中で終わってしまったのだがな。」
ドラキュラは苦笑する。
「そして今日、黄泉から召喚ばれた時、娘の脇にDELIがついててくれて嬉しかった。再びnyaの顔が見れて嬉しかった。その遊び相手が儂の命を奪った女狐とあっては遊んでやらねばなるまい?久しぶりに娘と遊べたのが楽しくてな。」
あるてはふぅ~とため息を着いた。
「ドラキュラよ、訂正だ。やはりお前は老いたよ。」
あるてはドラキュラを拘束している妖炎を解く。
「女狐なんでだ?」
「もう戦意はあるまい。それよりもあのシャーマンの意図を組んでやれ。私も村に戻る。今のnyaではまい子は止められないからな。」
そう言うと、あるてはその場を後にした。